油断大敵
7 油断大敵
「パパー・・・っ!大丈夫?目を開けて!」
うんっ・・・、あれっ・・・。
「おうレイか・・・、凄い回復の呪文をかけてくれたのか?ありがとう。」
ふと気が付くとレイが仰向けの俺の体にすがって泣いていた・・・手足を動かしてみて動くので、上半身を起き上がらせてみる。
「パパっ・・・よかった・・・、もうっ心配したんだよ!」
レイは嬉しそうに俺の体に抱き着いてきた。
「ああ悪かったな・・・、レイの呪文のおかげだ・・・。」
「何言っているの?あたしは何にもしていないよ・・・。」
ところがレイは不思議そうに首をかしげるだけだ。
「レイちゃんは、気が動転していたようで・・・何もできそうもなかったので、とりあえず僕が傷口に薬草を当ててみました。」
源五郎も一緒にうなずく。
「ええっ・・・じゃあ・・・。」
と見まわすが、俺とレイ以外で回復系の魔法に経験値を当てている奴はいそうもない・・。
ツバサは格闘技にしか割り振っていないだろうし、源五郎は攻撃魔法だ・・では一体どうして?
鋼鉄の鎧の胸のあたりを触ってみる・・・胸には何もない・・・が左肩の部分に、ちょうど小指の爪先がようやく入るくらいの穴が開いていた・・・、確かに攻撃を受けたのは間違いがない・・恐らくレーザー光線だろうな・・・、鋼鉄の鎧は光沢が少ないからレーザーを反射できずにやられてしまうわけだ。
わき腹から鎧の下に手を入れてみると・・・、あったあった肩の付け根辺りに大きなかさぶたと数枚の薬草が・・・、ここから出血したのだろうが、すぐにかさぶたで閉じられたということか・・・自然治癒力と薬草の効果というわけだな。
胸の間を伝って熱い液体が流れるのを感じたのだが、どうやら左肩に受けた傷からの出血を勘違いして動揺し、意識が遠くなっていったのだろう・・・。
うーんそうか・・・、魔物たちのレベルは鋼鉄の鎧なんかのクラスと比べると格段上だから、鋼鉄の鎧に穴をあけることはできるが、それでも俺たちのように最大値まで経験値を設定してきたのと比べると落ちる。
そのため直撃を食らったとしても、大したダメージには至らないのだろう。
だから大きなけがの様だが、薬草だけの効果でも傷口がふさがったという事のようだな・・・、ちょっと安心・・・。
「悪かったな・・・だがどうやら俺たちは高い経験値に守られて、ちょっとやそっとの攻撃では、かすり傷程度のようだな・・・ちょと焦ったが、ほとんどダメージがない。」
俺は起き上がって青空のもと、手足を俊敏に動かして見せる。
どうやら撃たれてすぐに塔の外へと連れ出されたようだ、流石、頼りになるメンバーだ・・・。
「ふうっ・・・そうですか、よかった・・一瞬どうなることかと思いましたよ・・・、これから冒険が始まるところだというのに・・・。」
源五郎がため息交じりに告げる。
「油断していたという事だな・・・圧倒的レベル差からツバサをフォローしてやるつもりでいて、まったく周囲を警戒していなかった。
弱い攻撃でも何度も受けるとよくないだろうし、当たり所が悪いとそれこそ致命傷になりかねん、以降気を付けるよ・・・。
俺たちは最高レベルの経験値に設定してあるから恐らく平気なんだろうが、ツバサの場合はそうはいかないから、更に気を付けるようにね。」
顔を引き締めて皆に頭を下げ、ツバサには念を押しておく。
「ちめいしょうってなあに?」
「致命傷っていうのはねえ・・・・。」
レイに源五郎が説明してやっている・・・。
「じゃあ、行くぞ!」
改めて仕切り直しだ。
『カチャッ』大きな一枚板の扉をゆっくりと開け、注意深く中の様子をうかがう・・・どうやら奥の方にある階段の登り口あたりが怪しい・・・。
『タタタタタタッ』素早く中に駆け込むと、ジグザグ軌道を取りながら、奥へと走りこんでいく。
『ピカッ・・・ピカッ・・ピカッ・・・』薄暗い塔の中なので、俺の体の左右を光の帯が通過していくのが分かる。
『シュッパパァーンッ』階段の登り口に潜んで入り口を狙っていた、真っ白い悪魔のような姿をした魔物を真っ二つにたたき斬る。
『ダダッ・・・シュッパァーンッ』さらにその奥にもう一匹白悪魔が潜んでいたので、そいつもたたき斬る。
体長1mほどの小さな悪魔たちのようだ。
「もう大丈夫だ、入ってきてもいいぞ。」
辺りを注意深く観察して動くものがいないことを確認してから、入り口で様子をうかがっているレイたちを呼び寄せる。
『カッツカッツカッツカッツ・・・』天井の高い石造りの部屋の中に、源五郎たちの足音だけが鳴り響いてくる。
『シュ』『シュッ』『フシュッ』『フシュッ』部屋中央部分に差し掛かった時、突然円形状の部屋の4方向にある明り取り窓の下に白い影が出現する。
部屋中央から互いに十文字に位置しており、前後左右から挟み撃ちされた格好だ。
「危ないっ、伏せろ!」
『タッ』『シュタッ』すぐに叫ぶと、ツバサが跳躍して宙高く舞い上がり、源五郎が弓を構える。
「光攻撃!光攻撃!光攻撃!光攻撃!」
『ぺかーっ・・・・、フシュッ』回転しながら呪文を唱えるレイの掌を中心として、光の帯が放射状に広がっていき、白い影を消滅させていく。
「おお・・・よくやったぞレイ・・・。
突然現れたりもできるようだな・・・、十分警戒するように・・・。」
レイが勘よく攻撃できたのは素晴らしい・・・、これは決して親の欲目なんかじゃないと思う。
「そういえば・・・以前の冒険の時もお化けの魔物たちは突然出現したりしていましたが、その時は出現する寸前に、床が光り輝いていました。
今回もそうだといいのですが・・・。」
ツバサが少し自信なさそうにアドバイスしてくれる・・・、うーん経験者がいるのは心強いね。
「よしっ・・・じゃあ、床の状態にも注意して進もう。」
塔の内壁をらせん状にぐるりと回るように作られている石階段を、周囲に注意しながらゆっくりと昇っていく。
吹き抜け状になっているので、下の階からも上半身は丸見えであり、狙い撃ちされる恐れが付きまとう。
階段の上った先は行き止まりとなっていて、天井に木の扉がついているようだ。
『ギィッ』木の扉を開けて顔を出すと、そこは2階のフロアになっていた。
『ピカッ・・・ピカッ・・・ピカッ』『バタンッ』すぐに様々な方向から光を感じ、慌てて頭を引っ込めて扉を閉める。
「うーん、どうやら狙い撃ちの的にされてしまうようだ・・・、レイ・・・顔だけ出して光攻撃できないか?
いや・・・、光はレイの掌から出るのだから手だけを上に出せば何とかなるんじゃないか?
全体攻撃なら、相手が見えなくても何とかならないか?」
先ほどのレイの攻撃は有効のようだから、もう一度やってみても損はない。
「うーん・・・どうかなあ・・・、やってみるけど・・・。」
レイは少し自信なさそうに、俺と入れ替わって列の先頭に立ち扉に手をかける。
『ギィッ』「全体光攻撃!」
『ぺかーっ』レイの掲げた手のひらから、放射状に光が放出されている・・・はずだ(見えないけど・・・)。
「ようし、じゃあ、行ってみよう。」
『ピカッ・・・ピカッ』ひょいと顔を出すと、やはり光を感じて慌てて首を引っ込める。
「ありゃりゃ・・・だめだったようだな・・・、向こうもレイの光攻撃を避けているのか、あるいは防いでいるのか・・。」
「恐らくさっきは光単体攻撃でしたから、塔の中央から壁面まで届いたのだと思います。
ですが今は、塔の壁に設置されたらせん階段から、更に射程距離の短い全体攻撃なので、向こうの壁面側まで届かないんじゃないでしょうかね。
近場の方の魔物は、消滅できたとは思いますが・・・。」
俺の疑問に源五郎が冷静に解説をする。
「ふうむそうか・・・かといって射程距離の長い単体攻撃だと、レイが相手の位置を正確に把握する必要性があるな・・・、それだとしっかりと顔を出して中の様子を探る必要性があるから危険だろう。
さすがに頭に直撃を食らったら、膨大な経験値で体力が大きくても、致命傷になりかねん。」
ううむ・・・いきなり困ってしまった・・・、これでも俺たちの経験値から比べたら、ずいぶんと下のレベルの魔物たちなんだろうがな・・・。
「あたしが素早く中に入って、魔物たちを退治します。」
するとツバサが名乗りを上げる。
「いや・・・、ツバサは経験値が低いから体力はさほど高くはないだろ?
レーザー攻撃を食らったらひとたまりもないぞ・・・。」
おれたちと違って、ツバサにとっては遥か上のクラスの魔物という事になるのだ、かすっただけでも危ない。
「大丈夫ですよ・・・、敵は四方に分散しているという事でしょうから、それだったら1対1で戦えます。
だったら負けません・・・じゃあ行ってきます。」
「あっ、おいっ・・・。」
『シュタッ、ダッ・・・』引き留める間もなくツバサは大きく跳躍して、2階へと入って行ってしまった。
『・・・・・・・・・・・・・・・』
「もう大丈夫です・・・、上がってきてください。」
しばしの沈黙の後、ツバサの声が聞こえてきた。
よかった・・・無事な様子だ・・・、しかも相手をせん滅したらしい。
慎重に顔だけ出して2階の様子をうかがうと、はるか向こうの壁側に一人の美少女が立っているだけの様子だ。
『カチャカチャ・・・』すぐに階段を上がって2階フロアにたどり着く。
「こっちに上り階段があります!」
ツバサが向こう側の壁から叫ぶように呼び掛ける。
見ると、向こう側の壁面を伝ってらせん階段が上へと昇っている様子だ。
「あれっ?でも今回のクエストは、塔の根の破壊じゃなかったですかね?
だったら地下に進んでいきそうなもんですが・・・、どうして登っていくのでしょう?」
すると源五郎がもっともな疑問をつぶやく・・・確かにそうだ、植物の場合上にあるのは基本的に枝葉で、下側が根になって大地に根付くというのだ。
「まあそうなんだが・・・、他に行けそうなのがないから先へ行くしかないだろう。」
とりあえず疑問は疑問として、考慮に入れながら進んでいくしかない。
2階フロアでは部屋の中央まで来ても、魔物たちが壁面側に出現することはなかった。
そうして石階段をらせん状に登っていくと・・・、やはりその先は天井部分に木の扉が作られてあった。
「じゃあ、またあたしが行ってみます。」
すぐにツバサが、前に出てくる。
「いや、ちょっと待ってくれ・・・、レイ悪いがもう一度手だけ先に出して、光の全体攻撃魔法を唱えてくれ。
それで近場は退治できるだろうから、ツバサが行くのはそれからだ・・・、じゃあ、頼む。」
『ギィッ』レイと体を入れ替え、木の扉を開けさせる。
「全体光攻撃!」『ぺかーっ』
『タッ、シュタッ』続けざまに、ツバサが跳躍して上階へと向かう。
『・・・・』「きゃっ!」『シュボッ・・・シュボッ』『ダンッ・・・ダンッ』すると開いた扉から、激しい戦闘を思い起こさせるような悲鳴と音が・・・。
「やばい、ツバサが襲われているようだ・・・、救出に向かうぞ!」
『ダダダダダッ・・・、ゴロゴロゴロッ』こうなれば、顔だけ出して様子をうかがってなどと悠長なことは言っていられない、石階段を一気に駆け上り3階フロアに達すると、用心のため前転する。
『タッ・・シュタッ・・・タッ』床に転がりながらフロア中央を見ると、ツバサが数匹の魔物たちに囲まれながら戦っている。
さっきまでの白い魔物よりも一回り以上大きな体で、額から突き出た角のような部分から光線が・・・、更に手に持った大きな槍と2面攻撃しているようだ。
ツバサは的にされないよう、大きく跳躍しながら魔物の頭上から攻撃を仕掛けているようだが、相手の動きも素早く、しかも囲まれているためか背後も注意しなければならないようで、防戦一方の様子だ。
「火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!」
『シュッシュッシュッシュッシュッシュッ』背後から炎の塊が幾筋も発射され、振り返ると源五郎が階段の登り口から上半身だけ出して、炎を付加した矢を射ているようだ。
「光攻撃!光攻撃!光攻撃!」
『ぺっかー、ぺっかー、ぺっかー』レイも加わって、単体攻撃の呪文を唱える。
ツバサを取り囲む魔物たち数匹が一瞬で消滅し、こちらに気づいたようで魔物たちの視線が階段口に注がれる。
『ダダダダダッ・・・、シュッパパァーンッ・・・シュッポォーンッ』すぐさまジグザグに駆け寄りながら、魔物たちをたたき斬っていく。
『シュバッ・・・シュボッ』数が減って攻撃可能となったのか、ツバサの鉄の爪も炸裂する。
『シュッパーンッ・・・・シュッポンッ』俺が最後の魔物を切り倒し、このフロアに魔物は1匹もいなくなった。
「もう出てきてもいいぞ・・・。」
登り口から上半身だけ出している源五郎とレイを呼び寄せる。
「ううむ・・・攻撃パターンが様々あるようで、一筋縄ではいかないな・・・十分警戒しながら進もう。」
とりあえず警戒を怠らないよう、メンバーに注意を促す。
「こっちにヒーリングゾーンがありますよ・・・。」
奥側の壁の方に行ったツバサが、呼びかけてくる。
行ってみると、確かに階段登り口手前にピンクの光に包まれた暖かそうな空間が・・・。
「恐らくこの上にボスキャラがいるはずです・・、今までのダンジョンではそうでしたから・・・。」
そうだろうな・・・、そうして大抵このような設定してある場合のボスキャラは強力なんだ。
なにせヒーリングゾーンは記録も兼ねているから、全滅しても復活可能なわけだからな・・・、だが、一方通行の俺たちには復活もリセットもない・・・、まあまずは疲れと傷をいやしましょう・・・。
ヒーリングゾーンで疲れをとることにした。




