巨大湖へ
9 巨大湖へ
『パンパカパーン』「ツバサ様はZSにレベルアップされました。」
ギルドに戻って清算すると受付嬢が笑顔で告げる、今回も大幅アップだ。
「なんか申し訳ないですね・・・戦いも何もなくて済んだのは、サグルさんたちのおかげであたしは何もしてないし、なにより元々あたしのせいで復活の木さんが怒って、それでクエストレベルが上がっていただけなのに・・・、その恩恵をあたしが受けるなんて・・・。」
ツバサが申し訳なさそうに顔を赤らめる。
「まあいいじゃないか・・・ツバサはこれまでだって戦ったり訓練したりしていたけど、かなり減額評価されてきたわけだから、その補正だと思えばいいさ。
俺たちなんか裏技で最高レベルまで経験値をもらっているから、もうレベルが上がることはないんだが、それでも経験値だけは増えていくらしい。
その分強くはなっていくのだろうな・・・、どこまで行けるか楽しみだよ。」
これが毎日通信しているのであれば、ゲーム機の状態確認で経験値がいくつか見ることができるのだが、ゲームのキャラの身の上では自分の経験値を知るすべはない。
せめてツバサのようにレベルが上がっていくのであれば、積み重なっていく経験値の量もある程度予想がつくのだが・・、ちょっと残念。
「じゃあ、どうするか・・・南の湖のクエストというのは2日となっているから遠いのだろうな。
もうすぐ夜になるが、行けるだけ行っておくかい?野宿になりそうだが・・・。」
始まりの村であればギルドで宿泊無料だから、できれば利用するのがツバサにとってもありがたいだろう。
だが、そこそこ稼いでいることだし、弁当を購入して・・・とも思うのだが。
「いいですよ・・・、テレビスタッフに話してみます。」
すぐにツバサが外に出て行った。
『カチャッ』俺たちも続いてギルドの外に出てみる。
「今日は1日戦いも何もなかったので、明日も移動だけだと厳しいから、行けるだけでも今日のうちに移動しておきたいという事です。
彼らも喜んでいます。」
すぐにツバサが戻ってきて説明する。
「じゃあ・・・、ちょっと道具屋によって弁当を購入してから行こう。」
ツバサと共に弁当を購入して、中継車に乗り込む。
そうしてその日は、砂漠の真ん中のような場所で野営となった・・・。
枯れ枝を集めてたき火をして、弁当を食べながら冒険の放送を中継車から電源をもらって観賞する。
この日は復活の木を説得するシーンと、始まりの村南方向へ移動するときの車窓風景で終わってしまった・・・、確かにこんなのが2日も続いたら物足りないな・・・明日は早い時間に湖に到達して、沈没船とやらを見つけることができるといいのだが・・・。
「じゃあ、魔物の出現もないようだが・・・、念のために見張りを交代ですることにしよう。
4人いるから2人ずつだ・・・。」
ツバサが言っていたように、テレビのアンテナ施設工事のために、平原などに巣くっていたはずの魔物たちはすべて駆り出されているのだろう。
そうであればダンジョン内以外で魔物に遭遇する恐れはないはずだが、用心に越したことはない。
「じゃあ、あたしはまたダーリンと・・・。」
レイは素早く源五郎の隣に移動して腕を組む。
「だめだ・・・・前回は3人だったから2人と1人の組みで、まあどうでもよかったのだが、ツバサが加わったので、2人ずつ特性を考慮した組み合わせをする。
レイと源五郎はどちらも飛び道具というか、離れて戦うタイプで、俺とつばさは接近戦というか近づいて戦うタイプだから、それぞれ一人ずつ組み合わさるのが望ましい。
レイは俺と最初の見張り番だ・・・・、ツバサと源五郎がまずは寝てくれ・・・いいね?」
やはり以前と同じ組み合わせが望ましいだろう・・・この組み合わせであれば、どんな敵が襲い掛かってきたとしても対処可能だ。
「ええーっ・・・、ぷー・・・。」
当てが外れたレイは、頬を膨らませてそっぽを向く・・・が、かわいそうだが仕方がない。
「じゃあ、先に休ませてもらいます。」
源五郎がたき火の近くで地べたにシートを敷いて横になる。
「ツバサ・・・トレーニングはやめておいた方がいい・・・それよりも休息の方が重要だ。
ギルドでも言っていただろう?特訓しても経験値は減額して評価するって・・・。」
ツバサがどこかへ行こうとしているのを引き留め、休ませることにする。
「ええー・・・そうですか・・・。」
ツバサはしょんぼりしながら中継車の中に入って行って、シートを倒して眠りについたようだ。
「じゃあ・・・、魔法の呪文の勉強をするとしようか・・・。
上級魔導書があっただろ?あれを出してみてくれ。」
レイに魔導書を出させる・・・強力な呪文が記載されているはずだから、レイにもう少し覚えさせておいた方がいいだろう。
今のところ使えるのは初級の炎の玉と雷と光の攻撃魔法だけだ。
光の攻撃魔法はかなり強力だが、他の特性の強力な呪文もあった方がいいだろう。
「はい・・・。」
レイから魔導書を受け取り、読んでみる。
「なになに・・・最終奥義・・・、超巨大な雷により敵一体を攻撃する・・・神の裁き(ライデン)・・・うーん。
大地を振動させ敵グループを地割れに飲み込ませる・・・極大地震・・・、ちょっとレイには難しすぎるか・・・。
味方グループを半回復させる全体回復・・・、おお、味方一人を全回復させる全回復・・・こっちだな。
ようしレイ・・・、ターカイとゼンカイだ・・・味方全員の時はターカイで・・・。」
レイに細かなイメージを伝えて呪文を覚えさせる・・・、ただ唱えるだけでは効果が表れにくいのだ。
何度も唱えて魔法効果をイメージして初めて呪文効果が発揮されるのだ。
「はーい・・・ターカイ・・・ターカイ・・・ターカイ・・・。」
レイが薄ら明るい空を見上げながら何度も呪文を口にする・・・が、だんだんとその声が小さくなって、いつの間にかうつむいてきたようだ・・・。
「ママは?ママはどこ・・・?ママに会いたい・・・。」
突然、地球を思い出してしまったのか、またもやレイがホームシックにかかってしまったようだ・・・。
まあ8歳だものな・・・無理もないことではある・・・、今まで持ったのが不思議なくらいだ・・・、源五郎たちがずっと一緒にいたから、緊張していたという事もあったのだろうな・・・。
「ああ、ママか・・・ママと会うことはできないぞ・・・、だがまあ、この冒険が終わったら何とか地球に帰る方法を考えるさ・・・そうすればママに会えるぞー・・・、だからそれまではパパだけで我慢してくれ。」
うつむくレイのところに行って、顔をのぞき込みながらなるべく笑顔で話しかける。
「えー・・・、どうして?どうしてママに会えないの?」
どうしてって・・・、だから言っただろ?とも言えないしな・・・。
「ママは・・・遠いお空のかなたにいるんだ・・・、といっても死んだわけじゃない・・・生きている。
生きて地球で暮らしているけど、パパとレイはゲームの世界に入って、遠いお星で今は冒険の旅をしているだろ?
だから今は会えない・・・・、だけどずっと会えないというわけでもないと思っている・・・、なにせここは願いが叶う星だからね・・・、うまく願えば地球に戻ることだってできるはずなんだ。
その辺はパパに任せて・・・、一緒に冒険を続けよういいね?」
「ええー・・・、おうちに帰りたい・・・。」
レイは頬を膨らませ、涙をぽろぽろとこぼしながら訴えてくる。
ありゃりゃ・・・だめだこりゃ・・・、まいったな・・・。
「とりあえず、そろそろ交代の時間だろう・・・源五郎たちを起こすから、レイはもう寝なさい、いいね。
源五郎・・・源五郎・・、時間だ、起きてくれ!」
焚火の向こう側に回って、まずは源五郎を起こす。
「はっ・・・、ああ、おはようございます。」
微動だにしなかった源五郎が、瞬間的に動き出す。
『ガチャッ』「ツバサ・・・起きて・・・っと、もう起きているか・・・。」
「おはようございます。」
ツバサは起こす前から目が覚めていたようで、中継車から降りてきた。
「わあっ、ママー・・・。」
ツバサにレイが駆け寄って抱き着いてしまう。
「こらっ、彼女はママじゃないぞ!」
すぐにレイをツバサから引き離そうとする。
「あらあら、レイちゃん・・・どうしましたか?」
ツバサはちょっと驚いた風を見せたが、すぐにやさしくレイを抱きしめてくれた。
「ちょっと、ホームシックにかかったみたいなんだ・・・、悪いね・・・。」
ツバサに頭を下げる。
「ああ、いいですよ・・・8歳でしたっけね・・・、あたしのような永遠の16歳ではなくて本物の・・・。
じゃあ、まだ小さいですから、ママが恋しくなっても当然ですよね。
こっちの世界にいるときは、あたしがママの代わりだと思って甘えてくれても構いませんよ・・・。」
そういいながら、やさしくレイの頭をなぜてくれる。
「すーすー・・・。」
「寝ちゃいましたね・・・。」
ツバサの胸で安心したのか、レイはすぐに眠りについたようだ。
「悪かったね・・・。」
ツバサからレイをそっと剥がして、地面に敷いたシートの上に寝かせる。
「じゃあ、よろしく・・・。」
そうして隣に俺も横になる・・・、レイが甘えてきたら抱きしめてやろう・・・と考えながら眠りについた。
「うん?」
ふと目が覚めると・・・、何かいいにおいがしてきた。
「おはようございます・・・テレビスタッフが、スープを差し入れてくれました。」
見ると焚火の上に鍋がかかっている。
「おお・・・、弁当はあるが汁物がなかったからありがたいな・・・、どうもすみません。」
起き上がって、傍らで朝食の準備をしているテレビスタッフたちに礼を言う。
「いやあいいんですよ・・・、以前一緒に冒険していた時は、よく皆さんと一緒に食事をしたものです。
倒した魔物たちを料理して鍋をしたこともありました・・・、あの時は実体化していたから、一緒のものが食べられましたけど、今は皆さんはゲームのキャラで冒険者ですから、野営したときには弁当が必須なんですよね?
せめてと思ってスープだけは準備しておきました、召し上がってください。」
テレビスタッフがそう言って笑顔を見せる・・・、ううむ・・・彼らも以前の冒険の時の記憶があるという事か・・うらやましいな。
レイも起こして、おいしいスープをすすりながら、弁当の朝食を平らげるとするか・・・。
あれ・・・?何の味もしないどころか、温かさも感じない・・・ううむ、冒険者は冒険者用の弁当や食堂の飯以外は受け付けないようにされているのだろうか・・・、その可能性はあるな・・・一般の人たちと同じものが食べられれば、わざわざ高い冒険者用の宿で宿泊したり食堂で食べたりしないで済んでしまうものな。
「うーん・・・、おいしいね・・・。」
せっかく作ってくれたものを、味も何もしないというわけにもいかないので、おいしいふりをして俺が一人だけでかき込む。
「何か味が変でしたか・・・?」
ところが俺の芝居が下手すぎたのか、スタッフが心配そうに俺の顔をのぞき込む。
「そんなわけありませんよ・・・、あまりにおいしいものだから独り占めしようとして・・・リーダーったら・・・。」
すぐに源五郎が今度は自分のカップにスープを次いで、口に含む。
「むっ・・・・・・。」
源五郎はせっかく準備してくれたスープを口に含んだまま、固まってしまった。
「いやあの・・・、どうやら冒険者たちは冒険者用の食事しか受け入れないようだね・・、後はクエストで出される弁当しかだめなようだ・・決して味付けがどうのというわけではないから・・・。」
必死で言い訳をして納得してもらおうとする。
「そうでしたか・・・、残念ですね・・・。」
スタッフががっかりした表情で鍋を下げる・・・、ううむ折角の好意を申し訳ない。
「じゃあ、出発しよう・・・。」
レイのホームシックも昨晩だけのことのようで、今朝は平気でいるようだ・・・というか、やはりみんなの前では我慢しているのだろう・・・と思う。
昨日は俺と一緒の見張り番だったから、眠気も手伝ってタガが外れてしまったのだ・・・、これからは、なるべく気を付けてみていてやらなければならないということだ・・・。
『ガタガタガタガタッ』砂漠地帯のような荒れ地を中継車はひたすら走っていく、そうして昼に差し掛かる少し前に、目の前に向こう岸が見えないくらい大きな湖が見えてきた。
「ここにこんな大きな湖があったか・・・?たしか10年前の時は封印の塔があったはずで・・・、ぬっしーがいた大きな湖は始まりの村の西側の賢者のトンネルの少し先だったような記憶が・・・。
昨日の塔は何かの陰で見落としていたという事も考えられたけど、こっちの湖は見落とすような大きさじゃない、確かに前回はなかったはずだ。」
ううむ・・・10年も前の記憶だし、あまりはっきりと断言しづらいところではあるのだが・・・。
「僕も、こっちには塔があると記憶していましたよ。
塔の少し手前に、大きなハスの葉が浮かんでいた池があったように覚えています。」
源五郎の記憶も俺と同じようなもののようだ。
「あたしもそうです・・・やっぱりギルドで言われたように、冒険のシナリオが変わってしまったのですね・・・。
でもここまで変わってしまうとは・・・、地形や建物までが大きく変わってしまっていますね。」
ツバサも目の前の景色が信じられないといった表情で、まじまじと大きな湖を眺めている。
「ちょっと信じられないことだが・・・どうやらそのようだな・・・、ツバサは今までの冒険のシナリオの経験者だから有利と考えてシナリオを変更したというわけだ・・・、冒険がどのように進んでいくか、ツバサにもわからなくなったという事だな・・・いいことじゃないか・・・。
ツバサだって、新しい冒険の方が楽しいよな?以前やったことがある冒険よりも、わくわくするだろ?
まあ、俺と源五郎はその時の記憶がないわけだから、どっちでもいいのだが、それでもツバサが経験済みという事は、ある程度の安心感は得られるが新鮮味に欠けるわけだ・・・、謎解きも全て終わっているから面白くはなかっただろう・・・いいじゃないか、新シナリオを楽しむとしよう。」
先が見えないから冒険なのだ・・・、この先はこうなっています・・・なんていつもツバサに説明されながら冒険するというよりいいんじゃないのか?
「そうですよね・・・、新しい冒険を楽しみましょう。」
源五郎も笑顔を見せる。
「分かりました・・・、頑張りましょう・・・。」
ツバサも納得した様子だ。
「おっきな湖・・・、でも水着持ってきてないよー・・・。」
レイだけはバカンス気分のようだ・・・。




