拘束
12 拘束
「じゃあ出発するぞ・・・。」
翌朝テントで寝ているレイを起こして、身支度を整えさせて出発だ。
『ブロロロロロッ』枯れた川に沿って上流へ向かって走り続けると、だんだんと昇り傾斜になってきた。
水は高いところから低い方へと流れていくのだから当然と言えば当然だが、だんだんと傾斜が厳しくなって山道と化した中をさらに昇っていくと、丸太で作り上げた塀で囲まれた、砦のようなものがその先に見えてきた。
「あれ?地竜の里のようですね・・・、この辺は変わっていないのかな?」
ツバサが席から立ち上がって、前方の様子を眺めながら首をひねる。
「門の手前で止めてくれ。」
『キィッ・・・ガシャン』初めて訪れる村に、いきなり車ではいっていくのも無礼だろうから、村への入り口前で中継車にはいったん停車してもらう。
『ガチャッ』中継車を降りて、徒歩で門の中へと入っていく。
すると中には巨大な人影が・・・、2メートルは優に超えるその人の顔は・・・、トカゲのような顔立ちをしていた・・・いわゆる竜人だろう・・・。
「こんにちは・・・、俺たちは旅のもので・・・。」
とりあえず笑顔で挨拶してみる・・・、うまくいけば村の中にギルドなんかもあるかもしれない。
「ああ・・・君たちはシメンズのメンバーだね・・・、悪いが拘束させてもらうよ。」
『ガッシャンッ』一際大きな竜人が寄ってきて、すぐさま俺の手に手錠をかけた。
何だあ・・・いったいどうしたというのだ?
「三四郎さん・・・三四郎さんですよね・・・、一体どうしてこんなことを。」
いっしょに手錠をかけられたツバサも、驚いた表情で竜人に詰め寄る。
どうやら彼女は、この竜人のことを知っている様子だ。
「ツバサさんか・・・悪いが君たちがしでかしたことは立派な破壊行為だ・・・、犯罪として取り締まらせていただくよ・・・。
昨日の放送で、賢者のトンネルのカギを取得したことが分かり、ここで待機していればいいことが分かった。
暴れて抵抗されると厄介なのでグリーンマンも呼んでおいたから、無駄な抵抗はしない方がいい。」
三四郎と呼ばれた竜人は、ツバサの質問にはろくに答えずに、傍らにいる緑の全身タイツ男を紹介する。
そういえば、以前の冒険の時にも全身タイツの世界最強の超人がいるとツバサが話していたな・・・、その系統の奴だろうか・・・。
「その・・・破壊行為っていうのは、どういった事なんだい?
俺たちはクエストをこなしているだけであって・・・。」
まずは俺たちの犯した罪の内容を聞いておこう。
「うん?まだわかっていないのか・・・ううむ、反省の色もうかがえんというわけだな・・・。
これはずいぶんと罪が重いぞ・・・。」
三四郎とか言う竜人は、俺の問いかけの何が気に食わないのか腕を組んで考え込む。
「いや・・・、そんなことを言われても俺には何のことかさっぱり・・・。」
「じゃあ、説明しよう。
君たちも見て来たとおり、この村の傍らを流れる川は豊かな恵みを大地に与え続けてきたが、今は流れを止めている。
この遥か下流に橋を架ける工事をするためなのだが、水源をせき止めていた堤を反対側から破壊した奴らがいる・・・。」
三四郎という竜人は、いらだたしげに話すと俺たちのことをにらみつけた。
「ええっ・・・?俺たちが伝って来た川は工事のためにせき止めていたが、その水源の堤が壊されたって?
ここは東部大陸の北部だってツバサが言っていたから・・・という事は・・・・、まさか東部大陸中央で俺たちが破った堤の反対側を水源としていたというわけじゃあ・・・。」
恐る恐る三四郎の顔を見上げる・・・。
「そのまさかだな・・・、川はこの先の山間の水源地の湖から流れていた。
元からこの地へ恵みを与えていた、自然の湖だったわけだな・・・。
ところが、少し前に山の反対側の地に流れ着いた海竜の民たちの部落ができたわけだ。
彼らは毎日崖を登って山間の湖まで水を汲みに来ては、畑を潤したり生活の水として使っていたわけだな。
まあ別に俺たちだけの水というわけではないから、使うことに文句も言わずに共用していた。
ところが工事のために水源の湖に大きな堤を作って水をせき止めると、その水圧によって水脈ができたのか、海竜の民たちの村の手前の崖のところに水が沸き出るようになったときいた。
毎日毎日崖を登って水を汲みに行かなくて済むと喜んでいたわけだが、橋の工事が終わると堤を壊すからまた元の生活に戻るので申し訳ないと、先に謝りに行ってきた。
まあ彼らも事情を知っているから仕方がないとあきらめていた様子だったが、その堤を・・・しかも向こう側の堤を破壊したものだから、水源の水は元の湖の形を変えて半分以上が東部大陸中央側に流れ出てしまったわけだ。
これを破壊行為と言わずに何を言う?
我々の住む土地である東部大陸北側を潤す湖と川が、一瞬でなくなってしまったのだぞ!
君たちへのクエストとして、乾燥して干物と化した帆船や無敵の最強魔物たちなどが配置されたのは別物であり、君たちはあの堤を破壊するべきではなかった。」
三四郎はそういって目を伏せる。
どうやら本気の様子だ・・・俺たちを拘束してどうするのか・・・、裁判にでもかけるつもりなのだろうか。
それにしても、あの最強魔物は別に堤を守っていたわけではなかったのだ・・・、守っていたのは干物と化した帆船であり・・・、本来は俺たちが魔物たちが寝ている隙に干物の船を盗み出し、海岸まで運ぼうとするのを魔物たちが襲ってきて邪魔をするという設定・・・。
それをあの半魚人たちが先に船を盗み出してしまったものだから、魔物たちは俺たちがやってくるのを待ち受けるしかなくなってしまったわけだな。
ようやく全貌が・・・というか、あの十四朗とかいう半魚人が言っていたことの一言一言が結びついてきた。
奴らは水源を確保して村をうるおすことが目的ではなく、水源を破壊してその水流で盗み出した船を簡単に海岸まで運ぶことが目的だったわけで、たまたまうまくいったという偶然ではなく、十分ち密に計算された計画だったというわけだ・・・。
なにせ折角楽に水を手に入れられるようになったのもつかの間、すぐに元に戻ってしまうのが分かっていたわけだからな・・・もうあの地に未練はなかったわけだ。
俺たちの冒険の邪魔をするにしても村を捨ててまで・・・、更に半ば命がけの行動をとったとはとても理解できなかったのだが、そんな理由があったわけだ。
まんまと一杯食わされた・・、まいったな・・・。
「でも、あのナナセとかいう人はあの堤を壊せば村には十分な水が確保されて潤うと言っていたし、十四朗とかいう奴だってそれを否定しなかった。
ただ単に最強魔物がいるから無理だと言っていただけで、あの堤さえ壊せばすべてがうまくいくようなことを、俺は言われたんだ・・・。」
壊してくれと言われた覚えはないが、あの堤を壊すことができればいいと言っていたのは間違いがない。
「まあそうだな・・・先日の放送で君たちのやり取りも見ていたから、そのような勘違いをしても仕方がないような口ぶりをしていたことは理解している。
だからと言って君たちの罪は消えないし、更には重要アイテムまで奪われてしまっているではないか。
君たちを拘束して裁判にかける予定だが・・・、その証人としてあの海竜の民たちを連れてくるか若しくはそう導いたことを認めさせる証言を取ってくるか・・・、それができなければ君たちは一生ここから出ていくことはできない。」
三四郎とか言う竜人は、村の中央広場に作られた太い材木で囲われた檻を指し示す。
「こっこんな中に入れられたんじゃあ、半魚人たちの証言なんかとってこられないじゃないか・・・。」
思わず悲鳴を上げる。
「何も全員をとらえておこうと言っているわけではない・・・、だが全員を解放して逃げられても困る。
だから2人残ってもらおう・・・1人は・・・レイという子が君の娘さんだったね・・・、彼女が残れば君は逃げられないはずだ・・・。
あとの1人は・・・。」
三四郎が俺たちの顔を見回す。
「だったらダーリンと一緒がいい!」
するとレイが源五郎に抱き着く。
「じゃあ決まりだね・・・ツバサとサグルの2名が、海竜の民たちの棲み処に行って彼らがだまして堤を壊させたと認める証言と、持ち去った宝箱の中の宝物を取り戻してくること。
期限は・・・今から1週間以内だな・・・、それまでに戻ってこなければ、刑を執行させていただくことになる。」
とんでもないことを言い出した・・・。
「ちょちょっと待ってくれ・・・、俺たちがだまされて堤を壊したという証言を得られなければ、俺たちはこの村を出ることができない、つまりは無期懲役だな・・・何じゃないのかい?
刑の執行って・・・、つまりは死刑ってことなのか?」
とりあえず言っていることの矛盾点を追及しておく・・・、後でああ言ったとか、こう言ったとか言われたくはないからだ。
「いや・・・君たちが自分の足でこの村を出ることがないといっただけで、この地に君たちを一生収容しておくつもりはない・・・、ここは刑務所ではなく我々の村だからね。
君たちの刑が確定されれば君たちは中央へ連れていかれて、そこで収容されるはずだ・・・恐らくその存在を抹消されることになるだろうが・・・死刑という概念はない・・・、なぜなら冒険者は死んでも復活できるからね・・・。」
三四郎は恐ろしいことを口にする・・・、存在を抹消するって・・・それは死刑よりもひどいことなんじゃ・・・。
「いや・・・俺たちは冒険者だが、死んでしまったら復活はできない。
なぜなら俺たちの本体との通信は切れているからだ。
電波障害とかじゃない・・・、電波障害なら回復すればやり直せるし・・・10年前のように通信が復帰してからやり直せるわけだ。
まあ、あの時は政府に危険な通信装置と判定されて没収されてしまったがね。
おかげで俺はこのゲームを最後までクリアした記憶がない・・、魔神に言わせると俺は魔神を2度倒したことになっているらしいのだが、残念ながら俺自身はそのことを覚えてはいないし、その後復帰したのにすぐにゲーム機は没収されてしまい、ゲームを続けることができなくなってしまったからだ。
今回はこの世界で大変なことが起きているから助けてくれという願いが通じて、俺たちが一回きりの通信を使ってやってきたわけだ・・・、確かに異常な世界だよ・・・冒険者のサポートをするはずのゲームキャラが、俺たち冒険者の足を引っ張るのだからな。
それで俺たちは、約束を果たせなければ中央に送られて消滅させられるというわけだ・・、そうだね?」
彼の目的はわからないが、俺たちに課せられる罰というか刑について詳細に確認しておくついでに、俺たちの身の上も説明しておく。
「ああそうか・・・やはり君は以前のシメンズのメンバーなんだね・・・?
じゃあ、あの時のサグルというわけだ・・・、ツバサがただ似ている冒険者を連れてきたという事ではないわけだ。
そうすると・・・もう一人の彼が源五郎で・・・、あの女の子はレイだね?
だが・・・以前のレイは君の恋人というか・・・奥さんだったはずだが・・・、あれはただの設定だったのかい?」
三四郎が小首をかしげながら俺の目を見つめる・・・、やはりこいつは以前の俺たちのことを覚えているようだ。
「いや・・・恐らく以前君があったレイは、確かに俺の妻だった・・・というか地球にいる俺の本体の妻だ。
本名はレイではないがね。
あの子は実際の俺と彼女の子だ・・・、今回彼女は身重なために代わりに娘を連れてきた。」
ううむ・・・ツバサに事情を話したときはまだインカムなど付ける前だったからな・・・、放送で俺たちの現況は流れていないわけだ・・・まあ、個人情報だから流さないでほしいものだが・・・。
「へえ・・・そうだったのか・・・、ここでの冒険がきっかけとなり実際に婚姻したというわけだね?
それはおめでとう・・・更に娘さんを連れてきたというわけか・・・、今その時の彼女が次のお子さんを身ごもっているというわけだね?二重三重におめでとう・・・。」
三四郎は笑顔で俺の両手を掴んで何度も上下に振りながら、おめでとうを連呼する。
自分のことのように喜んでいるようで、先ほどまでの硬かった表情が、急に柔らかくなってきたようだ。
「それで・・・・ううん・・・、だがしかしこれは・・・中央からの指示で、俺が覆せることではないわけだ。
本来ならばクエスト外の暴挙を働いた犯罪者という事で、即刻捕まえて中央送りという指示だったのだが、君たちの放送を俺も毎日見ているから、海竜の民たちの態度にも問題ありと指摘して、彼らが故意に君たちを誘導したことを証明できれば、罪には問わないことを特別に約束させたんだ。
俺にできることはここまでが限界で、これ以上力にはなれそうもない・・・。」
三四郎は少し困ったように、うつむき気味に説明する。
そうか・・・、これでも俺たちに生き延びる道を交渉して与えようとしてくれていたというわけだ・・・。
「分かったよ・・・、1週間・・・つまり7日だね?
7日以内にあの半魚人たちから、意識的に俺たちに堤を壊させようとしたという証言を取って、さらにあいつらが持ち去った宝物も回収すると・・・、やってみよう。」
仕方がない・・・ここでごちゃごちゃ言っていても始まらなさそうだ・・・、半魚人たちは一筋縄ではいきそうもないのだが・・・何とか頑張ってみよう。
「ああ、堤のところにいた最強魔物は・・・、無敵状態のままで君たちを今でも探しているはずだ。
たった2人だけでそれと対抗させるのは忍びないのだが・・・、逃げられないための策だし、これも自分たちが蒔いた種からだとあきらめてくれ。
じゃあ、君たち二人はここへ入ってくれ。」
『ガチャッ・・・ガッチャンッ』レイと源五郎が、太い丸太を組み合わせて作られた頑丈そうな檻の中に収容された。
案の定、三四郎も最強魔物とやらを俺たちがすでに倒してしまった事には、気づいていない様子だ。
俺たちが有利な点と言えば、この一点に絞られるな・・・。




