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半魚人

4 半魚人

「おお・・・元気になったようだな、俺たちは冒険者だ。

 世界各地を回って最終的には魔王のもとへ到達しようとしている。

 ここは、なんという大陸のどのあたりかわかるかい?」

 とりあえず、この場所の地名を聞いておこう・・・、ツバサだったら周囲の地形など見当がつくかもしれない。


「ああ・・・旅のものだか・・・、ふんっ、流れ者には教えられないだな・・・。

 それよりも、さっきの葉っぱをもう少しくれ・・・。


 どうせ、おらたちの村の宝目当てに来たんだろうが、残念だっただな・・・お宝は渡せねえだ・・・。

 いや・・・それとも・・・ナナセか?オメたちもナナセの評判を聞いて、嫁にしようと狙って来ただか?」

 冒険者と言った途端に、半魚人の態度が急変した。ナナセって誰?


「俺たちは、君たちの村にある大切な宝を取ろうなどとは考えていない。

 何か困ったことがあれば、それを解決して、その適正な報酬を頂ければいい。

 そういったクエストを重ねて行って、冒険を続けていくわけだからね・・・。」

 どうやら冒険者に対して間違ったイメージを持っている様子だ・・・、これは訂正しておかなければ。


「むしゃむしゃ・・・、ふんっ、うまいこと言っても無駄だ・・・、おらたちの村にもちゃあんとテレビっていうものがあって、毎日の冒険放送は流れているだ・・・、今もポータブルっちゅうんだか?小さなテレビを持っていて、毎晩見ているだぞ・・・。


 さっきはわからなかったがオメたちの顔には見覚えがあるだぞ・・・オメたちはついこの間、沈没船のお宝を奪い取ってきたばっかりじゃないか。

 しかも、か弱い女の人たちを助けようともせずに沈没船に置き去りにして・・・、一体どういうわけだ?

 オメたちの親は泣いているぞ!」


 薬草を手渡そうとすると、それを奪い取るようにして食べながら、俺たちのことを痛烈に非難し始めた。

 そういえば、だんだんと体全体にも膨らみが出てきた様子だ。


「いや・・・トシミさんたちは助けようとしたんだが、自ら残るといって沈没船に残ったんだ。

 それにお宝だって・・・、彼女たちが持たせてくれたものだ。」

 あの放送を見て、どうすればそのような解釈になるのか・・・、とりあえず訂正しておく。


「ふんっ・・・なあにがトシミさん・・・だ・・映像はなかっただが、葛籠は大きいのか小さいのかどちらか一つだけといっていたじゃなかっただか?


 それを2つとも横取りしやがって・・・、彼女たちを助けるふりして大きな葛籠まで一緒に運び出したんだったな・・・、それなのに彼女たちを置き去りにするとは、まさに鬼だな・・・。」

 半魚人は、俺のいう事をはなから信じようとはしていないようだ。


 そういえばトシミさんたちが、処罰されるのを恐れて地上には戻らないといっていた音声も削除したんだったな。


 宝剣と魚群探知機両方渡してくれた彼女たちが罰せられないよう音声の大部分を削除しておいたのだが、そのような誤解を与えてしまったのか・・・、こっちは顛末を知っているから、昨日の放送を見ていてもそのような解釈には至らなかった・・・、失敗したな・・・。


「彼女たちは自らの意思で沈没船に残ったんだ、それは間違いがない、信じてくれ。」

「ふんっ、うまいこと言ってごまかそうとしたって無駄さ・・・、おらの目はごまかせねえだよ。」

『パンパンッ』半魚人は尻についていた砂を払い落としながら、ようやく自分の力で立ち上がった。


「そうか・・・残念だな・・・。」

 ここまで拒絶されては取り付くしまもない・・・、とりあえずあきらめよう。

『ガチャッ・・・・チャッ』皆と一緒に中継車に乗り込む。


「悪いが、他へ行ってみよう。」

「はいっ。」

 ドライバーに、Uターンを指示する。


『ドンドンドンドンッ』ところが、すぐに激しくドアをたたく音が・・・。

「何をやっとるだね・・・か弱い村人を置き去りにして、オメたちはそのまま行ってしまうつもりだか?

 普通は送ってやるから乗れって、誘うんじゃないのか?」


 先ほどの半魚人がドアの向こう側で叫んでいる・・・、だったら、さっき助けてくれっていえばよかったんじゃないのか?


『ガチャッ』「ああ・・・、なんだか元気になって自分だけでいいようなことを言っていたからな・・・、ここがどこかも説明しようとしないし、俺たちのことは信用できないって言っていなかったか?」

 中継車のドアを開けて、ステップの上から説明する。


「ふんっ・・・だからオメたちのような流れもんは信用できねえっていうんだ。

 困った人がいたら手を差し伸べるのが人間ってえもんじゃなかったか・・・?

 このまままっすぐ西へ行ってくれ。」

 半魚人は、誰も勧めていないのに自ら中継車の中に入ってきて、シートに座り西へ進むよう指示する。


「この先にお前の村があるというのか?

 そこへ送って行けというんだな?」


「ふんっ・・・オメたちには教えられねえだ・・・、黙って進ませろ・・・。」

 俺の問いかけを全く無視して、半魚人はシートの背もたれを倒して、まさにふんぞりかえって座っている。


「仕方がない・・・、西へ行ってくれ。」

「はい、分かりました。」

『ブロロロロロロッ』中継車は再び西へ走り始める。


 しばらく進むと、先の方に何か大きな建物のようなものが見えてきた・・・、近づいていくうちにだんだんとはっきりとしてきたが、平屋づくりだが結構大きなドームというか巨大長屋のような感じの建物のようだ。


「この先でいいだ・・・。」

『キィッ』建物の少し手前で中継車が停車する。


「礼は言わねえだよ・・・、オメたちがしたことは至極当然の行いだかんな・・・。」

『ガチャッ』半魚人はそう言い残すと、そのまま中継車を降りて、建物の方へと歩いていく。


 おいおい・・・ありがとうございましてと言われても、俺たちの方がいえいえ当然のことですというのならともかく、当然のことをしただけだから礼は言わないなんて、世話してもらった方の奴からそんなことを言われたのは生まれて初めてだ・・・。


『ガチャッ』「おーい、待ってくれ・・・、この建物に君たちは住んでいるのかい?

 何人くらいいるのかな?中にギルドとか冒険者用の建物はあるかな?」

 すぐに半魚人の後を追って行き問いかける。


「だから・・・おらはオメたちを信用してねえって言っているだろ?ついてくんな!」

『カチャカチャ・・・ガッシャーンッ』半魚人はここまで送ってもらった恩も忘れ、建物入り口の柵のフックを外し中へ入ると、そのまま柵を閉めて奥へと入って行ってしまった。


「どうします?中に入って行ってみますか?

 特段カギがかかっている様子もありませんし・・・」

 一緒に降りてきた源五郎が、入り口の柵に手をかけながら俺の方に振り向く。


 建物自体も、巨大な一枚の天板を支えるための柱を何本か砂地に立てているだけの簡単な構造のようで、壁などはなく、所々を細い鉄骨の柵で仕切られているだけの様子で、誰でも入ろうと思えば入って行けるだろう。


「いや・・・いくらなんでも他人の住居に、勝手に入っていくわけにもいかんだろう。

 何も知らないのであればともかく、先ほど助けた半魚人についてくるなと拒否されたわけだからな。

 これでも構わず入って行ったら、それこそ不法侵入だ。


 仕方がない・・・別方面を目指すか・・・、あるいはここで少し待って先ほどの奴以外の住民が出てくるのを待って、アクセスしてみるかだな・・・どっちがいい?」

 とりあえず源五郎たちの意見を聞いてみることにする。


「うーん結構時間を使っていますからね・・・、今日のところはどこかで野宿となるのでしょうが・・・、どうせだからここで待ってみますか?」

 源五郎が仕方なさそうにため息交じりに話す。


「あたしもダーリンに賛成。」


「今日は何もできなかったですけど、仕方ありませんね・・・。

 でも・・・先ほどの人には気を付けた方がいいですよ・・・、以前の冒険の時にもどちらかというと冒険の邪魔をするような人でしたから・・・。」


 ツバサが、最後の言葉はインカムのマイクをふさぎながら小声で返事をする。

 そうか・・・冒険の邪魔をするスタッフキャラもいるという事か・・・、まあいてもいいのだろうが、ちょっとあの態度はうっとおしいな・・・。


「わかった・・・じゃあ・・・、ここで野宿とするか・・。

 まず最初は・・・・、俺とれ・・・」


「あっあたしは、ツバサお姉さんと一緒に・・・。」

 俺とレイ・・・と言おうとしたとたん、レイはツバサの方に駆け寄って行って、彼女と腕を組んでしまう。


「おいおいレイ・・・、迷惑だろうからやめなさい。パパと一緒でいいだろ?」

 ツバサは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しく微笑んでくれた・・・、ありがとう・・・だが、源五郎ならまだしも、ツバサとレイは面識なくここで知り合ったばかりだから、流石に迷惑はかけられない。


「ああ、あたしは大丈夫ですよ・・・、接近戦と飛び道具の組み合わせでしたら、あたしとレイちゃんの組み合わせでも大丈夫ですよね。

 今日のところは男同士と女同士の当番にしましょう。


 父の道場には小さな子供もたくさんいて、あたしが面倒を見ていましたから、扱いには慣れているつもりです。」

 これまた最後の方は、ツバサがマイクを隠して小声で告げてくる。

 ううむ・・、10年も経つとインカムの扱いも慣れてくるのだな・・・。


「本当にいいのかい?悪いな・・・じゃあ、最初の当番をツバサとレイに任せるとして・・・、俺と源五郎は先に休ませていただくとするか・・・。」


「はい、分かりました。

 じゃあ、中継車のスタッフにもそのように言ってきますね。」

 源五郎がすぐに中継車に駆け寄っていき、スタッフに野宿を告げているようだ。


 本日の放送は賢者のトンネルを使っての移動と、ひたすら続く砂漠で干からびた半魚人を助けただけで終わってしまった・・・、せめて魔物たちとの戦闘があればよかったのだが・・・仕方がないな・・・。

 ヘッドカメラの映像の形ばかりの検閲を終えてから食事をして、ツバサたちのためのテントを張ってから早めに就寝した。



『何言ってるだ、おらが戻ってこなければ、皆戻るか進むかも決められなかったはずだべ?

 おらが何とか生きて帰ってきたから、戻ることはかなわねえという事が皆も理解できたわけだ・・・、なにせひたすら続く砂漠を、延々と戻っても途中で水もなくなり食料もなくなり、干からびてしまうだからな。


 おらだからこそ何とか不屈の精神力で戻ってこられたが、他の奴らじゃあそのまま行方不明だかんな!』


『馬鹿を言うでねえ・・・、村に残された2週間分の水と食料の半分近くをもって行って、たった1週間で逃げ帰ってきて何を偉そうなことを言っているだ。


 オメ一人だったら2ケ月は持つはずの水と食料だったのだぞ!

 それをどこにほかってしまっただ?』


 レイたちと交代して見張り番をしていたら、明るくなりかけてきたころに、建物内から怒鳴りあうような大きな声が聞こえてきた。


 一人の声は、恐らく先ほど俺たちが救出した半魚人だろう。

 どうやら村の食料をもってどこかに行く途中だったようだ。


『そんなこと言ったって・・・、この歩きにくい砂地を重い荷物を背負って歩いてなんかいられるかい。

 少しでも軽くしなければいけないと、最初の3日間で半分は食べちまっただ。


 あったりまえだろ?残りも3日でなくなって・・・、最後の1日は飲まず食わずで危うく干からびてしまうところだっただ・・・、そこをおらの不屈の精神力で何とか生きて戻って来ただ。

 無事で戻ってきたのを褒められこそすれ、非難されるようなことなあんにもしていないだ。』


『ふざけるでねえ!

 このままじゃあ、おらたちは全滅だ・・、なにせ砂漠のど真ん中で水も食料も尽きようとしている所だかんな。

 オメがおらたちの村さ戻って、水と畑の農作物を回収してくるって言ったから、貴重な食料と水を託しただ。


 それをたったの1週間で無駄にしおって・・・、水と食料を持って帰れなかったら戻ってこないって誓ったんじゃなかっただか?

 とっとと戻って、水と食料を回収してこい!』


 うーん・・・水と食料を回収に行く途中だったようだな・・・、だんだんと事情が分かってきたが・・・、彼らの村というのはよほど遠いところにあるのだろうか・・・、とか考えながら声のする方を注視していたら

『ドンッ、ガラガラガッシャーン』大きな音とともに、2つの影が柵の外へと放り出されるようにして出てきた。


「ああ・・・だから言っただ・・・、馬鹿な約束などしねえで、おらと一緒に逃げようって・・・。


 村さ戻って水と食料を回収してくるだなんて・・・とっても出来ねえことだ・・・、なんせ100キロはあるだかんな・・・まともに歩けば片道何日もかかるだ・・・、しかも一面の砂漠地帯・・・途中で干からびてしまうのがおちだ。

 もう村さ戻るのはあきらめて、よそへ行くだ・・・。」


「いや・・・そんなことはできねえだ・・・、村のみんなを助けておらが次の村のリーダーさなるだ。

 大丈夫だ・・・おらには当てがあるだ・・・、あいつらと一緒なら村まで簡単に戻れるだ・・・。」


 何やら意味深な会話を2人の半魚人が柵の外で、しかもひそひそ話ではなく誰にも聞かれないと思っているのか大声で話し始めた。

 なにせ、俺たちがキャンプしている所と十メートルも離れていない目と鼻の先の距離なのだ。


 ううむ・・・・、どうやら当てというのは俺たちのことだろう。

 中継車に乗っていけば、彼らの村がどこにあるかはわからないが、とりあえず安全に行くことができると考えているのだろう・・・、まあいいか・・・・あいつが俺たちに助けを求めてきたら、先ほどの件は水に流して協力してやることにするか・・・。


 とか考えていたが・・・その後どれだけ待っても2人の半魚人は、建物の入り口から一歩も動こうとはしなかった。



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