真のクエスト?
7 真のクエスト?
「じゃあ、もう遅いから今日は村で泊まってくれ・・・、開いている家のどこで寝てくれても構わねえだ。
ただし、布団も何にもねえからそのままで我慢してもらうしかねえだがね。」
十四朗たちが収穫した麦を、脱穀した後袋詰めして中継車まで運び入れた。
「じゃあ、村の中なら魔物たちが入ってくることはないだろうから、今日はそのまま寝るとするか。
なんだかあんまりにも簡単すぎて、ちょっと拍子抜けだな。」
収穫した野菜と蔵にあった米を運ぶだけなら、クエストとは言えないような気がしてならない。
「まあでも・・・我々は中継車が使えますけど、普通の冒険者たちはせいぜい手押しのリアカー程度でしょ。
この辺りじゃ馬車も走っていないようですし・・・、そうなるとこれだけの荷物を運ぶというだけでも大変な重労働と言えますよ。
もしかすると運んでいる最中に魔物たちの襲撃に会うのかもしれませんから、これをクエストと信じましょう。」
源五郎が中継車に詰め込んだ野菜類を眺めながらコメントする。
まあ確かに・・・中継車なんて言うアイテム自体が、一般の冒険者たちには提供されないはずのものだ。
理由はわからないが、俺たちの冒険の様子をこの星中に放送しているという事のようだが、不思議なことに彼らも冒険者をサポートするゲームキャラだ。
ところが冒険放送を行っているのは今では1テレビ局(以前は2局で行っていたとツバサが言っていた)だけらしく、その恩恵を受けているのは以前の冒険から俺たちシメンズだけだったらしい。
今では俺たち以外の冒険者はいない様子だから、まあ構わないのだが、こんな様子を放送していて、よくほかの冒険者たちから苦情があげられなかったものだと、本当に不思議に感じる。
前回はゲーム環境が復活した後、ツバサとレイと合流して北部大陸に到着した後で、ツバサがテレビスタッフのところまで連れて行ってくれた・・・俺の記憶とは多少異なったが・・・。
冒険の様子を放送したいと言われ、代わりに中継車を自由に使っていいと申し込まれたのだった。
それもたったの数日ほどで終わってしまい、そこまで考える余裕もなかったので、違和感は生じなかった。
確かに、重い荷物を抱えて砂漠地帯を延々と進むだけでもかなりの労力であり、クエストと言えないこともないか・・・、だがやはり気にはなる・・・。
「ちょっともう一度確認してくる。」
集落の入り口付近の空き家で寝る支度をしたのちに、外に出て十四朗たちを探し始める。
「おおい・・・、ちょっといいかな?」
「なんだあ?おらは身も心も十四朗さのもんだあ・・・、誘惑しようったって無駄だぞ!」
麦畑があったすぐ横の家の前に立っている半魚人に向かって話しかけると、身構えられてしまった。
こっちはどうやら女性キャラの半魚人のようだ・・・。
「ええと・・・、ナナセさんだったかな?
紹介されたわけではないが、もう一人の十四朗とかいう人が名前を呼んでいたからね。
俺はシメンズリーダーのサグルというものだ。」
とりあえず、相手の名前を確認しておく。
「ああ、オラはナナセだ・・・多分オメたちの村でもオラの美貌の噂は届いているとは思うだが・・・、残念だっただな・・・、オラは身も心も十四朗さのもんだあ。」
やはり向こうが十四朗で、こっちがナナセという事で間違いがなさそうだ。
「警戒しなくても俺には妻も子供も・・・、子供というのは一緒にいるレイという女の子だがね・・・、家庭があるから別に君を口説こうなんて思ってやしない。
それよりも、先ほど十四朗君が話そうとしてやめてしまったことが何かわかるかい?
この集落にはダンジョンがないのかいって聞いたときに、ただって言いかけて、それでやめてしまっただろ?
その先が気になっているんだが・・・。」
とりあえず誤解を解いてから、用件を切り出す。
「そんなことだか・・・、多分言おうとしたのは山奥にある堤防のことだろうな・・・。
オラの村には言い伝えがあるだ・・・、あの崖を登って行った先の山奥には水源の堤防があって、そこを最強の魔物たちが守っているって。
その水源からほんの一部だけがオラたちの村に水が漏れてきているだな・・・、その堤防を壊してしまえば、オラたちでも水が自由に使えるっていう夢のような話だ・・・、だけんども・・・最強の魔物だぞ・・・、勝てるわけねえべさ。
仕方がねえからオラたちはこの村を捨てて、海まで行くことにしたんだ。」
すると意外な言葉が・・・、やはりあいつは真のクエストを隠していたという事だろうか?
「そうだとすると、山奥の堤防を壊すのが俺たちのクエストのように思えるがどうなんだい?
俺たちが堤防を壊して水が自由に使えるようになれば、君たちはもう一度この地で生活できるようになるんじゃあないのかい?」
念のために確認してみる。
「ああ、そうかもしんねえだ・・・、だがオラたちはそんな叶いもしないような夢なんか追うことに疲れちまっただよ。
もっと現実的な・・・地に足をつける生活っていっただかな・・・、水がないならあるところへ移動しようってえことに落ち着いたわけだな・・・。
その発案者は、何を隠そう十四朗さだぁ・・・、あったまいいだろ?」
ナナセは少し警戒を解いたのか、ずいぶんと口が軽くなってきた様子だ。
「おい!おめはやっぱりナナセのナイスボディが狙いだっただな?
おめなんかには、ナナセは渡せねえだ!」
すると背中越しに怒鳴りつけられ、すぐに一つの影が俺とナナセの間に割り込んできた・・・十四朗だ。
「ああ・・・別にナナセさんを口説こうとしていたわけではない・・・、君が黙っていた山奥の堤防のことを聞き出していただけだ。
どうやら、そっちの方がクエストっぽいようだが、違うのかな?」
「はぁはぁ・・・言いつくろおうとしても無駄だ・・・、最初からおめの目はナナセの姿ばっかり追ってただ。
いつ正体を現すか、おらは油断なく観察していたところだ・・・、ナナセは渡さねえだ、出て行け!」
ところが十四朗は俺のいう事を信じようとはしない・・、興奮して息も上がってきている。
「そんなことはないって・・・俺には女房も子供もいるし、しかも今回の冒険は子連れで来ている。
女性を口説こうなんてつもりはさらさらないさ・・・、ナナセさんにも確認してくれ。」
まずは誤解を解かなければ話は進みそうもない・・・、当事者に確認してもらうのが一番だ。
「ふんっ・・・ナナセは優しいから、人を悪く言うことはねえだ。
おらの目はごまかせねえ・・・、おめたちを信用して連れてきたのが間違いだったようだな。」
どうやら俺の言葉に耳を貸すつもりはない様子だ・・・とてつもない頑固者といったところだな。
「十四朗・・・この人は本当にオラのことを口説いていたわけじゃねえだ・・・、十四朗がさっき言いかけてやめたことが気にかかっていたんだと・・・、だから代わりにオラが説明してやっただ。
最強の魔物に堤防が守られているって聞いて、ビビっていただけだあ・・・。」
ナナセが一緒に十四朗の誤解を解こうとしてくれているようだ。
「ナナセは本当にやさしいだな・・・だが、堤防のことなんかはただのきっかけ作りで、何でもいいから声をかけたいと思って近づいてきただけという事も考えられるだ・・・、違うか?」
それでも尚こいつは人の話を信じようとはしない、俺のことをにらみつけてくる。
「そうじゃない・・・、それよりも山奥の堤防のことを聞かせてくれ。
もし場所が分かれば俺たちが行ってみて、うまくすれば堤防とやらを壊すことができるかもしれない。」
誤解を解くためにも、山奥の堤防がクエストであるという事を何とか聞き出して、そっちへ向かうことを告げようとする。
「だから・・・堤防を守るのは最強の魔物たちだあ・・・、おめたちなんか敵うはずもねえだ。
それに、おめたちの役目はおらたちと水と野菜を送り届けることだあ・・・、山奥の堤防さ行くならそれが終わってからにしてくれ。」
まずは村人たちに水と野菜を届けることを優先したい様子だ・・・、食料も水も尽きようとしているわけだから、それはそうだろうな。
「その気持ちはわかる・・・、だから君たちは中継車を使って村の人たちのところへ行ってくれ。
スタッフには俺から話をしておくから、ちゃんと送り届けてくれるはずだ・・・もちろん海までは無理だがね。
どのみち米や野菜を詰め込みすぎて座席のほとんどは倒してしまったし、過積載になりそうだから俺たち4人は乗って行けそうもない。
伴走して行ってもいいのだが、行きは魔物たちの出現もなかったし、君たちだけで大丈夫だろ?」
どのみち、荷物の詰めすぎであと2人くらいしか中継車には乗れそうもないのだ。
「そういう事だか・・・だが山奥の堤防にはおらたちの村のもんは、誰一人として近づいたことはねえだ。
なにせ、見た通り切り立った高い崖があって、先へは進めねえだかんな。
言い伝えでは山奥のさらに奥へ進むと大きな湖があって、その一部を木でできた堤防でふさいであるらしいだ。
元は川だったのをふさいで、湖のようにしたという事だな・・・、それによってその堤防から漏れた水だけが、崖の切れ目から流れてくるだけになったと言われているだ。
その堤防を守っているのは・・・最強魔物だ・・・、無理せずあきらめた方がいいだ。」
十四朗は、どうせ無理だからとでも言わんばかりにため息をつく。
「あの崖を登っていく方法はないのかい?
いや・・・、回り込んで山道を行く方がいいか?」
まずは何としてでも堤防まで達しなければ、最強魔物も何もないのだ・・・どうすればたどり着けるのか・・・。
「ああ・・・おめたちなら何とか登れるかもしんねえなあ・・・、あの崖には細い鎖が垂れ下がっているだ。
それを伝って登って行けば上まで行けるだ・・・、後はまっすぐ北へ進んでいけばいやでも堤防へ突き当たるだ。
だが何度も言うだが・・・そこには最強の魔物たちがいるだ、やめた方がいいだ。」
これまで言おうとしなかったのだが、聞いてみれば何のことはない・・・崖を上るための鎖まで降りているという事のようだ。
まあ最強魔物がいるんじゃあ彼ら村人たちだけでは歯が立たないだろうから、行こうとは考えなかったのだろうな。
ようやくクエストの手ごたえが・・・。
「あっ、戻ってきましたか・・・。
ツバサさんとレイちゃんは、ちょっとその辺を散策に行くと言っていました。」
宿泊予定の空き家に戻ると、源五郎が一人で寝袋の準備をしていた。
これも道具屋で調達したものだが、葛籠の中に入れて持ち運んでいる。
それにしてもツバサとレイはいずこへ・・・?
ツバサに聞いたのだが・・・実体化していた時ならともかく、ゲームキャラである俺たちは、体力や魔力回復のために弁当を食べるという行動はするが、基本的にトイレにはいかない。
なにせゲームキャラなのだからな・・・、そんなことは必要ないのだ。
まあ本日も魔物に遭遇することもなく、ただひたすら砂漠を走ってきた後は野菜の収穫だったからな・・・、冒険放送など見る必要もないという事か・・・、とりあえず、スタッフのところへ行ってみる。
「じゃあ、そんなわけだから、俺たちは村の奥の崖を登って行って水源の堤防へ行ってみようと思う。
もちろん最強魔物っていうくらいだから倒せるかどうかもわからないし、十四朗たちには堤防を壊すという約束はしていない。
だから一旦は彼らを野菜や水とともに送ってやってほしい。
堤防を壊すことができたら、村の人たちはまた戻ってきてもいいだろうし、そのまま海で暮らしてもいいのだろうと思う。
かなり距離が離れてしまうけれど、俺たちのカメラの映像の受信はできるかい?」
テレビスタッフと源五郎に、ナナセと十四朗から聞き出した話を説明する。
スタッフには申し訳ないが、彼らを送っていただくことになる。
「だったら、これからすぐに出発して、彼らを送り届けますよ。
交代しながら運転しますから、夜通し運転も可能です。
皆さんは、明日の朝になってからクエストをこなしに山の方へ向かってください。
衛星を中継しますから、洞窟や大きな建物の中でない限りは、ヘッドカメラからの映像受信は可能なので問題ありません。
もし山の中で電波を遮るような場所に入り込んだ場合は、その途中途中に中継ボックスを置いてください。
彼らは、ちゃんと村の人たちのところまで送り届けますから、ご安心ください。
送り届けたらすぐに引き返してまいりますので、早めに終わった場合は、この村の中で待っていてくださいね。」
そういって、大きなリュックを手渡されてしまった。
中には手のひらサイズの箱がぎっしりと詰まっている・・・、よく考えればテレビスタッフも冒険のアシストキャラなのだから、こういったアイテムも冒険者の袋に入れられてもいいように思うのだが・・・、流石に冒険アイテムとしては認められないのか、袋に詰め込もうとしたが入っていかなかった。
確かに移動の都合上を考えると、すぐに出発した方がよいのだろう・・・ドライバーが交代できるのであればだが・・・すぐに十四朗たちを呼びよせて中継車に乗せる。
何にしても、ようやくクエストらしいクエストができそうだ・・・今回の冒険の性格上、魔物と戦うこと自体が楽しみなわけではないのだが、武者震いというか・・・気持ちが高ぶってくるのを感じる。
『ブロロロロロッ』中継車を見送った後、戻ってきたツバサとレイには事情を説明し、俺たちだけで村に宿泊することになった。
翌朝・・・朝食を済ませ寝袋を片付ける(道具屋で購入したものなので、冒険者の袋への収納も可能だ)と、クエストの期待に胸を膨らませて、村の奥の崖まで歩いていく。
「鎖が垂れ下がっていると言っていたんだが、探してくれ・・・使ったことはないと言っていたから、もしかすると草や土に埋もれているかもしれない。」
源五郎たちに、十四朗から聞いた崖を登っていくための鎖を探すのを手伝ってもらう。
「これですかねえ・・・昨日見たときは、水ガメに水を供給していた竹筒の先を釣っていたので、そのための鎖と思っていましたが・・・。」
何と源五郎が、すぐに遥か崖の上から垂れ下がっている鎖を指さす。
確かに、水が沸き出ている崖の割れ目に突き刺していた竹筒の先に鎖がついていて、一定の高さを保っている。
そういえば昨日も目にしたはずだが、水の供給をしていたものだからとりわけ意識してみなかったな・・・。
「でもこれ・・・結構最近付け替えたばかりだと思いますよ・・・、鉄製の鎖で水源近くにあるのに全然錆びていないですからね。
ちょっと前に誰か上まで登って、鎖を付け替えたんじゃないでしょうかね。
昨日は・・・この先には行けねえだ・・・、何て言っていたのだから、ちょっとおかしいですね。」
源五郎が細めの鎖を手に取って、不思議そうに首をひねる。
「それはそうだが・・・水源の堤は最強魔物が守っているという事だったから、この先へ行くと危険だから行かないという意味なんじゃないかな・・・。
鎖を交換しに、崖の上くらいには行ったことはあるのだろう。」
どのみち十四朗のいう事はどこか信用できないので、不審な点があっても仕方がない、気にしないに限る。
「まあ、そういうことにしておきますか・・・、何せ僕たちが行うはずのクエストを隠していたくらいですからね。
じゃあ、出発しますか。」
源五郎が鎖を掴んでほぼ垂直な崖を登り始める・・・、彼も今回はロッククライミングや木登りが得意というようにアンケートを修正すると言っていたので、高いところも平気になったのだろう。




