ツバサⅠ
1 ツバサ?
おっとそれよりも・・・・。
「ツバサっていう冒険者の放送をしているはずだけど、何チャンネルかわかるかい?」
レイには申し訳ないが、ツバサ優先なのでちょっとチャンネルを変えさせていただく・・・。
「いらっしゃいませ・・・・・、おひとり様50Gになります。」
宿屋の受付嬢は、お決まりの文句を繰り返すのみだ。
うーん、困ったなあとあきらめていると・・・、
<願いが叶う星だけのオリジナル放送、“ツバサの冒険の旅”夜9時から毎日放送、御覧のチャンネルで・・・>
ちょうどCM中に番宣が入ってくれた。
そうか・・確かにあの時も夜に放送していたな・・、仕方がない、待たせていただきましょう・・・、レイも動きそうもないし・・・。
とりあえず、ツバサを何とかして見つけなければ・・・。
「なるほど・・・ツバサさんの番組を見るために宿屋へ来たという事ですか・・・、確かに冒険をしている場所が分かれば、そこへ行けばいいわけですね・・・、流石だなあ・・・。」
源五郎が感心したように大きくうなずく。
「ああ・・・だがまあ、時間を間違っていたようだ。
あの時は毎日のクエストを清算した後にはすぐに放送っていう感覚だったけど、よく考えてみたら毎日夜まで1日中クエストをこなしていたんだったよなあ・・・。
まだ夜まで時間があるから・・・、ギルドに戻って近場のクエストでも探してみるかい?」
もうすぐ昼になりそうではあるが、港周辺のクエストでもあれば十分こなせるだろう。
「うーん・・・、ちょっとこの放送が終わってからでいいでしょう?
今週の放送・・・、まだ見ていないのよ。」
ところがレイの奴がテレビの前から動きそうもない。
「今週の放送・・・?って、そんなわけないだろう?
地球とのネットワークはすでに10年前に切れているわけだから・・・、10年前の放送を何度も再放送しているだけだろ?
もしかしてレイのお気に入りの番組も、10年前の再放送だったのかい?」
いくらなんでも今地球で放送している番組が、この星で放送されているはずがない・・・、いくら願いが叶う星といったって、それは無理だ・・・、なにせ関係者全員が願わなければならないわけだから・・・。
その関係者には、当然地球側の番組制作者も含まれるはずなのだ・・・なにせ番組を多地域で放送して収益をあげたいわけだが、それはコマーシャル収益なのだから、流石に遠く離れた他星には放送したいと願わないだろう。
「ちがうよー・・・今放送している番組だよー・・・、しゅえんの株レンタロウっていう人は、人気のアイドルぐるーぷの人だよ・・・、ママがファンだって言っていたもの。」
レイはテレビ画面にくぎ付けだ。
だとすると・・・どういう事だ?
唯一の通信手段であるゲーム機は、1台を除いてすべて分解されて使えなくなっていると聞いたはずだ・・・、なのになぜ?
各国で分析したといっていたから、大方それぞれの国で保存してあって、今でも実証実験を繰り返しているという事か?
そのようなことはあり得ないとは思わないが・・・、そうだとしても地球の、しかも日本のテレビ放送がこの星で流れているという事は、非常に奇異なこととして感じる。
<来週も見てくれ・・・チャラリラーン・・・・。>
「おわったー・・・。」
『ポチッ』レイがテレビのスイッチを切る・・・結局30分番組を見終わってしまった。
「じゃあ、ギルドに行ってみるとするか。」
宿屋を後にしてギルドに向かう。
「いらっしゃいませー・・・」
ギルドの受付嬢が挨拶してくれる・・・、入店時のただの挨拶だとしても美人の言葉だと心が躍る・・・・。
「どうだい?」
「うーん・・・クエストは・・・、ほとんどありませんね・・・。
巨大テレビ塔の建設工事・・・これは10年前にもこなした、レベルは上がらないが報酬を稼ぐための初期クエストでしょう・・・、報酬も少ないですし今は不要と言えますね。
あとは始まりの村南側の封印の塔と西の湖のクエストで、これは戻らなければならないし・・・、唯一あるのが、東の森中央にある復活の木の葉の採取・・・ですね。
クエストレベルがZAと低めですね・・・、まあでも復活の木の葉を頂くだけのクエストですからね。」
源五郎が首をかしげる。
確かに見る限り、工事関係のクエスト票は大量に貼ってあるようだが、勇者につながりそうな冒険のクエストはプラチナ板に記載された1件のみだ・・・、なんかギルドというより、職安の就職票のような感じがする。
「まあわからんが・・・、レベルは問題ないし行ってみるだけさ。」
俺はそういいながら源五郎からクエスト票を受け取り受付へ向かう。
「シメンズの皆様・・・東の森の復活の木の葉の採取のクエストですね・・・、リーダーの変更はございませんか?
それでは十分に準備して、気を付けて行ってください。」
美人の受付嬢から意味深な言葉をもらいギルドを後にする。
東の森へ向かう道中には魔物は出現することもなく、しばらく歩くと木々が色濃く生い茂った森が見えてきた。
「さすがに森へ入ると魔物たちが襲い掛かってくるだろうから、気を付けてくれ。」
後続の2人に注意を促し、先頭を切って薄暗い森の中へと入っていく。
しかし、歩けど歩けど魔物には遭遇しない。
行く手を遮るものは、長く生い茂った下草くらいで、これは研いだばかりでもったいないが銅剣を使って草を刈りながら進んでいく。
しばらく歩くと、ようやく開けた場所に到達する。
「なんじゃこりゃ・・・もう着いてしまったよ・・・、10年前の時の方が色々な魔物が出て大変だったような気がする・・・・、俺たちの訓練だといってツバサはほとんど戦いに参加してくれていなかったからね。」
なあんか・・・何事もなく目的地に到達してしまった・・・、これでクエスト終了して報奨金をもらっては申し訳がない・・・様な気がするが、まあ話しを進めるためにも頂いておきましょう。
天に届いているような印象すら受ける、先端の見えない太く高い木の横にはった枝の下で両手を合わせる。
「復活の木さん・・・、葉をお与えください・・・。」
目を閉じて念じる・・・。
<ならん・・・、お前たちのような輩には、わが命の葉は分け与えることはできん・・・。>
うん?高いところから野太い声が聞こえてきて、俺の願いがあっさりと拒否されてしまう。
「ええっ・・・、どうしてですか?」
思わず天を仰ぎ質問する。
<我は、やたらと魔物たちの命を奪い去り、ひたすら殺戮と略奪に明け暮れる冒険者に加担することを取りやめたのだ。
わが命の葉が、罰当たりな冒険者たちの命を救い、その旅の一助となっていたことを深く恥じておる。
金輪際、冒険者たちへ協力はしないと決めた、早々に立ち去れい!>
野太い声は、なおも響いてくる。
「ありゃあ・・・、こりゃ困ったなあ・・・。
魔物が出るというよりも・・・木が頑固で協力してくれないから、クエストレベルが上がっているのかね。」
うーん、まいったなあ・・・。
「なによう・・・こんなにいっぱい葉っぱがあるんじゃないの・・・、1枚くらいくれたっていいでしょ?
葉っぱをください。」
確かに、この巨木には青々と生い茂った葉が無数に茂っている。
今度はレイが木の下にやってきて、目を閉じて祈る。
<まかりならんと言っておろう・・・、わしがおとなしいうちに立ち去れい!>
野太い声はさらに声高に響き渡る。
「なによう、ケチ・・・、いーだ・・・。
こうなったら、力づくでも・・・。」
レイは天高くそびえたつ太い幹を睨みつけながら、杖を高く掲げる。
「レイッ・・・、だめだ、やめなさい・・・。
復活の木と戦ってしまったらどうなる?
たとえ勝ったとしても、復活の木の葉は手に入らないぞ、ここはおとなしく引くんだ。」
すぐにレイを押さえつけて、引き下がることを命じる。
「ええー・・・、だって・・・。」
「だってもなにもない・・・、さあ、帰るぞ。」
まさか神木である復活の木と戦うわけにはいかず、ここは引いておくことにする。
「矢で葉の付け根を狙ってみましょうか?
狙撃手の弓なら、多分楽勝ですよ。」
源五郎が小声で告げる。
「まあ・・・力づくという方法も考えた・・・、道具屋に高枝切りばさみなんてのも売っていたからね。
登山道具と思しきハーケンやザイルなど売っていたのも、このためかもしれない。
恐らく十分に準備をしてと受付嬢が言っていたのは、そういう事だろう。
だが、そんなことで手に入れることができるとしたら、あまりに安易すぎないか?
復活の木の葉というのは、いわば奇跡の薬だ・・・、瀕死の状態を何事もなかったかのように復活させるわけだからね。
その奇跡を起こすには・・・、何より復活の木自体の願いが込められていなければならないだろう。
無理やり取得したとしても、効果があるとはとても思えない。
残念だがあきらめよう・・・どうしてあんなことを復活の木が思うようになったのか・・・、それをまず確かめて、誤解を解く必要がある・・・それにはやはりこの地に長くいたツバサに合う必要性があるだろう。」
源五郎にも、ここは引いておくことを告げる。
「そうですか分かりました・・・、時には強引な戦術も必要・・・ともいわれますが、まずは引いて様子を見てみましょう、こじれても何ですからね。」
源五郎が、装備した弓を再び背に戻した。
「まあ、いい暇つぶしというか・・・、散歩とでも考えておけばいい。
魔物も出なかったし森林浴を味わえたのだからね・・・、じゃあ、復活の木さん・・・今度来るときは機嫌を直しておいていただけると、ありがたいですね。」
天に向かってそびえたつ巨木に一礼して帰路に就く。
「悪いが・・・復活の木の機嫌が悪いみたいで、葉はもらえなかったよ・・・。
申し訳ないが、このクエストは不履行で柱に戻しておいてもらいたい。」
ギルドにつく早々、受付に行きクエスト票を差し出して詫びる。
「そうですか・・・残念ですね・・・。
十年前から復活の木は、冒険者に対する葉の提供を取りやめております。
一部の冒険者が無理やり木に登ろうとしたり、道具を使って葉の採取を試みましたが、都度その命を落としております。
そのため、クエストレベルを上げて対応しておりました。
ご無事でお戻りいただけただけでも、何よりと考えます。
残念ですが、このクエストは柱に戻しておきましょう・・・、また機会がございましたら、挑戦ください。」
美人受付嬢は、意外な顔も見せずにクエスト票を受け取った・・・、やはり無理やりはいけないという事だろう・・・戦わなくてよかった。
「じゃあ、宿へ戻ろう。」
ギルドを出て宿に向かう。
2つの太陽はとっくに落ちて辺りも薄暗くなり、ちょうどよい時間と言えるだろう。
「いらっしゃいませ・・・、おひとり様50Gとなります。」
宿に入るなり、かわいらしい受付嬢がお決まりの文句を告げる。
「ああ・・・、まずはテレビを見せてくれ。」
そういいながらロビーのソファーに向かいテレビをつける。
『カチッ』<飲めば飲むほどすっきり爽快・・・、おたふくコーラ、皆も飲もうね!>
またまたどこかで聞いたようなフレーズが流れる・・・、確かによくテレビで流れているCMだ。
今の日本での放送が、この星で流れているのだと考えて間違いがないだろう。
<さあ、続きましては、願いが叶う星だけのオリジナル放送・・・、“ツバサ冒険の旅”ご鑑賞ください>
突然、青黒い肌に大きな黒目だけの精悍な顔つきの青年が出てきて、次の番組を紹介する。
恐らくこの星のテレビ局の人間だろう、村ですれ違う人々やギルドの受付嬢などと同じ外観だ。
「いよいよ始まりますね・・・。」
源五郎も俺の隣のソファーに腰を下ろす。
「おもしろいのー・・・?」
レイもその隣に座った。
<仲間の冒険者たちが全て居なくなってしまった後、たった一人残されたツバサの冒険の旅は今も続く。
突然異常なまでに強くなった魔物たちを相手に、何度も倒されながら冒険を続け、ついに悪の元凶と思しき軍団のアジトを見つけ、単身乗り込もうとしております。
さあ、今日こそはツバサの勝利の瞬間を拝みたい・・・と言いましょうか、勝ってもいいものなのか非常に微妙なところではありますが・・・、解説のグンジさんいかがお思いですか?>
すぐにツバサの冒険放送が始まるのかと思っていたら、アナウンサーらしき男性と解説者らしい男性がどこかのスタジオの中継席のようなところに座り、語り始めた。
<いやあ・・・ツバサちゃん・・・、かわいいですよねー・・・。
是非とも頑張って欲しい・・・、ですが今やホワイトマンも倒され封印されてしまったわけです。
あの不死身の超人がですよ・・・、次々と奴らの餌食となって、ついにツバサちゃんたった一人・・・、彼女の場合はリセットや復活が効きましたからね・・・、だがしかし、今回の復活から通信が絶たれて、向こうの世界で目覚めることはなくなったと本人がコメントしていましたよね・・・これはまずい。
そうなると今度倒されてしまうと・・・復活が効かないなんてことにもなりかねません・・・、テレビの前の皆さん・・・、このままではこの番組が終わってしまいます・・・、ツバサちゃんの冒険の旅が今後も継続できるよう、彼女の無事を祈りましょう。>
解説者らしき男性が、ツバサの劣勢を告げる。
うーん・・・、相当苦戦している様子だな・・・。




