ゲームの世界では・・・
2 ゲームの世界では・・・
「復活の木さん、葉を与えてください・・・・。」
ファブの東の森で祈る俺の掌の上に一枚の木の葉が舞い降りてくる。
「ありがとうございます。」
すぐに目礼して葉を冒険者の袋に大切に保管する。
どうやら、機嫌は悪くない様子だ。
やたらと葉を消費するツバサに対して、もっと体を大切にするようにという意味を込めて葉の供給を止めていたという事だったが、せっかくの葉を頂いて2日で消費してしまい、どの面下げて葉を頂くことを祈ろうかと考えていたのだが・・・、意外と簡単に頂けたのには拍子抜けした。
「いっいいのですか・・・、こんなに簡単に頂けて・・・?」
思わず聞いてしまう。
「ああ・・・お前が消費した葉の使い方はわしにも伝わっている・・・、正しいことをしたと考えておるぞ。
わしらの役目は本来は冒険者たちのサポートであるのだからな・・・、それを逸脱する行為というのは、本来ありえないはずなのだ・・・ところが、わしらの意思に反して逆らえない力が働いたことは否定できない。
それにあがなうことができるかどうかは個々の資質によるところが大きいのだが、彼女たちを責めないでやってほしい。
わしらは冒険者たちの冒険を円滑に行うことができるよう支援する立場ではあるのだが、同時に本部からの指令には逆らうことができないよう設定されている。
どれだけ頭では、いけないことだと分かっていても、指令に逆らうことはできないのだ。
わしも同様の立場なのだが、できることは復活の木の葉を与えることだけである為か、お前たちに対しての指令が発せられることがない・・・ツバサに対して復活の木の葉を与えることを拒否したときには、本部からお褒めの言葉を頂いたがな・・・。
それでも日々放送されることからも、表立って復活の木の葉の供給を差し止めることはしないつもりなのだろう・・・、供給を再開してもおとがめなしじゃ。
まあゲームの進行上必須アイテムと言えないことはないからな・・・、正当な理由なく差し止めると視聴者からの評判が落ちると考えておるからではないかな。」
復活の木は意外なことを告げてきた・・・本部からの指令により、トシミさんは俺たちを足止めしようとしたという事はやはり本当ということか・・・、しかし一体何のために・・・というか、それはわかっているのか・・・。
俺たちが冒険を続けて行って魔王や魔神たちを目覚めさせてしまうと、都合の悪いやつらがいるという事だ。
「その・・・本部からの指令には逆らえない立場の復活の木さんが、そのような内部事情を話してくれるのは、どういった気持ちの変化からなのですか?
普通であれば内部事情などおくびにも出さずに、ゲームの設定どおり役割を果たすだけのはずですよね?」
いくら俺たちのサポートが役目であっても、そこまでの事情を説明する理由など実際にはないはずだ。
そんなことをしていたら、ゲームとしての冒険が成り立っていかなくなってしまう。
「ああそうだな・・・だが、今回の冒険はこれまでとはわけが違う・・・、本来であれば本部は冒険者が魔王や魔神に達して、冒険を完結させるためのサポートとなる指令を発する場所であるはずだ。
だがしかし今回は逆に冒険者たちを足止めしたり、あるいは倒してしまおうと画策している様子がまるわかりだ。
これはわしらの存在をも否定することになるのだが、わしら自身は本部から指令が出た場合は逆らうことはできないから、そうならないうちにお前たちに助言だけでもしておこうと考えたわけだ。
わしらのように指令は絶対という存在のほかに、自由に個々の判断で行動できる者たちもいると聞いている。
例えば魔王や魔神たちのことだな・・・それらも含めて、恐らく今回の冒険で、お前たちの真の味方は数えるほどしかいないだろう。
それらを見極めながら進んでいくしかない・・・、だが誰であっても決して心の底からは信じない方がいい・・・、最終的には己の判断を優先して行動するのだな・・・。」
そういった後、復活の木は黙りこくってしまった。
「源五郎も葉はもらえたのかい?」
「はい、いただけました。」
源五郎が笑顔で答える。
「じゃあ行くか・・・。」
皆に目配せをして、そのままさりげなく東の森の出口の方へと歩きだす。
「しかし本部の奴って・・・この間ツバサがこれまでの冒険の内容を覚えているからって、新たなシナリオに書き換えるって判断した奴らのことだよな・・・、そうなると、かなり難易度の高い冒険になりそうだな・・。
まあ、それはそれで楽しめばいいという事かな・・・。
それにしても復活の木か・・・どうしてあんな大事なことを教えてくれたのかね・・・、そもそも復活の木の葉を与えてくれるだけの、いわば装置みたいな存在なわけだろ?
それがどうして意思を持っているかのようにふるまい、更に彼の上役にとっては裏切り行為ともとられかねないことをしたのか・・・、後で本日の放送内容からは復活の木のコメントは削除するようお願いしておかなければならないね・・・。」
どうして危険を冒してまで俺たちに警告してくれたのか・・・、ありがたいことではあるのだが・・・。
「2回目の冒険を終えたときに、魔神がサポートキャラたちが自我に目覚めたと言っていました。
本当ならロボットのように簡単な受け答えをするだけの存在のはずだったサポートメンバーが、実体化したことによって意思を持ち自我に目覚めたのだろうと言っていました。
彼らはゲームの世界に戻ってきてからも、同様に自我を持ち続けているのかもしれません。」
ツバサが少々ショッキングなことを告げてくる。
なんと・・・ゲームキャラでしかない存在が夫々個々に意識を持ったという事だろうか。
そうであれば、俺たちへの誘惑に失敗した後でトシミさんたちが深く反省して、俺たちに魚群探知機も宝剣も両方を持たせてくれたのも納得できる。
彼女たちも意思を持っているから苦しかったのだ・・・。
そう考えると、今後はサポートどころか彼らによる妨害行為もうまく対処して、冒険を続けていく必要性があることになる・・、果たしてうまくいくだろうか・・・?
「ちなみに・・・ゲームの世界に戻ってからも行動を共にしているから分かっているとは思いますが、彼らもゲームキャラですよ・・・。」
ツバサが中継車の前で俺たちを待ち受けているテレビ局スタッフを指さす。
「ああそういえば・・・俺たちが異次元世界から戻ってきてから、すぐにツバサがテレビ局スタッフを連れてきたんだったよね・・・。」
「いえ・・・、テレビクルーと出会えたのは北部大陸へ行ってからですよ。
あたしが皆さんのところへ連れて行ったのは、レイさんだけです・・・ゲームの世界に戻された時点であたしも始まりの村に出現したわけですからね。」
ツバサが少し首をかしげながら告げる。
そうだったのか・・・記憶違いをしていた・・・、まあ1週間くらいしか違いはないわけだけれどな・・・、結構長いこと一緒に過ごしたような記憶があったのは、やはり2度もゲームをクリアしたときの残らないはずの記憶がうすぼんやりとでもあったという事だろうか。
冒険のサポートをしながら俺たちの冒険の様子を星中に放送しているのだといっていたから、もうそれが当然のように感じていたのだが、彼らもゲームキャラなのだ・・・。
「お疲れさまでした・・・復活の木の葉は頂けましたか?」
いつものスタッフが心配そうに声をかけてくる。
もしかすると、彼らもまだ先ほどの俺たちの様子はモニターで確認していないのかもしれない・・・。
「ああ、ちゃんともらえたよ・・・後で編集するときに不適切な場面があるかもしれないから、ちょっと事前に確認してもいいかな?
なにせ嫁入り前の娘のレイのパンツが映っているかもしれないのだ・・・、そんな場面は親として到底放送させるわけにはいかないからね。」
これ幸いと、編集に立ち会わせてもらうことを申し出る。
「ええ・・・それは構いませんが・・・、レイちゃんはかわいくて人気が出てきていますから・・・、パンチラショットであれば、そのまま放送させていただきたいのですが・・・。」
テレビスタッフが、上目遣いで拝むように手を合わせながら申し出る。
「いや、だめだ・・・、許しません!」
厳しい目つきで頑として突っぱねる・・・。
「はい・・・そうですか・・・、残念ですね・・・了解しました、ではこちらへ・・・。」
テレビスタッフは中継車の中のビデオモニタの前へと案内してくれた。
「これが再生で・・・これが早送り・・・、これが削除で・・・。」
ビデオ装置の取り扱い方法を説明してくれる。
「分かった・・・じゃあ悪いが、今日はもう遅いからファブのギルドまで送ってもらいたい。
その間に俺が、不適切場面がないかどうかチェックしておくから・・・。」
モニターチェックは移動中にやっておくことにして、今日はここまでだな・・・湖から始まりの村を越えて復活の木のところまで来るのに、半日使ってしまった。
急ぐ旅でもあるのだが、無理して躓くことだけは避けなければならない。
「なあに・・・、パパが冒険の放送の編集をすることになったの?」
発車後、モニター前に陣取る俺を見てレイが寄ってきた。
「ああ・・・、ちょっと放送する内容に注文を付けようと思ってね。」
モニター画面から視線を外さずに答える。
なにせ4人分のヘッドカメラの映像をチェックしなければならないのだ、結構忙しいはずだ。
「えっ・・・あたしのパンツ・・・?パンツ見えてた?」
どうやらテレビスタッフが小声でレイにいきさつを告げたらしく、レイが長い魔導士のローブを膝上までたくし上げながらつぶやく・・・。
「いや・・・あれはたしかにレイのパンツだった・・・、俺の視線に入ったわけだから俺のカメラにはその光景が収まっているはずだ。
だが、その場面は削除するつもりだ・・・、安心しなさい。」
レイには真顔で説明しておく。
「ふう・・・ん・・・いつかな?・・・東の森では魔物と戦わなかったし、パパとダーリンが復活の木の葉をもらっただけだったけど・・・?」
レイが小首をかしげて見せる。
「ああ・・・恐らくリーダーが復活の木の葉を受け取り損ねて、それを拾おうとしたときじゃないかな?
ほかの木の葉と混じっちゃったから、しゃがんだ姿勢のままで周囲をじっと見まわしていたから・・・。
僕もその時に一緒にかがみこんで辺りを見回したから、もしかすると僕のカメラにも映っているかもしれないな・・・。」
すぐに勘のいい源五郎がフォローに入ってくれた。
「ええー・・・、ダーリンにも見られちゃったの・・・?
うーん・・・、風なんかほとんど吹いていなかったはずだよー・・・、このローブ軽くて着やすいって思っていたけど・・・、ちょっとの風でもめくれ上がってしまうのかな・・・。」
レイがそう言いながら背中越しにローブの裾を気にして眺める・・・、心配させてしまい申し訳ない・・・。
モニターと音声をチェックしながら、復活の木が話してくれた内容部分を全て削除してしまう。
ついでにトシミさんたちの本日の脱出の際の会話部分も削除しておいた・・・、まあ映像がないので放送はしないだろうが念のため。
「恐らくこういったことは今後も起こりうるだろう。
悪いが娘を連れてきている手前、不適切な場面をそのまま放送させるわけにはいかないから、毎日俺がチェックした映像以外は、放送しないと約束してくれ。
そうでなければ車がつかえなくなることは不自由だが、俺たちは徒歩で冒険を続けることにする。」
改めてテレビスタッフに毎日の放送内容の検閲を申しでる・・・、なにせ先ほどのような場面は、今後も想定されるだろうからな・・・。
「ええっ・・・それは困りますよ・・・、シメンズさんたちの冒険放送は、この星中に放送されている数少ないオリジナル放送ですからね。
分かりました検閲でも何でもしていただいて構いませんから、それでも2時間の放送枠分の映像は許可してくださいよ・・・。」
スタッフが拝み倒すようにして手を合わせてくる。
「ああ・・・別に放送されるのが嫌だと言っているわけではない・・・、だけどいつもヘッドカメラはつけっぱなしにしているだろ?
意識していなくても不適切な場面が映りこんでいるかもしれないわけだ。
そのような場面がないかをチェックさせていただくだけだ・・・、君たちも人の親ならこの気持ちわかってくれるはずだがね・・・。
今回はレイの問題だったが、ツバサだって嫁入り前の大事な体なんだ。
パンチラや胸元がのぞくようなシーンは、割愛させていただくことになる。」
ついでにツバサ関連も許さずと付け加えておく。
「ええっ・・・ツバサさんはすごく人気がありまして・・・、ここ数年は拳法着がボロボロになってきていましたが、所々露出している柔肌がいいという応援のメッセージをたくさんいただいているくらいですけど?
メンバーがそろったことにより、ツバサさんを映し出す映像が得られて、大変好評を得ていたところですが?」
テレビスタッフは、ちらりとツバサの方に目線を移す。
確かにツバサの拳法着はつぎはぎだらけでボロボロだ・・・、恐らくまともにクエストができなかったから、新しい服を購入することも、なかなかできなかったのだろう。
胸元と腰回りは何とかカバーしてはいるが、激しい戦闘になると確かに見えてしまう恐れはあるわな。
それでも何とかなっていたのは、ツバサ自身のヘッドカメラしかなかったせいともいえるが、これからは俺たちがツバサに視線を移すたびに、あらわな肢体が移りこんでしまうこともあり得るわけだ。
「そんなお色気シーンで人気を出してどうする?これは純粋な冒険の旅の放送のはずだ。
ツバサにはすぐにでも新しい拳法着を購入させる・・何だったら膝まで隠れるくらいの奴をね。」
確かにツバサのセクシーショットは見たいところではあるのだが・・・、レイの前で鼻の下を伸ばしながらツバサの映像を眺めるわけにはいかん・・・、残念だがあきらめよう。




