本当の意味での冒険開始
6 本当の意味での冒険開始
「一昨日まであったクエストが、もうなくなっているんだが・・・、あれは別の冒険者がやってきてこなしてしまったのかい?
すごいレベルの高いクエストだったが、そんなクエストを引き受けられる冒険者が俺たちのほかにいるとでもいうのかい?」
地道にクエストを順にこなしていこうと始まりの村にやってきたのはよかったのだが、ここのギルドにもクエストは一件も貼りだされていなかった。
確か2件は残っていたはずだし・・・、おかしい。
「いえ・・・、どなたもクエスト申請はされておりません。
シメンズのメンバーにツバサ様が加わったため、クエストはすべて回収されることになりました。
今現在シメンズの方たちが実施できるクエストは1件もございません。」
始まりの村のギルドの受付嬢が、モニター画面を見つめながら無表情で答える。
「そっそれはどういうことだい?
確かにツバサはここ9年ほど冒険者としての活動をしていたわけではないようだが、それでも俺たちチームのメンバーとして行動できると言われた。
何も問題はないはずだが、何か理由はあるのかい?」
突然の態度の変わりように俺は少し驚いていた・・・、ツバサにはツバサなりの事情があったわけだし、話せばわかるはずだ。
「ツバサ様が取得された賢者のトンネルのカギなどに関しましては、クエストを正規にこなして取得されたものではないため無効となります。
あまりにもルール無視の行動が多いため、不正に取得されたアイテムも全て回収させていただく事となりました。
そうしなければクエストは発生いたしません。」
無情にも受付嬢は淡々と告げる。
ううむ・・・、ツバサが何百回も命を落としながら何とか手に入れた賢者のトンネルのカギなど、全て無効となるというわけか・・・、それではここ10年やってきたことが全てなかったことになってしまうな・・・。
「どうする?このままでは埒が明かないが・・・、何だったらもう一度ヨランダに戻って、パラボラアンテナ施設を攻撃してみるか?
うまくすれば魔王城に通じているかもしれないし・・・。」
受付嬢には聞こえないよう、少し下がって小声で確認する。
「いえ、それはまずいでしょう・・・パラボラアンテナ施設がうまく魔王城につながっていたとしても、僕たちはまだ勇者ではないわけですから魔王は目覚めないと思います・・・、上手く魔王城に入ったとしても誰とも戦うことはできません。
それでは魔王たちへの接触という事ができなくなってしまいます。」
源五郎は小さく首を振りながら小声で答える。
「分かりました・・・、取得したアイテムは返却いたします・・・といっても鍵が3つと鋼鉄の爪くらいしかもらっていませんけどね。」
そういいながらツバサは袋からアイテムを取り出して、受付カウンターに並べた。
まさに10年間の血と汗の結晶なのだが・・・、申し訳ない・・・。
「ちょっと待ってくれ・・・俺たちがこなした東の森に巣くう魔物退治や、ファブの港までの護衛のクエストも無効になってしまうのかい?アイテムは回収かな?」
ちょっと惜しいが・・・、やり直しならば仕方がない・・・。
「いえ・・・シメンズの方たちが行われたクエストは、ギルドを通じて行われたクエストですから有効です。
ツバサ様の・・・しかもギルドを通さずに行われた取得分だけです。」
そういって受付嬢は頭を下げる。
そっそうか・・・ツバサには申し訳ないが、ちょっとほっとした。
「では、しばらくお待ちください・・・。」
受付嬢はツバサが差し出したアイテムをもって、カウンター奥のドアの向こう側へ入って行ってしまった。
『カチャッ・・・』しばらくすると、受付嬢は大きなトレイをかかえてドアから出てくると、そのままカウンターわきから出てきて部屋中央の柱へと向かい、柱に何やら貼り出し始めた。
恐らくクエスト票だろう・・・、おお・・・彼女につられて俺たちも柱へと向かうと・・・、あれあれ?
「うーん・・・、貼り出されたクエストはやはり3件だけか・・・、でも何か先日までと違うような・・・。」
3枚だけのプラチナクエスト票を手に取り、しげしげと眺める。
「事務局からの通達を申し上げます・・・ツバサさんは今回の冒険シナリオの経験者と判定されましたので、シナリオが変更になります。
そのため、先日までのクエストと内容が異なる場合があります。」
受付嬢は無表情でそう告げると、速足でカウンターへと向かった。
ありゃりゃそうですか・・・、冒険の内容が変わってしまうというわけね・・・、まあ、アクセスのたびにダンジョンが変わるなんて言うロープレもあったからな・・・、そう思えばいいでしょう。
「えーと・・・、南の湖深くに沈む沈没船に眠る宝剣の引き上げと西にある封印の塔の根の破壊・・・、あっ・・・ファブの東の森の復活の木の葉の採取は残っているようだな・・・。
復活の木の葉の採取は・・・、レベルは低いが断られたから後回しにするか・・・。
湖か塔だな・・・・塔が1日で湖が2日のクエストだが・・・、中継車が来てくれれば何とかなるかもしれないな、どうする?」
ここはまず冒険の経験豊富なツバサの意見を聞いてみよう・・・、多少変更があったところで基本的なところに変わりはないだろう。
「うーん、おかしいですね・・・、あたしの記憶では西が湖で南が塔だったような気が・・・。」
ツバサがクエスト票をまじまじと見ながら首をかしげる。
「そうですよ・・・一昨日までのクエスト票でもそうなっていましたし、僕の記憶でも確か南に封印の塔があった記憶が・・・。」
源五郎もツバサの言葉に賛同する。
「そうだな・・・焦ってクエストを書き換えたがために、方角部分を書き間違えたのかもしれん、確かめてみよう。」
クエスト票をもって受付カウンターへ。
「これ・・・、方角が逆なんじゃないのかい?
南が塔で西が湖だろ?」
2枚のクエスト票を受付嬢に差し出す。
「いえ、間違いございませんよ・・・南に大きな湖がございまして、そこに沈没船が沈んでいるはずです。
西には高く大きな塔がございます。」
受付嬢は表情を変えずに答える。
ううむ・・・、どうなっているのだ?まあいいか・・・。
「分かった、この3つはすべて引き受ける・・・、復活の木の葉に関してはあまり自信がないがね・・・。」
ここでああだこうだ言っていても始まらない、方角の違いなど小さなことだ、要は南と西にクエストはひとつずつあると考えればいいのだ、またなくなると嫌なので復活の木の葉の採取も併せて3枚のクエスト票を差し出す。
どれも期限は1週間だから問題はないだろう。
「はい・・宝剣の引き上げと・・塔の根の破壊と・・復活の木の葉の採取ですね。
クエストレベルはそれぞれRU,RZ,と・・・ZAですね。
リーダーの変更はございませんか?では、気を付けて行ってください。」
受付嬢が、ようやく笑顔で見送ってくれる。
「あれ?こんな高いレベルのクエスト引き受けられるのですか・・・?」
その様子に一番驚いたのは、やはりツバサだった・・・、そりゃそうだろうな。
「ああ、前にも言った通り、俺たちの経験値はすごく高いからレベルも高い。
だから、クエストはどれでも引き受けられるのさ。
じゃあまずは・・・、西に行ってみるか?1日のクエストとなっている。
西は賢者のトンネルの方角だし、距離的には一番近いはずだ。
だが・・・高い塔なんかあったか?」
一度に受け付けたが、1日ずつこなしていくつもりではいる・・・、今日はこの1件だけだ。
「はあ・・・そうですか・・・いえ、そうですね・・・、南には確か池のようなところはありましたが・・・、湖は・・・ちょっと記憶がありませんけど、遠い可能性があります。
西の方がいいでしょうね・・・恐らくこっちが湖だと思われますけどね。」
ツバサもうなずく。
ギルドの外に出てみるとそこには1台のワゴン車が停車していた。
中継車と思うのだが、昨日見たワゴン車よりも少し大きいような・・・。
「早速だがクエストを引き受けてきた・・・、悪いが西にあるという塔まで連れて行ってくれないか?」
テレビ局スタッフなら地理には詳しいだろう・・・、西には塔がないとなれば湖を目当てに行けばいい。
「はい、分かりました・・・いやあ、シメンズ復活ですよね・・・大変喜ばしいことです。
チームメンバーが4人となりましたので、荷物も増えるかと思い大きめの車に変えてまいりました。
このところ何年間もずっとツバサさん一人の冒険となりまして・・・、いやまあ、それでも各大陸を渡り歩いているうちは景色や戦闘に変化がありましたからよかったのですが・・・。
ここ数年間はずっと南部大陸で同じパラボラアンテナ施設の襲撃を繰り返しておりましたから・・・、ちょっと視聴率が低迷しておりまして・・・、それでも今となりましてはこの星オリジナル番組はツバサさんの冒険だけでしたから、放送を打ち切るわけにも参りませんでしたもので・・・。」
懐かしいテレビスタッフが少し言いづらそうに、汗をふきふき話してくれる。
昨日は俺は馬車に乗ったので、あいさつ代わりに俺にも状況を説明してくれているのだろう。
まあそうだろうな・・・、何度も若くかわいらしい女の子が命を落とす場面を見たくはないだろうし・・・、冒険と言えばやはり快活なものでなければいけないのだろう。
「ではどうぞ・・・、お乗りください。」
『ガチャッ、ビー・・・』スタッフが手をかざすと、ワゴン車のドアがひとりでに開いた・・・なんと自動ドアだ・・・、流石に10年も経てば車事情も変わっているようだ。
ツバサとともに中継車に乗り込み出発だ・・・、中継車で行けば1時間もかからないだろう。
『キッキィー』中継車が巨大な建物の前で停車する・・・、なるほど大きな石造りの塔がある・・・。
位置的には賢者のトンネルとほど近いはずだが、どうして目に入らなかったのか・・・と考えてあたりを確認すると、近くに大きな作りかけの鉄骨の建築物が・・・これがテレビ塔なのだろうか・・、この陰になっていて、分からなかったのだろうな。
石造りの塔は、大きなテレビ塔の4本の脚の1本の根元付近にそびえたっており、この塔がある限りテレビ塔建設は難しいだろうと考える。
そのため塔の根の破壊のクエストという事だろうか・・・、まあ、行ってみるとするか。
「じゃあ、お願いいたします。」
頭にはヘッドカメラと照明用のライト、インカムのヘッドホンとマイクを装着されて中継車から降りる。
「大きな塔ですから、途中中継ボックスを貼り付けていただくことになるかもしれません。
指示が出ましたら、中の箱を壁に貼り付けて行ってください。」
そういわれて、四角く白い箱がいくつも入った大きなリュックを背負わされてしまった。
中継を約束して車で送ってもらっているのだから、いやというわけにもいくまい・・・従いましょう。
「ツバサは鋼鉄の爪をギルドに取り上げられてしまったから、武器がないのだろ?
かといってこのゲームはおねだり禁止だから、武器屋で買ってあげることもできなかった。
素手でも勝てそうな相手に遭遇するまでは、後ろに控えていてもらって構わない。
とりあえずこのクエストで金を稼いで、武器を手に入れよう。」
このクエストは3人だけで戦うつもりではいた・・・、出現アイテムは無理でも、参加さえしていれば報奨金はもらえるはずだ。
とりあえず武器を持たせてやらねばなるまい。
「鋼鉄の爪は渡しましたが、鉄の爪があります。
これは10年前に皆さんと一緒の時に、正規のクエストで手に入れたアイテムですから問題ないはずです。
その後、皆さんと別れてから冒険のシナリオを最初からやり直すように言われて、賢者のトンネルのカギは一旦没収されて、始まりの村へ戻されたのです。
それでも手持ちのアイテムまでは調べられませんでしたし、経験値も残っていました。
ところがクエストレベルは驚くほど高く設定されてしまったのです・・・、まるであたしに冒険の旅を続けさせないためのように・・。
本当は炎の爪や氷の爪も持っていたのですが・・・、Gが尽きて売ってしまいました。
なにせ数回連続で死ぬと、Gはほぼゼロになってしまいますからね。」
ツバサが寂しそうに笑う。
「そうか・・・じゃあ、ツバサは1対1であればどんなレベルの魔物相手でも負けないだろうから、囲まれないよう気を付けて戦ってくれ。
俺たちがフォローするから、うまいこと一体ずつ片付けて行ってくれ。
ゲームの設定上戦わなくても経験値は稼げるとは思うが、戦えるのであれば戦った方がいいだろう・・・、出現するアイテムに影響するからね・・・だが無理しないよう注意してくれ。」
塔の入り口でツバサを励ます。
「はい、分かりました・・・、よろしくお願いいたします。」
ツバサが深々と頭を下げる・・・、世界最強ではあっても魔物とのレベル差は大きい。
ちょっと囲まれてしまえばひとたまりもないだろう・・・、なんとかフォローしてやらなければ・・・。
『カチャッ』石造りの塔の、大きな1枚板の扉を開けて中へと入る。
『ピカッ・・・ボンッ・・・ジュワッ』瞬間目の前が光に包まれたかと感じたら、なにやら胸のあたりに熱いものが・・・、ふと目線を下に移すと、なんと鋼鉄の鎧に黒いしみが・・、いやしみではなく焼け焦げのような・・・穴だ・・、何がどうしたんだ・・・?
「・・・だー・・・、リーダー・・・大丈夫ですか・・・?」
後方から声が聞こえてくるが、ゴワンゴワンと耳鳴りとともに、なにかすごく遠くからの声のようでぼんやりとしか聞こえない・・・、胸元から噴き出す熱いものがだんだんと下に降りてきて、へそを通過していくのが分かる・・・、何じゃこれは・・・!
撃たれたのか?ツバサをフォローするなんて偉そうなことを言っておきながら、あっさりと撃たれて倒されてしあったというのか・・・?
「・・・だー・・・・、どうし・・・・・」
今では頭の上の方から聞こえる声が、だんだんと遠ざかっていく・・・。




