表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/202

誘惑

13 誘惑

「えー・・・こうやって、テーブルクロスを結び合わせて1枚の大きなシートにします。

 そうしてから、この大きな葛籠にかぶせ、裾を掴んだまま下側に回り込みます。

 葛籠の中には空気が入っていますから、水の中では浮くはずです・・・、これを浮き輪代わりにして湖上まで上がっていけばいいわけです。


 それで・・・渦をどうやって抜け出すかですが・・・、湖面では強烈な回転力で湖底に向けて急流を作り出しているようですが、その流れは湖底では渦の外側に向いているはずです・・。

 ですから、湖底ぎりぎりを姿勢を低くして進んでいけば、渦の外側に出られるはずです。


 もちろん、こんな浮き袋のような葛籠を持ったまま湖底すれすれを進むことは不可能でしょう・・・水の中では体が浮いてしまいますからね。

 そのため、湖底を進むときには体中に重しをつけていくわけです。


 激しい水流にも負けないくらいの重しをつけてゆっくり進んでいけば、渦の外側に出られるはずです。

 外側に出たら重しを外せば・・・、あとはこの葛籠が浮上していくのと一緒に湖面まで浮かび上がれます。

 湖面に出たら、あとは必死で葛籠にしがみついたまま、バタ足で岸へ向かって泳いでください。

 ぐずぐずしていると渦に引き寄せられて、また湖底に戻ってきてしまいますからね。」


 操舵室まで戻ってきた俺は、練りに練った・・・とも言えないが、急に思いついたにしてはましと言えそうな脱出作戦を、ナガレさんにとって来てもらった数枚のテーブルクロスを大きな葛籠にかぶせながら説明する。


「そうですか・・・わたくしたちでもここから脱出することができそうですね・・・、ありがとうございます、あなた様達は、わたくしたちの救世主です。

 でももう遅い時間ですから脱出するのは明日にするとして、本日はお休みください・・・。

 お食事とお部屋をご用意させていただきます。」


 トシミさんたちが深々と頭を下げる・・・、いやいや・・・そこまで感謝されなくても・・・そんなに大したことを思いついたわけでもないわけだし・・・。



「では、お召し上がりください。」

 先ほどレイを看病していたベッドのある部屋の隣が食堂のようで、温かいスープやパンがふるまわれた。


「おいしいっ・・・、ママの料理みたい。」


 久しぶりの家庭料理に、レイも満足の様子だ・・・。

 うん・・・確かにうまい・・・、何年も冷凍された食材で作られたものとは思えないくらい新鮮で、野菜もシャキシャキしているし、とてもおいしく感じられる。


「ご馳走様・・・大変おいしかったです。」

 トシミさんに礼を言う。


「そんな・・・あり合わせの食材で作っただけですので・・・、大したお構いもできず申し訳ございません。

 それでも本日が湖底での生活最後と信じて、もてる食材を使って最高のおもてなしをさせていただきました。

 ご満足いただけましたなら幸いです・・・。」


 トシミさんとナガレさんたちは笑顔で食器を片付けていく。

 そうか・・・彼女たちの2年半にも及ぶ遭難生活も、これで最後となるわけだ・・・。

 明日は無事に岸に上がれるよう、俺たちも協力しなければなるまいな・・・。


「それでは、隣の部屋にお床を準備いたしましたので、どうぞお休みください・・・。」

 トシミさんに誘われるまま、食堂を出て通路を歩いていく。


「こちらです。」


 あれ?案内された部屋には、ベッドが2つあるだけ・・・、最悪俺とレイは親子だから一つのベッドでも構わないのだが、ツバサと源五郎の組み合わせではちょっとまずいだろう。

 仕方がない・・・ツバサとレイと、俺と源五郎で男女同士でそれぞれのベッドで寝ることになりそうだな・・・。


「あたしはちょっと通路を走って汗を流してきます。」

 ツバサは部屋が決まってよしとしたのか、そのまま通路を駆け出していった・・・、特訓の評価が低いからやめるよう勧めているのだが、習慣となっているから無理なのだろうか・・・?


「この部屋は狭いのでベッドを2つしか置くことができません・・・なので、ここはツバサ様とレイ様、女性お二人でお使いいただくこととして・・・、サグル様と源五郎様は・・・大変申し訳ありませんが、わたくしたちと同じ部屋で就寝願います・・・。」


 トシミさんは申し訳なさそうに目を伏せ気味で告げる・・・・、なんだって?俺と源五郎はトシミさんたちと同じ部屋で寝るだって・・・?そんなうれしいことを言っていただけるとは・・・・、まるで夢のような・・・というか夢に決まっている。


「ではどうぞこちらへ・・・。」

 レイを部屋に案内すると、ナガレさんまでがやってきて、一緒に俺と源五郎の手を取って通路の先へと案内を始める・・・、そうか俺はトシミさんと・・・源五郎はナガレさんとの組み合わせなのか・・・。


「ちょちょっと・・・、どこ行っちゃうの?

 パパもダーリンもどうしちゃったの?」


 後ろからレイが追いかけてくる・・・うーん、確かにどうしちゃったんだろう・・・妻以外の女の人に誘われてそれについていくなんて・・・、普段の俺からは到底考えられない行動だ・・・、だがしかし、トシミさんのあの怪しく輝く瞳に見つめられると・・・、何も考えられなくなって体が自然と後をついていってしまう・・・。


「だめー・・・ダーリンもパパもだめー・・・、神の裁き(ライデン)(自パパ)!神の裁き(ライデン)(自ダーリン)!」


『チュドーォーンッ』トシミさんに手を引かれて通路をゆっくりと歩いていくと、突然脳天を貫くような強い衝撃を食らい、そのまま地べたに倒れ伏した。


 何だ、なにが起きた・・・?意識が戻ってきて辺りをきょろきょろと見まわすと、同じようにすぐ隣では源五郎も周囲の様子をうかがっているようだ。

 そうして俺のすぐ横には、髪の長い美女が横たわっている・・・。


「トシミさん・・・、どうしました?大丈夫ですか?」

 倒れている彼女をすぐに抱きかかえて、大声で呼びかける。


「ナガレさん・・・大丈夫ですか?」

 俺の隣では、同じように源五郎もナガレさんに向かって呼びかけているようだ。


「浅はかでした・・・こんなことであなたたちを足止めできるなんてこと、本気で考えていたとは・・・。

 この先の倉庫には内側からは扉の開閉を行うためのハンドルはついておりません・・、そのため一度中に入ってしまえば、外から開けない限り出られない仕掛けになっております。


 その代わりに中には観葉植物も生い茂っておりますし食料も豊富に備蓄されておりますし、私どもが付き添ってお世話させていただく所存でした・・・。


 もうお判りでしょうが、わたくしたちの使命はあなたたちお二人をこの船の中に閉じ込めて、動けなくさせる事でした・・、ですが簡単に失敗してしまいましたね・・・。

 このような裁きを受けるのも、天罰と考えております。」


 そう言い残してトシミさんはゆっくりと目を閉じる・・・、同時に彼女の体が急に重くなったような気がした。

 体中の力が抜けてしまった様子だ・・・、彼女の体を覆っている白い布はあちこちが焼け焦げていて、むき出しになった白い肌も所々火ぶくれができている。


 恐らく強い雷撃を食らって、大きなダメージを負ってしまったのだろう。

 まずいっ・・・すぐに袋を探って復活の木の葉を取り出すと、トシミさんの口の中に押し込む。


「トシミさんっ気をしっかり持つんだ・・・、木の葉をかんで飲み込んでくれ。」

 俺は効果があるかどうかわからないが、トシミさんの後頭部を左手で支えると、右手を使って無理やり彼女の顎を動かしてみた。


『ゴクンッ』すると、彼女の体に反応が・・・。


「あれっ・・・なんともありませんね・・・、確かものすごい閃光に包まれてしまったような気が・・・。」

 トシミさんは突然元気になり、自分で起き上がると辺りを不思議そうに見まわしている。


「あれ・・・、一体どうしたんだ・・・?」

 源五郎も復活の木の葉をナガレさんに与えたようで、ナガレさんも状況が分からずにただただ辺りを見回しているようだ。


「申し訳ありません・・・恐らくレイの奴が勘違いをして、トシミさんたちに向けて雷撃を発してしまったのだと思います。

 すぐに復活の木の葉を処方しましたから、お二人とも命に別状はないと考えます。」


 トシミさんに頭を下げながら陳謝する・・・、よかったよかった・・・。


「そんな・・・わたくしたちは、お二人の冒険の旅を邪魔しようと画策したのですよ。

 そのような愚かな行為を恥じることもなく行ってしまったわたくしたちの命を助けるとは・・・、一体どういうお考えなのですか?


 そのまま捨て置かれた方が、どれだけよかったか・・・この先何年も、この愚かな行為を思い起こし、自責の念にさいなまれながら己を呪い続けなければなりませんのに・・・。


 そんなわたくしたちに貴重な木の葉をお使いになられるとは、なんと愚かな・・・。」

 トシミさんはその場に崩れ落ち、涙を流し始めた。


「あなた方とは以前の冒険でもお会いしましたが、冒険者が先へと進むための特別なアイテムを頂きました。

 つまり冒険者を魔王へと導くため、冒険者のサポートをする立場のはずです・・・、それなのにどうして・・・?」

 声のする方へ振り向くと、そこにはツバサが立っていた。


「申し訳ありません・・・、あなた様達をここで足止めするよう指令が出ておりましたもので・・。」


「それは、誰からの指示なのですか?」

 なおもツバサが尋ねる。


「それは申し上げられません・・・ですが、わたくしたちはその指令に逆らうことができないのです。」


 トシミさんは目を伏せ、つらそうな表情で訴える・・指令に対して逆らえないのも当然だ・・・、彼女たちはゲームの世界に作られた直接の意思を持たないキャラなのだからな・・・。


「どこの誰かはわからないが、あなたたちが逆らうことができない形の指令で、無理やりやらされていたわけでしょう?だったら仕方がないですよ。

 お二人ともあまりにも美しくて魅力的なために、危うく引っかかるところでした・・・危なかったなあ源五郎。」


 彼女たちのせいではないのだ・・・話を切り替えるためにも、源五郎の方に振り向いて同意を求める。


「はい・・・・ナガレさんの瞳に魅入られてしまい、自分の気持ちとは全く別の行動を体がとることに驚きを覚えました・・でも、悪い気はしませんでした・・・、なにせナガレさんは本当に魅力的ですから。」

 源五郎も少し恥ずかしそうに、顔を赤らめながら笑顔で答える。


「私どもの瞳には、男性を引き付ける魔性の輝きを宿しているのです。

 このたびは大変申し訳ありませんでしたが、使わせていただいた次第でございます。」


 トシミさんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 そうだったのか・・・魔性の輝きね・・、道理で俺だけではなく源五郎までもが簡単に引っかかったわけだ。


「まあ、そのような技を使われたにも関わらずレイに救われたわけだが・・・、それにしてもちょっとやりすぎだぞ・・・、彼女たちは魔物ではなく一般の女性なわけだから、あまり強い雷撃を当ててしまうと、命に危険が及ぶとは考えなかったのか?


 いくら俺たちを誘惑していたとしても、レイの魔法はちょっと危険だったな・・・。」

 危うく2人の美女の命を奪うところだったレイには、助けられたとはいえ注意しておかなければなるまい・・・。


「えー・・・あたしが狙ったのはパパとダーリンだよ・・・、大体・・・お姉ちゃんたちをどうやって魔法で狙えるの?魔法のターゲットには敵魔物しかないんだよ、味方を狙うときに特別な方法があるだけなのに・・・。」


 ところがレイから意外な答えが返ってきた、一般人を狙う魔法はないという事か。

 とすると・・・、俺たちを狙った攻撃だったというわけだ・・・?


 そういえば・・・『カチャッ』鎧を外してみると、下着が真っ黒に焼け焦げているではないか・・、そうして関節部など所々が真っ赤な火ぶくれになっている。

 確かに先ほど見たトシミさんの火傷よりも、俺の体の方が重傷だ・・・、でも一体どうして?


「そういえば、上級魔道術には味方グループへの攻撃方法も記載がありました。

 魔道も上級レベルになると、敵を操って意のままに動かすこともできるようで、それに対抗する手段として敵に寝返った見方を攻撃する方法があるようです。


 この前レイちゃんと一緒に上級魔導書の勉強をしたときに、敵への攻撃方法と味方への攻撃方法両方をきちんと区別できるよう何度も練習したので、レイちゃんも試してみたのでしょう。

 味方に対する攻撃は、個別のターゲットのみでグループ単位はできませんが、確実にヒットできるようですね。」


 源五郎が頷きながら解説する。

 ふうむ・・・味方への魔法攻撃なんてのがありうるわけか・・・、それは今回のように味方が敵に操られてしまった場合などに攻撃できるよう、設定されているというわけだ。


「でも、それではどうしてトシミさんやナガレさんは瀕死の重傷を負ってしまったんだい?

 レイの魔法の狙いが正確ではなかったとでもいうのかい?」

 俺たちを狙ったつもりで、狙いが少しずれていたとでもいうのか?


「まあ、恐らくそうではないでしょう、なにせ上級魔道ですからね・・・、しかも最大経験値のレイちゃんが唱えるのですから強力なわけですよ・・・、僕たち自身も経験値がMAXですから、魔法攻撃にも何とか耐えられたのでしょうが、そのわずかな漏れを受けてしまった彼女たちには、強烈な破壊力となってしまったのでしょうね。


 なにせ、彼女たちと僕たちの距離が近すぎましたからね・・。」


 源五郎があくまでも冷静に分析する・・・そうか・・・、俺たちが受けた雷撃のその漏れだけでも彼女たちには大きなダメージとなったわけだ・・、一体どれだけの魔力だったのだ?

 俺たちの命だって、本当は危なかったということなのか・・・?


「まあそうか・・・、味方が操られたときに気付けのために魔法をかけることはあってもいいのかもしれない。

 だが、今後はもう少し加減して弱めの魔法にしておいてくれ・・、下手をすると、その魔法で俺たちの命が失われることになってしまう場合だってありうるわけだからね。」


「はーい・・・、今度はもっと弱い初級魔法にするね・・。」

 レイは反省しているのかどうかわからない笑顔を見せる。


「まあでもよかった・・・、パパもダーリンも・・・、いくらきれいなお姉さんだとしても、ひょいひょいついていってはいけませんよ・・、分かりましたか?」


『はい!反省しております。』俺と源五郎は、同時に大声で謝り頭を下げる。

 今度はレイの方から指摘されてしまった・・・、魔性の瞳を使われたとはいえ確かに情けない・・・、気をしっかりと持っていれば対抗できたはずなのだ・・・・、何せ俺たちのレベルは遥かに高いはずなのだから。


「それでは・・・、ツバサさんたちの隣の部屋に床を用意いたしますので、お休みください・・・。

 もう愚かな行為は繰り返しませんので、安心してお休みくださいませ・・・、安心していただけますよう、この2部屋は部屋の中にもドアがついておりまして中で通じ合っております、ご確認ください。」


 トシミさんの言葉通り、部屋の内壁にもハッチ状のドアがついていて部屋間の行き来ができそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ