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海へ

10 海へ

「どうだった?」


「ああ・・・、ばっちりだぁ・・・。


 あいつらのうちの2人は見覚えがあっただが、そのうちの一人はおらたちのこと覚えていたようだ。

 おらたちに以前騙されかけただから、おらのいう事は何でも疑ってかかってきただぁ・・・、だから、なるべく本当のことさ言っただ。


 まあ、深い事情は話さなかっただがな・・・あいつらはおらたちをガードさして、海岸線までこの屋根を運び込めばよかっただが、そんなことちぃっともやろうとはしなかっただ。

 何か裏があるかもしんねえ、何か隠しているかもしんねえと・・ずうっと疑ってかかっていただ。


 案の定、ナナセさナンパしようとして話しかけてきたところさ脅しをかけてみたら、ナンパじゃなくてクエストの話さ聞きたかったってえ言い訳し始めただぁ・・・。


 そうすっともう引っ込みがつかねえもんだから、あの最強魔物たちが守る堤さ破りに行かざるを得なくなっちまったんだなあ・・・かわいそうになぁ・・・。」

 砂漠の中の長屋然とした半魚人たちの村の中で、十四朗が別の半魚人に対して自慢げに話しをしているようだ。


「そうそう・・・おらの美貌にいちころだってえ認めれば命だけは助かったかもしんねえのになあ・・・、あえていばらの道さ選んじまったかんなあ・・・、あいつら今頃は・・最強魔物たちのえさになっちまっているんだろうなあ・・・。」

 ナナセが遠くを見つめるかのように見上げながら、つぶやく。


「まあこんで、中央の奴らにもおらたちの大切さが伝わったはずだあ・・・なんせ、冒険者たちのサポートさしねえって決めつけられちまって、今回は特に閑職へ追いやられちまったんだからなあ・・・。


 砂漠の外れの村で細々と生き延びて、冒険者たちが運ぶ船の形さした屋根の在処を告げるだけだなんて・・・おらたちには役不足だあ・・・と嘆いていたら、今回は冒険者たちの足止めしろだなんて・・・まるでおらたちのために出されたような指令だっただもんなあ。


 最強魔物たちにあいつらがやられてしまえばよし・・・・、仮にうまく立ち回って水源の堤を壊すことができれば尚よしといったところだなあ・・・、そうなれば流れに乗って海まで一直線だかんなあ・・・。」

 十四朗が満足げに笑みを浮かべる。


「そうだなあ・・・うまく堤を壊せたとしても、奴らは助からねえだあ・・・かえって最強魔物たちの怒りを買って、ズタボロにされちまう運命だぁ・・・。


 んだども・・・足止めしろっちゅう指令だっただに・・・、あいつら死んじまってもいいんだべか?

 ちょっとその辺が、気になるところだがなあ・・・。」

 ナナセも自分たちの作戦がうまくいったことに満足している様子だが、気になる点もあるようだ。


「構うもんかあ・・・、おらたちが直接手を下したわけじゃあねえんだかんなあ・・・。


 最強魔物に突っかかっていったあいつらが悪いんだぁ・・・、おらは何度も言っただよ・・・最強魔物がいるから近づいちゃあなんねえって・・・、それをあいつらが勝手に勘違いして、堤を壊すのがクエストだろうってえ決めつけて行っちまったんだかんなあ・・・。」

 十四朗はなおも口元に笑みを浮かべる。


「あっ・・・それはオラも言っただよ・・・、最強魔物がいるって・・・。」

 ナナセも十四朗に同調して微笑む。


「そうだろう?だから・・・おらたちには落ち度はないってぇわけだなあ・・・。

 あいつらがどうなろうとも・・・、おらたちには関係がねえことさ。」


「そうだなぁ・・・。」

 十四朗のナナセも満足そうに何度も大きくうなずく。


「それはそうと・・・、堤は破れそうなのか?

 何だったら荷物は全部屋根の上にあげておいた方が・・・。」


「そうだなあ・・・まあ無理とは思うだが・・・、転ばぬ先の杖だぁ・・・運んできた米や野菜など全て屋根の上さあげておくだぁ・・・、どうせ移動の時も屋根の上さあげたままで運ぶんだから、同じことだぁ・・・。」


「そうかぁ・・・、じゃあ、村総出で荷物をあげるとするか・・・。」


「ああ・・だけんども・・・ちゃあんと覚えておいてくれよ・・・、今回の立役者はこの十四朗様だけんな。

 ナナセとのこともちゃんと認めて、次の村長はおらだかんな、約束だかんな!」


「とっつぁん・・・おらからも頼むだぁ・・・、次の村長は十四朗で決まりだぁ・・・。」


「ああ、ああ・・・分かってるだ・・・、ナナセの婿は十四朗で決まりだぁ・・・。」

 どうやらもう一人の半魚人はナナセの父親のようだ・・・、彼は急いで他の村人たちに指示して荷物を屋根の上にあげるよう指示して回り始めた。



『ザッパァーンッ・・ザザッ・・・』「きゃーっ・・・きゃっきゃっ・・・」

 急流下りなんだかサーフィンなんだかよくわからないが、レイを抱きかかえたまま板に乗って急流をひたすら下っていく。


 レイが怖がって悲鳴を上げているのかと思って見たら、満面の笑顔で激流下りのスリルを楽しんでいるようだ。

 砂漠地帯を鉄砲水のように流れだした急流は、その勢いを徐々に弱めてはいるようだが、それでも大量の水が後押しして、なおも流れは先へ先へと続いていく。


 このまま海まで到達してくれれば一番いいのだろうが・・・。

 うんっ・・・?なんか見慣れたものとすれ違ったような・・・そうだ中継車だ・・・、恐らく俺たちがいるはずの、半魚人たちの村まで行こうとしていた途中だったのだろう・・・、中継車が北へと走り去っていった・・・。


 流れに乗って下っている俺たちに気が付いただろうか・・・、ちょっと心配だ。

 なにせこっちは止まるに止まれないのだ・・、ただひたすら流れに身を任せるのみ・・・。


 そうこうしているうちに、半魚人たちの仮長屋があった場所も通り過ぎたようだ・・・しかし辺りには何も残されてはいなかった・・、すでにこの強烈な流れに流されてしまったのだろうか・・・、彼らの元いた村といい、長屋のような天板だけの建物といい、どうして堤を破った時の水流の直撃を食らいそうな場所に位置していたのか・・・、たまたま偶然としても相当な確率だ・・・、運がいいというのか悪いというのか・・・。


『ズザザザザッ・・・ザッパァーンッ』そうしてさらに数時間・・・、流れはついに海にまで達した。


「ふうっ・・・ようやく流れは止まったな・・・、というか海まで出てしまったな・・・。

 レイ・・・大丈夫か?」

 ずっと小脇に抱えっぱなしだったレイを、ようやく木の板の上に降ろす。


「う・・・うん・・・、何とか・・・楽しかったけど、ちょっと目が回った・・・。」

 レイはおぼつかない足取りで、それでも何とか自分だけで板の上でバランスを保って立てるようだ。


「リーダー・・・、あっ・・・あれ・・・。」

 源五郎が指し示す先を見ると、そこには大きく分厚い板のようなものが、ぷかぷかと海面を漂っていた。


 何か見覚えがあるような・・・、と思っていたらその板の上には十四朗はじめ半魚人たちが乗っているようだ。

 ああそうか・・・、あの長屋風の建物の屋根の部分だったか・・・、恐らく屋根を支えていた柱部分が海中側に沈んでいるのだろうな・・・。


 やはりあいつらが滞在していたところを激流が襲い掛かり、海まで流されてしまったという事のようだ。

 だが、ある意味ラッキーではないだろうか・・・、屋根部分含め多くの荷物をかかえて、灼熱の砂漠を延々と徒歩で進むのは、かなり過酷な行程だったろう。

 それが半ば強制的とはいえ、海まで達することができたのだから、良しとするしかない。


「おお・・・君たちも来ていたか・・・、無事でよかった。

 堤を壊したら鉄砲水のようになって、激流は君たちが元いた村を破壊し、更に君たちが宿泊していた仮宿をも襲ったようで、心配していたんだ。


 もう元いた村には戻れそうもないが、海まで行きついたからまあ満足かい?」

 十四朗がこちらの姿に気づき顔をあげたようなので声をかける。


「お・・・オメ・・・・・・、生きていただか・・・?

 水源の堤を破るくらいことはするだろうとは思っていただけんども・・・、まさか生きているとは・・・。

 最強魔物から、逃げて来ただか?


 聞くところによると、あいつらは水源を守っているときには無敵状態のはずだぁ・・。

 ふつうは、あいつらに見つからないようにこっそりと船さ盗み出して・・・、といっても船はおらたちがすでに頂いていただが・・・、だから、あいつらは眠ることもせずに、四六時中水源を見張っていたはずなんだぁ・・・。


 そこにおめたちが向かえば、必ず最強魔物たちの餌食になると考えていたんだけんども・・・、逃げ出してくるなんてすげぇなあ・・・。


 眠っている最中に船さ盗み出して砂漠さ逃げてしまえば、普通の強さの魔物に戻っちまうって聞いてはいたんだけんど・・・、まあそれでも今までいたどの魔物たちよりも、ぜってぇつええって聞いていただけんどな・・・。

 水源にいるときに戦いを挑んで水源さ壊しちまうと、ずっと最強魔物のままのはずだぁ・・・。


 おめたちを追っかけてくるはずだぞ・・・、そうしておめたちを食っちまった後でも怒りは収まらねえだろうなあ・・・、何せ水源の堤さ壊しちまったんだかんなあ・・・。

 逃げずに堤のところで餌食になってさえいれば、他には出ていかねえはずだったというのに・・・、一旦外さ出ちまうと、外の町や村さ襲い始めるだぞ・・・、なにせ最強魔物だでなあ。


 こりゃあ・・・この世界は破滅だなぁ・・・、おめたちのせいだぞ、堤を壊したりするから・・・。」

 すると十四朗が、わけのわからないことを言い始めた。


「なんだって?最強魔物は無敵状態だったって?

 しかも言い方から察すると堤を壊してしまうのは、まずかったように聞こえるが・・・、やはり君たちがいた元の村が水流で破壊されたことを悔やんでいるのかな?」


 村が壊れたのは、別に俺たちのせいでもなんでもなく不可抗力だったと俺は考えている。

 あれがクエストであれば、クエストの構築上の問題があったのだろうし・・それでも海に出るというもう一つの望みはかなえられているのだから、成功と言えるのではないかと俺自身は思っている。


「おらたちの元いた村のことさ言っているわけじゃあねえだ・・・、あの・・・最強魔物のことさ言っているだ。

 おめたちが逃げたりせずに、堤のところで犠牲になってくれさえすれば・・・、ついでに堤を壊してくれれば水流に乗っておらたちが楽して海さ出られることが分かっていただから・・・、なおよかったと考えていたんだぁ。


 それを・・・おめたちが逃げてきちまうもんだから・・・、この世界は最大の危機に陥ってしまっただ。

 おらたちはなぁんにも知んねえだ・・・、おめたちが悪いんだぁ・・・。」


 元いた村が破壊されたことを恨みに思っているわけではないようだが、それでも十四朗は厳しい目で俺たちのことをにらみつけたままだ。


「だけど・・・、あなたたちが堤を壊すクエストのことを隠していたのですよね?

 それをリーダーがうまく聞き出して、ようやくクエストを実行できたというわけだ。


 そのためにあなたたちが元いた村が破壊されてしまったり、仮宿を構えていた場所も流されてしまっても、仕方がないのじゃないですか?」

 今度は源五郎が問いかける。


「だ・か・ら・・・、おめたちが行うはずだったクエストっていうのは・・・、堤の窪地に保管されていた船の干物を海まで運ぶことだったんだぁ・・・。


 最強魔物たちが寝ている隙に闇に紛れて盗み出してしまえば、後は砂漠地帯を追ってくるはずで、水の少ない砂漠地帯では最強魔物も無敵状態ではないから、おめたち冒険者でも何とか倒すことができたかもしんねえが、無敵状態のままでは到底かなわんはずだぁ・・・。


 おらもおめたちの冒険放送を見ただが・・・、おめたちはハイレベルっちゅう奴で乗り込んできた見てえだが・・・、無敵には敵わねえだ・・・何せ無敵だかんなぁ・・・。」

 十四朗は小さく首を振る。


「その・・俺たちが運ぶはずだった船というのはどこにあるんだい?

 まさか、あの堤のところに置き去りのままなんじゃあ・・・。」

 堤があった窪地には船など目立ったものはなかったはずだが、土中に埋まっていたとかしていたのだろうか?


「本当に呑み込みの悪いやつだなあ・・・、おめたちが運ぶはずだった船は、おらたちがすでに運んでいたって言ったべ?

 これがその船だぁ・・・海水につけて水分を含むとだんだんと膨らんできて・・、おお、ちょうどよくなってきて・・・、皆気を付けるだぁ・・・そろそろひっくり返るだぞう・・・。」


 先ほどまで分厚い板のようになって浮かんでいた宿舎の屋根が、中央部がさらに膨らんできてアーチ状に変わってきたようだ・・・。


『ギッギッ・・・・ズザザザザザッ・・・』そうして、十四朗たちが海に飛び込むとほぼ同時に、アーチ状の物体は向きを変えてひっくり返った・・・。

『ザッパァーンッ』それは船の甲板を思わせる形をしていた。


 柱のように思えていたのは帆船のマストのようで、水を吸いさらに長く高く徐々に伸びて行っている。

 扁平な一枚板のように見えていたものが海水を吸ったためか膨らんで盛り上がり、船室を形作っていく。


 おお・・・信じられないことだが、どうやら帆船が干物状態で砂漠に保管されていたという事のようだ。

 それを海に戻すのが俺たちのクエストだったのだ・・・、だが今回はクエスト成功と言えるのか・・・。

『ザザッ』『ズザザッ』『ザザッ』十四朗たちが、本来の形に戻ったと言える船の甲板に次々と上がっていく。


「おめたちが犠牲になってくれれば、この船はおらたちのもんだと思っていたんだが仕方がねえ・・・最強魔物に追い掛け回されたくはねえかんな。

 おらたちは、おらたちの一番ふさわしい場所に戻るとするだぁ・・・、まあ、目的のものは手に入っただしな。」


『ザッパァーンッ』十四朗は甲板の上に海水を吸って膨らんだ宝箱が出現すると、それを掴んでそのまま海に飛び込んだ。

『ザパンッ』『ザッパンッ』次いでナナセたちも海の中へと飛び込んでいった。


 ありゃりゃ・・・なにを怖がっているのか・・・最強魔物とやらは、俺たちが倒してしまったから安心しろと言おうとしていたのに・・・、まあいいか放送を見ていると言っていたから、今日の放送を見ればわかるだろう。

 無敵状態と言っていたが流石にそれはないだろう・・・、無敵だったら俺たちにだって倒せるはずもない。

 それなりに強かったし、源五郎は命を失いかけたけどね・・・。



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