脱出
14 脱出
「それでは、トシミさんたちはテーブルクロスを持ってついてきてください。
大きな葛籠は水の中でないと重いですから、俺と源五郎で運びます。」
小さな葛籠はツバサの腰に結び付けて、操舵室のドアへと続く積み上げられたテーブルたちを登っていく。(どうやらドアの脇にテーブルやいすが積み上げられていたようだ。)
「あれ?これって・・・」
源五郎が大きな葛籠を持ち上げようとして、その下部や側面につけられた、いくつもの金属製の輪を眺める。
「おお、そういえばこれ・・・」
と言って腰のベルトにかけている、いくつものフックのついた金属棒を手に取る。
葛籠とともに保管されていたもので、重し代わりにちょうどいいと思っていたのだが、どうやらここにかけるのが正解だろう。
大きな葛籠をぎりぎり扉から押し出して、手すりを伝って水面へと降りていく・・・が、後続が来ない。
「どうしましたか?」
大声で、中に呼び掛けてみる。
「申し訳ありません・・・わたくしたちは任務に失敗してしまいまして、地上に出ることは許されない身の上なのです・・・、あなた様方だけ、お戻りください。」
ハッチ状のドアからトシミさんが顔だけ出して別れを告げる。
「そんな・・・大丈夫ですよ、きっと話せばわかってもらえますよ。」
折角脱出できそうな手立てを考え付いたというのに、ここに閉じこもっている必要性はないわけだ。
「いいえ・・・このまま地上に出てしまえば、わたくしたちに重い罰が下されてしまうでしょう。
わたくしたちは、ここに居残ることを罰と受け止めて、ここに留まります。
その葛籠はどちらも差し上げますから、お持ち帰りください・・・。」
『ガッシャンッ』そういって、ハッチのドアは閉じられてしまった。
「仕方がない・・・恐らく彼女たちに指令を下している奴らと、俺たちが追ってきた異常な設定でこの世界にやってきたやつらは、同じ者たちだろうと推定される。
早いところ、この何が起きているのかわからない状況を打開して、彼女たちが地上に戻れるようにしてあげよう。」
とりあえず使い方はわかったので、葛籠の輪にフック付きの重しをかけると、大きく息を吸い込んで入り口から湖底へと降り、後は葛籠を押しながら湖底を歩いていく・・・というか、葛籠には大きめのキャスターがついているので、俺たちも葛籠の側面の輪を手に持ちながら葛籠を押していくのだ。
強烈な渦に翻弄されながらも重しを付けた葛籠は安定していて、強い渦にも流されずになんとかまっすぐ進むことができた・・・か弱い細腕のトシミさんたちでは葛籠にしがみついていることも、難しかったかもしれないと考えながら・・・。
そうして渦の外側まで出ると、葛籠の重しをひとつずつ外していき、あとは大きな葛籠の浮力に従って湖上へ一直線だ・・・。
『ザッパァーンッ』大きな水しぶきとともに、湖面に浮上する。
『バシャバシャバシャバシャ』すぐに葛籠の一方に4人とも移り、岸に向かってバタ足で泳いでいく。
『バシャバシャバシャバシャ・・・ゴンッ』やがて衝撃音がして顔をあげると、葛籠は湖岸の桟橋に衝突していた。
ようやく戻ってきたようだ・・・、すぐに桟橋へよじ登ると、レイやツバサを引き上げてやる。
「何とか戻ってこられましたね・・・。」
源五郎も自力で何とか桟橋によじ登り、ほっと息を吐く。
「ああそうだな・・・そういえば昨日の夕方からずっとカメラを停止したままだった・・・、テレビクルーに叱られるから、スイッチを入れておいた方がいいな。」
すぐにテレビカメラのスイッチを入れ、皆にも促す。
「あっそうだ・・・、葛籠を開けてみない?
何かいいものが入って・・・。」
レイが思い出したように催促してくる。
『ザバッ・・・ゴンッ・・・カチッ』大きな葛籠を桟橋に引き上げ、金具を外し蓋を開ける。
「あっ・・・これが宝剣ね?」
葛籠の中にあったのは、柄の部分に多数のきらびやかな宝石がちりばめられた、まさに宝剣が入っていた。
何にしろ、これでクエストは成功のようだ。
「おお、ご苦労さん・・・、どうやらこの湖のにっくき外来種のブラックダンプは全て退治し終えたようじゃの。
これでこの湖でも釣り船や貸しボートを出すことができそうじゃ、ありがとう、ありがとう・・・。
ところでじゃ・・・、ボートがないようじゃが・・・沈んでしまったのか?
まあボートは古い樹脂製のものじゃからどうでもいいんじゃがの・・・、じゃが最新鋭の魚群探知機はどうしたんじゃ?あれだけは持ち帰ってくれと頼んでおいたはずなんじゃが・・・。」
釣り船屋のおじさんがやってきて、俺たちの格好を見て文句を言い始める。
そういえば、そんなこと言っていたな・・・すっかり忘れていた。
「ああ、そうだったね・・だけど湖中央の巨大な渦に巻き込まれてしまってね・・・、ボートもバラバラになっただろうし、魚群探知機は回収できなかったよ・・・、申し訳ない。」
とりあえずここは謝っておこう。
「ならん・・・、あの高価な魚群探知機はこの釣り船屋の自慢だったんじゃ。
あれがあったからこそ、釣り人を最良のポイントに導けたわけで、あれがないと商売あがったりじゃ。
仕方がない・・・、お前さんたちに魚群探知機代わりにうちの店で働いてもらって、湖に潜って魚のいる場所を見つけてもらうしかないな・・・、人間魚群探知機というわけじゃな、はっはっはっ・・・。」
おじさんはそういうと高らかに笑い始めた・・・、いや、そんなこと言われても・・・。
「それは無理だ・・・、俺たちには冒険の旅を続けなければならないという、重要な使命がある。
弁償して済むのなら弁償するから、いくらなんだい?あの魚群探知機とやらは・・・。」
手持ちの金はそうあるわけではないが、3人分あわせればそこそこ支払いできるだろう。
「ほう・・・、お前さんたちに払えるかのう・・・、10万Gじゃぞ!」
おじさんはにやりと笑う・・・、10万って・・・、冒険始まったばかりで、そんなに持っているはずもない。
「困りましたね・・・、葛籠に入っていた宝剣を売ればそれなりのお金になるでしょうが、それではクエストが達成できません。
かといって、ここで働くことになったとして、一体いつになったら解放されるのか・・・。」
源五郎が小声でささやいてくる。
「わしの店は時給が1Gじゃからの・・・、一人25000時間働いてもらわんと返せんぞー・・・。」
おじさんはニタニタといやらしい笑みを浮かべてくる。
「1日10時間働いたとしても2500日かかるわけですからね・・・、何年も足止めを食らってしまいますね。」
源五郎がまたもささやいてくる。
まいったな・・、かといって湖に戻ったところで、魚群探知機が見つかる可能性は低い・・・。
「こっちのつづらも開けてみましょうか・・・、何か金目のものが入っているかもしれません。」
ツバサが、自分の腰に結び付けていた小さな方のつづらを指さす。
そうだ、葛籠はもう一つあったのだ・・・、早速開けてみよう。
『カチッ・・・』葛籠の中身は・・・?
「おじさん、こんなものが入っていたよ・・・最新鋭の魚群探知機・・・、これでおじさんに借りはなしだね?
じゃあ、ブラックダンプを退治してあげた、お礼を頂きたいね。」
なんと葛籠の中には魚群探知機が入っていた・・・、探知機を取り出しおじさんの手に無理やり握らせる。
そうして親切の押し売りじゃあないけど、見返りを求める行為は好きではないのだが、おじさんの先ほどまでの態度にむかむかしているので、ちょっと脅かしてやるため、これ見よがしに両手を突き出す。
「ちぃっトシミたちめ・・・、作戦に失敗しただけではなく、敵に塩を送る様な真似までしでかしおって・・・。
こうなりゃ仕方がない・・・力づくでもこの先へは行かせられんな・・・、お前たちもそれなりの強さレベルでこの世界に送られてきた様子だが、まだまだ上には上がいるという事を知る羽目になるだろう。
唯一対抗できそうなのはツバサ一人だけだが・・・、いかに世界最強でも俺たち町民に対しては、その世界最強の力はふるえまい・・・、なにせ魔物とか敵キャラではないのだからな。
対する俺たちは魔物に対しても冒険者に対しても、さらには一般人に対しても戦いを挑めるような裏コマンドを仕込んでおいたからな・・・、ツバサに対しては、俺のことを敵と認識する前に仕留めてやる。
そのあとはお前たちだ・・・ゆっくり待っていな・・・、お前たちのお陰でツバサをこの地へ誘い出すことができたわけだからな・・、その点に関しては感謝しているぞ。
なにせ南部大陸で日々戦闘を続けるばかりで、何年間も動こうとしなかったもので、弱っておった。
あの地でツバサを仕留めようとして戦闘を仕掛けることにより、魔王を刺激して目覚めさせてしまうことを恐れ躊躇していたのだ・・・、折角冒険者ではなく町民としてこの地にやってきた意味がなくなるからな。
魔王城からはるか遠くの中央諸島でなら、存分に戦えるわ。」
おじさんは姿勢を低くしながら、クワを手に身構える・・・あくまでも敵対象とならないために、町民としてふるまうつもりのようだ。
「ふうん・・・あんたも最高の経験値をもって送られてきたうちの一人というわけだ・・・、それなら教えてくれるか?あんたたちは、どれだけ多くの魔物たちをこの地に送り込んだんだい?
向こうでの予想では500匹程度という事だったが、この湖だけでももう500匹の魔物を退治し終えたんだが、ツバサの話によると、まだまだ世界各地に強力な魔物たちがうようよいるという事だ。
何千匹も送り込んだのかい?一体どうやって?
それと、どうしてツバサを倒したがるんだい?個人的な恨みでも持っているのかい?」
どうやらこのおじさんが、謎のグループの一員のようだから、まずは疑問点を聞いておく。
「うん?そんなことを聞いてどうする・・・?どうせお前たちの命は風前の灯火・・・だからまあいいか、教えておいてやる。
まずはお前さんたちの推察通り、この世界に送り込んだ強力な魔物たちは500匹程だ・・、それぞれつがいで2から3組ずつ送り込んだ。
つがいだからなあ・・・分かるだろ?繁殖して10年も経てば数が増えるわけだ・・、なにせそれぞれレベルが高いから、それまでその地にはびこっていた魔物たちを押しのけて、勢力範囲を広げていったわけだな。
なにせ冒険者はツバサたった一人だけだったからな・・、しかもレベルが低すぎてクエストに参加することもできなかったから、魔物たちはそれこそ増え放題だった。
それから、ツバサをどうして倒したいのかというと・・・、俺たちの望みである110年前の世界に戻るという願いにツバサだけは参加しないからだ・・、おかげでいつまで待っても願いがかなわない。
1時期は関係者の中にゲームキャラも含まれるのではないかと、ギルドの受付嬢たちにも指示を出して、毎日決められた時間に願うようさせたわけだが願いがかなわない・・、それはツバサ一人が原因なわけだ・・・、なにせ関係者全員が願わなければかなわないのだからな。
だから仕方がない・・、かわいそうだが倒させていただくよ。」
おじさんはそういって身構える。
ふむそうか・・・やはり110年前にさかのぼるという事に、何か重要な意味がありそうだな・・・、それを邪魔するものは許さないという事か・・・、ようくわかった。
「そうか・・・じゃあ、こちらからも言わせていただこう・・・何も最高経験値でこの世界に送られてきたのは、お前たちだけではないのだという事を・・・。」
剣を抜いて身構える・・・が、おじさんの姿が暗転してうまく目の焦点が合わせられない・・・、それもそのはず、俺にとっておじさんはただの町民であり、攻撃対象ではないからだ。
『ブンッ・・・シャパッ・・・ブンッ』それでも委細構わず素振りのつもりで鋼鉄の剣を振り回すと、空振りもしたが、おじさんの持つクワの柄部分を真っ二つにたたき斬り、肩口を斬りつけることができた。
伊達にシューティングゲームを夜通しでやっていたわけではない、相手が視界に入らなくても、ある程度の感覚で攻撃できるくらいじゃなくては、敵の銃撃を避けながらこちらから攻撃を仕掛けることなどできやしない。
俺たちに向けて発したレイの魔法が漏れてトシミさんたちを攻撃したように、攻撃対象にならない町民に対してでも、その攻撃範囲内に相手がいれば、影響があるのは承知の上での行為だ。
「なっ・・ばかな・・・」
おじさんはおそらく目を白黒させていることだろう・・・、戦闘モードだと対象以外はその姿が暗転しているから、表情が確認しづらいのが玉にきずだ。
『シュッシュッシュッシュッシュッ・・・ブンッズバッブンッブンッズバッズバッ』さらに源五郎が矢を射かけてきた・・・、いくつかはおじさんの体の横を抜けていったが、それでも何本かは体に突き刺さったようだ。
急所は狙えなくても手足や肩口など、とりあえずどこでも当てれば幸いだ。
「レイちゃん・・・、あの矢を狙って雷撃を練習のつもりで発してくれ!」
源五郎から指示が飛ぶ。
「まっかせて・・・、神の裁き(ライデン)!」
『チュドォーンッ・・バリバリバリバリッ』すさまじい閃光と耳をつんざくような爆音とともに、稲光がおじさんに突き刺さった矢に落ち、『プシュー・・・』おじさんは頭から煙を出してうずくまった。
「ちっ・・お前さんたちも最高経験値でやってきた口か・・・、今日のところはここまでだ、覚えて置け・・・。」
『フシュッ』なんとも情けない捨て台詞を残して、おじさんは中空へ消えた・・・瞬間移動か?
急所を狙えていないから魔法効果も薄かったのだろうな・・・、仕留め損ねたようだ。
「うーん、なんともややこしいのが出てきたな・・・、どうやらあいつがこの世界をおかしくさせている奴らの一員のようだ。
目的も何もかもが不明なのは依然として変わらないが、気のせいとかではなく本当に敵がいることが判明したわけだ・・・、そいつらは百年前の世界へ行きたがっているし、ゲームキャラたちに指示を出して意のままに操ることもできるようだ・・・。
ううむ・・・奴らがやっていることが正しいことなのかどうかだが・・・、俺たちをだまし討ちしてでも足止めしようとしたように、どうやら正義とはいいがたいことをやろうとしていることは間違いがない。
そうであれば奴らの野望を打ち砕くべく、俺たちは冒険を続けて行って、魔王や魔神たちを目覚めさせてこの世界を奴らから取り戻すよう頑張ろう。」
ツバサの祈り?が聞こえたからこの世界へやってきたのだが・・・、どうやらなにか大変なことが起ころうとしているのは間違いがない様子だ。
それがこの世界にどう影響するかはわからないが、やっている奴らに悪を感じる限り放っておくわけにもいくまい・・・、なんとしてでも阻止してやる。
「そうですね・・・久々の冒険と浮かれてやってきましたが、先の見えないしんどい旅になりそうな予感がします。
でも、この世界を奴らから解放するために頑張りましょう。」
源五郎はやる気満々の様子だ。
「小さな葛籠の底に、こんなものが・・・。」
ツバサが小さなカギを取り出して見せてくれる。
「おお・・・賢者のトンネルのカギだね・・・、これで冒険の旅が続けられる。」
「うれしいです、皆さんが来なければ、きっと今頃この世界は奴らの思い通りにされていたと思います。
何とか奴らからこの世界を取り戻せるよう、頑張りましょう。」
ツバサも目を輝かせながら答える。
「うーん・・・あのおじさんみたいに、シュッと消える魔法を覚えたいなー・・・。
何とか捕まえて、魔法の呪文を聞き出さなくっちゃ・・・。」
レイは別の意味で、さっきのおじさんを捕まえたい様子だ。
ともあれ、10年ぶりに俺たちの冒険の旅が再開されることとなったわけだ・・・、今度こそ冒険の最後まで行きたいものだ・・・実際は2度攻略したという事のようだが、なにせ記憶がないのだから・・・。
続く




