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ツバサの事情

4 ツバサの事情

『いらっしゃいませ・・・』店に入ると元気な声がかかる。


「あっ、お姉ちゃんだ・・・。」


 よく見ると確かにツバサだ・・・だがしかし、俺が覚えているツバサからは到底想像もできない恰好をしていた・・・、なんと、膝上20センチはありそうなミニで、しかもサイドが腰まで裾割れしている真っ赤なチャイナ風ドレス・・・、うーん・・・目の毒目の毒・・・。


「こちらにどうぞ・・・。」

 かわいらしい女性店員もちろんツバサに案内されて、店奥のテーブルに着く。


「この店は、結構すいているようだけど・・・、いつもこんなものなのかい?」


「はい・・・今の時間はいつもほとんどお客様がお見えになりません。

 ですが・・・もうしばらくたって午後9時近くになりますと、連日満員となります。


 パラボラアンテナ施設に駆り出されている町の人たちの終業時間がその時間なのです・・・、2交代制のようですね・・・。」

 女性店員もちろんツバサが、レイたちを席に導きながら答えてくれる。


「パパー・・・どうしたの?さっきからお姉ちゃんに話しかけているのに、ちっともお姉ちゃんの方を見ずにそっぽを向いているでしょ。


 人と話すときには、ちゃんと相手の目を見て話さなければいけないって、学校で習ったよ・・・。」

 レイが、俺の態度を不審に感じたのか、小言を告げてくる。


「ああ、そうだったねえ・・・ちょっと店の雰囲気がいいものだから、中を見ようとしてしまっていてね・・・。」


 すぐにレイに視線を移して答える・・・ツバサの方を見ることはちょっと難しい・・・、なにせあの格好では腰の切れ目に目が釘付けになってしまいかねないのだ・・・。

 若い娘に鼻の下を伸ばしている姿を、レイに見せるわけにはいかない。


「ご注文をどうぞ・・・。」(サービスしますよ・・・。)

 ツバサが小声で付け足す。


「ああ・・・この店の人気メニューは何かな・・・。」

 なるべくツバサを見ないで済むように、客がいないのはわかりきっているのだが、店内を見回しながら尋ねる。


「そうですね・・・バンバンジーとかホイコーローとか・・・、餃子は水餃子も焼き餃子も人気があります。

 シューマイに天津飯に・・・、あとはラーメンですね・・・。」

 ツバサが看板メニューを紹介してくれる。


「レイはねえ・・・、焼き餃子とラーメンとライスー・・・。」


「じゃあ僕は、ホイコーローとコンソメスープとライスをお願いします。」


「じゃあ俺は、バンバンジーとライスとシューマイと天津飯とスープで・・・。」


「はい、かしこまりました。」

 注文を受けツバサが厨房へと戻っていく。


「ずいぶん食べますね・・・。」

 源五郎が意外そうな顔をする。


 3者3様の注文となってしまったが、まあいいだろう・・・シュウマイは餃子がおいしくなかった時のための保険だ・・・、見た感じ大衆中華料理屋さんといった感じの店だ。

 それがためのチャイナドレス風の格好なのだろうが、ちょっとやりすぎだ・・・誰の趣味だろうか・・・悪趣味と言うわけでは決してない・・あまりにも魅力的すぎる・・・というか、知り合いなだけに目のやり場に困る。


「お待たせしましたー・・・。」

 しばらくすると、ツバサが食事を乗せた手押しのワゴン車を押しながらやってくる。

 店員はツバサしかいないのか・・・、本当に人手不足の様子だ。


「わあー・・・、おいしそう。」

 レイがもやしとチャーシュー山盛りのラーメンを見て、嬉しそうに笑顔を見せる。


「ツバサも一緒に食べるといいよ・・・君の好みは聞けなかったけど、大目に注文したから。」

 そういってツバサも席に着くよう、促す。


「いえ・・・あたしは店の賄を、バイトが終わってから食べますので大丈夫です。」

 そういってツバサはけなげにも笑顔を見せる・・・、1日戦って腹も減っているだろうに。


「うーん、でも・・・これまでの経緯も聞きたいし・・・、バイトが終わるのは何時なんだい?」

「はあ・・・、午前1時に終わりです・・・。」


「えっじゃあ・・・それから片づけをして賄い飯を食べて・・・、という事じゃあ宿に行くのは2時過ぎだよね・・・。」

「賄の後片付けもありますので・・・、大体3時ころになってしまいますよね・・・。」


「そっそれじゃあ・・・・睡眠時間は3,4時間くらいしか取れないだろ?疲れも取れないだろうに・・・。」

 たった一人でこの世界に残って戦っているツバサの事情が、こんなに悲惨だとは思ってもみなかった・・・、現実と見まがうほどの高度なバーチャルゲームを継続できてうらやましいと、ずっと思っていたのに・・・。


「まあでも・・・3時間も寝れば十分ですよ・・・、まだ若いですからね・・・。」

 ツバサはそういって笑顔を見せる・・・健気だ・・・。


「それはそうと今はまだほかにお客も来ていないから、少しなら話せるよね・・・、これまでの経過をかいつまんで聞きたいが、大丈夫かい?」


「ええ・・・、まあ少しだけなら・・・。」

 ツバサは少し背伸びして、厨房の方に目をやった後、自信なさそうに答える。

 あまり引き留めるわけには、いかないな・・・。


「もう食べてもいいー・・・?」

 おあづけを食らっているレイが、焦れてきたようだ。


「あっ・・・ああ、出来立てのラーメンが伸びても何だから、食べていいよ。」


「ハーイ・・・いっただきまーす。」

『パキンッ』レイが割り箸を割ってラーメンを食べ始めるが、俺はちょっと遠慮して・・・と思っていたら源五郎もそのつもりのようだ。


「まずは、何が問題なのか知りたい・・・、今の問題とは何か?敵がいるのか?その敵は何者かわかっているのか?」

 ツバサ・・・ではなさそうだが、何者かが俺たちに対して、助けを求めてきた本当の理由をまずは聞いておく必要性がある。


「そうですね・・・、あれは皆さんとお別れしてから何日も経っていないときのことでした・・・。

 突然、世界各地に狂暴な魔物たちが出現したと、各大陸の超人たちから連絡を受けました。

 あたしは、それが新たな冒険の始まりを告げるものだと考えていましたが、違っていました。


 先ほども申し上げた通り、あたしのレベルで引き受けられる冒険者用のクエストなど、冒険が再開されて1ケ月も経たずに消滅しました。

 遥か高レベルのクエストしかありませんから、クエストをこなしてレベルを上げることもできず、勇者どころか冒険者として自分を維持することも難しくなってしまいました。


 それでもこのゲームでは、クエスト以外でも訓練していけばある程度レベルを上げることが可能なのはわかっていましたから、日々の鍛錬とクエストとしてではなく勝手にダンジョンに入り込んで魔物相手に戦いを挑んだりもしました。


 それで何とかクエストを引き受けられるレベルにまで到達しようと、画策していたのです。

 ところがそれから1年半くらいたった後、事態は急変しました。

 突然・・・南部大陸で巨大なパラボラアンテナ施設の建築が始まったのです。


 しかも名目が地球からの娯楽番組を受信するためという触れ込みで、ゲームの世界のみならず、あたしのいる次元の世界の住民まで巻き込んで、パラボラアンテナで地球のテレビ放送受信が叶うよう、祈るように扇動されたのです。


 でもそれは・・・確かにみんな喜びました・・・、地球のテレビ番組は、この星で作られる地味な放送とは違って、少し過激ではありますが非常にスリリングで面白く、誰もが喜びました。


 願いが叶ってテレビ放送が受信できたのか、あるいは作られたパラボラアンテナの性能がいいため、はるかかなたの地球からの電波が受信できているのか、あたしにはよくはわかりませんが、ともかく電波の受信には成功しました・・・。


 そうしてみんなの望みは、もっとおもしろい番組の受信に変わっていきました。

 すると、昭和の時代に戻ればもっと面白い番組をやっていたという噂が流れ、皆に110年前まで時代をさかのぼるよう毎日祈るような通達が回ったのです。


 昭和という時代がどのような時代かはわかりませんが・・・、過去にさかのぼってしまったら、あたしたちはどうなってしまうのか・・・、その時代にすでに生まれて生活していた人であればともかく、あたしのように若い世代はそんな昔に戻ってしまっては、生まれていないことになって消滅してしまうのではないかともささやかれ始めました。


 そのため、すぐにその願いがかなうことはなかったのです。

 それでも日々の祈りは欠かさないよう通達は回っていますし、ゲームの世界の人たちまでもが毎日お祈りを始めるような、本格的な願い事に変わりつつあります。


 どうしてそのようなことになっているのか、突き止めるにもゲームを攻略していかなければならないのですが、先ほども言った通りレベル的にクエストを引き受けることもままならない状態でした。

 その時に、ここ南部大陸のパラボラアンテナ施設では、暗黒騎士団らがその建築に携わって警備もしていると、テレビ放送で流されたのです。


 このゲームのコントロールは、魔王城の中にプログラミング施設があると以前説明を受けましたが、クエストを攻略して勇者になって魔王城に到達して、魔王や魔神を倒さなければ、彼らとまともに会話することも叶いません。


 仕方がないので、魔王の親衛隊である暗黒騎士団がいるという事は、パラボラアンテナ施設が地下で魔王城に通じているのではないかと考え、ここを攻略して何とか魔王に近づこうと考えました。


 南部大陸まで到達するには、やはりクエストをこなす必要性がありましたが、賢者のトンネルのカギがもらえるクエストを知っていましたので、ギルドを通さずに直接そのダンジョンに行って鍵を収集していきました。


 勇者になるためのクエストに関しては重要と考えているのか、どこも超強力な魔物たちが守っていて、何度も命を落としましたが、ゲームの世界であり復活が効きましたので、何とかカギを手に入れてここまでやってきたのです。


 そのため、手に入れていない賢者のトンネルのカギもいくつかありますし、初期に手に入れるはずの船も取得しておりません。

 賢者のトンネルを使っていけるところまで行き、後は山を越え、浅瀬を伝って何とかこの地まで到達したのです。


 魔王城へのカギに関しては、中継車をこの大陸まで導き入れるように、この大陸で手に入れ扉を開放しておりました。

 以降、この町にたどり着いてからは、毎日アンテナ施設攻撃を続けていたわけです。


 そうしてつい3年ほど前から、世界各地にパラボラアンテナを作れば、1日中日本からのテレビ放送を受信できるから、更に面白い番組が見られるようになると変わってきたのです。


 確かにそれまでは、一部の時間帯の番組しか受信できていなかったようなのですが、地球のテレビ番組はいくつも放送局があるようですから、1日中見ていられるだけの番組数は確保できていました。


 それでも人の好みは様々ですから、番組数が多いに越したことはありません・・・、次元の向こう側の住民も大喜びで、その他の大陸でもアンテナ施設を建築し、完成の暁には地球からのテレビ放送電波を受信できるよう星をあげて祈る算段がついていました。


 そのため各大陸の町民たちばかりでなく魔物たちまでもが駆り出されて、巨大なアンテナ施設建築が始まり、今日に至っているわけです。

 まさか、皆さんに来ていただけるとは・・・。」


 ツバサが一気にこれまでの経緯をかいつまんで説明してくれた。

 またもやツバサの目には涙が・・・ううむ・・・、そうだったのか・・・相当苦労しているな・・・、10年間という歳月を使って各地を渡り歩き、超強力な魔物たちを何とか倒し鍵を手に入れながらこの地まで到達したわけだ。


「うーん・・・確かに昭和なんて言うと・・・、映画とかテレビとかが元気な時代だったのかもしれないなあ・・・、今の世界はどちらかというとバーチャル的な要素が強い、ネットゲームとかネット番組が主流になっているからね。


 様々なジャンルに分かれているから、逆にこれっていうのがなくなってきているのかもしれないしね。」

 昭和に行けばもっと面白い番組が見られるという発想も、まあわからんでもない・・・。


「でも・・・110年前っていうと・・・恐らく昭和の初期ですから、そのころはまだ日本ではテレビなんて放送していなかったはずですよね・・・、せいぜいラジオの時代ですよ。」

 すると突然源五郎が、首をひねりながらつぶやく。


「確かにそうだ、地球の中の国同士が2つに分かれて戦っていた時代になるかもしれないな。

 そんな昔には、日本では確かにラジオ放送はやっていたけど、テレビ放送までは・・・。

 そうなると、そんな時代にどうして戻ろうとしているのか・・・、気になるな・・・。」

 うーん・・・、一体どうして?


「そういえば・・・最初の冒険の時に、地球との通信異常になりましたよね・・・。

 あれは皆さんがこの星の住民たちと仲良くなりたいと願って、次元を超えて実体化したときです。


 それは魔神によって計画されたことだったのですが、その時に魔神は魔王や竜王を倒すために、時をさかのぼったのです・・、確か50年前と100年前にさかのぼり、魔王と竜王を倒しました。

 それと同じようなことを、また始めようとしているのでしょうか・・・?」


 ツバサが、過去を思い出すようにして話す。


 通信異常となって、翌日説明会を受けたときのことだな・・・・、定男が起こした反乱のようなものだと言っていたな・・・、それが原因で願いが叶う星のことが知れ渡り、各国政府が危険視し始めて、分析のためにゲーム機を没収されたわけだ。

 また、同じようなことをしでかそうとしているのだろうか・・・、でも一体だれが・・・?


「まあ、大体わかった・・敵のような存在がいそうなこともな・・・。

 だがそいつのところにたどり着くのは、かなりしんどそうだな・・・、なにせ俺たちはゲームキャラであり裏の事情に接する術を持っていないわけだ。


 このゲームの製作者側に接触するしかないわけだが、それにはやはりクエストをこなしていくのが一番だと思う・・・、そうして魔王や魔神に出会えれば彼らが助けてくれるはずだと、このゲームの製作者側の奴が言っていた。

 だからツバサも俺たちのチームに入って、明日から冒険の旅に出よう。


 パラボラアンテナ施設を攻撃していても、一般の人たちから評判が悪くなるだけだ。

 それよりも、ちゃちゃっとクエストをこなして魔王と魔神を攻略しちまおう。」

 ツバサをチームに誘う。


「でも・・・あたしが無理にクエストに横入りしたせいか・・・、以前とクエストが変わってきてしまっていますよ・・・。

 しかも、そのダンジョンにいる魔物たちは超強力ですし・・・。」

 ツバサが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ああそうだね・・・、クエストレベルが半端ないものな・・・、だがまあ、それは俺たちには関係ない。

 どんなレベルのクエストでも引き受けられるし、恐らく魔物たちに負けることもないだろう。

 まあ、明日にでもギルドに行ってみて、クエストを見てみよう。」


「ツバサちゃん!」

「はーいっ・・・じゃあすみません、もう行かなければ・・・皆さんはごゆっくり。」

 ふと周りを見ると、店にはちらほらと客が入り始めている様子だ。


「じゃあ、宿でね・・・、待っているよ。」

 ツバサの背中に声をかけておいた・・・。


「じゃあ、食べるか・・・。」

 少し冷めたが、中華料理はおいしかった・・・。



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