一旦船へ
8.一旦船へ
「わ・・・わかった・・・そこまで考えての事だったら・・・ありがたく頂くとしよう・・・覇王の剣か・・・。」
重厚な輝きを見せる両刃の剣は、持ち手にしっくりと馴染む。刃幅は20センチを超えているしそれなりの厚みがあるから本来ならずっしりと重いはずなのに、その重さを感じさせないどころか、軽く手首を回すだけでブンブンとうなりを上げて振り回すことが出来た。
最小の力で最高の破壊力・・・と言った感じだ。ううむ・・・手にするだけで体の内側から力がみなぎってくるような気がする・・・。
「じゃあ、次は防具屋へ向かいましょう。」
源五郎と共にVIPルームを出て行こうとすると・・・
「ああっと・・・お客様はVIP中のVIPということで・・・覇王の矢を一袋千本と、覇王の剣と覇王の爪の研ぎ代千回無料券に魔力回復のふりかけ千食分お付けいたします。」
そうい言いながら武器屋の親父は、俺たち一人一人に大きな紙袋を手渡してくれた・・・俺の袋の中身は砥石・・・恐らく武器屋がない時は自分で研げるようにだろう・・・と、研ぎ代無料カードと共に特上幕の内弁当が十個入っていた。
まあ今のところ女の子のお持ち帰りをしないわけだからな・・・これくらいは頂いてもいいか・・・。
「では僕は・・・覇王の胸当てと覇王の帽子に覇王のブーツをお願いします。
ツバサさんは・・・覇王の拳法着と覇王の下駄と覇王の鉢巻でしょうかね・・・レイちゃんは覇王のローブと覇王の靴に覇王の髪飾りで・・・リーダーは覇王の兜と覇王の鎧に覇王の膝当てですね。
どうせだから盾も覇王シリーズにしちゃいましょう・・・覇王の盾を4つ追加お願いします。」
ううむ・・・奴は1980年代生まれか・・・?それにしては若いのだが・・・ずいぶんとバブリーなお買い物を・・・なんと1人当たり50万円もの買い物を平気で表情も変えずに・・・。
「へえー・・・覇王のローブか・・・すっごく軽いし薄くて動きやすいのに温かみを感じるし、着心地がいいね・・・。」
「覇王の拳法着ですか・・・確かに動きやすいです・・・体の動きにもぴったりとフィットしますし、いいですね。」
覇王シリーズは防具の評判もいいようだ・・・そりゃあそうだろ・・・課金してようやく手に入る超高級品だ・・・しかもその値段が半端ない・・・。
「お客様たちはVIP中のVIP待遇としまして・・・武具の補修千回無料券をお付けいたします。」
ここでも防具屋の親父が、帰りに大きな紙袋を手渡してくれた・・・防具の補修無料カードと特上幕の内弁当が十個入っていた。
防具屋でも親父が女の子を選ぶよう何度も勧めてきたのだが、今度は源五郎が今は決められないから追々決めさせていただくと先へ伸ばすことを告げ、親父もしぶしぶ納得した感じだ。
何と4年間もの間、身の回りのお世話してくれるお付きとお気に入りの子に加えて、俺達のチームに専属のコックまでもが同行するのだと言っていた。
専属のコックくらいは付けてもいいような気もしたのだが、源五郎はそれすらも先延ばしにしたようだ。
まあオーナーは君だから・・・というか、余計な事はすべて省いて少しでも早く進めて行きたいという気持ちが強いのだろう・・・。
「じゃあ初期クエストをこなす必要がないのであれば、ギルドへ寄る必要性もないな・・・宿に行ってレイの授業でも行うか・・・冒険放送の後に行かなければならないところがあるからな・・・。」
少し時間は早いのだが、予定があるので早めに宿に行ってレイのための授業を行なうことにした・・・。
晩飯を終えて冒険放送中に宿をそっと抜け出し、村はずれへ向かう・・・本日の放送で、始まりの村まで到着したことが放送されているはずだ・・・。
「おやおや・・・今回はずいぶんと早い再会だな・・・アンズ村との往復では十日間はかかると踏んでいたのだが・・・それともまだ出発前なのかな?」
地下牢へ顔を出すと、五郎じいさんが意外そうな顔をする・・・それはそうだろう、船旅だけでも片道3日の行程だ・・・。
「いやそれが・・・。」
意外にも中央の奴らが応援しているようで、予想外に早く行って帰ってきたことを説明する。
「おおそうか・・・送金もうまく行った様子だな・・・なんだかずいぶんと装備が美しい・・・。」
五郎じいさんが俺たち全員の格好を舐め回すように見ながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「はい・・・源五郎が大枚はたいてくれたおかげで、随分とハイレベルな装備を手に入れることができました。
おかげで初期クエストをこなさなくても、ある程度の防御力も攻撃力もありますので、このまま冒険を続ける予定です。
今は夜時間ですから・・・この状態でこの装備だと・・・はっきり言って特AAAどころか、その上のレベルでも負けないでしょう・・・。」
俺は自慢げに覇王の鎧をひけらかす・・・黒光りする金属光沢は、その強さを暗示しているように感じる。
「ふうむ・・・そうか・・・それは頼もしいな・・・じゃあ、次の地へ進む前にツバサの合体をやり直すとしようか・・・。」
五郎じいさんがツバサに目を向ける。
「はい・・・もうすぐ冒険放送が終わる時間ですので一旦合体を解いて、それから祈ります。」
そう言ってツバサの体は2つに分裂した・・・合体を解いて本体と分れたのだ・・・。
「では・・・以降、本体はこの地下牢に留まり、必要時のみ合体を唱えます・・・その事により、向こうの次元にない大陸や海上でも合体することが可能となります。
では、祈りましょう・・・。」
本来ならばツバサとその両親だけが祈ればいいのだろうが、五郎じいさん含め俺たちも関係者として念のために一緒に手を合わせて祈った・・・。
「今までのように合体していれば、こちら側のツバサが食事をしたり睡眠をとったりすれば本体にも伝わった訳だろ?
だが、今ツバサが言ったことによると必要時・・・つまり戦闘時のみ合体するわけなんだろ?
牢屋とは言っても建物の中だから睡眠はともかくとして、食事とかはどうするつもりだい?」
いくら向こうの次元にもこの地下牢が存在するにしても、ここはアンズ村ではなく中央諸島の始まりの村なのだ・・・。
「はい・・・常時合体しているには、やはり本体がいる向こうの次元でも存在する陸地に限られてしまいます。
その為、必要時のみ繋がれるように合体をその都度行なう方法に切り替えました・・・合体していない時のあたしは向こうの次元でも生活していますが・・・あたしの両親が道場のネットワークを通じて、この地下牢へ寝袋と毎日の食事や着替えを差し入れするよう手配してくれることになりました。
あたしはこの地下牢から離れることは出来ませんが・・・まあ問題はないでしょう・・・トレーニングする程度の広さはありますし、たまに近所の子供たちが来るそうですし、なによりおじいさんが居るので話し相手には困りませんからね。」
ツバサの片割れが説明する・・・ううむ・・・こちらのツバサが本体という訳だな・・・。
恐らくツバサ本体は、ゲームの世界の分身と通信できなくなった事を悔いていたのだろう・・・無謀とも言えるような挑戦を何度も続け、千回リセットしてしまったのだからな・・・合体を行うことで、もはや単なるゲームではなく生活になってしまったのだが、それでも繋がっていられることを喜んでいるのだろう。
源五郎と言いツバサと言い、このゲームに関する思い入れが深いというか・・・すでに生き甲斐となっているような気がするな・・・。
「よしわかった・・・じゃあ本体の方のツバサは元気でな・・・五郎さんもお元気で・・・。
武器屋で弁当を貰ったので、それも葛籠に詰めておきますよ・・・。」
俺たちが消費する並弁当は既に相当量道具屋で補充済みだ・・・魔力回復で必要になるレイ以外の特上幕の内弁当は五郎じいさんの為に置いて行ってやることにした。
「じゃあ、明日は朝から賢者のトンネルを使って、次なる目的地へ向けて出発という訳だな・・・いい加減クエストを始めないと、テレビスタッフたちがやきもきしていることだろう・・・次の地へ着いたなら、すぐにクエストを申請しよう。」
地下牢からの帰り道、明日は早々にクエスト実施することを告げておく・・・勿論お色気路線ではない方にするつもりだ。
「あっ・・・そう言えば、占い師さんが今後は連絡を密にするよう言っていませんでしたか?
帰りの船旅も3日かかるところを1日しかかからずに着いてしまって、僕らは1日中クエスト放送用にトレーニングやレイちゃんの授業の様子を撮影していたので、行きそびれてしまいましたからね。
次の地も港が近くにあればいいのですが、状況によっては何週間も船に乗れない場合も想定されますので、一度船に戻って見てはどうですかね?
今後の連絡方法も打ち合わせておいた方がいいような気がしますよ・・・。」
すると突然源五郎が口を開く・・・そういやそんな事を言っていたが・・・当面始まりの村やファブ辺りで初期クエストをこなして、少しでも強力な武器や防具を装備できる様レベルを上げるつもりでいたからな。
それが源五郎の資金援助により、一気に魔王到達時クラスの戦闘レベルにまで攻撃力も防御力も上げることができたわけだから・・・次の地へこのまま向かうということは、いわゆる想定外だったわけだ。
連絡を密にっていったって・・・こちらから船に乗って会いに行くしか方法はないはずだが・・・確かに次の目的地からすぐに乗船できるとは限らない・・・内陸の可能性だってある訳だ。
仕方がない・・・次の地へ向かうことと、そう簡単には会いに行けないかも知れないことだけでも伝えておいた方がよさそうだな・・・時間をおいて行ってへそを曲げられても困るからな・・・。
「分った・・・じゃあ明日の朝一からファブへ向かうとしよう・・・。」
宿に戻って奥義の修業を少しこなした後、就寝となった。
「おお・・・随分と神々しい光を放つ鎧じゃな・・・天空の鎧をしのぐ、最高レベルの物の様じゃが・・・どうしてそのようなお宝をお主が装備しておるのじゃ?
他の者達も・・・同様じゃな・・・どこぞのお大尽さまかと思ったぞ・・・」
翌早朝から中継車をフルスピードで飛ばしてもらいファブまでやってきて、そのまま乗船して占い部屋までやって来たら開口一番、俺達の装備に関して質問が飛んできた。
「はい・・・先日説明した通り、ゲームの世界が課金システムを取り入れまして、今の所は昼間時間だけのようですが現金を送金して課金しなければ、クエストを引き受ける事すらできなくなってしまったのです。
それでアンズ村まで一旦戻ってツバサのゲーム機から送金した訳ですが・・・源五郎が課金システムならプレミアのグッズがあるだろうということに気が付いて、武器屋にそれとなく聞いてみたらなんと、こんなすごい武具を購入することができたわけです。」
覇王シリーズの武具を入手した経緯を説明する。
「おおそうか・・・販売するとなると、ものすごく高価な武具なのじゃぞ・・・恐らくわしの装備にも匹敵するほどの・・・。
いくら、この世界の危機的状況とはいえ、たかがゲームにそんなに大金を投じて問題ないのか?」
そう言いながら占い巨乳美女は、まじまじと俺たちの武具を見定める・・・そうなのか・・・占い巨乳美女の服装は、アラビアンナイト風の装飾が入ったブラとパンツに透け透けレースのベストに、これまた透け透けレースのズボンに革靴・・・手に持つのは大きく飾りのついた扇子なのだが・・・これらが覇王シリーズに匹敵するほどの武具だったのか・・・?
なるほど中央の奴らとも戦えるというのも、あながち希望的観測という訳ではなさそうだ。
「えっ・・・この武器や防具は・・・そんなに高価なものだったのですか?
あっ・・・あたしが送金の額を間違えて入力してしまったのでしょうか・・・?」
するとツバサが突然飛び上がって驚き、覇王の拳法着を脱ごうとし始めた。
「いえいえいえ・・・ツバサさん・・・大丈夫ですよ・・・ツバサさんは僕の言った通り送金してくれただけです。
気にしないで使ってください・・・僕にとってはゲームの進行が最優先なので構いません。」
源五郎がツバサを押しとどめる・・・ここで拳法着を脱いでも返品は出来ないから・・・。
「でも・・・ダーリンの会社は大丈夫なの・・・?お金無くなって、つぶれちゃったりしない?」
更にレイまで申し訳なさそうに、もじもじと体をひねる・・・随分と着心地が悪そうだ・・・青空商会が倒産した件を何度もレイの前で話したからな・・・資金が尽きたら倒産・・・と言う構図が出来上がっているのだろう。
「大丈夫・・・振り込んだお金はあくまでも僕の個人資産だから、会社へは影響がない。
それに僕はこのゲームに戻ってくる時の為に、無駄遣いしないでお小遣いを貯めに貯めていたからね・・・今ここでちょっとぐらい出費しても全然問題ないのさ・・・。」
そうしてレイにも目を合わせてから、問題ないと笑顔を見せた。
振り込まれたのは、とてもお小遣いレベルの金額ではないのだがな・・・。
「ふうん・・・だったらよかった・・・このローブ、おしゃれだし随分と着心地が良くてお気に入りだから・・・。」
そう言ってレイは満面の笑みを浮かべた・・・覇王シリーズは強度だけではなく、着心地というか装着感にもこだわっているのだろうな・・・鋼鉄の鎧もほとんど重さを感じない体ではあるのだが、フィット感が違うというか、覇王の鎧は同じ鎧とは思えない程、装備していて楽だ・・・。
鋼鉄の鎧はそれこそ金属製の丈夫な鎧を身にまとってガードしているという感覚だったが、覇王の鎧は金属というよりも普通の服のような感触だ・・・包み込むような温かさと柔らかさがある・・・実際には堅い金属ではあるのだが、そんな感触に包まれているのだ・・・いわば常時、部屋着のスエットを着ているような感じなのだ・・・。
恐らくレイのローブも同様なのだろう・・・大衆車にずっと乗り続けていて特に何の問題も感じていなかったのが、何かの拍子に高級車を一度手に入れてしまうと、次からは高級車しか選択したくなくなると聞いたことがあるが、そんな感じなのだろう・・・。
別に何か不満があった訳ではないのだが、いいものを使ってしまうと、以降はその満足感が忘れられなくなってしまうような・・・。




