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地球では・・・

1 地球では・・・

「おはよう。」

「・・・・・・・」

 朝起きて、洗面所で歯を磨いているレイに声をかけるが、無言のまま睨みつけられてしまった。


 うん?俺は何かレイに怒られるようなことをしたか・・・?いや、何もないはずだが・・・。

 まてよ・・・昨日・・・というか今朝は源五郎の車で送ってもらったのだが、レイはずっと眠ったままだったから、源五郎とお別れの挨拶もしていなかったな・・・。


 あいつは海外出張だといっていたから当分会えそうにもないし・・・、あわよければ海外土産なんかもおねだりできたかもしれなかったのにな・・・もしかすると、それで機嫌を悪くしているのか?


 そうはいっても俺だって源五郎に失礼と思ったから、何とかレイを起こして挨拶くらいはさせようとしたのだが、どれだけ揺り起こしてもまったく目覚める様子も見られなかった。

 子供だから眠りが深くて、ちょっとやそっとじゃ起きやしないのだ。


 そういえば源五郎に聞いた話では、ゲームの世界に行ったレイはずっと寝ていて、俺におぶさったままだったといっていたな。

 確か強力なねばねば魔物たちがいたはずだから、そいつらと戦って始まりの村に辿り着くまでにも目を覚まさなかったという事だろうから、恐るべき眠りの深さと言えよう。


「あっあのさ・・・。」

『ぷぃっ』とりあえず、源五郎とのことを説明しようとしたら、無言のまま洗面所から出て行ってしまった。

 ううむ・・・、相当機嫌が悪そうだな・・・。


「おはよう。」

「おはよう・・・、ご飯出来ているから早く食べちゃってね・・・。」


 妻がキッチンで俺の弁当を詰めながら、顔をあげずに告げる。(レイがうらやましがるのだが小学校は給食だ。)

『チンッ』オーブントースターのチャイムが鳴り、焼き立ての厚切りトーストを取り出し、1枚はレイの前の皿に置き、もう1枚を自分の前の皿に置く。


「レイ、マーガリンとってくれ。」

「・・・・・・」『ドンッ』すると無言のままで目の前にマーガリンの入れ物が・・・顔をあげると、レイがにらみつけている。


「レイ・・・そんなふうに眉間にしわを寄せていると、かわいい顔が台無しだぞ。

 おでこのしわも増えて一気に老け顔になってしまうんだぞ・・・、どうせしわを作るのなら笑顔でいなさい、笑顔で・・・。」


『シャキシャキ』トーストにマーガリンを塗りつけながら、機嫌の悪そうなレイの心の扉を何とかこじ開けようとする。


「・・・・・・・・」

『シャリッ』ところがレイはトーストをかじりながら、相変わらず無言のままで睨みつけてくるだけだ。


 なんだなんだ・・・、一体何があったというのだ・・・?

 ちょっと甘めのスクランブルエッグを頬張りながら、最近のレイとの約束事を思い出してみる。


 ううむ・・・先週連れていくと約束していた遊園地は、突然妻が産気づいたものだから病院へ連れていくことになって、中止になってしまった。

 破水にまで至らずに自宅に戻ってきたわけだが、その後近所のレストランでランチを食べて機嫌を直したはずなんだが・・・、何にしてももうじきやってくる新しい家族を楽しみにしているのは、レイだって同じはずだ。


 そうなると・・・ううむ・・・、最近レイと約束していてかなわなかった事柄に、思い当たる節はないはずなんだが・・・。


 昨日だって一緒にふろに入って・・・晩酌なしで晩飯を済ませた後に青空商会ビルへ・・・、それでゲーム機でゲームの世界へ自分の分身を送り込んだわけだ。

 レイだって分身が向こうの世界にいてゲームを始めているはずなのだが・・・、その時までは別に機嫌が悪かったわけではない。


 まあ、源五郎や綾瀬とかいう破産管財人のほかにも、ちょっと気味が悪い感じの奴とかいろいろな奴がいたから、びっくりしていたのかもしれんが、機嫌が悪くなるようなことは何も・・・、じゃあ一体どうして?


 ゲームの世界についた時もレイはずっと眠りこけていたようだから、俺が一人で戦ってレイを始まりの村まで連れて行って、レイの分まで初期データを記録したと源五郎が言っていたのだから、感謝されても怒られるようなことは何も・・・、いや待てよ・・・レイはずっと寝ていたわけだから・・・。


「れっレイ・・・、もしかすると、何も覚えていないのか?」

 やはりとは思いつつも、念のために聞いてみる。


「そうよ・・・あたしが寝ちゃったから、あたし一人だけ残してパパたちだけゲームの世界に行ってしまったんでしょ?

 どうしてあたしは連れて行ってくれなかったの?」

 レイが目に涙を浮かべながら、悔しそうに下唇をかむ。


「いや・・・レイはちゃんとゲームの世界に送り届けたぞ・・・、俺は先に行っていたからレイとの記憶はないが、源五郎はレイの後だったから、俺がレイを連れていたことを覚えていた。

 まあ、レイはずっと寝たままで俺がおぶっていたという事だったがな・・・。」


 そういえば、ちゃんとレイも送り届けたという事は言っていなかったな・・・、なにせずっと寝ていたわけだから・・、源五郎に送ってもらってレイをかかえたままベッドに寝かしつけたのだからな・・・、俺も帰ってから少し仮眠したし・・・。


 ゲーム機での睡眠は時間が短くてもリラックス効果が大きく、通常の睡眠時間の半分でもいいという触れ込みなのだが、流石に1時間半程度では短すぎたのか、帰ってきたのがまだ4時前だったから、2時間ほど仮眠したのだ。


「そんなこと言ったって・・・向こうの世界でのことなんてあたしは何も覚えていないよ・・・、いいよ、そんなウソを言わなくたって。」

 レイは目に涙をためたまま、そっぽを向いてしまう。


「いや、嘘なんかじゃないぞ・・・源五郎は海外出張とやらに行ってしまったからすぐには無理だが、帰ってきたら奴にも聞いてみるといい。


 何だったら破産管財人の綾瀬っていう人とか、他にも昨日青空商会の人が2人やってきただろ?

 あの人たちに証言してもらおうか?レイはちゃんとゲームの世界に送り込んだってことを・・・。」


 証人ならいるわけだし、まあ、ちょっと迷惑かもしれないけど、あの後の様子を確認がてら電話してみることもいいだろう。


「だって・・・何も覚えていないよ・・・、ゲームのさわりだけでもすごい世界を体験できるってダーリンも言っていたのに・・・何も覚えていないもの・・・。」

 レイはそういいながら頬を膨らませる。


「まあそうだろうな・・・魔物たちとの戦闘の中でも、まったく目を覚ますことなかったって源五郎も言っていたからな・・・、薄らぼんやりとでも覚えているかと期待していたのだが、だめだったか・・。

 せめて寝ている自分を見ている、なんて風にも思っていたのだがな・・・。


 まあでも、レイの分身をあの星に送り届けたというのは紛れもない事実だ。

 予想では今頃、俺と源五郎と・・・そうしてツバサ・・・にはまだ会えないかもしれないが、みんなで冒険の旅に出ていることだろう。

 だから、機嫌を直してくれよ・・・。」


 恐らく何度か揺り起こそうとしたはずなのだが起きなかったのだろう・・・、なにせ寝入りっぱなのタイミングだったから、余計なのだろうな・・・残念だがまあ仕方がない。


「そんなこと言ったって・・・じゃあどうして最初に行かせてくれなかったのよ・・・、パパが最初だったから待っていられずに、寝てしまったんだからね・・・。」

 レイの怒りは収まらない。


「レイはあのゲームは初めてだったから、どっちの方向に行けばいいかわからなかっただろ?

 西って言ってもどっちが西かなんて、どこにも書いてはいないし、簡単にはわからないんだぞ。


 そのうえ凶悪な魔物たちがいて・・・、恐らくレイが1番手で行ったなら始まりの村まで一人ではたどり着けなかっただろう。

 だからこそ俺が最初に行って始まりの村で初期登録を済ませたら、すぐに取って返してレイを迎えに行ったんだ。


 それだって1時間半近く経っていたわけだが、制限時間は2時間として設定されていた。

 初期登録は本来なら魔物が出ない環境で行う全くのデモだから、制限時間はそれほど長くは要らないないはずだが、それでも俺たちが最初のデモで行った時にはそれほど余裕といったわけではなかった。


 それくらいの時間で、あの環境で方角を正確に読み取って始まりの村にたどり着けるくらいの奴でないと、高価なゲームを購入することは許してもらえなかったわけだからな。


 分身が制限時間内に始まりの村までたどり着けなければキャラは消滅してしまうし、アクセスした本人にはゲームの世界の内容など全く伝わってこないわけだ・・・、だから恐らく今と一緒で向こうの世界の記憶はなかっただろう。


 それよりもレイの分身がゲームのキャラとして確実に定着できることを選んだというわけだ・・・、実際レイのキャラは作られたわけだしね・・・まさか完全に寝てしまうとは、ちょっと考えに入っていなかったけどね。」

 とりあえず、俺の判断が間違ってはいなかったことを主張する。


「そんなこと言ったって、パパやダーリンはちょっとでもゲームの世界の様子を見られたからよかったでしょうけど、あたしは全く見られていないのよ・・・、全然面白くないじゃない・・・。」

 レイは朝食を食べ終わった後も頬を膨らませたままだ・・・。


「うーん・・・だがなあ・・・今更どうにも・・・、それよりも・・・だ・・・、ツバサの身に何が起こっていたのか全く分からないが、うまいこと解決できれば、俺のことだから今度こそ何とかしてゲームの世界で起きたことを、俺自身に伝えたいと考えるはずだ。


 なにせ昨日聞いた限りでは、綾瀬っていう破産管財人も、定男とかいう奴も向こうの世界での冒険の様子をちゃんと覚えていたからね・・・、つまり時間を戻そうが何をしようが、ゲームの世界で起きたことを本人に伝える手段はあるという事だ。


 俺たちと一緒に冒険をしたはずのツバサだって、記憶を持ったまま時をさかのぼったといっていたからね。

 だから今度こそ・・・、向こうで起こったことが伝わってくるんじゃないかと、俺は期待している。


 もちろんその時にはレイにだって冒険の記憶が伝わってくるはずだ、だから毎晩一緒に祈ろう・・・、俺たちの冒険がうまくいきますようにと・・・、冒険の様子がちゃんと伝わってきますようにってね・・・。」

 レイを慰めるつもりのいいわけではないのだが、俺にはある程度の期待はある。


「ふうん・・・そういえばおじさんたち、昨日ゲームの世界での話をしていたね・・・、途中で寝ちゃったけど。

 あれはあの人たちが、ゲームを作ったからじゃなかったの?


 わかった・・・、毎日祈る・・・、レイも毎日祈るー・・・。」

 すると突然レイが目を輝かせて、椅子から立ち上がって叫び始めた。


「ようし・・・じゃあ、毎晩パパとお風呂に入っているときに一緒に祈ろうね。」

「うんっ」

 やった・・・これで当分の間はレイが一緒にふろに入ってくれるという約束まで取れたわけだ、まさに一石二鳥だな・・・。



「こんにちは・・・、村木です。

 何かわかったかな?」

 昼食の弁当を食べ終わった後で、綾瀬に電話してみる。


 昨日のゲーム機の設定の異常に関して、当時の関係者たちを洗ってみると言っていたのだ。

 あんなすごい裏技で分身を送り込んだ首謀者が特定できれば、その理由もわかるだろうし、何より対処方法が分かればもう一度誰かを送り込んでもいいわけだ。


 それが無理でも早いうちに解決できれば、俺の分身だったら次はそれまでの冒険の記憶を何とかして俺に伝えてこようと考えるはずだ。

 それには恐らくもう一度ゲーム機に入る必要性があると考えているのだが、それがいつなのか大体見当をつけるためにも真相の究明は必須なのだ。


「ああ・・・特に怪しいのはゲームのプログラマーたちだが・・・、なにせ会社が解散してから9年も経っていると、消息をたどるのも容易ではない。

 青空商会にあった連絡先はほとんどが不通のため、興信所などを使って調べようとしている。


 なにせ、あのような不正のおかげでゲーム機自体の信頼が失われてしまい、最終的に会社がつぶれてしまったわけだからな。

 行い自体に悪意を感じるというか、よからぬことを企てていたことは間違いがないだろう。


 翔たちには警察に届けることを勧めたが、今更だからいいと断られてしまった。

 警察に調べてもらえば消息確認などは楽に行えると思っていたのだが、仕方がないので興信所を使わざるを得なくなったわけだ。


 まあ、1日2日じゃあ何人分も報告は上がってこないだろう・・・、長期戦だね。」

 電話口の綾瀬の声も元気がない。


 確かに10年近くも経過しているのだ・・・、いくらあの時とんでもなく強い魔物たちが送られていたために、各国政府が送り込んだ分身たちは全員全滅したのですよ・・・、と真相を説明したところで、だったらもう一度やってみましょうか、なんて簡単になるはずもないし、更にゲーム機はもう1台しか残ってはいない。


 またそのような裏モードがあることが分かると、もっと特殊なモードを使えば本物の超人なども作り出せたり、それを地球に送り込むことも可能だなんて勘繰られることにもなりかねない。

 そうなればまさに兵器制作装置であり、藪蛇になってしまうだろうな・・・。


 公に出来ないとなると民間の力で人々の行方を追って、個別に接触していくしかないというわけだ。

 捜査権もないのだから、あなたがやりましたか?なんて聞いたところで、犯人がそうですなんて認めることは到底考えられない。

 たいていの場合は、自分ではないと否定するはずだ。


 そうなると、たとえ現住所が分かったとしても調査は難航するだろうな・・・、なにせそいつのおかげで会社がつぶれたという事になりかねないわけだから、元社員の報復を恐れる意味でも認めることはあり得ないわけだ。


 そう考えると一体どうやって犯人探しをするつもりなのか・・・、例えばゲーム機についていた新しい指紋をとったりして・・・、となると昨晩の俺たちの指紋がべったりついているわけだから、俺たちが一番怪しいという事になってしまうから、これは無理だな。


「そうか・・・大変そうだね、何かわかったら教えてもらえるかい?

 こっちとしては犯人探しには興味はないのだが、今回の行いの原因が分かれば、それなりの解決方法もわかるだろうし、解決までの道筋がある程度予想できるのではないかと考えているんだ。


 そうして大体の時期を想定してもう一度あのゲーム機に横たわれば、今回の冒険の様子が伝わってこないものかと考えている。」

 とりあえず電話した真の理由を正直に述べておく・・、できれば協力してほしいからだ。


「ああそうか・・・、悪いがゲーム機にはもうアクセスできないかもしれないぞ・・・、なにせ昨晩のことが問題となっているようだからな・・・。」

 綾瀬は少し話し辛そうに、小声でささやくように話しかけてきた。



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