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8 堤

「よっはっとっ・・・。」

 細い鎖ではあるが、ところどころ岩も突き出ていたので足をかけながら崖を登っていくと、それほど苦労もなく上まで登れた。

 崖の上は木々が生い茂っていて、当然のことながら道などはなさそうだ。


「じゃあ、行きますか・・・。」

 念のために崖の上り口に中継箱を置いておく・・・結構高い木が生い茂っているようだが、どれくらいまで電波が届くのかわからないから念には念を入れよだ。


「いやあ・・・、ローブの裾が引っかかるー・・・。」

 レイが歩きにくそうに、ローブを膝上までまくり上げようとする。

 下草は腰のあたりまで生えているし、剣の鞘を使ってかき分けて歩いていくのだが、確かに結構歩きにくい。


「こうなりゃ魔法で・・・。ち・・・」


「レイ、だめだ・・・炎の魔法で下草を燃やそうという事だろうが、炎が燃え広がったりして山火事になったら大変だ。

 ここは我慢して、草をかき分けて進んでいくしかない。」


 初級魔法を唱えようとするレイをたしなめる。

 確かに便利だろうがリスクも高いのだ・・・、俺たちの都合で山を丸焼きにすることもできまい。


「ちぇー・・・仕方がない・・・。」

 レイは冒険者の袋から炎の杖を取り出すが、炎を出さずに草をかき分けるのみで進んでいく。


「ちょっと待っていてください・・・。」

 すぐにツバサが崖の方へと戻っていく・・・。

 そうして数分でまた崖を登ってきた。


「はい・・・鎌を借りてきました・・・、これで下草を刈りながら進んでいけば、帰りは楽ですよ。」

 ツバサに手渡された鎌を使って、下草を刈りながら進んでいく。

 ゆっくりではあるのだが、4人で交互に刈り取っていけば、まあそれなりに進んでいける。


「なにか・・・道とまではいきませんけど・・・、何人かで歩いたように草が少し倒れていますね。

 本当は、ここは人通りがあった道ではないのですかね。」


 腰をかがめながら草を刈っている源五郎が、はるか先を見通しながらつぶやく。

 立った状態ではわかりにくかったが、身をかがめてみると、確かにはるか先へと続く一本の線が見えてくる。

 部分部分ではあるが草が踏みしめられて、道ができていたような感じがする。


「うーん・・・イノシシか何か野生動物が通る獣道じゃないのかな・・・、あの村のものはいかないって言っていたし・・・、何より水脈は通っていて村まで水は供給されていたわけだから、ここを通る必要性もないはずだからね。


 まさか最強の魔物に見つからないように堤を破ろうとしていたのだったら別だけど・・、彼らだったら多くの犠牲者が出たんじゃないかな・・・。」


 なんだか、だまされたような気がしてきた・・・、荷物の積みすぎで中継車に乗れる人数が限られることを見越したうえで、水源の堤だの最強魔物だのという話をでっちあげて、俺たちを崖の上へと導いて自分たちだけは中継車で村へ水と食料を届けるつもりだったのではないだろうな・・・。


 本当は危険なことは全くない、村人たちの日常の散策ルートだったりしてな・・・。

 別にそんなことをしなくても、もし乗れないのだったらもちろん俺たちが乗らずに、走ってついていくつもりだったのに、ちょっぴり残念だ・・・。


 後悔しながらも、それでも確かめずにはいられないので、そのまま草刈りを続けながらひたすら進んでいく。

 そうして昼過ぎごろに、少し開けた場所に出た。

 空を覆い隠していた高い木が、この先だけないようで妙に明るく感じられる。


 それもそのはず・・・どれくらいの大きさがあるだろうか・・・、先は見えないが貯水池が見えてきた。

 左手の方向が緩やかな下り斜面になっていて、その先に太い角材で補強された木の板で堤が作られているようだ。

 ちょうど大きな岩と岩の間に木の板がはめ込まれていて、いうなれば半分天然で半分人工のダムのようなものだ。


「へえ・・・本当に貯水池の堤がありましたね・・・、僕はあいつらに騙されてしまったのかと、ちょっと不安になっていましたよ。」

 源五郎が坂を下りながら、高さ5mで幅は7から8mほどはあるであろう大きな木製の堤に近づいていく。


 そうそう・・、俺も同じことを考えていた。

『フシュッ、ドッゴォーンッ・・・バギバギバギバギッ』すると次の瞬間、源五郎の体は吹き飛ばされ、側方の林の中に突っ込んでいった。


「だっダーリンっ・・・、大丈夫?」

 すぐにレイがその方向へ駆け寄っていく。

 何だ・・・なにが起きた?


「魔物です・・・とうっ。」

 すぐにツバサが光の爪をつけて、堤前へと跳躍する。


「やぁっ・・・とうっ・・・だりゃあっ・・・・。」

『ブンッ・・・スカッ・・・スカッ・・・』ツバサが一人堤の前で、光の爪や蹴りを繰り出すのだが、相手もいずに・・・、ただ型だけの演武を見ているような感じがする。


 ううむ・・・、一体どういうことだ?と思っていたら・・・

『フシュッ、ボッゴォーンッ・・・・バギバギバギバギバギッ』次の瞬間、今度はツバサの体が側方の林の中へと吹き飛んで行った。


 どうやら相手がいないのではなく、ツバサの攻撃はすべてからぶっていて、敵からの攻撃を思いきり食らったのだろう。

『シャキィーンッ・・・ダダダダッ』すぐに鋼鉄の剣を抜いて、斜面を下っていく。


 しかしついた先に魔物の姿はない・・・、お化け系の姿を消していて姿を見せた瞬間に攻撃を仕掛けてくるタイプだろうか・・・、息を整えて周囲に神経を張り巡らせる。


『フシュッ・・・ドゴッ』『バンッ』すると次の瞬間・・・、地面に落ちていた落ち葉が突然人型に盛り上がり、その瞬間攻撃を仕掛けてきた。

 何とか盾で受けたが、凄い衝撃だ。


「だりゃあっ・・・どりゃあっ・・・」

『ビュッ・・・ビュッ・・・』すぐに人型の落ち葉の塊めがけて鋼鉄の剣を振り下ろすが、何の手ごたえも感じられない・・・、完全な空振りだ。


 俺が剣を振り回した部分では、盛り上がっていた落ち葉がスローモーションのように舞い落ちて行っている。

『フシュッ』『グザッ』すると今度は俺の右側で突然落ち葉が盛り上がり、たまたま驚いて手首を返したところ、鋼鉄の剣に手ごたえが・・・。


「ぶもー・・・っ」

『ドゴッ・・・バゴッ・・・ボゴッ』『ボンッ・・・バンッ・・・ダンッ』攻撃が当たったのか、落ち葉の塊は悲鳴のような叫び声をあげながら、しゃにむに攻撃を仕掛けてくるが、何とか盾で防ぐ。

 相手の姿が視認できてさえいれば、防ぐのは訳がない・・・。


「源五郎、ツバサ・・・無事か?それと、レイ・・・聞いているか?

 どうやらこの魔物は落ち葉を操っているのか・・・あるいは落ち葉の形をした小さな魔物たちの集合体なのかわからないが、こっちが攻撃を仕掛けてもバラバラに分解して攻撃のダメージを受けないようだ。


 しかし、向こうから攻撃を仕掛けてこようとする瞬間だけ実体化するのか、その時だけは攻撃が当たるようだ。

 攻撃を仕掛けてくる瞬間に、フシュッという音がするから、その瞬間に攻撃するしかないだろう。

 分かったかな?」


 魔物は複数匹いるらしく、どうやら魔物たちに囲まれてしまったようだ・・・攻略方法はわかったのだが、俺一人だけでは多方向からの攻撃では受けきれず、恐らくやられてしまうだろう。


『フシュッ・・・』『シュッシュッシュッシュッシュッ』『ズボズボズボズボズボッ』「ぶもー・・・」

 俺の左後方で魔物が出現する音がして万事休すと思ったが、次の瞬間そいつが何本もの矢でハリネズミ状態になり、悲鳴をあげながら暴れ始める・・・源五郎だ・・・無事だったか・・・。


『フシュッ・・』「とうっ・・・だりゃあっ」『ドゴッ・・・バッゴォーンッ』

 さらに右後方では、今度はツバサが光の爪を振るい始めた様子だ・・・、2人とも無事だったようだ・・・何にしてもよかった。


『フシュッ』『シュッパァーンッ・・・シュパンッ・・シュパッ』左前方で、落ち葉が一塊となりかけた瞬間に斬りつける・・、不意を衝くことができたのか会心の一撃・・・かなりのダメージを負わすことができただろう・・・、そのまま反撃の機会を与えないよう、ひたすらその空間めがけて剣を振り下ろす。


『フシュッ』すると俺のすぐ右側でもう一つ落ち葉が盛り上がる・・・まずい、同時に2ケ所は攻撃できない・・・。


煉獄(バーナウト)!!!」

『ブゥォー・・・』強大な炎の群れが一気に落ち葉が形作る人型に襲い掛かる・・・レイの魔法攻撃だ。


 どうやら、上級魔道の炎攻撃だろう・・・まばゆいばかりの高温を感じさせる真っ白い炎が、渦を巻きながら枯葉の魔物に襲い掛かっていく。


「ぶもーっ・・・ぶもっ・・・」

 枯葉だけによく燃えるようだ・・・炎は一瞬で燃え広がり、盛り上がった人型だけではなく、地面に残った落ち葉にまでも燃え広がっていく。


「ぶもーっ・・・ぶもっぶもっぶもっ」

「ぶもぶもぶもー・・・ぶもっ」

「ぶーもー・・・ぶもっぶもっぶもっ・・・」

「ぶもぶもぶもぶもぶもっぶもー・・・」


 すると、落ち葉の塊たちはそれぞれが意思を通わせているかのように叫びあっていると、炎が自然と収まり鎮火していく。

 そうして、落ち葉たちは寄り集まって巨大化していった。

『ズズズズズズズズッ』やがて、身の丈5,6mはありそうな一体の巨大な人型に変わっていく。


煉獄(バーナウト)!!!」

『ピンッ』すぐにレイが魔法を唱えるが、一瞬ではじかれてしまう。

 どうやら奴らはまとまると、攻撃をはじくこともできるようになる様子だ。


「レイ、待て・・・・・奴らが攻撃を仕掛ける瞬間を狙うんだ・・・。

 その時を見極めろ。」

 レイを制して、目の前の落ち葉の塊に対して神経を集中させる・・・。


『フシュッ』『ダッ』『ダダダッ』『シュパァーンッ』『シュパァァーンッ』落ち葉の魔物たちが形を成し、攻撃を仕掛けようとした瞬間、すぐさま反応したつもりだったが、俺の攻撃が届いたのは後方にいたツバサとほぼ同時だった。


「ぶもっぶもっ・・・」

『フシュンッビュッビュッビュッ』不意を突かれ動転したのか、枯葉の魔物はただやみくもにその巨大な体についた長い腕を上下左右に振り回し始めた。


 当たれば間違いなく体ごと遠くまで吹き飛ばされそうなくらい、強烈な回転だ。


「レイッ・・・今だ、攻撃を仕掛けてくれ。」

 敵攻撃の時には味方には当たらないと分かっているのだが、やはりちょっぴり不安なので、少し下がってからレイに指示を出す。


煉獄(バーナウト)!!!」

『ごぉっ・・・』今度は白熱化した巨大な火の玉が、枯葉魔物に襲い掛かっていく。


 同じ呪文だが相手の状況により魔法効果が変わるのだろうか・・・、火球は枯葉魔物の腹にヒットし、一気に燃え上がる。

『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』さらに後方から何本もの矢が枯葉魔物魔目がけて飛んでいく。


「ぶもーっ・・・。」

『ビュッズンッ・・・ビュッズンッ・・・ビュッズンッ』枯葉魔物は、灼熱の炎に包まれながら、やみくもに腕を振り回して、攻撃対象を探すかのように動き回る。

 よしっ相手は俺たちが見えていない・・、倒すなら今だ。


「たありゃあっ・・・」

『シュッポォーンッ・・・シュパパパァーン・・・シュッポォーンッ』すかさず枯葉魔物に鋼鉄の剣で何度も何度も斬りつける。


 どうやら攻撃を仕掛けているときと、仕掛けられて苦しんでいるときにも攻撃は当たるようだ。

 面白いようにヒットする・・・手ごたえから感じると、どれも会心の一撃っぽい。

 しかも、いつにもまして一撃が速いというか、一振りするだけで2回から3回は攻撃を繰り出しているような感覚になってきた。


「とうっ・・・」

『シュパッ・・・・・・・シュパァーンッ・・・シュボッ』ツバサも攻撃に加わってきた。


『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』『ズボッズボッズボッズボッズボッズボッ』さらに源五郎の矢も加わってきて、枯葉魔物は合体した効果もなく、まさにサンドバッグ状態だ。


「ぶもー・・・ぶもー・・・」

『ブスッブスッブスッ』断末魔のような叫びをあげる枯葉魔物だが、だんだんと炎が鎮火してくすぶってきた。


「レイッ・・・、また炎系の魔法を頼む。」

 やはり炎のダメージが大きいのだろう、レイに再度魔法を指示する。


煉獄(バーナウト)!!!」

『ゴワッ』今度は少しサイズが小さくなった枯葉魔物を包み込むようなサイズの白熱化した炎の玉が作り出され、魔物の体を飲み込んでいく。


「ぶもーっ・・・ぶもーっ・・・」

『ドッゴォーンッ・・・ドッガァーンッ』すると炎の魔物と化した全身火だるまの枯葉魔物が、自分の体が燃え盛るのもお構いなしに、炎を上げる両手足で俺たちを攻撃し始めた。


 当たった跡を見ると下草が焼け焦げ、さらに地面が大きくへこんでいる。

 一撃一撃が非常に重い、まさに致命傷になりそうな攻撃と言える。


 レイの炎攻撃自体は味方である俺たちには当たらないとしても、燃え広がっている枯葉魔物の炎のダメージは、当然のことながら上乗せされてかかってくるはずだ。

 こうなると、炎攻撃もいいかどうかわからなくなってくる。


「レイッ・・・炎攻撃すると奴は苦しんでいるようには見えるが、燃え尽きてしまうことはない様子だ。

 かえって炎攻撃を返されてしまいそうだから、攻撃を変更しよう。


 雷撃・・・だと炭化していない限り電気を通しにくいから全体攻撃は難しいな・・・、とりあえず水をかけて鎮火してから凍らせてみるか?

 動きが鈍ったら一斉攻撃掛けてみる。」

 仕方ない作戦変更だ・・・。



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