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期限

3 期限

「約束の期日の7日目になり、もう日が暮れてかなりの時間が経過している。

 彼らは戻ってくることをあきらめたようだな・・・、仕方がない・・・処刑の準備を始めよう。」


 地竜の民の中でもひときわ背の高くがっしりした体格の竜人が、厳しい目つきで牢の中にとらわれている2人組へちらりと視線を向ける。

 彼にとって、まさか約束が果たされないことなど、想定外のことであった・・・。


「どうやらリーダーたちは間に合わなかったようだね・・・、間に合わなければ無理して戻らずに逃げるように言っておいたから、ここには戻ってこないだろう。


 レイちゃん・・・よく聞いてくれ・・・、君だけは何としてでも助けたいから、僕のいう事を聞いてくれ・・・。

 この檻は材木を組んで作られているが、かなり硬い木で丈夫だから素手で割ることはできそうもない。

 そのため脱獄はあきらめた・・・どのみち村の広場に作られていて、四方から素通しだから逃げようもなかったしね。


 しかし僕たちを連れ出そうとするときには、必ず誰かが牢のカギを開けて、僕たちを外へ出そうとするはずだ。

 チャンスがあるとすればその時しかない・・・、僕がその時におとりとなって皆の目を引き付けるから、君はそのすきに逃げるんだ。


 そうしてちょっと距離はあるが賢者のトンネルに逃げ込めばいい・・・、恐らくカギはかかっていないはずだ。

 内側からカギをかけてしまえば追ってこられないし、賢者のトンネルの中に隠れていれば、いずれリーダーたちも中に入ってくるはずだから合流は可能だろう。


 僕もうまく皆を出し抜くことが出来れば後から追いつくつもりだから、まずはレイちゃん・・・君だけでも逃げてくれ。」

 源五郎が、急にあわただしくなった村人たちの様子を見ながら、レイに対して小声で告げる。


「いやよ・・・、あたしはダーリンと一緒じゃなきゃ逃げない・・・。」

 ところがレイは、首を大きく横に振る。


「だめだ・・・、2人一緒だと恐らく逃げ切れない・・・・。」


「逃げなければいいじゃない・・・、ダーリンは弓矢や防具をとられてしまったけど、あたしは魔法使いだもの・・・、魔法は使えるから・・・、十分戦えるんだよ。


 魔導士のローブの下はTシャツと下着だけだから、流石にローブをとられることはなかったし、この村の人たち全員を相手にしても平気だよ。」

 レイは自信満々だ。


「それはだめだ・・・彼らは地竜の民で、どちらかと言えば冒険者たちのサポート役の村人たちだ。

 そんな彼らを傷つけることはできない・・・、リーダーもそれが分かっているからこそ、抵抗も何もしないで僕たち2人を置いて海竜の民のもとへ向かったわけだ。


 彼らの隙をついて逃げることはいいと思うが、傷つけることは避けなければならない・・・、恐らく彼らを傷つけてしまったら、僕たちは冒険を継続することが難しくなってしまうだろう。」

 源五郎は厳しい顔をしてレイをたしなめる。


「えー・・・だって・・・、あの人たちはあたしとダーリンを処刑するって、そんな恐ろしいことを言っているんだよ・・、そんなこと言う相手だもの戦ったっていいじゃない・・・。」

 レイはそういいながら頬を膨らませる。


「だめだ・・・恐らく一般市民を傷つけてしまったら、勇者になれないだろう・・・。」

 源五郎は目を伏せがちに、ゆっくりと首を横に振る。


「えー・・・だって・・・だって・・・。」

 レイが驚いて悲しい表情を見せるが、源五郎の意思は変わりそうもない・・・。


「じゃあ、そろそろ時間だ・・・。」

 数人の竜人が、牢のカギを持って近づいてきた。


『プップゥー・・・』『ブロロロロロロロッ・・・キキィッ』するとそこへ、けたたましい迄にクラクションを鳴らしながら、1台のワゴン車が走りこんできて急ブレーキをかけ停車した。


「いやあ悪い悪い・・・十分に間に合うつもりだったんだが・・・途中でタイヤがパンクするわ、ガス欠になるわで大変だったよ・・・。


 船はフェリー替わりに使える仕様だから、中には中継車の整備用のガソリンスタンドもあったから、そこで予備タイヤと予備燃料を準備しておいて、けん引している葛籠に入れておいたのがよかった。

 それでもタイヤ交換に時間がかかってしまったけどね・・・。


 まあ、石橋をたたいて渡れじゃないけど、俺の心配性がいいように展開したと言えるだろう。

 夜にはなってしまったが、まだ日付は変わっていないよね・・・、間に合ったよね?」


 危ない危ない・・・どこで気づかれてしまったのか・・・、強力な魔物たちに襲われることはなかったが、タイヤのパンクやガス欠は予想外だった・・・、占い巨乳美女に手渡されたメモ用紙の中に、タイヤとガソリンと水と書かれていたので、船の中で調達してこっそりと葛籠の中に入れておいてよかった。


 しかし、その絶妙なタイミングといい・・・、中継車メンバーの中に俺たちにあまり進んでほしくない奴らの仲間がいるのか・・・、あるいは願いが叶う星なのでどこかから中継車のガス欠とタイヤのパンクを願われたのか・・・、ただしそれだと当事者の中に俺たちが含まれないのか・・・、ちょっと疑問に思えてきてしまう・・・。


「ああ・・・まだ約束の期限前ではある・・・、ぎりぎりだがね・・・。

 ちょうど処刑の執行準備を始めようとしていたところだが、本部からの指示で刻限になった瞬間に執行せよとの指示のためであり、期限内に君たちが戻ってきたと認めよう。


 だがしかし戻ってきただけではだめだぞ・・・、こちらからの要求を果たせていなければ同じことだ。

 君たちの成果をまずは見せていただこう・・・、一緒に来ているはずの海流の民の姿が見えないようだが、大丈夫なのかね?


 すきを見て逃げようとしたり時間稼ぎをさせたりするわけにはいかないから、すぐに見せていただきたいが・・・、それが出来なければ、牢に火をつけさせていただくよ・・・。」


 ひときわ背の高い竜人が、檻の前から俺とツバサの方へと歩んできた・・・、三四郎という奴のはずだ。

 奴が指示を出したのか、数人の竜人が手に火をともしたたいまつをもち、檻の周りを取り囲んだ。

 木製の檻なのだから火をつけられると燃えてしまうな・・・。


「ああ・・・それは構わんよ・・・、これが取り戻した宝箱の中に入っていた宝剣だ・・・、慈恵の剣というらしい・・・、奴らは宝箱を開けることができなかったようだから、結構簡単に返してくれたよ。」

 俺は取り返した宝剣を三四郎に手渡した。


「ほうそうか・・・、これが伝説の宝剣のうちの一つだね・・・・?

 いいだろう確認した・・、だがしかし、君たちが堤を壊した理由に関して、海竜の民の証言をしてもらうという件はどうなったんだい?


 このままでは君たちへの疑念が晴れはしないのだがね・・・。」

 三四郎は宝剣を俺の手に戻しながら告げる。


「ああ・・・それなら、奴らの証言を記録してある・・、ちょっと待ってくれ。」

 そういって急いで中継車に戻り、テレビスタッフにモニターテレビを借りて、三四郎の前に持ってくる。

 そうして、かねてからお願いしていた十四朗の証言VTRの再生をする。


<「ああ・・ありがてえだ・・・、照明がやってきてこれでこの村も明るくなるだ・・・今夜はお祝いだ・・・、あんたたちも泊って行ってくれ。」・・・・・・・・・・・・>

 モニターに十四朗の姿が映し出される・・・照明を取ってきてやった時の映像だ。


<「分かりました・・・、それではあなたの気が変わらないように、今この場であたしたちを騙して水源の堤を壊すよう、わざとああいう言い方をしたのだと認めてください・・・それと宝箱も持ってきておいてください。」>

 やがてツバサが十四朗に証言するよう求める場面に切り替わる。


「この次だ・・・、この次に十四朗の証言がある・・・。」

<ガガガガガ・・・・ザアー・・・・>

 と言おうとしたとたんに、画面はノイズだらけとなり映像が大きく乱れてしまう。


「うん?どうしたんだい・・・?何も映ってはいない様子だが・・・?>

 三四郎が怪訝そうな目つきで、俺とツバサの顔を交互に見返す。


「い・・・いやあ・・・、ちょっと待っていてくれ。」

 すぐに中継車に取って返す。


「一体どうしたというんだい?肝心な場面が映っていないじゃないか・・・、電波障害でもあったのかい?」

 すぐにいつものテレビスタッフに確認する。


「いやあ・・・、どうやら磁気記録にダメージを負っているようですね・・・、こんなことは初めてですが・・・、テープに傷が入っていますから、ダビング時に絡まってしまったのかもしれません・・・。」

 テレビスタッフが信じられないといった表情で、痛んだ磁気テープを見せてくれる。


「これがマスターテープだったのですが・・・、ちょうど本日分の放送でも証言シーンを流そうとしておりまして・・・、編集した分がありますから、そっちをこれから流します・・・、すみませんがそれで我慢してください。」

 テレビスタッフに促されて、三四郎の元へともう一度戻る。


「理由ははっきりとしないが、映像データが壊れていたようだ。

 だが、放送予定の編集した映像があるそうなのでそっちを見てくれ。」

 改めて、モニターを見るようお願いする。


<「わざとああいう言い方をしたのだと認めてください。」


「ああそんなことだか・・・、あれは確かにおらたちの話しぶりが悪かったかもしんねえなあ、勘違いさせただか?

 だがまあ、おめたちもあの最強魔物たちから逃げ延びられたんだから、おめたちは強運の持ち主だあ。」>

 ツバサの依頼の後に、十四朗の証言映像に切り替わる場面が映し出された。


「どうだい?十四朗が誤解を与えたかもしれないと認めているだろう?」

 三四郎に念を押して確認する。


「ううむ・・・まあ確かに言葉のつながりを見る限りは、そのような意図で答えたと取れないことはない・・・。

 しかし、映像を編集しているからな・・・、まったく違う話をしていたのを都合のいいように編集した可能性も否定できない・・・、なにせ海竜の民ははっきりと堤を壊したことへの責任を認めているわけではないだろう?」


 三四郎は疑い深そうに目を細めながら、俺の顔をまじまじと見つめる。

 ううむ・・・確かに十四朗の発言自体には、堤のこととか一切触れていない。

 ツバサの問いかけに対する答えというセットでなければ、どの行為に対して言っているのか特定できないようなあいまいな口ぶりだ。


「だが・・・あの最強魔物と言っているだろ?あれは堤を守っていた魔物たちのことだ。

 その言葉が添えられているのだから、堤のことを言っていると解釈してもいいのではないのか?」

 要は取りようなのだが・・・つながる事柄として考えれば、堤のことを言っているとの解釈が成り立つのだ。


「まあ・・・そうとも言えるのだがな・・・、ううん・・・すっきりしない・・・。

 ようしこうしよう・・・、今回は君たち2人が海竜の民を追って行ったわけだが、実をいうとこの地にもクエストが残っている。


 当然のことだが、君たちがこなすべきクエストであったわけだ・・・。」

 突然三四郎がおかしなことを言い始めた・・・、あった・・・という事は過去形か?


「今度はサグルとツバサがここに残り、レイと源五郎が別クエストを果たしに向かってくれ。

 このクエストを期日までにこなせたのであれば・・・、君たちは優秀な冒険者であり、堤を壊すような暴挙に出たのは、やはりサポート側の問題だったと判断することにしよう。


 だがしかし期限を切らせていただくし、破壊行為も必要最小限にとどめていただくことにするよ。

 まあ魔物たちは退治するとしてね・・・、それが冒険者の務めだから・・・。


 だが今回もダンジョンを必要以上に破壊したりすると・・・、君たちの冒険者としての資質が問われるわけだ・・・、この地での冒険にふさわしいものであるのか否か・・・という事だね・・、ふさわしくなければこの世界から出て行っていただくことになる・・いいね?」


 ありゃありゃ・・・、三四郎がとんでもないことを言い始めた。

 今度は俺とツバサが檻の中に残って・・・、レイと源五郎が二人でクエストをこなしに行かねばならなくなってしまった・・・、源五郎は問題がないとしても、レイはまだこの世界には不慣れなはずだ・・・。


 なにより、どうにも今回の世界は、ロープレゲームとして作られたシナリオとはかけ離れているから、レイがうまく対処できるのか・・・困った・・・。


「いいですよ・・・源五郎さんも、レイちゃんも立派な冒険者です・・・。

 あたしは信じています・・・。」

 そういってツバサは一人、源五郎たちが入っている檻へと向かう・・・。


「さあ、彼らと交代させてください・・・。」


 そうして入り口前で三四郎たちを呼び寄せる・・・ううむ・・・まいったな・・・、こうなったら俺も一緒に檻に入らざるを得なくなってしまう・・・。

 まあ、源五郎とレイを信用できないというわけでは決してないのだが・・・、親としてレイの身が心配というか・・・。


「どうしたんですか?」

 檻の中にいて事情を知らない源五郎が、俺が近づいていくと問いかけてきた。


「今度は源五郎とレイを外に出してクエストをこなしてほしいそうだ・・・、冒険者としての素養を見るようなことを言っていたから・・・レイ・・・くれぐれも乱暴な行動はとるなよ・・・余計な破壊行為は避ける事・・・無益な殺傷もだめだ・・・いいね?」

 すぐにレイの目をじっと見て告げる。


「わかったぁー・・・、今度はダーリンと2人きりで冒険だね?たのしみー・・・」

 俺の言葉を聞いたレイは、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる・・・ううむ・・不安・・・。


「レイちゃんは、僕が何としてでも守りますよ・・・、任せてください・・・。」

 源五郎が心配そうにおろおろする俺の姿を見て、真顔で告げる。

 奴の力を信じよう・・・。


「そういえば今回の宝剣は持つ人の能力に効能があるそうだ・・・、これは疾風の剣といって素早い攻撃ができるようになる・・・・、これは源五郎が持っていてくれ。

 こっちは慈恵の剣で、回復魔法の効果をあげる力がある・・・、レイが持っていてくれ。」

 三四郎たちにはわからないように、二本の宝剣をレイと源五郎に檻の柵越しに手渡した。



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