ブラックダンプ
10 ブラックダンプ
「じゃあ、行ってみるか・・・といってもなあ、こんな大きな湖じゃ、沈没船探しなんて容易じゃないぞ。
泳いで向こう岸へ・・・なんて言うような感じじゃあないよな。」
アンケートには素潜りで50メートルは軽いなんて確か書いたはずだが・・・、それでもこの大きさだとちょっと厳しいな・・・なにせ対岸が見えないどころか、向こう岸が見えなくても向こう側にある高い山など見えてもいいはずだが何も見えない・・・水平線のみだ。
「あっちに小屋のようなところがありますから、行って聞いてみましょう。
うまくすれば、ボートか何か借りられるかもしれません。」
源五郎が右奥の湖畔を指さす・・・、確かに桟橋のようなものと小屋が見える・・・普通に考えると貸しボート屋か釣り船屋だな・・・。
小屋へと歩いていくと・・・、貸しボート屋の看板がかかっていた。
「ボートを貸してくれるかい?」
小屋に入って、中のおじさんに声をかける。
「ああ・・・それがのう・・・、湖に外来種の大きな魚が増えたために、ボートが出せなくなってしまったんじゃ。
なにせ奴らときたら、湖面を何か通っているとそれに体当たりしてくる習性があるようでの・・・、ボートなどすぐに沈められてしまうのじゃ。
だから・・・、貸しボート屋ももう何年も開店休業じゃ・・・。」
ボート屋のおじさんは、力なくうつむき気味に答えた。
確かにおじさんの言う通り、桟橋には一層のボートも係留されていない。
「そうか・・・俺たちがその魚を退治するから、ボートを貸してくれないか?」
とりあえずボートを借りなければ話が進んでいきそうもない。
「だめじゃ・・・大切なボートを壊されてはかなわん・・・、あの凶悪な魚たちを退治出来たら貸してやってもいい。」
おじさんは冷たくそっぽを向く。
「分かった・・・、じゃあちょっと待っていてくれ。」
俺はそういうと小屋を出て桟橋を歩いていく。
「どうするんですか?まさか湖に飛び込んで戦うというわけじゃないですよね?
さすがに・・・、水の中じゃうまく戦えないですよ・・・。」
源五郎がすぐに俺に追いついてきて、問いかける。
「いや、多分大丈夫だろ・・・、任せておいてくれ。」
『ジャボン』そう言って俺は、源五郎の制止も無視して桟橋の先から湖に飛び込んだ。
『ごぼごぼごぼごぼっ』湖の中は比較的明るかった・・・というか、浅い部分なら周囲を見通せた。
ゆっくりと泳ぎながら辺りを警戒していると・・・、少し先にいくつものキラキラと光るものが・・・、その光は一つ所に集合していたのが、俺が近づくと周りに飛び散るように互いが離れていき、俺の周りを取り囲むようにして止まった。
『ゴゴッ』そうして次の瞬間、俺の正面の2つの光が帯状に俺に向かって伸びてきた・・・。
『ドッゴーンッ』大きな音とともに、腹に大きな衝撃を感じる。
『ドゴーンッ・・・ゴッゴォーンッ』さらに背中にそしてわき腹にと次々と衝撃が走る・・・、一体何が起きているのか、俺にはわけがわからなかった・・・ただ俺の周りに渦のようなものができて、周囲を何者かが取り囲んでいることだけはわかった。
鋼鉄の剣を抜こうにも体が自由にならず、すぐに桟橋方向へ戻ろうと決めた。
『ボゴッ・・・ドゴーンッ』泳いでいる際にも、太ももや左わき腹に衝撃を感じ続ける。
『ざっぱーんっ』それでも泳ぎ続け、何とか桟橋の杭の一つを掴む。
「大丈夫ですか??まってください。」
源五郎が手を伸ばしてくれたので、その手を頼りに一気に桟橋へよじ登る。
『ゴンッ・・・ゴンッ』桟橋を突き上げられるような振動が、しばらく続く。
「いやあ参った・・・、まったく手も足も出なかったよ・・・・。」
「無事に戻ってこられただけでもよかったですよ・・・。」
源五郎が指さすのを見ると、なんと鋼鉄の鎧が所々へこんでいた。
「全回復!」
レイに回復魔法をかけてもらう。
衝突の衝撃があまりにも強かったという事だろう・・・、もし生身であったなら、いくら経験値が高くて体力が豊富でも危なかったかもしれない。
「そうじゃろう・・・まさに水を得た魚というようにな・・・、水中で奴らに敵う者はおらん。
唯一の対抗手段は・・・釣り上げる事じゃ・・・、もうわかった通り奴らは好戦的じゃから、糸でも何でも垂らせば攻撃を仕掛けてきよる。
そこを針で引っ掛けて釣り上げるのじゃ・・・、そうすればまさに陸に上がった河童状態じゃ・・・。」
そういっておじさんは、長い釣り竿を見せてくれた・・、だったら最初からそう言っておいてくれよ・・・。
「釣り上げてしまえば、魚はもう死んでしまうのですか?
そもそも・・・なんていう魚なのですか?」
源五郎が、肝心な部分を確認する。
「いや・・・釣り上げたところで・・・・死ぬわけじゃない・・・、当然お前さんたちが戦って勝たねばならんわけじゃ・・・、だが水中と違って無敵というわけではないから、勝ち目はあるじゃろ。
奴らは、ブラックダンプという種類の魚じゃ・・・、とても凶暴な奴らじゃよ。」
おじさんは、『注意!ブラックダンプ恐るべし!』と書かれた看板を指し示した。
「分かりました、じゃあ、釣竿を貸してください。」
「はい、毎度あり・・・、餌付きで一人1時間500Gじゃ・・・。」
おじさんは笑顔で竿を差し出す・・・本当に困っているのか?このおじさん・・・。
500G?そういえば・・と思いツバサに振り返る。
「えーと・・・、何とか払えそうですね・・・。」
ツバサが冒険者の袋の中をガサゴソとして、ようやく500G取り出す。
「じゃあ、4人分お願い・・・。」
各自500G支払って釣竿を貸していただく・・・、えーと、このクエストの報奨金はいくらだったっけ・・・、思わずクエスト票を確認したくなってしまう。
『ポチャンッ・・・・グググッ』餌というより、人型をした木の枝を結び付けた糸を湖面に垂らすと、すぐに竿先が引っ張られる・・・まさに入れ食いだ。
「ヒット・・・!」
『ジリジリジリジリジリジリ』すぐにリールを巻きあげると、木の枝に数匹の体長50センチくらいの魔物が絡みついていた。
『スッパパーンッ』『スッポンッ』『シュピンッ』『シュパーンッ』すぐに鋼鉄の剣を抜いてブラックダンプを切り捨てる。
確かに、水中のように姿を見せることもなく襲い掛かられるわけではなく、相手を確認してから斬りつけられるので、十分戦える。
「こっちも来ました。」
『ギュルギュルギュルギュルギュル』『シュッシュッシュッシュッ』源五郎もリールを巻きあげ、すぐに矢を射かけてブラックダンプを葬る。
「あっあたしの竿にも・・・、どうやるの?」
レイがどうしていいかわからずに振り向いてきたので、『ジャリジャリジャリジャリジャリ』すぐにレイの竿を受け取り巻き上げてやる。
「全体光攻撃!」
『ぺかーっ』レイの伸ばした手のひらから放射状に光が発せられ、光にさらされた魔物たちは瞬時に消滅する。
「あたしにも来ました、えーと・・・こうやって巻き取るわけですね。」
『シュルシュルシュルシュルシュルシュル』『シュタッ・・・タッ、ザシュッ』すぐにツバサは大跳躍して、光の爪で襲い掛かる。
『ドゴッ・・・バゴッ・・・ドンッ』ツバサ一人だと、数匹相手にするのはつらいので、すぐに走って行って剣を収めた鞘でブラックダンプをこづいて分断する。
『タッ・・・ズザッ・・・・ダンッ、ザバッ・・・ドゴッ』そうしてようやくツバサも、ブラックダンプたちを粉砕した。
そんなことを数回繰り返すと、それまで湖面に立っていた細かな波もなくなり、穏やかな様相を見せてきた。
「どうだい?これでブラックダンプとやらは全て退治できたかい?」
おじさんの方に振り返ると、おじさんも湖岸に寄ってきて湖面をのぞきこみ始める。
「まあ、どうじゃろうかな・・・、この近くのやつらは退治されたんじゃろうが、広い湖じゃからな・・・。
そう簡単には全滅させられんじゃろう。」
おじさんはまだ納得していない様子だ。
「そうはいっても桟橋から釣り糸を垂らすだけじゃ限界がある。
だったらボートを貸してくれ。」
湖のブラックダンプを全て退治するには、ボートでいろいろ回らなければ無理だろう。
「そうだな・・・いいじゃろう、貸しボートは4時間2000Gじゃ・・・。」
おじさんはそういいながら手を差し出す。
いやその・・・、困っているのはおじさんの方なんじゃないのかな・・・?
無理だと分かってはいるが、ツバサの方に向くと、ツバサは申し訳なさそうに首を振る。
「一人4時間2000Gなのかい?それとも何人乗ってもボート一艘2000Gなのかい?」
念のためにおじさんに確認する。
「そりゃあボート一艘の値段さね・・・、使い古した廃棄寸前のボートだからね・・・。
だから一人で乗り込もうと団体さんで乗り込もうと、こっちは一向に構わない・・・重さで沈んでしまっても・・・泳げるじゃろ?」
おじさんはにやにやしながら、なおもおねだりでもするかのように手を差し出したままだ。
壊れる寸前という事なのか?ちょっと怪しいが、このままだとダンジョンである湖に入ることがままならない。
なんとしても外来種であるブラックダンプを、一掃しなければならないのだ。
「分かったよ・・・、2000Gだな?」
ちょっと癪に障るが仕方がない・・・おじさんに2000G握らせる。
「はい、まいどありー・・・、釣竿一本サービスしとくよ。」
おじさんは、俺に釣竿一本を手渡すと、すぐに小屋に入っていき裏口から小さなボートを出してきた。
「はいどうぞ・・・。」
そういっておじさんは,木でできたオールを2本手渡してくれる。
どうぞって言われても・・・ボートは見た感じ、公園の池にあるような2人乗りの手漕ぎボートを一回り大きくしたくらいのものだ。
何とか2列2人ずつで、4人がぎゅうぎゅう詰めで乗れる程度の大きさでしかない。
「こんな広い向こう岸も見えないような湖を、手漕ぎのボートで行くのかい?
それじゃあ、湖を一周するだけでも4時間どころか何日もかかってしまうんじゃないのか?」
たとえ4時間でもこんなものが2000Gは、いくら何でもぼりすぎだろ・・・せめてエンジンでもついていなければ・・・。
「何を言っておる・・・エンジン付きのボートなど、ブラックダンプに壊されてしまっては大損害じゃ・・・、手漕ぎのボート以外は貸し出し厳禁じゃ・・・。
それにこのボートには最新の魚群探知機を付けておいてやったぞ・・・、これで確認すればブラックダンプの群れは一目瞭然・・・、まさに入れ食い状態を満喫できるというわけじゃ。
ボートは沈んでもいいが魚群探知機だけは持って帰ってきてくれよ・・・、目の玉が飛び出るくらい高価な装置なのじゃからな・・・。」
おじさんは胸を張って笑顔を見せる。
確かにボートの中央部には、モニター付きの四角い装置が置かれている・・・、あれが魚群探知機か・・・。
しかしボートが沈んだら、まずは俺たちお客の無事が最優先だろ?それよりも魚群探知機が大事か?
「分かったよ・・・こんなところでぐずぐずもしてはいられない、とりあえず今日のところはこれでやってみるから、無理なら明日はエンジン付きのボートを貸してくれよ、いいね?」
そういいながら仕方なく桟橋に係留したボートに乗り移る。
「さっ、皆も乗ってくれ・・・。」
「ツバサさんは無理っぽいですから、後で3等分しましょう。」
源五郎が、小声でささやいてくる・・・、まあ別に、俺だけで払っても構わんがね・・・。
乗船という言葉がつかえない程度の手漕ぎボートなのだが、なぜか魚群探知機と思しき装置は立派なのがついている・・・、こんなグラスファイバーのせいぜい4人乗りの手漕ぎボートに、なぜにこんな立派な装置が・・・。
「源五郎・・・、使い方はわかるかい?」
源五郎に、魚群探知機を動かせるか聞いてみる。
「はい・・・とりあえずマニュアルらしき小冊子がぶら下がっていますから、見ながら動かしてみますよ。」
源五郎がノートのような薄い小冊子を手にとり、読み始めた。
「じゃあ、出発するぞ。」
「じゃあ、こっちはあたしが漕ぎます。」
ツバサと2人で並んで進行方向に背を向け、オールを一本ずつ持ってボートの片側ずつを担当することにした・・、2人息を合わせながら漕ぎ始める。
「レイは、魚群探知機でヒットしたら、さっきのように釣り糸を垂らしてくれ、いいね。」
「うん、分かった・・・。」
レイが釣竿をもって、待ち遠しそうに身構える。
ボートはそれなりの速さで湖面を快調に進んでいく・・・やはり膨大な経験値は伊達じゃないという事か・・・(ツバサの場合は日々トレーニングして鍛えていたしな・・・経験値は増えなくても筋肉は増えているのかもしれない)。




