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新たな地へ

11 新たな地へ

「よっ・・・と。」

『ゴンッ・・・トンッ』サーフボード代わりに使っていた堤の板を何とかコントロールして船に近づき、看板へと飛び乗る。


 船はもうだいぶ形を成してきており、操舵室であろう船室の様子がガラス越しにうかがえる。

『ガチャガチャッ』「開かないなあ・・・。」

 ところがレイが船室へのドアノブを回してみるが、鍵がかかっているのか開きそうもないようだ。


「海水につけたらそのまま5日間ほど養生しろと張り紙がしてありますね。

 恐らく、水を吸って完全に復活するまでに、そのくらいの時間がかかるのでしょうね。」

 ドアの右側に貼り付けられている張り紙を見て、源五郎が読み上げる。


「ふうん・・・そうか・・・、じゃあ、その間は海岸で野宿という事だな。

 船は錨を降ろして海岸線に停泊させておけばいいだろう。

 まだ水を吸っている最中なのか、甲板もボコボコして少し柔らかいから、乗り込まない方がいいだろう。


 せっかく手に入れた船なので、あまり痛まないよう手順通りに養生するとしよう。

 どのみち乗組員がいないから動かせないしね・・・、何せ俺は車の免許は持っているが、船の免許は持っていないからな。」

 さすがに乗組員まで水を含んで復活とはならないのだろう・・・、船室をのぞき込んでも人影は見えない。


「そうですね・・・ここに鍵が落ちていました・・・、恐らく賢者のトンネルのカギでしょう。

 次なる土地にて乗組員を募るのかもしれませんから、行ってみませんか?」


 ツバサが銀色に輝くカギを甲板から拾い上げる。

 おおそうか・・・、5日間も何もすることなく待つよりはるかにましだ。


「じゃあ・・・中継車だな・・・、途中ですれ違ったのは覚えているが・・・、気づいてくれたかどうか。

 それでも俺たちのカメラ映像を見て、現在位置に気が付いて引き返してくれているとありがたいのだが・・・。」


『ガラガラガラガラガラ』とりあえず、膨らみかけてきた船首にある鎖が巻き付いているリールの留め具を外すと、錨を吊った鎖が音を立てて伸びていく。

『ザッパァーンッ』やがて錨が海中に没した。


「よっと・・・。」

『トンッ』先ほどまで乗っていた木の板に甲板から飛び移る。


「はやっ・・・」

『ドンッ』レイも後から飛び乗ってくる。

 軽業的な能力も、十分持っているようだ。


『ザッザッザッザッ』周りに飛び散っている木の枝や破片などの中からオールとして使えそうなものを選んで、漕ぎ進んでいく。

『ズザアァッ』そうして海岸線の砂地まで上がると、そのまま上陸だ。


「まあ、今日のところはここまでとして、海岸で野宿としよう。」

 交代で見張ることにして、遅い夕食を食べた後、短い仮眠についた。



「川の流れを遡上できればいいのだが、まだそれなりに流れがあるから、それに逆らって進むのは難しいだろう。

 仕方がない歩きだ。」


 さすがに水量にも限りがあるのだろう、昨日までとは格段に勢いは落ちてきてはいるが、それでもいまだに川状に水の流れは続いているため、川岸を伝って歩いていくことにする。


『プップゥー』1時間ほど川岸を歩いていると、中継車がやってきた。

 やはり途中で俺たちに気が付いて、川沿いを夜通し下ってきたのだろう。


『カチャッ』「助かったよ・・・、砂漠を徒歩で進んでいくのはさすがにつらい・・・。」

『ブロロロロッ』中継車に乗り込むと、事情を説明して賢者のトンネルへ向かってもらうことにする。


「それにしてもちょっとショックでしたね・・、結局僕らはあの半魚人たちに騙されていたという事ですよね?」

 賢者のトンネルへ向かっている途中でエアコンの効いた車内で涼んでいると、突然源五郎が立ち上がって俺たちを見回す。

 どうやら一晩中、あの半魚人たちにやらされたことを考え続けていた様子だ。


「ああ・・・どうやらそのようなことを言っていたな・・・、あいつらが運んでいた、あの宿舎の屋根のようなものが実は干物と化した帆船で、それを海まで運び出すのが俺たちのクエストだったと。

 恐らくあいつらの元いた村まで戻らずに、出会ったままで奴らに同行して海まで向かえば、魔物たちが反応して俺たちを襲いにやってきたはずだ・・・。


 本来なら俺たちが魔物たちの隙をついて盗み出すはずの船の干物を、すでに半魚人たちが盗んでしまっていたわけだからな。

 その魔物たちを倒して、更に海まで運んでしまえば俺たちのクエストは終了していたというわけだ。


 考えてみれば十四朗とかいう奴は、最初から俺たちに足りなくなった食料と水を汲んで海まで一緒に行ってくれればいいようなことを言っていたわけだからな・・・、それを俺が妙に勘ぐって何度も聞きなおしてようやく堤のことを聞き出したわけだ。


 しかも堤を壊せればいいなあ・・・なんて言ったことを真に受けて、それをクエストと勘違いしてしまったわけだ・・本当に申し訳ない、俺の判断ミスだ・・・。」

 ここは素直に謝罪して反省しよう。


「いえ・・・サグルさんがあの人たちのことを疑ったのも、あたしが余計なことを言ったのが悪いんです。

 彼らは以前の冒険の時から、あたしたちの邪魔ばかりしていたものですから・・・、サグルさんが命の危険にさらされたこともありました・・・それなので・・・。」

 すると今度はツバサが大きくうなだれる。


「まあまあ・・・いいじゃないですか・・・、何にしてもクエスト自体は完了したわけですからね。

 誰でも疑ってかかれと復活の木も言っていたわけですし、明らかに彼らの様子もおかしかったわけですから、何度も確認して本当のクエストは何だろうと詮索するのは仕方がないことですよ。


 気になるのは十四朗という半魚人が持って行った宝箱ですよね・・・、まあでも賢者のトンネルのカギもさらには船も手に入ったことですし、アイテムひとつくらいなら何とかなるんじゃないですかね。」

 源五郎が、反省しきりの俺たちを慰めてくれる。


「まあそうだな・・・壊さなくてもいい堤を壊してしまったのは大変申し訳ないことだが、それ以外は問題はないだろう。

 最強魔物だって何とか倒したわけだ、良しとするか・・・。」


 まあ、いいふうに考えよう・・・、あのまま船の干物を運んで砂漠を突っ切るのでは、徒歩では何日もかかったことだろう・・・中継車で運べる大きさではないし、牽引するにしても村人も多くいたわけだからな・・・。

 堤を壊すことにより膨大な水流が生じて、その水の勢いにより短時間で片が付いたわけだ。


「今日は、ここで野宿となります。」

 トライバーが野営を告げる。


 考えてみれば、彼らは丸2日間ぶっ通しで中継車を走らせていたことになるわけだからな・・・、いくら交代で運転して仮眠もとっていたとはいえ、いい加減休みたいだろう。

 俺たちも昨晩は遅い時間に海まで達したから、あまり寝ていないのだが、言い出しにくいので任せておいた。


 本日の放送分は、昨日の堤での戦闘シーンは検閲していないから放送できなかったと言っていたので、枯葉魔物をレイの魔法で氷漬けにした時点までにして、倒した部分は別枠保存して放送分から除外しておいた。

 堤まで行く道すがらと、枯葉魔物との戦闘シーンだけでも十分放送時間は埋まるはずだ。


 そうして放送を見ながら弁当を平らげると、交代で見張ることにして就寝だ・・・、このところレイはずっとツバサと組みたがり、ツバサも喜んでいるようなので、申し訳ないが任せることにする。



「賢者のトンネルに到着しました。」

 翌日早朝から出発し、夕方近くになって目的地へ着いた様子だ。


『キッ・・・ガッシャン』『ガチャッ』源五郎とレイが下りてコンクリート製の建物のドアを開け、中継車を導き入れる。

『ガチャッ』『ブロロロロッ』再び乗り込み、中の長い長い通路をひたすらまっすぐ走っていき、突き当たったところで再度源五郎とレイが下りて扉を開ける。


『ガチャガチャ・・・ガチャガチャ・・・ガチャガチャ・・・』鍵のかかったドアがいくつも並ぶ通路で、レイが手に入れた鍵をもって、開錠を試していく。


「うーん・・・だめだぁ・・・、こっちは開かないよう。」

 4番目の扉から出たので、今度は3番目の扉から順に試していったようだが、一番端まで試して開く扉はなかったようだ。


『ダダダダダッ・・・ガチャッ』「あいたー・・・!」

 走って戻ってきたレイが、すぐ隣の扉で大声を出す。

 5番目の扉が開いた様子だ。


「よしっ・・・じゃあ出発だ・・・。」

『ブロロロロッ』レイと源五郎を乗せ、長い通路を中継車は走っていく。

 やがて中継車は緑豊かな草原へ出た。


「へえ・・・砂漠の次は草原か・・・、少しほっとするね。」

 草木の香りもどこか懐かしい感じがする、牧歌的な雰囲気のする場所だ。


「この前は4番目の扉で出た先は東部大陸中央部でした。

 それは以前の冒険の時と変わっていません・・・、もし賢者のトンネルの扉と行きつく先に変化がないものだとすると、ここは東部大陸北部という事になります。


 ですが・・・東部大陸中央にはドラゴンシティや竜王城などあったはずでしたが、今回は半魚人たちの村があっただけでした。

 そのため村や町などの位置は恐らく変わっているものと・・・、お役に立てなくて申し訳ありません。」

 中継車の中からあたりの様子をうかがっていたツバサが、深刻な顔をして告げる。


「いやいや・・・そんなことはツバサのせいじゃない・・・、本来の冒険というのは、向かった先のことが何もわかっていないのが当然なんだ。

 探り探り進んでいけばいいのさ。


 とはいうものの・・・、まずはどちらの方向へ進んでみるかだが・・・。」

 行き当たりばったりというのもいいのだが、もう日が暮れかかっているので、どこか適当な場所で野営の準備が必要だ。


「じゃあ、またあたしが屋根に上ってみます。」

『ガチャッ』『シュタッ』


「はい、どうぞ。」

 いうが早いかツバサは中継車のドアを開けてそのまま屋根の上に乗り移り、さらにテレビスタッフが運んできた脚立を受け取り荷台の上に設置する。


「こっちの方角に、何か土が盛り上がったようなうねうねとした形の地形が見えます。

 人工的なものかもしれません・・・。」

 ツバサが脚立の上から一方向を指さす。


「どうやら東の方角ですね・・・。」

 源五郎が中継車の中の方位磁石と照らし合わせて、方角を読み取る。


「そうか・・・じゃあまずは東へ行ってみよう。」

『シュタンッ・・・ガチャ・・バタンッ』『ブロロロロッ』中継車が東に向けて出発する。


「ここで道が途切れています。」

『キィッ・・・ガシャンッ』しばらくすると、まっすぐ東へ進んでいた中継車が、急に停まる。


『ガチャッ・・・トントントン』「ありゃりゃ・・・、なんだこれは・・・。」

 中継車を降りてみると、目の前は草原をある一定の幅でえぐりとったような溝が、蛇行しながら延々と続いていた。

 言ってみれば、巨大な蛇がのたくって溝を作っていったような感じだ。


「これは・・・、元は川だったのかもしれませんね。」

 一緒に降りてきた源五郎が溝の中へ降りて行って、底の土をつまみあげながら解析する。


「干上がった川か・・・上流へ行ってみよう・・・、何かあるかもしれない。」

「そうですね・・・。」

『バタンッ』『ブロロロロッ』中継車に乗り込み、南方向の川の上流へと進んでもらう。


『キィッ・・・・ガシャンッ』「今日はこの辺で・・・。」

 しばらく進むと、中継車が停まりドライバーが後ろを見て断ってきた。

 そういえばもうだいぶ遅い時間だ・・・。


「じゃあ、今日はここで野宿としよう。」

『ガチャッ・・・トントントンッ』源五郎たちを先に降ろして、俺は本日分の映像チェックだ。

 本日分の放送は、一昨日の堤を破って海まで達したサーフィンまがいの場面が主になる。


 十四朗が話した、堤を破るのはクエストではなかったというくだりは悔しいから削除してやろうとも考えたが、あれは完全に俺のミスだし、素直に認めてそのまま放送するか・・・。


 昨晩は枯葉魔物を凍らせたシーンで終わっているから、本日シーンが堤から始まれば凍らせてそのすきに堤を破ったように感じるだろう・・・そうして凍った枯葉魔物も激流に流されていずこかへ行ったと思わせるわけだ。


 わざとであろうが十四朗たちの思わせぶりな口ぶりと、更に言葉が足りていないクエスト説明が災いしての失敗なのだ。

 こちらの情報も一部削除して分かりにくくしておいてやったとしても、おあいこで済むだろう。


 無敵の最強魔物が俺たちを探していると思っている限りは、あいつらはどこか知らないが隠れて暮らすことになるわけだ・・・、それが適当だろう。

 ちょっと意地悪だが、下手に外に出てきてまた何か邪魔でもされたらかなわない、今回の俺たちの冒険が済むまでは、姿を現さないでいてほしいものだ。


『ガチャッ』「じゃあ、また今日も、レイはツバサと組むのがいいのか?」

「はーい・・・あたしはツバサお姉さんと・・・。」

 レイはすぐさまツバサに近づいて行って腕を組む。


 こうやって俺と一緒の夜間警備はイヤだの・・・、風呂も一緒はいやだのとなっていくのだろうな・・・、ううむ悲しい・・・。


「じゃあ、まずは俺と源五郎が休むとするか・・・。」

 枯れたとはいえ、多少は湿り気のある川っぷちの草原に寝袋を広げて、寝る準備を始める。

 雨も降る心配はないのでテントなどいらないと思うが、ツバサたちのために用意しておく。


「ツバサさんたちは、寝る前に周囲をランニングしたりしてトレーニングしているようですよ。」

 すると源五郎が耳打ちしてくる。


「ええっ・・・だって、クエスト以外の戦闘や特訓は、経験値としての評価を減額するってギルドの受付嬢が言っていたじゃないか・・・、それじゃあ骨折り損だぞ。」


 俺たちが実体化していた時には陰で行う特訓などが大きな効果を生んだと定男とかいう奴が言っていたが、あくまでもゲームキャラである俺たちは、事務局に認められた戦闘や特訓でなければ成長は望めないという認識だ。


「まあそれはそうなんですけどね・・・、やっぱり日々の訓練は欠かせないと、ツバサさんは毎日修行を欠かさないようです。

 それをレイちゃんも気に入ったみたいで、一緒にトレーニングしているみたいですよ・・、僕らも負けずに今日からでも始めませんか?」


 源五郎が笑顔で誘ってくれる・・・まあ経験値がすべてというわけでもないわけだから・・・、どうせ最大経験値をもってやってきているわけだしな・・・。


「分かった・・・じゃあまずはランニングからだな・・・、十分に体をほぐして・・・。」

 効果が得られないとしてもかまわないから、始めてみますか・・・。



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