再会
3 再開
『シュッパパーンッ・・・パッパパァーンッ』鋼鉄の甲冑姿の剣士は、瞬く間にさらに2体の暗黒騎士をぶった切ると、ツバサに向けて手を差し伸べてきた。
「大丈夫かい?」
剣士の手を借りて、ツバサはようやく立ち上がる。
目の前の光景は、まさに信じられないことばかりだった・・・。
『シュッシュッシュッシュッシュッ』『カンッカンッガシュッカンッガシュッ』馬車の御者台から飛び降りてきた射者が鈍く輝く矢を射かけると、2撃目にはそれを防ごうとする盾をも貫き暗黒騎士を倒していく。
「光攻撃!光攻撃!光攻撃!」
『ぺっかーぺっかーぺっかー』さらにローブを羽織った魔術者が唱えると、その手のひらから発せられた光は、暗黒騎士の防御を無効にして彼らを消失させる。
アンテナ施設前に陣取っていた暗黒騎士たちは、たまらず建物内に逃げて行った。
「よせっ・・・、追わなくてもいい。
ツバサを助けられただけで十分だ。」
魔術者が暗黒騎士たちを追いかけて建物内に入っていこうとするのを、剣士は引き留める。
どうやら自分のことを知っている相手のようだ・・・、どこかで見たような気も・・・。
「さっ・・・サグルさん・・・サグルさんですよね?
お久しぶりです・・・、もう会えないかと思っていました・・・。」
なぜか頬を伝う熱いものが感じられる・・・自分でもどうしてかわからないが、涙が後から後からこみあげてきて止まらない・・・、悲しいのではない、うれしいのだ・・・、うれしいのに涙が出てくるという事を初めて知る。
「覚えていてくれたかい・・・?というか、俺たちのことを覚えていたからこそ、呼びかけてくれたんだったよね。
その気持ちは俺たちに届いたよ・・・、だから助けに来た。」
銀色に鈍く輝く鎧に身を包んだ剣士は、さわやかな笑顔を見せる。
「ツバサさん・・・、お久しぶり・・・。」
続いて長身の男性がやってきて笑顔を見せる・・・、先ほど超強力な矢を射ていた人だ・・・、だがしかし、この人には見覚えがない・・・。
「源五郎です・・・ちょっと以前のキャラがどうだったか思い出せなかったので・・・・、最近の好みで作ってきました。」
以前は背が低めで童顔のキャラであったが、今は長身でシャープな顔立ちに変わっている・・・、あか抜けたにしても随分な変わりようだが・・・、まあ10年たって成長したと思えば・・・。
「レイ、ちょっと来てあいさつしなさい・・・、ツバサさんだ・・・。」
さらに、ローブ姿の魔術者をサグルさんが呼んでくれる。
「こんにちは・・レイです・・・、8歳です・・・。」
自分と同い年くらいの外観の女の子が、もじもじしながら挨拶してくれる。
「レイさん・・・お久しぶりです・・・って?8歳・・・?」
彼らと別れてからすでに10年たっているというのに・・・地球とは時間の進み方が違うのかしら・・・、というか逆行しているような・・・へんな感じになってきた。
「ああいやあ・・・以前のレイとは違うんだ・・・、あの時のレイは今では俺の妻で・・・彼女との間の娘がこのレイだ・・・、つまり俺の娘だな・・・妻の方は今、身重でね・・・出産を控えているから冒険はあきらめた。」
「ママに変わって、あたしが来たんだよー・・・、パパ一人だけじゃあ心配だったのー・・・。」
サグルさんとレイさんの娘さん・・・のレイちゃん???ちょっとややこしい。
『くすっ』自然と笑みがこぼれる。
「あっ笑ったー・・・さっきまで泣いていたお姉さんがようやく笑ったー・・・、よかったねえ。
泣いてばかりいると、しあわせがにげちゃうんだってー・・・、だからいつも笑っていなさいって、パパが言ってるんだよー・・・。」
レイちゃんが、笑顔を振りまきながら近寄ってくる。
ぎゅっと彼女を抱きしめると・・・、また涙があふれだしてきた・・・。
「じゃあ、町へ戻ろうか・・・、これまでのいきさつを聞かなければならないし。」
ツバサとともに一旦町まで戻ることにする・・・、なにせ何がどうなっているのかさっぱりわからないのだ。
目の前の巨大なパラボラアンテナ施設・・・ここを守る暗黒騎士団・・・、と言えばいかにも悪の巣窟と予想されるのだが、しかし地球のテレビ放送を受信して星内に送信しているからと言って、犯罪とはすぐには言い難い。
確かに放送権とかに触れる可能性はあるし、受信料の徴収の話も出るかもしれない。
だがしかし、こんな遥かかなたの銀河まで国営放送局が受信料を徴収しに来るとも思えんし、黙っていれば分からないことではある。
そのため、この施設自体を悪とすぐに結びつけるべき事情はないのだ。
あたら施設を破壊していけばいいというわけでもないので、きちんと内情を分かってから行動指針を決めようと考えている。
「サグルさん・・・、でもどうしてここへ・・・?
ゲーム機は没収されたんですよね・・・?だからもう地球からはアクセスできないって・・・?
それともまた・・・、ゲームできるようになったのですか?」
レイを放してようやく立ち上がったツバサが、不思議そうな顔をして尋ねてくる。
「いや・・・ゲーム機は没収されたままだ・・・、もうここで冒険することは俺たちにはできない。
だが、ほかならぬツバサからの並々ならぬ思いを受け取り、皆に協力してもらって源五郎とレイと一緒にやってきたというわけだ・・・。」
ツバサが願ってくれたから俺たちは来たというのに・・・、自分の願いがかなったことがそんなに信じられないのだろうか・・・?ここは願いが叶う星だというのに・・・。
「あたしの願い・・・ですか・・・?でも、あたしは確かに時折サグルさんや源五郎さんやレイさん・・・、シメンズメンバーのことや、一緒に冒険したときのことを思い浮かべたりしましたよ・・・。
でも地球ではゲーム機が没収されてしまって、サグルさんたちはもうゲームができなくなったって・・・、この星の前からの住民であるあたしだけがゲームに参加できるだけだって、10年前にはっきりと言われたじゃないですか。
だから・・・皆さんが来てくれるよう願いたい気持ちは常に持っていましたが、あたしは願いませんでした。
だって願っても地球からここへ来る方法はないわけだから、余計な心配をさせるだけですからね・・・。
それに、このゲームの世界で皆さんがここへやってくるように願ったとしても、ゲームの世界の関係者がいるから無理ですよ・・・、関係者全員が願わなければならないわけですからね・・・。」
ところが俺たちを呼び寄せたはずのツバサは、そんなことはしていないと首を振る。
「じゃあ、別次元にいるツバサさんの本体が願ったのではないのですか・・・?
ゲームに詳しい人が行っていましたよ、1000回リセット若しくは命を落とすと、もうそのゲームキャラにはアクセスできなくなるって・・・十年たって今頃助けを求めてくるという事は、恐らくその可能性が高いって。
冒険世界と通信できなくなったツバサさん本人が、願ったのではないのですか?」
すると源五郎が、ツバサにゲーム機のリセット制限を説明する・・・、そういえば定男ってやろうがそんなことを説明していたな。
「いえ・・・、恐らくあたしは皆さんにただ心配だけ掛けさせるような、そんなお願いはしないと思います。
まあでも・・・そんな詮索をいつまでしていても始まりませんね・・・、現実に皆さんに来ていただいたわけですから・・助かりました、本当にありがとうございます。
それにしても、この世界へいつ来たのですか?よくここが分かりましたね・・・、各大陸をぐるっと回ってこられたのですか?ずいぶんと大変だったのでは・・・?」
ううむ・・・ツバサの必死の願い・・・と思ってきたのだが、ちょっと当てが外れてしまったな・・・、じゃあ一体だれが・・・?まあ、冒険を続けていけば、追い追いわかってくるのだろうか?
それよりも、南部大陸なんて言う魔王城のすぐそばである冒険の最終局面に到達すべき大陸に、こうも早々とやってきたことを、不思議に感じているのだろう。
「ああ・・・、なにせ地球にはこのゲームの開発者たちがいるからね・・・、裏事情は詳しいわけだ。
ツバサの故郷のあんず村も知っていたし、限界まで上げた経験値を取得してこの世界にやってきた町民たちが住む町、ヨランダのことも知っていた。
もちろん、その地へたどり着くための賢者のトンネルの扉の番号までもね・・・。
そうして昨晩、ファブの宿でツバサの冒険放送を見て、この場所を特定してはるばるやってきたというわけさ。
ツバサが賢者のトンネルのカギをかけずにいてくれたから、そのまま直線的に来ることができた。
それでも・・・徒歩で賢者のトンネルまで行ったり、トンネル内の長いスロープを下っていくのは大変だから、馬車をチャーターしてきたわけだ。
それでもファブからだから、どうしても1日以上かかってしまうために、ツバサが無事でいてくれるか気が気じゃなかった・・・、間に合ってよかった。
俺たちも限界まで経験値を初期設定してもらってやってきたから・・・、必ず力になれるぞ・・・。」
「馬車をチャーター・・・???」
そうなのだ、始まりの村からファブまでの定期馬車の護衛のクエストを引き受けて、渓谷で襲い掛かってくる鳥人たちの群れを仕留めたところ、以降は襲撃がなくなったという設定なのか、ファブと始まりの村間では普通に定期馬車が運航されるようになった。
途中の襲撃もないため1日かからず馬車は駆け抜けることができ、一晩始まりの村で過ごした後朝一で西の湖近くの賢者のトンネルへと出発を計画した。
しかし、そこまでの行程を考えると、早い時間での到達が困難と分かり手立てを探っていると、定期馬車の御者が暇そうにしているのが見えたのだ。
聞くと村人たちは全てテレビ塔建築のために駆り出されてしまい、町間を行き来するものなどクエスト以外では皆無という事だった。
冒険者のフォローをするギルドの受付嬢と、武器防具屋と道具屋と宿屋以外の村人はすべて駆り出されているらしく、暇を持て余して見えたので、だったら冒険者のためになることをしてくれとお願いして、馬車を格安でチャーターしたのだった。
おかげで、ツバサの危機にかろうじて間に合ったと言える。
「じゃあ、馬車に乗ってくれ。」
チャーターしてきた馬車の客車のドアを開け、ツバサを導き入れようとする。
「あ・・・あたしは・・・、中継車がありますから・・・。」
『プップー』ツバサが振り向くと、すぐにワゴン車が走ってきた。
そうか・・・、テレビスタッフが常に送り迎えしてくれるんだったな・・・。
「分かった・・・じゃあ、中継車に先導してもらって町まで行こう。
あまりスピードは上げないようにお願いしておいてくれ。」
「大丈夫です、あたしは中継車と並走しますから、あまりスピードは上げないはずです。」
へっ・・・中継車が馬車と並走するんじゃないの?ちょっと言葉尻をとらえて指摘するみたいでいやらしいから、そのまま受け流して源五郎とともに御者席に乗り込む。
客車にレイだけ乗せて、馬車を出発させる。
「先導する中継車についていってくれ。」
「ヘイっ・・・お任せを・・・。」
『ブロロロロロロロ』『カッポカッポカッポカッポカッポ』中継車は割とゆっくりと走って・・・、と思っていたら、なんと本当にツバサが中継車と並走しているではないか・・・、車的にはゆっくり目でも・・恐らく40キロ近くは出ているんじゃあないのか・・・?すごいな・・・、世界最強は伊達じゃないというわけだ。
「うーん・・・10年前はどうだったかな・・・、確か一緒に中継車に乗っていたような気も・・・。
だがあの時は、俺たちが冒険を始めた間もない時でレベルが低かったから、俺たちに合わせていてくれたのかもしれないな・・・。」
ツバサが中継車に並走する姿を見て、ちょっと感動する・・・やはり見えないところで努力していたという事だ。
「そういえば定男さんが言っていましたよ・・・、2回目に戦った時は僕たちは勇者になるための最低限のクエストだけをこなしてレベルを極力抑えて、後は日ごろの鍛錬だけで体を鍛えて強くなり、魔神をも簡単に倒したって。
あの時言っていたことの意味が分かったような気がしますね・・・。
さらにこうも言っていましたね・・・、日々の特訓の効果があったのは、あくまでも実体化していた時だけだと・・・、ゲームの世界の中では、特訓でさえもレベルを上げる経験値が付加されてしまうって。
つまり魔物を倒して経験値を積むのと、日ごろの鍛錬で体を鍛えても経験値が増えるので、変わらないという事でしたよ・・・。」
源五郎が、せっかくの努力に水を差すようなことをつぶやく・・・、まあ、ゲームの設定であれば仕方がないね。
しばらく走ると、大きな町が見えてきた・・・、あれがヨランダだろう・・・。
中継車はゲートをくぐり、大通りに面した大きな食堂の前に泊まった。
「はぁはぁはぁ・・・ここが、あたしが今働いている店です・・・。」
ツバサが、店の正面入り口から入らずに、裏口へ回り込もうとする。
『働いているって・・・?』
その言葉に、俺も源五郎も絶句した。
「ええ・・・、昼間はさっきのようにアンテナ施設で暗黒騎士団と戦っていますが、夜には食堂で給仕をやっています。
なにせ何度も何度も倒されてしまい、都度Gが半額になって行ってしまって、ほとんどお金を持っていません。
それでもこの体は冒険者用の宿に泊まらなければ体力が回復しませんから、そのためのお金を稼ぐために深夜まで働いています。」
売れない役者が、昼間は舞台に出るがそれだけでは食べていけないので、夜に食堂でバイトをしていますなんて・・・、そんな感覚で打ち明けられても・・・ちょっと引く・・・。
「こっ・・・これもクエストなのかい?」
「はい、恐らく・・・あたしの場合は半分闇バイトですけど・・・、なにせギルドを通してはいませんから・・。
それでもこの食堂は冒険者たちのための食堂ですから、給金はGで払われますし、町の人たちはみんなアンテナ施設に駆り出されて人手が足りないので、雇ってもらっています。」
ツバサは少し寂しそうに引きつった笑みを見せる・・・、うーん・・・なんか家が貧乏な薄幸の美少女って感じになってきた・・・。
「どっどうして、ギルドに行かないんだい?」
「ギルドに行っても・・・今は魔物たちが非常に強力でして・・・、あたしのレベルで引き受けられるクエストなんか非常に少ないもので・・・、そのためクエストとして引き受けることができたのは最初のうちだけでして・・・、そのうちに引き受けられるレベルのクエストはもうなくなりました。
そのためクエストとしてではなく、自分の戦いとして日々戦いを挑んでいます。
ここで立ち話も何ですから・・、お店に寄ってください。
あたしも着替えてすぐに出ますから・・・、じゃあ。」
そう言い残してツバサは路地の向こうへと消えていった。
「じゃあ、お店に入りますか?
彼女も大変そうですね・・・、そういえば僕たちが行った時もギルドには高レベルのクエストしか貼っていませんでしたからね。
あれをやられてしまっては、今のツバサさんに引き受けられるクエストは残っていないでしょう。
なにせ、送られてきた魔物たちのレベルが高すぎですから。」
源五郎が、店の正面に回り込みながら話しかけてくる。
「ああそうだな・・・、ちょっと待っていてくれ。」
そういって俺は馬車の方へ向かう。
「これからどうするんだい?
ツバサに合うことができたから、また始まりの村に戻っても構わないので、明日にでも一緒に戻るかい?」
御者にこれからのことを確認してみる。
「まあ、ご利用になるのでしたらあっしは構いませんよ・・・、帰りしなですからお安く致します。
そうでなくても、あっし一人でも帰ることは可能でさあ・・・、賢者のトンネルってやつを使えばいいだけですよね・・・魔物も出てこなかったし問題ありません。
今日はもう遅いので宿に泊まりますが・・・もし馬車をご用命でしたら、明日の午前中まではギルド前でお待ちいたします。」
そう言い残して馬車はヨランダの街中に消えていった。




