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ファブの港町

14 ファブの港町

「・・・だー・・・、リーダー・・・、起きてください。」

 すぐに体を揺り動かされて目が覚める・・・、源五郎だ。


 おやもう時間か・・・というかゲームキャラだから睡眠の感覚というものはないのだろうな・・・、ギルドで本日終了としたのと同じく、野営でも睡眠の感覚がなくて、ちょっぴり残念・・・。


「いやその・・・、レイちゃんが・・・。」

 源五郎が困ったように頬をかきながら告げる。

 うん?レイがどうかしたのか見てみると・・・、岩に腰かけたままじっとうつむいて動かない。


「どうした?レイ・・・。」

 心配になって声をかける・・・。


「まっ・・・ママは?ママはどこ?」

 レイが焦点のあっていないうつろな瞳で、つぶやくように問いかけてくる。

 ううむ・・・意外と早かったな・・・、恐らく薄暗くなった空を眺めていて、家を思い出したのだろう。


「ここはゲームの世界だから、ママはいないぞ・・・、今回ママはお留守番って言っていただろ?」

 居ないのはどうしようもないのだから、まずはそれを納得させておく必要性がある。


「ママに会いたい・・・。」

 レイが目に涙を貯めながら訴える・・・、だから言っただろ?とは言えないな・・・。


「うーん、そうだ、もう少しすれば、パパとママが知っているお姉さんに会えるぞー・・・、凄くかわいくて優しいお姉さんだぞー・・・、なっ源五郎?」

 この場は何とか別な話題で、話をそらそう・・・すぐに源五郎の方へと振り向く。


「あっああ・・・ツバサさんのことですね?そうですねかわいらしくて優しくて・・・、更に世界最強ですよね。」

 源五郎が続ける。


「ふうん・・・、せかいさいきょう・・・?」

「そうさ・・・もう少しすれば会えるから・・・、今日のところはもう寝なさい。」


「はーい・・・絶対だよ・・・絶対会えるんだね?せかいさいきょうに・・・?」

「ああ・・・・絶対会えるから、だから寝なさい・・・。」

 ようやくレイを寝かしつける。



 辺りがずいぶんと明るくなりかけてきたころ、御者台でそのまま寝ていた御者が突然動き始める。

 同時に、それまで死んだように寝返りを打つことすらなかった源五郎とレイが、突然目を開けて起き上がる。

 ううむ・・・、オンとオフの区別がはっきりしているという事なのだろうな・・・。


 御者が持ってきてくれた弁当を食べて出発だ・・・。

『カッポカッポカッポカッポ』昨日の襲撃でとてもかなわないと悟ったのか、鳥人たちが襲い掛かってくることはなく、馬車は順調に渓谷の底を進んでいく。


 10年前の記憶だが、恐らく翌日の昼にはファブの港町についていたはずだから、もうそろそろ渓谷が終わるはずと考え始めたころ・・・、前方の空が暗くなり始める。


『危険危険!』『パチッパチッ・・・パッカパッカパッカパッカ』御者が馬に鞭をくれ、馬車のスピードが上がる。

 ふと振り返ると後方の空も薄暗くなってゆくが、もちろん雨雲がかかっているわけではない。

 大群だ・・・、鳥人たちの大群で前後挟み撃ちにされているのだ・・・。


 やはり、簡単には通してくれそうもない。

『ヒッヒィーンッ』馬が大きくいななき、馬車が止まってしまった。


「来るぞ・・・、気をつけろ!」

 銅剣を抜いて御者台から客車の屋根の上に飛び移る。

 源五郎は後部席で立ち上がり、矢をつがえていた。


「まっかせてー・・・、火炎弾(チリ)火炎弾(チリ)!・・・雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)!」

 前方の御者台で立ち上がったレイが呪文を唱える・・・、何とかホームシックは収まっている様子だ。


『ボワッボワッ・・・ドーンッドーンッ』直径2mを超える巨大な火の玉がレイの掌から発せられ、襲い掛かってくる鳥人たちの群れの先頭にぶち当たったかと思うと、更にその奥の鳥人がまばゆいばかりの閃光に包まれる。

『ゴンッゴンッ・・・ゴンッゴンッ』一瞬で4匹の鳥人が墜落して地面に叩きつけられた。


「すっ・・・すごいな・・・。」

「えへへ・・・昨日夜の番をしているときに、ダーリンと一緒にまほうの本を読んで勉強していたんだよ・・・。


 初級のまほうでも、けいけんほうふだといりょくは大きいはずだからって・・・。

 けいけんほうふってなあに・・・?」

 レイが振り返りながら首をかしげる。


「ああ・・・そうだな・・・、一生懸命勉強して色々なことを知っているという事かな・・・。

 俺もレイも源五郎もだが・・・、一杯勉強してここへ来たことになっているんだな・・・。

 だから、すごく強いんだ・・・おかげで、あんな大きな火の玉を簡単に作り出せるということだね。


 レイッ、まだまだ次々とやってくるから、油断せずに前を見て構えていなさい。」

 ううむ・・・、初級魔法でも大きな効果を生み出せると読んだわけだ・・・、流石源五郎だ。


 守護魔法としての上級魔導書にも攻撃系呪文はあるのだが、光の付加魔法以外は神の裁きを与えるとか、凍り付かせるとか、どちらかというと攻撃して倒すというよりも、罰を与えるというか動きを止める系の呪文の様だ。

 しかも呪文が複雑で俺でも覚えづらく、せっかくの上級魔導でも使いこなせなければ仕方がない。


 初級の攻撃魔法は呪文も単純でイメージしやすいから、この急場をしのぐにはうってつけと考えたのだろう。

 群れを成して突っ込んできていた前方の鳥人たちは、先頭が一瞬でやられてしまいひるんだのか、後続は急上昇して上空高くへ消えていったが、油断は禁物だ・・周囲を見回しながら身構える。


火炎弾(チリ)火炎弾(チリ)火炎弾(チリ)火炎弾(チリ)火炎弾(チリ)!」『シュッシュッシュッシュッシュッ』『ゴンッ・・ゴンッゴンッ』

 後席では源五郎が炎を付加した矢を鳥人たちにお見舞している。


 うんっ・・?上空に黒い無数の点が・・・、一気に急降下してきたのかと思ったが違った・・・。

『ヒュッ、カンッ・・バシュッ、ヒュッ、カンッ・・バシュンッ、ヒュッ、カンッ・・・バッシュッ』真上から太いやりが、客車を狙って何本も降ってきたようだ。

 銅剣で何とか払いのけるが、はじいた槍はそのまま周辺の地面深く突き刺さる。


 まともに食らえば客車の中の親子は串刺しだ・・・、危ない危ない・・・。

 敵も、攻撃方法を変えてきたという事だろう・・・、客車にダメージを食らってしまえば、今回のクエストは失敗してしまうのだから・・・。


光攻撃(ペカ)光攻撃(ペカ)光攻撃(ペカ)光攻撃(ペカ)光攻撃(ペカ)!」

『ぺっかーぺっかーぺっかーぺっかーぺっかー』レイが放つ光球が、真上に向け幾筋もの航跡を残して発射されると、『ヒュー・・・ドガッ、ヒュー・・・ドガッ、ヒュー・・・ドゴッ、ヒュー・・ドッガァン、ヒュー・・ドガッ』天から大きな塊が降ってきて地面に激突する・・・、光球を食らった鳥人たちだ。


 射程距離の長くて威力の大きい光球と、初級魔法である炎の玉や雷撃を、レイは見事に使い分けているようだ。

 ううむ・・・8歳にしてすでに・・・、わが娘ながら凄いと感じてしまうのは、親の欲目だろうか・・・。


『きっきぃー・・・』攻撃をすべて防御され手がなくなったのか、またもや鳥人たちは馬車に向かって一直線に突撃してきた。


 恐らく特攻を企てるつもりだろう・・・、昨日のように先頭集団を撲滅してしまえば逃げ帰るという事は期待しにくいと考える。

 しかも・・・前後から同時に・・・、挟み撃ちだ・・・。


「レイッ・・・昨日と同じように、ペカリを唱えて奴らをまとめて撃ちとってくれ。

 逃げていきそうもないから、今日は何発も撃たなければならないぞ。

 源五郎は・・・・、うーん後方はどうしようか・・・?」


 前方に襲い掛かってくる分は、レイの全体攻撃で大半は防ぐことが可能だろう。

 だが後方を守る源五郎の武器は、単騎相手の弓矢だ。


「任せてください!」

 源五郎が自信満々で答える・・・ううむ・・、彼が自信があるという事は心強い、任せましょう。

 レイの仕損じが来ることを予想して、前方側を重点的に警戒する。


「来たぞっ!」


「うんっ、全体光攻撃(ペカリ)!・・・・全体光攻撃(ペカリ)!・・・・全体光攻撃(ペカリ)!」

『ぺかーっ・・・ぺかーっ・・・ぺかーっ』レイの掌から放射状に光が広がっていくと、群れを成して襲い掛かってくる鳥人たちが、次々と消失していく。


雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)!」

『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』後部席では源五郎が攻撃呪文を付加しながら、矢を打ち込んでいく。


『ドーンッドーンッドーンッドーンッドーンッドーンッドーンッ』矢が標的に達する瞬間、稲光が発生しまばゆいばかりの光に包まれる。

 どうやら雷撃を付加している様子だ。


 火炎よりも効果が大きいと考えているのだろうか・・・、確かに一撃で鳥人たちは墜落していく。

『ヒュッ・・カンッ、ドゴッ・・・ヒュッ・・カンッ、ドーンッ』これは2人に任せておけば出番はないかと思っていたら、不意に目の前に巨大なやりが投げ込まれてきて、慌てて銅剣で払い落す。


 特攻を仕掛けて突っ込んできながら、その勢いのまま槍を投げつけてきている様子だ。

 完全に捨て身の攻撃と言えるだろう。


全体光攻撃(ペカリ)!・・・・全体光攻撃(ペカリ)!・・・」『ぺかーっ・・・ぺかーっ・・・』

雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)雷撃(ゴロ)!・・・」『シュッシュッシュッ・・・』『ドーンッドーンッドーンッ・・・』

『ヒュー・・・カンッ、ドゴッ・・・ヒュッ・・カンッ、ドゴッ・・・』


 その後も鳥人たちが特攻攻撃をかけてくるのを何とかしのぎ切り・・・、やがて何者も襲い掛かってくることはなくなった・・・。


「ふうっ・・・、どうやら終わったようだな・・・、レイ、けがはないか?」

「うんっ・・・大丈夫。」

 俺の問いかけにレイは笑顔で答える。


「源五郎は・・・?」

「はいっ・・・、まったく問題ありません。」


 源五郎も後席から大きな声で返事を返す。

 頼もしい仲間たちだ・・・。


「うーん・・・たのしい・・・、今までやってきた、どのゲームよりも楽しい。

 だって・・・・ロープレでしょ?こうやってクエストをこなしながら旅をしていくんだから・・・、それでもシューティングゲームみたいなこともできて・・・・、パパがやっているのはかくとうゲームみたいだね。


 いっぺんに色々できるのはお得だよねえ・・・。」

 レイはこの冒険の本質が分かってきて上機嫌の様子だ。


 今となっては幻のゲーム機となってしまっただけに惜しい・・・、ここで俺たちが頑張って今回のトラブルを解決することにより、もう一度ゲーム機の審査を受けて再発売なんてことにはならないものだろうか・・・。


 ううむ・・・だが俺たちがこちらに来て活動した結果は、地球には伝わらないんだものなあ・・・、そうなると俺たちが失敗した場合はどうなるのだ?


 便りがないのは無事な知らせ・・・なんてことも言うけど、今回の場合は無事であっても無事でなくても連絡はできないはずなのだ・・・、うまくツバサと接触して、この星で起こっているトラブルを解決する事さえできれば、地球にその顛末が伝わる必要性はないけど、失敗した場合は再度人を送ってこなければならないはずだ。


 ううむ・・・・こっちの世界に来ることだけを考えていたから、一方通行でもなんでもいいから・・・となってしまったのだが、何か連絡方法を検討しておけばよかった・・・、せめて無事でいたら1ケ月後には中間報告をするなんていうふうに決めておけばよかった。


 それだってどうすれば叶うのかはわからないが・・・、それでも失敗して俺たちが全滅した場合の後続部隊を呼び寄せることはできたはずだ。


 行く前から失敗した場合のことを検討するという事は、状況によっては非難されがちではあるのだが、それでも必ず成功するという保証はないわけで、失敗した場合のことを考えていなかったのはまずかったな・・・、何とかして地球への連絡手段を見つけ出して、早いうちに定期連絡方法など取り決めておく必要性がありそうだ・・・。


「では、出発しまーす。はいよー・・・」

『パチッパチッ』御者が馬に鞭をくれると、馬車がゆっくりと動き始めた。


 やがて渓谷を抜けると開けた平原に出る・・・、平原では魔物に襲われることもなく、馬車は順調に進んでいく。

 しばらく行くと高い塀に囲まれた街が見えてきた・・・、“ようこそ、ファブの港町へ”と書かれた看板が掲げられている大きな門をくぐり中へ入っていくと、馬車は見慣れた大きな建物の前で停まる。


 馬車を降りて客車の中の母親にクエスト票にサインをもらい、御者に別れを告げてギルドの建物の中へと入っていく。


「いらっしゃいませー・・・、この町では冒険者の方がお見えになるのは、本当に久しぶりです。」

 美人受付嬢が、笑顔を見せる。


 なるほど、広いギルドの部屋の中には受付嬢のほかに人影は見えない。

 そうなるとツバサもこの町にはいないという事が、同時に判明する。


「これを清算してくれ。」

 ちょっとがっかりしたが、まずはクエストの清算をしておく。


「はい・・・ファブの港町への定期便の護衛のクエストですね・・・、完了確認いたしました。

 これは、依頼主からのお礼の印です・・・。」

 そういって受付嬢は、カウンターの上にアイテムを並べていく。


「上級魔導士のローブと、狙撃手の弓と鋼鉄の剣か・・・、やはり魔物が強いと結構いいアイテムがもらえるようだね。」

 そういいながら魔導士のローブをレイに手渡す・・・ようやくレイのためのアイテム出現だ、よかった・・・。


「へえ・・・、ありがとう・・・、格好いい?」

 すぐにレイはローブを羽織って、源五郎に確認する。


「うん、凄く似合うよ・・・。」

 源五郎も笑顔で賛同する・・・これで当分の間は機嫌がいいだろう・・・、アイテムがもらえてよかった・・・。


 ついでにGも手に入ったので、ギルドを出て武器屋に向かう。

 源五郎はまたもや矢を300本購入するようだ・・・、確かに魔物の数が多かったので、大量の矢を消費したことだろう。


 俺も銅剣を研ぎに出し、ついでに防具屋で源五郎は皮の胸当てと射者のズボンと靴と上着を購入・・・、流石にブレザーではまずいと感じたのだろう、俺も鉄の膝あてと鉄の兜を購入する。


 鋼鉄関連の防具がこれから出てくるとは思うのだが、まあ報酬はたんまりもらっているのだから、いいだろう。

 レイにも魔法使いの靴を購入させ、道具屋で魔力回復のための弁当を大量購入させる。


「これからどうするのですか・・・?」

 源五郎が尋ねてくる。


「ああ・・・、まずは宿屋に行こう・・・。」

「へっ・・・、まだ日は高いですよ・・・。」

「ああ・・・泊まるわけじゃない・・・、宿屋に用があるんだ・・・。」

 そういって宿屋に向かう。


「いらっしゃいまで・・・おひとり様50Gになります。」

 かわいらしい受付嬢が笑顔で話しかけてくる。


「いや・・・今日宿泊予定だが・・・、まだ本日終了とはしない、ちょっとテレビを見せてくれ。」


 10年前の冒険の時、ツバサはレイと一緒にテレビクルーを引き連れてやってきて、俺たちの冒険の様子を毎晩放送していたと記憶している。

 だから・・・、テレビを見ればツバサの様子が見られるはずだ・・・。


『カチッ』<すっかりさわやかー・・・、ひょっとこサイダー・・・。>

 ロビーのテレビをつけると、すぐにどこかで見たようなCMが・・・。


<冒険戦隊、株レンジャー、証券会社に勤めるエリートサラリーマンが、悪の組織シテッチーに立ち向かう!

 信用取引は利益は大きいが損も大きい・・、現物取引は堅実だが・・・。>

 さらに、どこかで聞いたようなうたい文句が。


「あっ・・・、株レンジャーやっているんだ、見る見る。」

 すぐにレイがテレビの前のソファーに座り画面にくぎ付けとなる。


「これって・・・、地球の番組放送ですよね・・・、一体どうなっているんでしょうかね?」


 源五郎が首をかしげる・・・確かにそうだ、詳しい座標などは知らないというか聞いたところで分かりっこないのだが、地球からはるかかなたにあるはずの願いが叶う星で、どうして地球の放送がされているのだ?

 過去のテレビ放送のビデオでも送られてきているのだろうか?


 ううむ・・・一体なにがどうなっているのか・・・???


 続く

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