渓谷
13 渓谷
「前に源五郎と上級魔導書を読んでいた時に、光の攻撃魔法が2種類あるって言っていただろ?
今唱えたのは、グループ全体へ効果がある魔法だよね?
だけど鳥人たちは上空高くに飛んでいるから、魔法が届かないだろ?
だから・・・グループ全体に効果がある魔法の呪文ではなくて、一匹ずつ狙いをつけて発する方の魔法の呪文を唱えてみるんだ・・・分かるか?
俺の光の剣と同じ呪文だ・・・ペカだよペカ。」
『ヒュッ』『ブンッ』『ヒュッ』『ブンッ』超人たちはまたもやり投げ攻撃に切り替えたのか、太いやりで客車を狙ってくるので、それを銅剣ではじくのに大わらわだ。
「ああそう・・・うん、分かったー・・・、光攻撃!」
『ペっかー』まばゆいばかりの光の帯が、御者台に立っているレイの手の先から直線状に伸びて、一瞬で上空の鳥人に達する。
『ヒュー・・・ドサッ』急所に命中したのか、鳥人は落下して地面に激突した。
「いいぞ・・・、そうやって次々狙いながら呪文を唱えて行ってくれ。」
「うん・・・光攻撃!光攻撃!光攻撃!」
『ヒュー・・・ドサッ』『ドサッ』『ドサッ』一体だけを狙う場合は射程がある程度長いのか、上空に滞在する超人たちを次々と撃ち落としていく。
「よーし・・・ぺ・・・ぺ・・・あれ?ちょっと動きが速すぎるよー・・・。」
上空で止まっていると狙い撃ちされることに気づいたのか、鳥人たちは右へ左へと不規則に動き始めた。
「火炎弾!」
『ヒュッ・・・ボワッ』『ドザッ』すると今度は源五郎が、炎の呪文を唱えながら動き回る鳥人に狙いを定めて矢を射かけると、見事命中して撃ち落とすことに成功した。
空中で止まっているときは槍を回転させて矢をはじくことができるが、動いているときは槍を回転させると方向転換しづらいのかもしれんな・・・。
「よしっ素早く動いているときは、源五郎の動体視力と弓矢の技術で鳥人たちを狙い撃ちしてくれ。
矢をはじこうとして動きが止まったらレイの出番だ。
一匹ずつ狙いを定めて、魔法攻撃をしていく、いいね?」
「はい、了解しました。」
「うん・・・まかせてー・・・。」
レイも遠くの敵に当たるとうれしいのか、上機嫌の様子だ。
『シュッシュッシュッシュッ』『カンッカンッカンッ』再び鳥人たちは動きを止めて槍を回転させて矢をはじき始める。
「レイっいまだ・・・。」
「光攻撃!」
『ぺっかー』『ヒュー・・・ドサッ』レイの魔法攻撃で鳥人が撃ち落とされる・・・、レイの魔法攻撃には槍を回転させていても物理攻撃ではないため無駄な抵抗だ。
「きぃー・・・」「きぃー・・・」「きぃー・・・」「きぃー・・・」
すると離れているとかえって狙い撃ちされると悟ったのか、鳥人たちは突然群れを成して急降下してきた。
「レイっ・・・、最初に唱えていたペカリを唱えてくれ。
唱えたらすぐにしゃがみ込め。」
大群で押し寄せてくるので、今度は全体攻撃の呪文だ。
「うんっ・・・全体光攻撃!」
『ぺかーっ・・・』まばゆいまでの光がレイの掌から放射状に広がっていき、飛び込んできた群れの先頭数匹を瞬時に消滅させる。
「よしっ、レイはそのまま身を伏せてろ!」
俺はそう叫ぶと、客車の屋根からレイを飛び越えその先の馬の背の上に再び移った。
「光剣!光剣!・・・光剣!光剣!」
『シュパシュッパーン・・・シュッシュッパパンッ』
目の前の仲間が消滅し、少しひるんで急降下速度が落ちた鳥人を肩口から切り付けるとすぐに上向きに刃を返し両断する。
さらに上段から渾身の力で振り下ろすと、とびかかってくる鳥人が宙で一瞬止まるのを確認し、鳥人の下側に回り込み、腹を切り裂く。
「火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!火炎弾!」
『シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ』『ズボッズッズパーンスバァンッスボッ』続く源五郎が炎の矢を放ち、的確に鳥人に命中させていく。
「光剣!・・・光剣!」
『シュッパーンッ・・・シュッポーンッ』
さらに襲い掛かってくる2体の超人を、それぞれ一撃で粉砕した。
「ふうっ・・・、逃げていくようですね」
源五郎が引き絞った弓の弦から指を外し、ほっと息を吐く。
群れを成して襲い掛からんとしていた鳥人たちは、急降下の途中Uターンしてはるか上空へと飛んでいく。
「ああ・・・だが、全滅させた訳じゃない・・逃げ帰っただけだから、また襲い掛かってくるかもしれんぞ。」
そう・・・倒した鳥人は、まだ半数どころか一部に過ぎないだろう。
空が暗くなるくらい大勢でやってきているうちの、ほんの数十体を倒しただけだ。
当分は警戒を解かずに、このまま進んでいくしかないだろう。
「うーん、何も出てこないな・・・・。」
レイが、倒した鳥人たちが消滅していったあたりをじっと見まわしながら、残念そうにつぶやく。
10年前の時はどうだったかな・・・、何か谷の襲撃を防いだ時にアイテムが・・・ううむ覚えていない。
「では出発します・・・、はいよー・・・」
『カッポカッポ・・・』源五郎には後席へ戻ってもらい、馬車が動き出した。
しばらくすると辺りが少し薄暗くなってきて、この星の夜時間が近いことが分かる。
やがて切り立った谷底でも少し開けた場所に到達し、御者は路肩に馬車を止めた。
「馬を休ませるために、ここでキャンプします。」
御者が馬車を降りて、馬に飼い葉と水をやり始めた。
1度だけの襲撃で本日は済んだようだ。
路肩の枯れ草や枯れ枝を集め、源五郎に炎の魔法を唱えさせ、たき火をする。
しばらくすると御者が弁当を持ってきてくれた・・・、この仕事は3食付きの記憶があったので、自前の弁当を出さずに待っていてよかった・・・。
「中の人たちはー・・・?」
弁当を広げて食べ始めようとすると、レイが馬車の客車を見ながら尋ねる。
「ああ・・・さっき御者が客車のドアを開けて何か渡していたから、中で弁当を食べているのだろうな。
安全のために、客車からは出てこないのだろう。
確か、10年前にも同じように馬車の護衛をやったが、同じく食事は客車の中で済ませていたはずだ。」
小さな娘がちらりと目に付いたので恐らく興味があるのだろう・・・だがしかし、これはストーリー性のあるクエストでしかない。
いくらリアルに作られているとはいえ、あの親子が客車から出てきて普段の生活とか、娘の学校の話など世間話をしてくれるようにはなっていないだろう。
「まあでも・・・楽勝でしたね・・・、10年前には結構危ない場面もあって、薬草を使ったりリーダーが回復呪文を唱えながら攻撃したりしていましたが、レイちゃんの乗り物酔いのために回復呪文を使ったくらいで、一人も鳥人たちの攻撃を受けることはありませんでしたね。
初級の防具すらない状態でちょっと心配していましたが、何とかなりそうですね。」
ブレザーにスラックス姿の源五郎が、御者が入れてくれた日本茶を飲みながら笑顔で話す。
始まりの村では碌な装備がなかったので何も買わずに旅を続けているのだが、鋼鉄の鎧を運良く手に入れた俺以外は、レイと源五郎はまるで高校生のような格好で、確かに冒険者らしからぬ風体だ・・・。
魔物から攻撃を食らった場合のダメージは、かなり大きいはずだ・・・恐らく薬草1枚や2枚では治らないくらいの・・・。
「ああそうだな・・・、俺たちのレベルAAに比べてSUだっただろ?
経験値で言っても随分下のクラスであるとは思うが、圧倒的なレベル差からだが、あれだけの数を相手にしても何とかなっているとはいえる。
だが、最初のねばねば野郎たちのクエストがTAだったわけだから、今回の超人たちはレベルが上がっているという事になる。
恐らく、勇者になるためのクエストにかかわる魔物たちとして、強烈な経験値を持った魔物を送り込んできているのだろう・・・、冒険者たちに経験を積ませるというよりも、勇者を作り出さないために・・・と考えた方がいいだろうな。
つまり、この先冒険を続けていけば、いずれは俺たちの経験値に匹敵する魔物たちも出現する可能性があるし、もしかするとこの世界で修行を積んで俺たちの経験値を越えてしまっているかもしれない。
まあ、今までの戦い方を見る限り、魔物はある程度数で押してくるようだから、多少経験値が上で有利であっても、数で押し切られてしまう可能性は十分考えられるし、圧倒的な経験値差がない限り、余裕という事はなくなるだろうな。
そうなると・・・厄介だぞ・・・、この世界に限界近い経験値を持った魔物や市民たちを送り込んだ奴らの目的が何かわからないが、そいつらと全面戦争になったとしたら、俺たちだけではちょっと勝ち目がないかもしれん。
ツバサはもちろん探すとして、定男だかが言っていた通り、魔王や魔神たちを目覚めさせる必要性が出てくるだろうな・・・味方になってくれるかどうか・・・、微妙なところではあるのだが・・・。」
今のところはウォーミングアップというか、設定経験値の高さに助けられてはいるが、だんだんと厳しくなってくるのは目に見えているのだ。
「まおうって強いのー?」
レイが突然尋ねてくる。
「ああ・・・魔神は勇者のレベル+4で目覚めるといっていて、魔王もそれなりといっていたから、勇者レベルに匹敵かそれ以上のレベルで目覚めるのだろうな・・・。
だが俺たちの初期設定の経験値はもうこのゲームの最高値だから、これ以上のレベルはないとも言っていた。
だから、俺たちと同じレベルで目覚めることになる・・・経験値も同じだとすると少しでも魔物たちと戦って経験値を獲得しておくに越したことはないという事になるな・・・。」
「ふうん・・・、わかんない・・・。」
俺の説明を理解できないレイは、つまらなそうに頬を膨らませる。
俺はレイと一緒に普段ロープレをすることはない・・・、というかやってくれないのだ。
レイが小学校へ上がったばかりのころ、最近の子は子供のころからスマホやパソコンに囲まれているせいか、ネットゲームに関しても幼い時から何の抵抗もなくできていたので、俺も少し子供向けのネットゲームで一度レイと一緒に参加したことがある。
一緒にどこかの親子とチームを組んでダンジョン攻略していたのだが、その時に魔法使い役のレイがへまをしてチームが全滅しかかったことがあり、他のメンバーに申し訳がないのでネット上でひどく怒ったことがあるのだ。
レイに逐一指示を出していたにもかかわらず、その通りに動こうとしないため、やる気がないならすぐにログオフしろとまで怒ったのだが、幼い娘に難しい言葉の指示など理解できるはずもなく、一緒にプレーした親子になだめられてようやくそのことに気が付いた。
反省してレイに謝り、2度と怒らないと何度も言ったのだが、レイはその時から絶対俺と一緒にはゲームをすることはなくなってしまったのだ。
「僕たちが魔物たちを倒していくと経験値がたまって少しずつ強くなっていくけど、魔王や魔神も一緒に成長していくんだって・・・。
だから、これから冒険を続けて行って、経験値を貯めていく必要があるみたいだね。」
源五郎が少しわかりやすいように言い換えてくれる。
「ふうん・・・じゃあ、まおうやまじんは、あたしたちががんばってたたかっていくと、自分たちは何もしなくても強くなっていけるの?
あたしが毎日家でいっしょうけんめい勉強して覚えたことを、健太君は何もしなくてもいつの間にか覚えているっていうこと?そんなのずるいわよ。」
レイが、立ち上がって叫ぶ。
健太君はレイの同級生だが、成績優秀で学級委員をやっているクラスの人気者だ。
ところがレイに言わせると、いつもゲームばっかりで家で勉強なんかしていないらしい。
遊んでばかりいるはずなのに成績優秀な健太君を、レイはいつもずるいと評している・・・俺は陰で努力していると踏んでいるのだが・・・。
「まあ・・・ずるいと言ってしまえばそれまでだが・・・、もし魔王や魔神たちが仲間になってくれれば、非常に頼もしい助っ人になるわけだ。
だから、ずるいなんて言わないで、魔神たちを成長させるためにも我々は戦っていこう・・・、まあ当面は経験値の差が大きいだろうから、戦いだってそれほどつらくはないだろう?」
何とかレイに機嫌を直させて、明日からの戦いを進めていかなければならない。
「うーん・・・、確かに魔物たちはよわっちくて手ごたえがあんまりないからいいけど・・・。」
レイが小さくうなずく。
「まあ、今日のところは交代で見張り番につくとしよう。
3人だから・・・。」
「じゃあ、あたしはダーリンと・・・。」
俺が言い出しかけたとたんに、レイは源五郎の隣に素早く移動して腕を組む。
「分かった分かった・・・、じゃあ、レイは一度寝てしまうと朝まで起きないだろうから、源五郎と一緒に最初の見張り番だ。
俺が先に寝ることにする・・・、じゃあ頼むぞ。」
「はい、分かりました。」
「うん、まかせて。」
谷間の底で寝転ぶと、薄明るい空が隙間から見える。
夜になっても日が昇っている世界・・・久しぶりの体験だ・・・、これからどうなっていくのか・・・、ゲームの世界とは言え、先行きの展開が全く見えない・・・。




