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海竜様

1 海竜様

「いや、まさか俺が君と戦うなんてことは・・・できっこないよ。」

 こんなか弱そうな半魚人相手なんて、軽くいなしただけでも大けがをさせてしまいそうで怖い。


「なんだぁ?戦わずに逃げるっていう事か?負けを認めるんだな?」

 すると十四朗は、なおもまくし立ててくる。


「だめですよ、負けを認めちゃあ・・・。」

 するとツバサは突っ張るよう指示する・・・、そんなこと言ったって・・・。


「負けでいいから、俺たちは退散させていただくよ・・・。」

 子供の喧嘩のようなことを本気で相手にできやしない、この場はこれでおしまいにしよう。


「ようし・・・おらの勝ちだ・・・、負けたおめには明日はないだ・・・。」

 すると十四朗は勝ち誇ったように胸を張る・・・何がそんなにうれしいのか?


「あらら・・・、負けを認めちゃいけないといったではありませんか・・・。」

 ツバサがあきれたようにため息をつく・・・、えっ・・・俺は何かまずいことをしでかしたのか?


「負けた奴には死を・・・、その命を海竜様に捧げるだ・・・。」

 すると十四郎が、とんでもないことを言い始めた。


 勝つも負けるも・・・戦ってもいないではないか・・・、こんなか細い体の半魚人相手に戦うことはできないと戦いを避けただけなのに・・・、それを負けだから死だ・・・と言われても・・・。

 そんな俺の思いとは裏腹に、すぐに大勢の半魚人たちがやってきて俺とツバサの周りを取り囲む。


 どうする・・・どれだけいてもこんな奴ら、簡単に打ちのめしてしまえるのだろうが・・・、ちらりとツバサの方を見るが、がっかりしたような表情でうつむいているだけだ。


 まあ確かに、ここで暴れるわけにもいかないだろう・・・、何せ俺たちの行動は逐一テレビカメラで映されているのだ・・・、映されていなかったとしても、まさか村人である半魚人たちを傷つけるわけにもいかないしな。

 どうせ儀式的なもので本当に命までとることはないだろう・・・、しばらく従って見るか。


「手を出すだぁ・・・。」

 両手を腹の前で太いロープで何重にもきつく巻かれ、更に腰にも両腕にもぐるぐる巻きにされて縛り付けられる。


「こっちさ来るだぁ・・・。」

 そうしてロープの端を持った十四郎が俺の前をゆっくりと歩き、先ほど俺たちが向かった洞窟へと入っていく。


 ううむ・・・・かなりしっかりと縛られてしまった・・・、両手どころか肘さえも動かせないくらい、がんじがらめに上半身にロープが巻かれている。

 中にいた魔物たちは・・・、先ほどツバサがほぼ全部片付けてしまっただろうから襲われることもないだろう。


 狭い洞窟の中を歩いていき、分岐を今度は左に・・・少しずつ下っていく。

 そうして少し開けたところに出ると、その先の一本橋のような細い道を歩いていく。

 先ほど巨大な岩が向こう側から転がってきた場所だ・・・ジャンプして飛び越えたが、この細い道を踏み外せば、奈落の底へ落ちて行っていたところだ・・・、危なかった・・・。


「ここでとまるだぁ・・・。」

 十四朗は底が見えないくらい深い谷の上にかかっている、一本橋の細い道の真ん中で立ちどまる。


「おめはおらたちの主である、海竜様への貢物としていけにえになってもらうだぁ・・・。」

 十四朗はそういいながら、一本橋の左右の手すりが途切れた部分に俺を立たせ、そうして手すりに俺を縛り付けているロープを結び付けた。


「かっ・・海竜様って、神様だから信仰上のものだよね?

 形だけいけにえみたいにして一晩ここに置かれて、明日には解放されるわけだよね?」

 念のために儀式の内容を聞いておく。


「そんなわけねぇだろう・・・海竜様は実在するだぁ・・・、おらたちの村を守ってくれているだぁ・・・。

 海竜様のいけにえになれるんだから、光栄と思って喜ばねえばなんねえだぞ・・・。」

 十四朗はそういうと、先ほど持ってきた照明を一本橋の手すりに取り付けて、来た道を戻っていった。


「あたしがあなたに決闘を申し込みます・・・あなたが負けたら、サグルさんを解放していただきます。」

 橋のたもとで待ち構えていたツバサが、今度は十四朗に決闘を申し込む。


「おらはフェミニストだから、おなごとは争わねぇだぁ・・・残念だったな。」

 ところがすぐに十四朗は、女性とは戦わないと宣言してしまう。


「・・・だったら、な・・・」


「ああっと・・・、ナナセは女だけんど、戦士じゃねえから決闘はしねえだぁ・・・、決闘するのは村の男衆だけで・・・、しかも相手は男でなければいけねぇだぁ・・・。」

 ううむ・・・距離があって実際は見えないが、十四朗のしたり顔が目に浮かぶ。


「あ・・・あたしは女ですけど・・・、男なんかには負けない・・・。」


「まあまあ、ちょっと待っているだぁ・・・すぐに事は済むだぁ・・・、そうしたら相手にしてやらねぇこともねえだぁ・・・、なんせ、おめの世界最強は相手より少しだけ強いだけで、相手が大人数だと負けてしまうことがあるんだろう?

 この村の男衆総出でかかれば、おめなんかいちころさぁ・・・。」


 さらに、今度はツバサさえも寄ってたかって襲い掛かって倒してしまうなんて暴言をはく・・・、定男が言っていたが、世界最強を願っただけの存在であればそうなるだろうな・・・。


 だがツバサは世界最強をかなえるために祈るだけではなく、日々努力を続けているぞ・・・、冒険者の経験値として反映されないと分かっても、それでも努力を続けているぞ・・・お前たちなら何人が一斉にかかって行っても、恐らくツバサの敵ではないだろう。


『ヒュー・・・・バギッ』とか考えていたら、何か大きな音がして突然視界が真っ暗になる。

 ヘッドライトは照らしていないが、先ほど俺たちが持ち帰った照明がすぐわきにつけられていたはずなのに・・・。


 あれっ・・・でも両手が少し動くようになったような気が・・・・やはりそうだ、肩口から両手を縛りあげていたロープが切れたようで、両手が自由になった。


 それにしても何か臭い・・・、魚のような生臭さが辺りに立ち込めている。

 同時に、体の所々にチクチクというか、先のとがった木の棒で突き刺しているような、圧迫感がある。

 ううむ、何が起こった?


「いやーっ・・・、サグルさんっサグルさんっ・・・」

 何か遠くの方で女の人の叫ぶ声が聞こえてくる・・・、あれは恐らくツバサだろう・・・そうなると俺の身に何かが起きたか・・・?


『ギギギギギギッ』そうこうしているうちに、体のあちこちを押してくる点の力が増してきたような感じが・・・、もしかすると俺は今、なにか巨大なものに食われようとしているのか?

 ううむまずいな・・・だがまあ両手が自由になったわけだ、反撃に転じよう。


『シャキィーンッ』すぐに鋼鉄の剣を抜き両手でしっかりと握り、『ブズッ』前方に突き刺す。

 やはり俺の体の周りを何かが包み込んでいるようだ・・・、腰のあたりで水平に剣を構えると一気に右方向へ回転する。


『ズッパァーンッ』『ヒュー・・・・・・ザッパァーンッ』すると剣先が軽くなり、体への圧迫感も消えた。

『ズボッ』そうして両手を持ち上げてから左右に勢いよく広げると・・・、急に視界が開けた・・・。


「さっ・・・サグルさんっ・・・無事だったんですね?」

 すぐにツバサの喜びの声が聞こえてくる。


「ああ・・・なんだかよくわからんが・・・、俺はやっぱり食われかけていたのか?」

 状況を大声で確認しておく。


「かっ・・・海竜様ー・・・、おめっ・・なんちゅう罰当たりなことを・・・!」

 すぐに十四朗の叫び声も聞こえてくる。


「罰当たりも何も・・・いわれもないことで俺は処罰されるつもりはない。

 決闘を断ったのだって、お前のようなひ弱な奴に本気で戦うわけにもいかないから避けただけだ。

 対するお前は、そうなることを見越して決闘だって騒いだだけだろう?


 何だったら今からでも決闘して構わんぞ・・・、ただし今度は容赦しない・・・大人げないかもしれないが、こっちは本気で戦わせていただく。

 恐らくお前の体は骨までもボロボロになるだろうがな・・・、さあ、どうする?」


 こうなったら遠慮はいらない・・・何せ奴らは全員で襲い掛かって、ツバサまでも毒牙にかけようとしていたわけだからな。

 まあ、ツバサがやられるはずは決してないのだが、そんなことを考えるだけでも罪深いことだ。


「おめたちがここにいて無事でいられるのも、海竜様がこの地を守っていらっしゃったからなんだぞ。

 そうでなければとっくに堤の魔物たちに、おめたちは追いつかれて食われちまったはずだぁ・・・、おめたちがこのままここにいたら、おらたちにまで危害が加わるだぁ・・・もう決闘はいいからはよ帰ってくれ・・・。」

 十四朗は一本橋手前で、頭を抱えてうずくまってしまった。


「ああ、そうさせてもらうさ・・・だがまだ宝箱を返してもらっていない。

 宝箱を返してくれなければ俺たちはこの場を動くわけにはいかない・・・、そうなりゃ力づくでも村中を捜索させていただくつもりだがね。


 その際あの堤を守っていた魔物たちがもし俺たちを追って来たなら、まあ、俺たちは動きが機敏だから逃げおおせる自信はある・・・、一度逃げているしね。


 だが・・・、君たちはどうかな・・・?

 俺は・・・、ゆっくりと村の中を探させていただくとするか・・・。」

 そういって一本橋を戻って、村の方へと歩き始める。


「わっ・・・分かっただぁ・・・、宝箱は村さ着いたらすぐに返すだぁ・・・、だからすぐに帰ってくれ・・・。」

 十四朗が駆け出して俺に先行して洞窟を戻り始めた。


 堤の魔物を退治したシーンを割愛しておいた効果は、こんなところにも表れたようだ。

 これは、この後もずっと知らせないでおいた方が有利に展開しそうだな・・・。


「よかったです、よくぞご無事で・・・、でも、あんなに巨大な海竜をよく倒せましたね。」

 ツバサがすぐに寄ってきて小声で耳打ちする。


「ああ・・・、やはり海竜に食われかけていたんだな?

 俺は一旦は口の中に入ってしまったというわけだ・・・、ところが奴の歯は俺の体をかみ砕くことはできなかった・・・、鋼鉄の鎧のおかげかな?」

 やはり鎧で防御力をあげておくに越したことはないのだと、ちょっと自分の設定に満足する。


「でも・・・、鎧は穴だらけですよ・・・。」

「えっ・・・」


 そういわれて下を見てみると、腹部分に黒い点々が2本、直線状に並んでいる・・・黒い点はよく見ると鎧に開いた穴のようだ・・・、だがしかし・・・鋼鉄の鎧だぞ・・・しかもかなり分厚い・・・、それなのにこんな簡単にたくさんの穴をあけるなんて・・・。


 この穴の列は恐らく海竜の歯型なのだろうな・・、多分背中にも同じように穴が・・・、ううむ・・・寒気がしてくる・・・今更ながらだが、食われかけたという事の恐怖感が現実のものとなってきた。


「このダンジョンの海竜は、以前の冒険では俺たちが退治するクエストに入っていたのかい?」


「いえ・・・海竜はこの地を守る神様的な存在で、絶対的なものでした。

 最初の冒険の時にはサグルさんは危うく海竜のいけにえになるところでしたが、その前に何とか助け出したのです・・・あの時は源五郎さんやレイさんも一緒にいたもので・・・。」

 俺の質問にツバサが答える。


「そうか・・・やはり海竜というのは圧倒的な力を持っていたという事なのだろうな。


 それでも冒険の初期段階に出くわすわけだろ?

 その力は、せいぜい最初のステージで倒すべき魔王や魔神クラスの力程度だろう・・・、それでも冒険の初期であれば圧倒的存在に見えるはずだからね。


 ところが今の俺は何度も言うが最高クラスの経験値を最初から設定されてきているわけだ・・・、その俺から見れば海竜などちっぽけな存在なわけだ・・・、恐らく海竜がどれだけ攻撃しかけてきても、俺はかすり傷を負う程度でしかないくらいだと思う・・・。


 第2ステージのボスキャラ到達時点で経験値が50万程度と言っていたから、俺は初期設定でその200倍で来ている・・・、だからその程度の力では俺の敵ではないという事だ。


 だから一旦食われかけても、簡単に倒すことができたのだろうと考えるよ。」

 まあ、こんな話は放送されても自己自慢にしか聞こえないので、もちろんマイクは手で押さえながら小声で答えておく。


「はあ・・・そうですか・・・、流石サグルさんですね・・・頼もしいです。」

 ツバサも同様にマイクを手で押さえながら笑顔を見せる。


「それはそうだ・・・、今回この世界へ来たのはツバサを助けるためで、冒険をして経験を積むゲームをしに来たわけではないのだからね。

 ダンジョン攻略とかクエストなんてどうでもいいから、早いところ面倒な奴らを片付けてしまいたいよ。


 そうしてからだな・・・、経験値を最低レベルの1に戻して、ゆっくりと冒険の旅に出たいよ。

 まあ、今となっては難しいだろうがね・・・。」


「そんなことないですよ・・・、もしそうやって最初から冒険をやり直せるのであれば、あたしも世界最強の称号を外して、一冒険者として旅をしたいです。

 もちろんシメンズメンバーとしてですね・・・、やりましょう。」


 ツバサが本当に嬉しそうに満面の笑顔を見せる・・・、まじめに思う・・・そんなことできたらどれだけいいだろうか・・。

 なにせ久しぶりの冒険の旅なのだが、ちっともうきうきというか心が躍らない・・・。


 決してつまらないというわけではないのだが、やはり無敵というわけではないにしても、この異常なまでの経験値を持っていることが災いをしているのだろう。

 戦う前からというか、どうやっても勝つという相手ばかりでは、張り合いがないというより戦う気も起らないのだ。


 この世界に来て唯一戦いをしたなあと感じたのは、堤の前を守る魔物たちとの一戦だけだった。

 ほかの戦いは作戦も戦術も何もなく、ただ圧倒的経験値の差で打ち負かしただけだ。

 要は体が大きくて力がある大人が子供と本気で戦っているようなものであり、そんなことを続けていても冒険という意識は生まれてこないのだ。


 折角今回の旅に参加することができたわが娘レイだって、つまらん冒険の旅だと感じているのではないかと心配している・・・、何せことあるごとに自慢げに妻との出会いのきっかけとなった冒険ゲームの話を聞かせていたのだからな・・・、それがこんな世界だったとは・・・絶対に思って欲しくはない。



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