半魚人2
5 半魚人2
「おはようございます。」
2つ目の太陽が昇り始め日差しが強くなりかけたときに、ツバサが一人で目を覚ます。
「レイ!・・・レイ、起きなさい!」
「うっうーん・・・・。」
レイが眠い目をこすりながら、ゆっくりと体を起き上がらせる。
朝になっても長屋然とした建物の前の2つの影が動く様子はなかった・・・、眠っているのだろうか・・・。
どうやら俺の勘違いのようで、当てというのは俺たちのことではないのだろう、他の場所へ行くか若しくは誰か別の人がやってくるのを待っているのだろう。
「朝になったから、今日は別の方角へ行ってみよう。
村か遺跡かダンジョンか、何か施設を探して冒険を続けるしかない。
朝食は簡単に済ませて、すぐに出発するぞ。」
レイをたきつけて急いで支度をさせる。
といっても朝食は弁当だから、さほど時間を要するわけではない、ものの30分ほどで準備は整った。
『ガチャッ・・・・バンッ』「じゃあ、出発してくれ。
今日は東方面を捜索するとしよう。」
「分かりました。」
中継車のドライバーに行き先を指示する。
『ドンドンドンドンドンッ』ところが、すぐに中継車のドアを乱暴にたたく音がする。
見ると2つの影が外に立っているではないか・・・。
『ガチャッ』「おお、どうしたんだ?
誰かを待っているんじゃなかったのか?」
やはり先ほどの2人組の半魚人のようだ、仕方がないので中継車のドアを開けて聞いてみる。
「馬鹿だなおめたちは・・・、こんな砂漠の真ん中に来るようなもの好きがそうそういるはずもねえだ。
誰も待ってねえだ・・・、おらはおめたちの車に乗るために待っていただけだ。」
「おいっ、ちょっと待ってくれ・・・。」
そういうと俺の制止を気にも留めずに、2人の半魚人は中継車の中に乗り込んできてしまった。
「はあー・・・中は涼しいだな・・・、外の暑さはみじんも感じられねえだ・・・流石十四朗さだな・・・、便利な乗り物を知っているだ。」
一緒に入ってきた半魚人も一緒に、誰にも勧められてもいないのに空き席に腰かけて、2人してリクライニングを倒してリラックスムードだ。
声からするとこっちの半魚人は女性のようだ・・・、しかももう一人の半魚人のことを十四朗と呼んだ。
「あのー・・・、誰も君たちを乗せようとしていないのだけどな・・・。
それとも何かい?俺たちに何か助けを求めているとでもいうのかい?」
どうにもこいつらの考えが分からないのだが、とりあえず用件だけでも聞いておくことにしよう。
「ふんっ!おめたちに話す事なんか何にもねえだよ・・・、なにせ信用ならねえかんな。」
そういって、半魚人は背もたれを倒した座席でふんぞり返っている。
「うーん・・・何をしてほしいのか言わないってことは、別に助けはいらないってことだね・・・、じゃあいいよこっちはこっちで今日の予定をこなすだけだから・・、じゃあ予定通り東へ行ってくれ。」
「はい、分かりました。」
『ブロロロロロロロッ』中継車は砂漠の中を東に向かって走り始めた。
「あの人たちは何なの・・・?
なんだか、あたしたちのことを嫌っているみたいだけど・・・、それなのにどうして車に乗ってきたの?
一緒に冒険するの?」
彼らの態度を不審に思ったレイが尋ねてくる。
「ウーン・・・よくわからんのだが・・・、まあ俺たちの冒険とは関係がなさそうだ。
目ざわりではあるのだが、彼らがいると思わずに、俺たちは俺たちができることをすればいいさ。」
とりあえずレイには相手にしないよう説明しておく・・、ああいう手合いは相手をしようとすればするほど付け上がってくるものだ、無視するに限る。
追い出してしまうことは簡単だが・・・、流石に一般キャラに対して暴力をふるうわけにはいかないだろう。
しばらくすると白亜の・・・というか、砂漠の中にコンクリート製の公衆トイレのような建物が見えてくる。
昨日出てきた賢者のトンネルだ。
「まっすぐ東へ進んでくれ。」
「はい・・・。」
ドライバーには、そのまままっすぐ進むよう指示を出す。
「馬鹿言うでねえ・・・、北だ・・・北へ行け!」
ところがすぐに十四朗とかいう半魚人が大声で叫ぶ。
『キッ』「どうします?」
ドライバーが、すぐにブレーキを踏み込んで車を停車させて振り返る。
「構わんから、そのまま東に行ってくれ。」
別にこいつのいう事を聞いてやるいわれもないはずだ、そのまま東へ進もう。
「だめだ・・・、北へ向かうだ!
絶対に北へ行け!」
ところが十四朗は椅子から立ち上がって、前の運転席へと歩いていく。
「ちょっと待ってください・・・、危険ですから椅子に座っていてください。
別にあなたの言う通りのところへ送り届けるという約束もしていないのに、あなたたちが勝手に乗り込んできたわけですよ。
こちらにはこちらの予定があって、今日は東へ行く予定です。
北へ行きたいのなら、ここで車を降りて自分たちだけで北へ向かってください。」
すぐに前方の席の源五郎も立ち上がって、十四朗を制する。
『ガチャッ』「どうぞ、さっさと降りてください。」
すると、ツバサがドアを開けて降りるよう催促する。
よほど彼らのことを嫌っているのだろう、いつも優しいツバサには珍しい行動だ。
「だから・・・、馬鹿言うでねえと言っているんだ。
おめたちは冒険者だべ?
その冒険者がこの地へやってきて、おらたちの村のクエストさしないで冒険を続けられるはずはねえだ。
今日だって、ただ当てもなく東へ向かってみるだけだろ?
この先はただ砂漠が続くだけで、何にもねえだぞ。
分かったら、そのまま北へ向かうだ。」
すると十四朗は余裕の表情で、俺たちの顔を順に見まわしながら告げる。
どうやら、俺たちの冒険のためのクエストを知っている様子だ。
「すると、君は俺たちが行うべきクエストを知っているという事だね?
それを冒険者である俺たちに教えないのはどういうことだい?君たちは俺たち冒険者をサポートする立場じゃないのかい?」
今になっても、こいつの態度の意味が分からない・・・。
「ふんっ、おらたちの言う通りのことをやらないと、これから先一歩も進めねえだぞ。
黙っておらの指示に従うだ・・・。」
『ボスッ』皆が相手をし始めたことに安心したのか、十四朗は再び席に戻ってふんぞり返って座り、大きく伸びをした。
「いや、俺はそうは思わない・・・、クエストの内容も告げずにただ従えというシナリオは存在しないはずだ。
お前は確かに俺たちが行うべきクエストを知っているのかもしれないが、恐らくお前が言っている地にそのクエストはないのだろう・・・、なにせ何も説明できないのだからな。
そうなると、お前が必死で行くことを阻もうと考えている東方面に、俺たちが行うべきクエストがあるような気がしてくる。
だから俺たちはこのまままっすぐ東へ向かう、お前たちを連れていくとうっとおしいから、この場で車を降りてくれ。
この車は別に俺たちの車というわけではないのだが、それでも俺たちの冒険の中継放送を行っているテレビ局が、俺たちの冒険を少しでも効率よく進めるために使わしてくれている中継車だ。
だから、俺たちの冒険のために行きたいところへ連れて行ってくれるわけで、誰でも行きたいところへ連れて行ってくれるというわけではない。
お前たちの乗車を許可した覚えはないし、どこかへ連れていくという約束をしたつもりはない。
勝手にこの車に乗り込んできて何も言わずに席に座り、方向が違うとただわめいているだけだ。
悪いが即刻降りてくれ・・・、従わないなら・・・本意ではないが力づくでも降りてもらうぞ。」
困った人がいたら手を差し伸べようねっていつもレイには言っているのだが、もう我慢の限界だ・・・、こいつらを追い出すとしよう・・・。
クエストは・・・、まあ何とかなるだろう。
「分かりました、こっちは女の子のようなので、あたしが・・・。」
よほど彼らのことを嫌っているのか、ツバサが積極的にもう一人の半魚人のところへ詰めよっていく。
「おめ・・おめたちはか弱いおらたちを、こんな何もない砂漠の真ん中に残して行って、心は痛まねえのか?
おらたちは死んじまうかもしんねえだぞ・・・、それが嫌なら北へ向かうだ!」
ところが十四朗は、席から動こうとはしない。
「だから・・・お前たちが勝手に中継車に乗り込んできたわけだし・・・、俺の制止も振り切ってな。
その後も俺はお前たちを車に乗せるように言った覚えはないと警告したよね?
今までのやり取りは録画されているから今夜にでも放送されるさ・・・、その内容を見れば世界中の視聴者たちは俺たちの行動を指示してくれるはずと信じている。
なにせ、お前たちの態度を見ていると、俺たちの冒険を邪魔する目的としか思えないからな。
じゃあ降りてくれ。」
そういって背中越しに十四朗のわきの下に腕を滑り込ませ、その体を持ち上げシートから引きはがす。
『カンカンカンッ』中継車の乗車口の階段をゆっくりと降りていき、十四朗を砂の上に降ろす。
「はい、あなたもね・・・。」
「オラもか?オラはおとなしくしていたつもりだが・・・、それでも追い出されてしまうだか?」
ツバサがもう一人の半魚人もつれてきた。
「じゃあ、頑張って北へ向かってくれ。」『バタンッ』
すぐにドアを閉めて、車を出発させようとする。
『ドンドンドンドンッ』「分かっただ・・・クエストを説明するだ・・・、おらたちの村は困っているだ。
だから、助けるだ!」
すぐにドアを激しくたたいて十四朗が叫ぶ。
『ガチャッ』「初めからそういう態度だとよかったのにな・・・。
まずはこのままでクエストの内容を説明してくれ・・・、乗せたとたんに態度を変えられると面倒だからな。
また、嘘をつかれても困る・・・どうやらお前は信用できない・・・、だからお前が言うことを吟味させてもらってから、乗せるかどうかを決めることにする。」
ドアを開けるが乗車口に立ちはだかり、乗り込めないようにしてから説明を求める。
「仕方がない・・・、おらたちの村はここから北へずっと行った先の山脈の手前にあるだ。
わずかな湧水で野菜を作って細々と暮らしていただ。
しかし湧き水の量は増えることはねえし収穫も増やせねえ、つまり村で生活できる人数は限られているってえことだな・・・。
こんな発展性のない生活は続けられねえと・・・、おらたち村の若者たちの提案で、村ごと海沿いへ移動させることにしただよ・・・、もともとおらたちの先祖は海中で生活していたらしいかんな。
それが何かの拍子で、山脈と砂漠に囲まれた地に閉じ込められちまったと、村には伝わっているだ。
村ごと移動させている最中で水も食料も底をつきかけているだ・・・、おめたちのクエストは、おらたちの元の村から水と食料を収穫して届けることだ・・・。
それができれば、おらたちが海へ帰れるっていう算段だ・・・簡単だろ?」
十四朗が、考え考えクエストの内容を説明する、なんだかおかしい感じはするのだが・・・。
「うーん・・・水と食料を届けるって・・・、ちょっと簡単すぎないか?
お前たちの村から水源までは遠いのか?
野菜を作っていたって言っていたな・・・・、その野菜を育てるのに時間や手間がかかるというのかい?
早く育てるためには何か努力が必要とか・・・かな?」
「いや・・・山脈の水源からおらたちの村までは水路が引いてあるから、水はずっと流れてきているだ。
そんなに量は多くはないだが・・・、おらたちが村を出てからひと月は経っているから、水ガメには大量の水が溜まっているはずだ。
野菜も・・・、おらたちが村を出るときに種をまいておいたから、ちょうど収穫の時期だろうな。」
俺の質問に十四朗がすぐさま答える・・・、ううむ・・・いったいこれのどこがクエストなのだろうな。
「分かった、ちょっと相談させてもらうよ・・・、ついでに聞くが、ここは何という場所なんだい?
何とか大陸とかなんとか島とか、場所を特定できる地名を教えてくれ。」
「ああ・・・、東部大陸の中央部だ・・・。」
十四朗がこの質問にもすぐに答えた・・・、ちょっとは反省しているのだろうか・・・?
「じゃあ、悪いがそのままで待っていてくれ。」
『バタンッ』中継車のドアを閉めて、振り返る。
「話は聞こえたと思うが・・・、まずは東部大陸の中央部ってどんなところだい?」
場所の特徴から、方針を検討するのもいいだろう。
「東部大陸中央部には、以前の冒険の時には竜王の城や都市がありました。
そこで闘技会が開かれて優勝するとアイテムがもらえました・・・、その時も町の外では砂漠に近い状態でしたが今ほどではありません・・・、地形から何から変わってしまっているようです。」
すぐにツバサが過去の情景を教えてくれる・・・、ううむ以前の状況は当てにならんという事か。




