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帆船

13 帆船

「レイッ・・・、必ず助けに来るから安心していなさい。

 源五郎も・・、俺たちを信じていてくれ。

 それから、レイのことをよろしく頼む・・・。」

 格子状の木枠越しにレイたちに声をかける。


「うんっ・・・、ダーリンと一緒だから大丈夫だよ・・・。

 いっぱいお話してもらうから・・・。」


 レイが満面の笑顔で答える。

 レイはどちらかというと、今のこの状況を喜んでいる様子だ・・・まあ泣かれるよりはこっちも気が楽だ。


「大丈夫ですよ・・、レイちゃんはどんなことがあっても僕が守りますから・・・。

 でも・・・もし間に合いそうもなかったら、僕たちのことは気にせずに逃げてください・・・、そうして、この世界をこんな風におかしくしている奴らをあぶりだして、そいつらを退治してください。


 リーダーならきっとできます・・・、だから頑張ってください。」

 逆に源五郎に励まされてしまった・・・、いや、俺は決して君を見捨てたりするつもりはない・・レイも一緒だしね・・・、なんとしてでも半魚人たちから証言を取ってくるさ・・・。


『チャリンッ』源五郎から賢者のトンネルのカギを、念のために受け取る。

 冒険を始めてから今まで必ず一緒にいてくれた源五郎と離れ、難解なクエスト(というより罰ゲームに近いものだが・・・)を攻略に向かうわけだ・・・。


 ちょっぴり不安があるが・・・、まあそんなことは俺と一緒のツバサだって感じているだろう。

 彼女に不安を抱かせないためにも、俺は余裕の表情で努めなければならない・・・。


「じゃあ、行くとするか・・・、たまには2人だけの冒険もいいものだ・・・。」

「はい・・・。」

 ツバサとともに、地竜の里を後にする。



「じゃあ悪いが、川岸を下って賢者のトンネルに戻ってほしい。」

「はい、分かりました。」

『ブロロロロッ』中継車に乗り込み、ドライバーに行き先を指示すると、中継車はゆっくりと山道を下り始めた。


「あと・・・、地竜の里での内容を放送するのはちょっと待っていてほしい。

 この先のクエストに関係する内容が話されているから、向こうに警戒されてしまうとクエストの攻略が難しくなってしまうかもしれない。


 放送できない内容では決してないからその部分を削除することはしないが、今回のクエストが終わるまで地竜の里でのことは放送を控えておいてほしいんだが・・・、いいかい?」

 今の映像部分を中継車内のモニターに早送りで映し出しながら、いつものテレビスタッフにお願いしてみる。


「はい・・・昨日の冒険内容は堤を破ってからの激流下りと海に出てから干物になった船の復活に加えて、半魚人とのクエスト内容に関しての会話と、内容があまりにも多すぎて1日分の放送時間では編集しきれず、ずいぶんと映像を割愛しましたから、本日分の放送内容に関しては詳細版を放送すれば問題ありません。


 それでも半魚人たちの村が激流に飲み込まれたシーンや、干物と化していた帆船が少しずつ海水を吸って膨らんでいく様子など盛りだくさんですからね。

 明日からの分は・・・明日からの冒険内容を放送するか・・・、あるいは今までの冒険シーンをダイジェスト版で振り返るか・・・、まあ何とかなりますよ。


 お二人ずつに分かれて冒険することのいきさつは・・・、少しの間秘密という事ですよね?

 それはそれで番組冒頭にテロップで流しますから、視聴者の食いつきも期待できますよ。」

 テレビスタッフは、俺からの無茶な要望を快諾してくれた。


 ツバサと2人だけで戻ってきたことに関しては、2グループに分かれてクエストをこなすと理解してくれているようだ・・・、まさか2人が里に囚われていて、俺たちが戻るのが遅ければ処刑されてしまうだなんて・・・、まあ予想もできないわな・・・。


「賢者のトンネルにつきました。」

『キィッ・・・ガシャンッ』しばらく走ると、中継車がコンクリート製の建物前で停車する。


「ああ・・・ありがとう。」

『ガチャッ・・・・カチッ、ガチャッ』すぐに中継車を降りて建物の扉を開け、中に導き入れる。

『ブロロロロロッ』そうして長い長い通路をひたすら走っていく。



「じゃあ、今日のところはここまでにして野営に入るとしよう。

 移動だけで時間を使ってしまったが仕方がない・・・、だがまあ海岸線まではもう1日半程度の距離だ。

 明日の朝いちばんで行けばあさっての昼には到着できるだろう。」


 砂漠の真ん中でテントを張り、野営の準備にかかる。

 激流で川と化していた流れも、今では削られた砂地が湿っているだけで、すでに水は流れていないようだ。

 その流れを使えば倍くらいの距離も半日程度で移動できたというのに、中継車の速度でも賢者のトンネルから海岸線までは2日弱かかってしまう。


 期限は迫っているが、焦っても仕方がない・・・、まあ流れをたどっていけば海岸へたどり着けるので楽でいい。

 どのみち帆船は海水につけてから5日間は養生するようにと張り紙がしてあったので、明後日にならなければ使えないからちょうどいいと考えればいいだろう。


 本日分の放送は、東部大陸中央の賢者のトンネルを出てからのシーンと、これまでの冒険シーンがダイジェスト版で流された。


「今回は2人だけだから、1人ずつでさみしいが交代で見張り番だ。

 じゃあまずはツバサに任せるとして、俺が眠らせていただくよ・・・。」


「はいっ・・・、分かりました。」

 ツバサが元気に返事をする。


 雑魚魔物は全てテレビ塔建築の現場に収集されているといっていたし、最強魔物はすでに倒してしまっていて、魔物に襲われる心配はないのだが、まあ安全な村ではないので用心に越したことはない。


 日課にしようとしているランニングなどのトレーニングをこなしてから、俺は外でシートを敷いて雑魚寝する。

 翌日もただ移動だけで何もない日が続く。



「じゃあ、出発しよう・・・。」

『ブロロロロロロッ』翌朝、身支度も早々に出発する。


 急がねばならない・・・、何せ移動だけでも片道2日半使ってしまうのだ。

 実質向こうでの活動期間は2日だけだ・・・、しかもその2日には奴らを捜索する時間も含まれているわけだ。


「船が見えてきました・・・。」

 海岸線が見えてきたところで、ドライバーが俺たちに向かって叫ぶ。

 おお・・・確かに巨大な帆船が浮かんでいる・・・、あんなのが干物になって1枚の板状に化していたとは、到底信じられない・・・。


 中継車が近づいていくと、帆船は向きを変えて後方を向けると後ろ側のゲートが開き、ゆっくりと乗降板が降りてきた。

『ザンッ』貨物フェリーのように、後部の積み込みゲートが海岸の砂地へと着地する。


「おお・・・便利なものだな・・・、じゃあ、そのまま乗船してくれ。」

『ブロロロロロロッ』『ギギギギギギッ・・・ガッシャーンッ』明らかに中継車の乗降を意識している構造の帆船は、中継車を収納すると自動でゲートが閉じた。



「中継車を認めて乗車ゲートを開けてくれたという事は、乗組員が乗っているという事だよね・・・。

 そうでなければ困るのだが・・・、ちょっと見に行こう。」

 ツバサとともに中継車を降りて、車庫から階段を上がっていく。


「こっちです。」

 ツバサに従い通路を進んでいく・・・ツバサは、この船のことも知っているようだ。

 恐らく以前の冒険で使用したのだろう。


『コンコンッ』「はい、どうぞ」

 通路の突き当りのドアをノックすると、すぐに返事が返ってきた。

『ガチャッ』ツバサが扉を開けて中に入っていくと・・、中には数人の男たちが・・・。


「船長さんっ・・・よかった・・・ツバサです。

 またよろしくお願いいたします。」


「おおっ・・・実に久しぶりにこの船にお呼びがかかったのだが・・、また今回もこの船のオーナーはツバサ君たちのようだね・・・?

 もう一人のメンバーは・・・、確かリーダーさんだったかな?」

 やはり、ツバサはこの船の乗組員までも知り合いという事のようだ。


「ああ・・・、シメンズリーダーのサグルです。

 恐らく以前も会ったのだろうと思うが、ツバサは覚えているけれども、申し訳ないが俺にはその時の記憶がない。

 だがまあ、よろしくお願いします。」

 そういって頭を下げる。


「君たちは冒険者だからね・・・、時間を遡った時に記憶を持って戻れなかったのは仕方がないさ。

 今回もよろしく・・・、君たちがこの船のオーナーとして認められたようだから、どこでも君たちの好きなところへ向かうから、何でも命じてくれ。」


 船長は笑顔で答える。

 なんだかなあ・・・、三四郎とか言う竜人もそうだったが、ツバサの知り合いで俺たちのことも知っている様子だったし、今回もよろしくだなんて、ずいぶんと緩い・・・というか、冒険ゲームとは到底思えないグダグダさだ。


 冒険者をサポートする側なんだし、たとえ知っていても知らんふりして自分の役どころを演じるのが役者の勤めなのじゃないのか?

 それだけ今のこの世界の状態が、おかしくなっているのだろうな・・・、それをゲームキャラたちも気づいているのだ。


「それはそうと・・・、君たちはまさかずっとこの船に乗っていたというわけじゃないよね?

 海水を吸って膨らんで、息を吹き返したとか・・・言わないよね?」


 それにしても、ずいぶんとタイミングよく乗組員が乗船しているものだ・・・、どんな仕組みになっているのだろうか?


「まさか・・・我々は干物になったりはしないよ・・・、船が復活しそうだと連絡が入ったから、賢者のトンネルを使ってこの地までやってきただけだ・・・というのは冒険者用の答えで、実際には船が出来上がるとともに我々は自動的に出現するわけだ・・・船内にね。


 乗組員一同全員出現したから、食堂や売店も本日から営業するぞ。

 あとは・・・占い部屋もな・・・。」

 船長は意味深なコメントを付け足す。


「そうですか?占い師さんもいらっしゃるのですね?

 助かりました・・・、早速行って占っていただきます。」

 ツバサは飛び上がって喜ぶと、すぐに俺の手を引いて操舵室を出ていこうとする。


「おいおい・・・、占いでこれからの行き先を決めるつもりなのかい?

 そりゃあ確かに、あいつらは海に潜ったきりで、どこへ行ったかわからないわけだが・・・。

 でもそう遠くまでは行きゃしないだろ?せいぜい数キロ以内にいるんじゃないのかい?」


 俺は復活した船を使って、この辺りをくまなく回っていけば、あいつらの痕跡がつかめるのではないかと想定している。

 今まで砂漠で永いこと暮らしていたわけだ・・・、海に出たところで行き先なんかありはしないはずだ。


「大丈夫です・・・彼女の占いはきっと当たりますから・・・、ついてきてください。」

 ツバサは俺の手をぐいぐい引っ張ったまま通路を速足で歩き、階段をみつけるとひたすら下っていく。


「おいおい・・・船倉へ行ってしまうんじゃないのかい?

 車庫よりも下なんじゃ・・・?」


 もはや下り階段がなくなり、今度は通路を歩いていく。

 途中きらびやかな電飾で飾られた服屋を見つけた・・・、なんだか戦隊ヒーローものの衣装みたいなものが飾ってある。


「ここです・・・。」

 ツバサが立ち止まった部屋の上には、看板があった。


「占い婆の部屋・・・だって?

 そうか・・おばあさんの占い師か・・・、まあ、景気づけに占ってもらうとするか。」


 どちらにしても、占ってもらわなければツバサは納得しそうにない。

 時間の無駄とは考えるが、仕方がないだろう。


『ガチャッ』「失礼します。」

 ドアを開けると声をかけながらツバサが入っていく。


「おお・・・しばらくぶりだのう・・・、元気でやっていたか?」

 そこにはなんとババアどころかピッチピチの・・・、というかボンッキュッボンッの・・・、というより巨乳美女様が鎮座されていた。


 アラビアンナイト風の、ちょっと肌の露出が多めの衣装に、レースでできた薄いベールを羽織っているその姿は妖艶で、思わず生唾を飲み込んでしまう。


「ああああ、あの・・・シメンズリーダーのサグルと申します。

 こっ・・・このたびは、ツバサさんの紹介でこれからの行き先を占っていいい・・、いただこうとやってまいりました。


 もももも・・・目的は、とととっ十四朗とかいう半魚人たちの行き先でして・・・。」

 あまりのことに緊張して、直立不動の姿勢から、しどろもどろになりそうになりながらも、何とか用件を伝える。


「ふうむ・・・お主は以前もここに訪れたことがあるようだな・・・、外観は多少違っておるが・・・、ふむ・・・分かるぞう・・・、シメンズのリーダー、サグルじゃな。」


 占い巨乳美女は、俺の姿を認めると立ち上がってじっと俺の目を見つめる・・・、なんだか心の奥底まで見通されるような深い瞳の色をしている。

 俺の名を知っている・・・というより、今名乗ったばかりだし・・・、なんかちょっと胡散臭い・・・。

 それでもすさまじいまでの美女なので、心証を悪くしないよう逆らわずに行こうと決めた。



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