新たな大地
3 新たな大地
「それから冒険後の毎日の放送だとチェックが長引いて、ともすればその日の放送に間に合わない場合も想定されるから、すまないがいずれは1日置いて翌日の放送に切り替えてくれ・・・、なにせ4人分のヘッドカメラの映像をチェックしなければならないからね、その後君たちに引き渡した検閲済みの画像を編集して放送してくれればいい。」
俺は淡々と表情を変えずに告げる。
「ええっ・・・参ったなあ・・・、ちょっと待っていてくださいね。」
テレビスタッフが急いで中継車の前方に戻っていき無線機のマイクを使って何やら話しかけている・・・、テレビ局の上司にでも確認しているのだろうか。
「あたしは別に、胸元やパンツが映りこんでいたって全然平気ですよ。
そんなこと気にしていたら本気で戦えませんし、道場じゃあ男の人たちと一緒にほとんど裸で過ごしていましたから・・・、そりゃあ、ちょっとこの拳法着はボロボロとは思いますけど・・・。」
ツバサが自分のことが話題に上っていることを察してか、近くに寄ってきて少し恥ずかしそうにうつむく。
「いや・・・実はツバサの格好がどうのというわけではなくて・・・、トシミさんや復活の木がアイテムやアドバイスを与えてくれたりしただろ?
今回は冒険者をサポートするべき本部にどうやら問題がありそうなんだ。
だから、彼らの行動をそのまま放送してしまったら、彼らが罰せられてしまうかもしれない。
トシミさんは罰を恐れて沈没船に残ると言っていた・・・、だから早いところ彼女たちを解放できるよう、本部で起こっていることを解消してやる必要性があるわけだ。
それまでの間、彼らを不利な状況に追い込まれないよう、俺たちを助けてくれたりした場面は、放送されないようカットしていくつもりだ。
ツバサとレイをだしに使って申し訳ないが、我慢してくれ。」
なるべくツバサとレイには聞こえるくらいの小声で説明しておく。
「ああ・・・そうだったのですか、分かりました。」
「ふうん・・・。」
レイはともかくツバサは理解したのか、小さく頷いてくれた・・・レイには後で源五郎がやさしく説明してくれるだろう。
「仕方がないですね・・・、局にも了解いただきました。」
スタッフが戻ってきて力なくうなだれる・・・、申し訳ないが、わがままを許してもらうことにする。
こうすることにより俺たちを助けてくれるゲームキャラたちに、少しでも恩返しができると信じて・・・。
『キィッ・・・ガッシャンッ』「ファブのギルド前に、到着しました。」
話していると、到着したようだ・・・トシミさんからもらった大きな葛籠には、大き目のキャスターがついていたので、中継車の後ろに結び付けているのだ・・・ツバサに言わせると、以前の俺たちはここにリアカーを結びつけて荷物を積んでいたらしい。
「じゃあ、また明日の朝にここで・・・。」
テレビスタッフと別れを告げる・・・、この時間ならばまだ本日分放送の編集は行えるだろう。
何だったら昨日の湖でのブラックダンプとの格闘は数時間にも及んだのだから、未放送分も余っていることだろうしな。
「じゃあ、いつものように清算しておくか。」
『ギィッ』ギルドの扉を開けて中に入っていき、受付カウンターに宝剣を差し出すと、『パンパカパーン』やはりいつものようにファンファーレが鳴り響く。
「おめでとうございます、ツバサ様はZCにレベルアップされました。」
受付嬢が笑顔で祝福してくれる。
湖で魔物たちと戦うのをツバサ優先にした効果ともいえるな・・・、おじさんと戦闘した分は恐らくカウントされてはいないだろうから・・・。
「はい、では宝剣はお持ちください・・・。」
受付嬢が宝剣をカウンターごしに差し出しながら告げる。
ほうそうか・・・この宝剣は冒険を続けていくための重要アイテムというわけだな・・・、宝石や金銀の宝飾が多くて戦闘には使えないと思っていたが、何かの役に立つのかもしれない、宝剣をそのまま冒険者の袋に納める。
「じゃあ、報奨金も入ったことだし買い物に向かうとするか・・・。」
ギルドを出て、武器屋に向かう。
俺は鋼鉄の剣を、ツバサも光の爪を研ぎに出し、源五郎は矢を200本ほど購入。
「じゃあ次は防具屋だ・・・それほどいいものはないのだが・・・、ツバサは拳法着を買い換えた方がいい。
ちょっと悩ましすぎるからね。
それとも、道具屋に行ってセーラー服とかにするか?
どっちでもツバサの場合は、さほど強さに差が出るとは思えんしね。」
ついでに余計なお世話ではあるのだが、金が入ったところでツバサの格好をどうにかするようアドバイスする。
新シナリオに変更されてからのクエスト3件目で、少しは持ち金に余裕は出てきたことだろう。
なにせ2件目の復活の木の葉の採取に関しては、復活の木が葉の引き渡しを拒否していたためにクエストレベルは高く設定されてはいたが、魔物たちとの戦闘やダンジョンがあるわけではなく、報奨金などはなかった。
実質クエスト1件だけの報奨金では、いかに魔物が超強力なために最初からクエストレベルや報奨金が高いとはいえ、5000Gを4人で分けると一人当たりの割り当てはさほどでもない。
薬草に毒消し草と弁当を10個ずつ購入すると結構な金額になってしまい、念のために手持ちの現金を残そうとすると、とても服装までは手が回らなかったのだ・・・、まあそのことに関して内心喜んではいたのであるが。
非常に残念ではあるのだが、断腸の思いで告げる・・・せめてセーラー服にしてくれればかわいいかな・・・?
「はい、やはり拳法着にします・・・、セーラー服ではちょっと動きにくそうなので。
でも・・・今のこの状態は、まだましな方なんですよ・・・、いつだったか上半身は下着だけになってしまって・・・、もちろん下着だけですから防御力もないのですが、もろくてすぐに?ぎ取られてしまって・・・、それで一瞬ひるんでしまったところを倒されたこともありました・・・。
その時は翌日の戦闘をあきらめて野宿して、夜のバイトだけしてその浮いたお金で稽古着を購入しました。
それで反省して、少しは格好にも気を遣うようにはなったのですが・・・。」
ツバサはそういいながら防具屋で拳法着を購入し着替えた。
ううむ・・・その時の放送回のビデオがあれば・・・ダビングして欲しい・・・、いやいくらツバサのおっぱいポロリの映像があってもすぐ後で倒されてしまうのでは見ない方がいいか・・・、いやそれよりもツバサ自身のヘッドカメラでは、ツバサの胸は映らなかったか・・・?とか馬鹿なことを考えながら、ついでに道具屋で弁当を買いあさり、葛籠に積めるので野宿のためのテントや寝袋もこの機会に購入する。
「レイは上級魔道を使うと魔力の消費が激しいだろうから、竹弁当や松弁当を多くしておいた方がいいぞ。」
「ほーい。」
武器の手入れや補充の必要がないレイだが、魔力補充のための弁当は上のランクのものを購入する必要性があるのだ。
その後宿に向かいその日の放送を見ると、本日の放送分はやはり昨日のブラックダンプの駆除(湖上編)と、陸に上がって復活の木の葉をもらった場面が放送されていた。
ボート小屋のおじさんとのやり取りは最初のくだりのみで、戦闘シーンなどは放送されなかった。
やはり、ただの町人であるおじさんが冒険者たちに襲い掛かるシーンは適当ではないとみて削除しているのだろうか・・・、ツバサがテレビスタッフも冒険者たちのサポートキャラクターであると言っていた意味が、本当の意味で分かってくる・・・彼らは完全に俺たちの味方というわけではないのだ。
「おはようございます。」
翌朝ギルド前に向かうと、すでにテレビスタッフは待ち構えていた。
「おはよう・・・、じゃあ今日はいよいよ次なる大陸を目指すことになるね。
賢者のトンネルまでお願いします。」
『ガチャッ・・・バタンッ』中継車に乗り込み、賢者のトンネルを目指して出発する。
『キィッ』「賢者のトンネルに到着しました。」
昼に差し掛かる前に、トライバーがコンクリート製の四角い建物の前で中継車を停車させる。
「じゃあ、ちょっと待っていてください。」
『ガチャッ・・・タタタタッ』源五郎がすぐにドアを開けて下車すると、建物の入り口ドアに駆け寄っていった。
うーむ、やはりこういうことは若いやつが・・・といっても、以前は奴が一番若い高校生だったのだが、あれから10年経過して、奴は今じゃそこそこの会社の代表取締役なのだ。
しがない万年主任の俺とは違い、エリートというより経営者なわけだ・・・、それなのに奴のフットワークは以前と変わらずに軽い・・・。
「レイ・・・今度からこういうところで扉の鍵を開けたりする役目は、レイがやるようにね。
まだここの環境に慣れてはいないだろうから、当分の間は源五郎と一緒に車を降りて行って、扉を開けて中継車を導くんだ・・・できるね?」
今更俺が出ていくというのもかえって気まずいだろうから、レイにやらせてみることにする。
彼女が一番の若手なのだから、適役と言えば適役だ。
「うん、わかった・・・、ダーリンとの共同作業だね・・・?」
レイは源五郎と一緒に何かするという事に関して、文句はないようなので都合がいい。
『ガチャッ』「はい・・・、入ってください。」
源五郎が手に入れた鍵で入り口の扉を開けると、中継車を中に引き入れる。
『ガチャッ』『ブロロロロー』再度、源五郎が乗り込んで出発だ。
中は緩やかなスロープになっていて、何度も切り返しながら下へ下へと下っていき、『ガチャッ』すぐに車を降りた源五郎が最下段の扉を開けてさらに進むと、その先は左右に通路が伸びていて壁にはいくつもの扉がついている。
「確か、最初の扉は7番目でしたよね・・・。」
以前の冒険の様子を覚えている源五郎が、中央の扉に駆け寄っていく。
「よしっ・・・、レイも一緒についていきなさい。」
「はーい・・・。」
レイは喜んで、中継車を降りて源五郎のもとに駆け寄っていく。
「じゃあ、あたしも・・・。」
「いや、ツバサはいいよ・・・、レイにやらせてやってくれ。」
ツバサも一緒に降りていこうとするのを、手を合わせて引き留める。
賢者のトンネル内に危険がないことは以前の冒険でもわかっているし、ツバサまで降りて行ったら、ますます俺が中継車の中に居残りにくくなってしまう。
『ガチャガチャ・・・』「あれ?おかしいなあ・・・。」
源五郎が首をひねる・・・、どうやらカギが合わないようだ。
「レイ、ほかの扉を試してみてくれ。」
中継車の窓から顔だけ出して、レイに他の扉に回るよう指示する。
「はーい・・ダーリン、鍵を貸してください・・・。」
『タタタッ・・・ガチャガチャッ、タタタッ・・・ガチャガチャッ、タタタッ・・・ガチャッ』「開いたっ!」
左に移動していたレイが、3つ目の扉で大きな声で叫ぶ・・・、つまり4番目の扉の鍵が開いたことになる。
「じゃあ、あの扉に向かってくれ。」
『ガチャッ』『ブロロロロロッ』源五郎とレイを乗車させると、長い長い通路をひたすらまっすぐ進んでいく。
「おおすごいね・・・。」
出た先は、右も左も前も後ろも・・・、どこもかしこも砂砂砂・・・、一面の砂漠地帯だった。
『ガチャッ』「うーん・・・、道なんてありそうもないし、周りに建物のようなところもなさそうだ・・・。」
車から降りてあたりを見回すが、さてどっちへ行っていいものか・・・。
「ちょっと待ってください・・・、よっと・・・。」
今度はツバサが中継車の扉の手すりに足を引っかけて、そのまま中継車の屋根の上に飛び乗る。
「うーん・・・、上から見ても・・・、これといって何も・・・。」
「はい、どうぞ・・・。」『ガチャガチャガチャ・・・・』
「こっちの方角とその反対方向に、はるか遠くですけど山脈が見えます・・・。」
ツバサがテレビスタッフから渡された脚立を、中継車の屋根の上につけられた荷物乗せのための鉄枠に立て、その上から周りの状況を伺いだした。
「中継車の磁石で方位を見る限り、山がある方向は北と南という事のようですね。
東と西には山はなさそうですが・・・、どっちかに海岸線とか見えませんかー?」
源五郎が中継車のスタッフとやり取りしながら、脚立の上のツバサに呼び掛ける。
「どちらにも地平線しか見えないですねー。」
ツバサが脚立の上で何度も飛び跳ねながら少しでも高くから見通そうとするが、何も見えなさそうだ。
「あっ・・・、今こっちの方向に何か光るものが。」
脚立の上でツバサが、遠くを指さす。
「ふーむ、西の方向のようですね・・・、行ってみますか?」
「ああ、それしかないだろう。
ツバサ、ありがとう、降りてきてくれ。」
とりあえず、西へ向けて出発だ。
『ブロロロロロロロッ』砂漠地帯を延々と、車はひたすら走り続ける。
「何かありますね・・・。」
『キィッ』ドライバーが前方に鈍く光を反射する異物を見つけて停車させると、『カチャッ』すぐに周囲の様子を確認しながら、慎重に中継車を降りていく。
なにせ、いつまた規格外の強さの魔物たちが襲い掛かってくるかわからないのだ。
「なんじゃ・・・これは・・・干物か?」
砂漠の真ん中にあったのは・・、魚の干物・・・ではなく干からびた半魚人の絵のようだった。
「どうしてまたこんなところに・・・?」
辺りを見回すが、周りには湖とか川は見当たらない・・・、ただひたすら砂漠地帯が続くのみだ。
「み・・・みず・・・。」
するとその干物が小さな声を出した・・・、一枚の布切れのように薄くなっているのだが、生きているのか?
「水はあるか?・・・・」
すぐに中継車に戻って、スタッフから水筒を借りる。
「ほれ・・・飲んでくれ・・・。」
口元に水筒を持って行ってやるが、自分では飲めそうもない。
『バシャバシャ・・・』とりあえず顔の周りに水をふりかけ、更に薬草を与えてみる。
冒険者だけでなく一般人に対しても、傷の治療だけでなく体力回復にも使えるのだから、効果があるだろう。
「むしゃむしゃ・・・ごっくん・・・、ふぅー・・・いきかえった・・・。
あんたたちは何者だね?」
薬草を食べた半魚人は息を吹き返し、俺たちの顔を見回す。
水筒の水を吸ったせいか、顔は少しふくらみが感じられてきた。




