もう一度、始まりの村へ
5 もう一度、始まりの村へ
「はぁっはぁっ・・・。」
ツバサが息を切らせながら宿に入ってきた。
「お帰り・・・っていうのもへんかな?」
なるべく明るい笑顔を見せようと努力してみる。
「待っていてくださったんですか?
先に宿泊なされていた方がよかったでしょうに・・・。」
ツバサが少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや・・・君はうちのメンバーなんだから、一緒に行動するのが当たり前だ・・・。
レイが・・・起きていられなかったのは残念だがね・・・。」
レイをおぶったままで笑顔を見せられても迷惑かなーとは思うけど、待たないわけにはいかなかった。
「これ・・・さっきの食堂で多めに頼んで食べられなかった分・・・・、まったく箸はつけていなかったから、弁当にしてもらったんだけど、ツバサが持っていてくれ・・・。
どうせツバサの分と思って大目に注文したんだし、俺たちは自分で買った弁当を持っているけど、恐らくツバサは冒険者用弁当を持っていないだろ?
万一のためにも持っていた方がいい・・・、じゃあ、今日は就寝とするか・・・。」
ツバサに無理やりホイコーロー弁当を持たせると、そのまま宿屋の受付へ・・・冒険者用袋に入れる前であれば、物品等も手渡しは可能なようだ。
「はい・・・そうですね・・・。」
源五郎の笑顔も少し眠そうだ。
「いらっしゃいませ・・・、おひとり様300Gになります・・・。」
受付嬢が元気な笑顔を見せる・・・。
「ありがとうございます・・・、食事は済ませたといっておけば宿代は割引になりますよ・・・。」
小さく会釈してホイコーロー弁当を自分の袋の中にしまい込みながら、ツバサが教えてくれる。
「おおそうか・・・、じゃあ背中の子も含めて食事は済ませてある。」
「僕も済ませてあります。」
「あっそれなら・・・、それではおひとり様250Gになります。
ツバサさんは従業員割引で50Gです。」
受付嬢が、笑顔で答えてくれる。
ちょっと儲けた気持ちになるのは貧乏性だろうか・・・、それにしても従業員割引って・・・食堂で働いていたからか・・・?まあ、そうだろうな・・・食堂のバイトではそんなに日給がいいはずはないだろうから・・・。
「じゃあ、おやすみ・・・。」
「おはようございます。」
「ああ、おはよう・・・。
ほら、レイも降りなさい・・・。」
背中におぶっていたレイを降ろす。
「ふあー・・・、おはよう・・・。」
レイが眠そうに目をこする・・・、レイの場合は宿に宿泊する前から寝ているのだから、睡眠の感覚はあるのかもしれないな・・・。
「あっ・・・お姉ちゃんだ・・・、おはようございます。」
「おはようございます・・・レイちゃん・・・。」
ツバサも笑顔で答える。
「じゃあ、早速ギルドに行ってみよう・・・、ツバサも少し稼いだ方がいいだろ?」
いつもならツバサはパラボラアンテナ施設を襲撃に向かうのだろうが、今日はギルドに行ってクエスト探しだ。
「えっ・・・そりゃあ、クエストを引き受けたいのは山々なのですが・・・。」
ツバサは、少し寂しそうに笑顔を見せる。
「まあ、任せてくれ・・・。」
そういって宿を出て通りを歩き、見慣れた大きな建物を目指して進む。
どこの町でも決まった形をしているので、迷うことはない。
「いらっしゃいませ・・・。」
ギルドの受付嬢が笑顔で挨拶してくれる。
「シメンズのサグルというものだが・・・、メンバーが一人増えた・・・新メンバーのツバサだ。」
受付に行って、ツバサが加わったことを告げる。
「ツバサさんが加入ですね・・・、ツバサさんは9年ほど前から冒険者としての活動を休止されておりましたが、活動再開という事でよろしいですか?」
受付嬢が冒険者の活動状況を確認しているのか・・・、少々ショッキングな事実を告げてくる。
そういえば・・10年前に突然魔物たちが超強力になって、冒険者クエストのレベルが上がってしまって引き受けることもままならなくなったといっていたな・・・。
「ああ、活動再開となる・・・が、再開に当たって何か試験とかあるわけじゃあないわけだろ?
そのまま俺たちのチームに入れるよね?」
ちょっと不安になって、受付嬢の顔を見上げるように下から目線で訴える。
「はい・・・それは構いません・・・、ツバサさんのクエストレベルは・・・、現在Gですがよろしいですか?
その・・・正規にクエストを受けずに、勝手にダンジョンに侵入して魔物たちと戦ったり、あるいは日々特訓をされているようですが・・・、このような場合の経験値は通常より減額評価され、それに伴う身体能力の向上も抑えられてしまいます。
そのため、戦闘経験に比べて獲得レベルは低いものとなっております。」
受付嬢が申し訳なさそうに目を細めながら伝えてくれる。
「ああ・・・それがこのゲームのルールであるなら、全く問題ない。
じゃあ、クエストを確認させてもらおうか・・・。」
そういいながら、部屋中央の柱へと向かう。
そうか・・・ツバサが命懸けで戦ってきたことや日々の特訓などは、正常に評価されることはなかったというわけだ・・・、実体化しているのであればともかく、ここはゲームの世界・・・バーチャルだからな・・・、評価されなければ身体能力向上にもつながらないというわけだ・・・、残念だが仕方がない。
まあ、今後俺たちと一緒にクエストをこなしていけば、飛躍的にレベルは向上していくことだろう・・・、なにせ格闘技世界最強なわけだから、1対1でさえあればレベルが上の魔物たちとだって戦えるのだからな。
魔王の居城のある南部大陸であるならば、さぞかし難易度の高いクエストがひしめいていることだろう・・・、と思っていってみると・・・、あれ?ない・・・1枚もクエスト票がない・・・、そんなはずはないだろう・・・始まりの村のギルドですら、3件はあったはずなのに・・・。
あのときも俺たちのレベルに合わせているのか、非常にハイレベルなクエストばかりではあったが・・・。
「どういうことだい・・・?」
不審に感じてツバサに聞いてみる。
「多分あたしが不正をしてこの地に来ているからだと思います。
本来であれば、勇者になるための冒険のシナリオを順にこなしてくるはずなのに、途中経過がないから以降のクエストが発生しないのではないかと・・・。
最初から順にクエストをやり直さなければならないのだと思います・・・、でも・・・最初のクエストから高レベルですから・・・このままでは引き受けることもままなりません・・・。」
ツバサは全ての望みが絶たれたかのように、失望して膝から崩れて床に座り込んでしまった。
「じゃあ仕方がないから、始まりの村まで戻ろう。
そうして最初からクエストをやり直せばいいじゃないか・・・、だが・・・クエストだったら初級レベルのクエストだって本当はあったわけだろ?
まあ、今のクエストレベルじゃそんな低い経験値のクエストをこなしていても、勇者につながるクエストを引き受けられるようになるまでに何十年もかかってしまいそうだが・・・、それでもまったく引き受けるクエストがないというわけじゃなかったんじゃないかと思うんだがね・・・。」
まあ、初期レベルのクエストをいくらこなしていっても、到底追いつきそうもないようなレベル差に、あきらめてしまった気持ちはわからんでもない・・・。
「いえ・・・パラボラアンテナ施設には、その地の村人たちばかりか、魔物たちも全員駆り出されてしまい、平原に巣くう魔物が皆無になってしまったのです。
残りは勇者を育むためのクエスト担当の魔物だけで、それが超強力なので、あたしのレベルでは引き受ける事もままならなかったわけです。」
ツバサが真顔で答える。
ありゃりゃ、そうだったのか・・・魔物たちまでも招集しているわけね・・・、それなのでこの地のパラボラアンテナには暗黒騎士団が警備しているという事なわけか・・・、一体何が目的なのか・・・まったくわからんな。
「分かった・・・、じゃあ一旦戻るとしよう。
ツバサの推定通り、パラボラアンテナ施設が魔王城に通じている可能性もなくはないのだが・・・、折角の受信施設を破壊してしまうのも何だし・・・、何もなければ俺たちの方が悪役になってしまう恐れがあるからね。
ちょっと回り道のように感じるが、最初から冒険をやり直して最終的に魔王や魔神に到達すれば、まさに謎が解けると信じて行動しよう。
ツバサもそれでいいね?」
10年近くも必死に頑張ってもう少しで魔王城に・・・という思いのツバサには大変申し訳ないが、ここはいったん引いてみるのがよさそうだ。
地球からのテレビ放送受信にどのような意味合いがあるのかは知らないが、その放送を楽しみにしている別次元のこの星の本来の住民たちを敵に回すような行動は避けなければならない。
「分かりました・・・やみくもに突っ込んでいっても、そう簡単に道が開けるものではないという事は、これまでの戦いで薄々感じていました。
最初からでも冒険の継続が可能であるならば・・・、それに従います。」
ツバサは少し疲れたようにうつむき気味だが、それでも少し笑顔を見せた。
俺には・・・10年前に中断された冒険を今度こそ最後までやり遂げたい気持ちもある・・・、定男とかいう奴の話だと、俺たちは2度も魔神にまで到達したというのだから、2度ゲームをクリアしているのだろうが、その記憶は今の俺には全くない。
すべてを記憶しているツバサには大変申し訳ないが、もう一度冒険の旅に付き合っていただくことにしよう。
「じゃあ、帰るとして・・・昨日一緒にいたテレビクルーに中継車で送ってもらえるわけだろ?
賢者のトンネルを使って戻るにしても、車があるとずいぶん楽だからね・・、ツバサも走らずに一緒に乗っていった方がいい・・・、先ほどギルドの受付嬢が言っていただろ?クエスト以外の特訓は獲得する経験値を減額するって・・・、だったらその分体を休めた方がいいだろう。」
「分かりました・・、席は皆さんの分もあるはずですから、じゃあちょっと交渉してみますね・・・。」
『ギィ・・・バタンッ』ツバサはそういうと、ギルドの建物から出て行った。
『ギィッ』続いて俺たちも扉を開けると、そこにはすでに中継車がやってきていた・・・、恐らくツバサを探していたのだろう、スタッフが数人四方を駆け回っていたのが、戻ってきている所の様だ。
『スタタタタッ』やがてスタッフと話をしていたツバサが、駆け戻ってきた。
「大丈夫です・・・皆さんのことをスタッフさんたちも覚えていて、歓迎してくれています。」
ツバサが笑顔を見せながら戻ってきた。
「ああそうか・・・、じゃあ2手に分かれよう。
昨日乗ってきた馬車が帰るといっていたから一緒に帰ろうと思う・・・、午前中まではギルド前で待つといっていたから、もうそろそろ・・・。」
『カッポカッポカッポカッポ』言っているそばから、1台の馬車がゆっくりと通りを歩んできた。
「おお、どうされます?一緒に帰りますかい?」
御者席から、御者が大きな声で問いかけてくる。
「ああ・・・帰りも頼むよ・・・、まあ馬車に乗るのは俺一人だけだがね?」
そういいながら、中継車を指さす。
「ああそうですか・・・わざわざお付き合いいただけるわけですね。
帰るついでですからお代は頂かなくても結構です・・・、護衛替わりという事で・・・じゃあ、どうぞお乗りください。」
御者が客車を指さす。
「じゃあ、皆は中継車で行ってくれ・・・、俺は念のために御者席で周囲を警戒しておくよ。
源五郎とレイは一緒に乗って、今までのいきさつをツバサから聞いておいてもらえるか?
過去の冒険の進め方など分かれば攻略も楽になるだろう・・・、ちょっと卑怯にも感じるが、ゲームのシナリオとは思えない相手なわけだから、認めていただこう。」
冒険をやりたいのは山々なのだが、早いところこのわけのわからない状況を解決しなければならないのも事実なのだ。
折角2度もの冒険の経験者であるツバサがいるのだから、今までの冒険ストーリーを聞いておけば、有利に進められるはずだ。
まあ10年も前のことだから、多少記憶も薄れているとは思うのだが・・・、大まかでもわかればいい。
「はい、分かりました・・・じゃあ、10分だけ待っていてください。」
そういってツバサは、ギルドから裏通りへと駆けて行った。
「わーい・・・、冒険のお話ー・・・。」
『カチャッ・・・バタバタ・・・バタン』レイが嬉しそうに一番に中継車に乗り込み、源五郎は中継車の外でツバサを待つ。
「お待たせしました・・・、食堂の皆さんにお別れを言ってきました。」
ツバサが息を切らせながら戻ってきた・・、目には少し涙の跡が・・・。
そうか・・・そうだよな・・・、長年にわたってツバサの面倒を見てくれた、いうなれば恩人のような店とのお別れだしな・・・。
『バタンッ』『ブロロロロロロッ』ツバサと源五郎が中継車へと乗り込み出発し、『カッポカッポカッポ』馬車もその後を追うように、一路、魔王城そばの賢者のトンネルへと向かった。




