バブリーな買い物
7.バブリーな買い物
「いえ・・・ですから・・・僕たちにはそう言った特典は不要と言ったではないですか・・・余計なことはしなくていいですから武器を調整してすぐに引き渡し願います。
それから・・・リーダーは覇王の剣ですよね・・・ツバサさんは覇王の爪で・・・レイちゃんの覇王の魔道書というのは・・・どう言ったものでしょうか?」
予想外の展開に、あせる親父に源五郎は武器の引き渡しを急がせるとともに、恐ろしい言葉を続ける・・・なんだって???
「おいおい・・・いくらなんでも使い過ぎだぞ・・・十万振り込んだのかと思っていたが・・・百万だったのか?
だとしても武器だけで40万は使いすぎだろ・・・防具だってあるんだぞ・・・盾は天空の盾でいいだろうが、防具は点数が多いから・・・武器だけ強力にしても超強力な魔物相手では戦えないぞ。」
ううむ・・・流石、一流IT企業の社長・・・振込額もでかい・・・だが、武器よりも防具に金をかけるというのがロープレの基本・・・というか、リセットが効かない俺たちでは必須なはずだ。
「振り込んだのは、もう一ケタ上ですよ・・・でも皆には内緒にしておいてくださいね・・・ツバサさんだって、その額を入力したけど、どれほどの大金かは分っていないでしょうから。
だから勿論防具も最高レベルの物を数点揃えて完璧にしますよ・・・やはり防具が良くなければ、思い切って踏み込んで行けないですからね。」
源五郎はマイクを手で覆いながら俺の耳元で小さな声で囁く・・・いっせ・・・思わず口をついて声が出てしまうような衝撃に駆られたが、かろうじて押しとどめた。
「はい・・・覇王の魔道書というのは魔法の言葉・・・超強力な呪文が多数記載されておりますが、これまでの初級から上級の呪文も含まれておりまして、この魔導書を装備して唱えれば一レベル上の破壊力となりますし、魔力の消費も通常の百分の1に抑えられます。
ですが・・・他の武器も同様にお客様のレベルに寄らず装備することは可能ですが、あくまでもお客様の経験値から算出された強さを基準としますので、お客様たちのような初期レベルでは大きな威力は発揮されません。
せいぜいレベルAクラスの攻撃力にしかなりませんよ・・・それでもよろしいでしょうか?
それよりも特典と申しましょうか・・・お楽しみ・・・がですね・・・すぐに女性陣、男性陣共に引き連れて参りますので・・・少々お待ちを・・・。」
武器屋の親父が覇王の魔道書の説明と、覇王シリーズの武具の威力について説明もそこそこに、特典となる女の子たちを連れてくると言い出す・・・あくまでもサービス重視と言った感じだ・・・。
無理もない・・・こんな巨額の課金は恐らく地球側でも想定していないだろう・・・冒険ゲームにつぎ込む金額ではない・・・こんな最高レベルの武器は形として価格表に記載があるだけで、本当に購入する奴がいるなんて想定はしていないはずだ・・・せいぜい初級レベルで千円の鋼鉄の剣くらい購入してくれるのを期待している程度だろう。
それにしてもさすがにバブリーと言おうか・・・レベルXの俺たちの攻撃力がレベルAに匹敵するというのであれば、今このままこの冒険の最終章まで一気にジャンプすることだって可能なはずだ・・・魔王到達時点でレベルA程度だって言っていたはずだからな・・・。
「お楽しみは・・・いいのですよ・・・決して用意されている女の子たちや男の子たちに魅力がないと言っているのではありません・・・僕たちはこの冒険を完結することを優先にしているだけです・・・そう言った別な楽しみ方は、次の機会にでもお願いいたします・・・。」
尚も特典の紹介を続けようとする武器屋の親父に対して、源五郎はあくまでも柔らかくお断りした。
「いえ・・・そう言われましても・・・」
武器屋のおやじは困ったように途方に暮れて、この場を動こうともしない・・・。
「あっ・・・いやいや・・・まあ・・・これから・・・これから利用させていただくだろうが・・・今の時点ではどの子を選ぶか決められないということなんだろ・・・?俺だってそうだ・・・なにせ前回来た時に見たけど、どの女の子もすさまじく魅力的だったからな・・・男たちも格好いいのばかりだったし、ツバサたちだってすぐには決められないだろう。
だから・・・とりあえず今この場では誰も指名せずに・・・じっくりと考えてから決めさせていただくということだ・・・全国各地を回りながらなあ?何せ1年間だよ・・・1年間・・・」
あくまでも特典を否定する源五郎に代わって、これから女の子をじっくりと選ばせていただくと説明しておく。
「はあ、まあ・・・そうですか・・・?ですが・・・女の子を指名してから1年間ということではなく、あくまでも武器を購入いただいてから1年間という限られた期間なのですよ・・・。
それよりも先ほども申し上げましたが・・・女の子の途中交換は自由ですぞ・・・しかも交換回数の制限もございません・・・ですから毎日違う女の子と・・・と言ったことも可能なのです・・・ですからまずは、今一番のお気に入りを選んでいただいて・・・すぐに連れてまいりますからね?」
呆然自失といった表情のおやじの顔が明るくなり、すぐに部屋から出ていこうとする。
「まってくれ・・・俺はそんな浮気性ではないし、源五郎だってもちろんツバサたちだってそうだ・・・途中で交換なんて・・・女の子を物のような扱いをする態度には、ちょっと違和感があるね・・・。
急いで各地を回ってお気に入りの子を見極めるつもりだし、交換ありき・・・なんて言い方には賛同しかねるよ。」
目を細めながら含み笑いを見せる親父の顔を、にらみつけてやる。
「ああ・・・申し訳ございません・・・大変ご無礼をいたしました・・・お客様たちのような紳士淑女のパーティには、ついぞお目にかかったことがないものですから・・・お詫びいたします・・・ご容赦ください・・・・
お気に入りの子が決まり次第、全国どこの武器屋ででも店のおやじに申し付け頂けましたら、すぐに手配いたしますのでご安心ください・・・。では御引き渡しする武器のご確認を・・・」
ようやく親父が本業に就いてくれた・・・。
「いえ・・・ですから・・・特典など・・・リーダー・・・なんということを。」
ところが源五郎は今のやり取りに不満な様子だ・・・横目で俺のことを睨みつけてきた。
「そういうな・・・あのままだと話が進んでいかなかっただろ?それに・・・ここまでの進行状況で中央の奴らが俺たちに好意的なのは、奴らが敷こうとしているお色気路線に乗ってくるだろうという目論見があるからだと俺は感じている。
だから・・・それを全面否定してはいけない・・・中央の奴らが警戒するからな。
冒険の旅を急いで進めるのも、今のように言っておけば全国各地の女の子を見に行くためと取ってもらえるだろうし、うまくいけば物語の進行を後押ししてくれるかもしれない。
スムーズに冒険が進むのはいいことだろ?それよりも・・・」
インカムのマイクを抑えながら、小声で源五郎を諭す・・・特典云々でもめることよりも・・・根本的なこと・・・で、もめる必要性があるのではないのか?俺が言葉を続けようとすると・・・
「へえ・・・覇王の爪ですか・・・軽いし動きもよさそうですね・・・。」
「覇王の魔道書・・・今度は杖と同じように装備も出来るんだ・・・うーん・・・なんだか体の奥底から力が湧いてくるような気が・・・」
源五郎に促されて店員(こちらもお色気は一切なし・・・)が持ってきた覇王の爪と覇王の魔道書を、ツバサとレイが装備しながら嬉しそうに身構える・・・おいおい・・・超高級品なんだから・・・。
「うーん・・・だがなあ・・・非常にありがたいんだが・・・源五郎・・・ここまでの金額となると地球と通信可能となったとしても、向こうの俺は返せないぞ・・・なにせこちらはしがないサラリーマンなんだ・・・郊外に家を買う貯金だって、共稼ぎで何とかやりくりして少しずつ貯めている最中だ・・・それも岳斗が生まれることで滞っていたが・・・。」
俺の目の前に店員が黒光りする怪しげな輝きを放つ剣を持ってきたが、残念だが受け取りを拒否する・・・決して源五郎の好意を無にするわけではない・・・だが・・・これはちょっとやり過ぎだと思うのだ・・・。
俺たちの分は、もっと程度を落としてもらって十分だ・・・それだって特典が付いてくるのかもしれないのだが・・・。
「リーダー・・・お願いします・・・受け取ってください・・・先ほども申し上げたように、これは僕の為なのです・・・少しでも早く冒険を進ませられるように・・・金で済むのであれば、僕はどれだけでもつぎ込みますよ・・・。
中央の奴らの操作によって経験値を昼間の間だけとはいえ操作されてしまい、更に課金制をとることにより冒険継続することもままならなくなってしまいました。
しかし、その課金という仕組みを逆に利用させてもらうことを思いついたのです・・・なにせプレミアム会員制などと言ったシステムが、ネットゲームではどこにでも存在しますからね。
課金した金で購入した武器に関しては、それなりの付加価値があると踏んでいたのですが、ここまで威力のあるものが実際に購入可能とは思っていませんでした・・・せいぜい2,3レベル分アップ程度と考えていたのですが、これはチャンスです・・・ここで装備を整えれば、初期レベルのクエストをこなして経験値をある程度まで引き上げる事に時間を費やさなくても、このまま次の地へ向かうことができます。
リーダーの目論見のように、お色気路線を否定せずに中央の奴らの油断を誘うというやり方にも賛同いたします。
折角賢者のトンネルの鍵を持っているのですから、このまま進みましょう・・・なにせ、これは十年前からの僕の・・・。」
俺の言葉を遮るようにして、源五郎が真剣なまなざしで見つめながら話しかけてくる・・・ううむ・・・そこまで思い詰めて・・・いや・・・そうだったんだよな・・・もしかしたら送金の必要性だって源五郎の事だから予想して準備していたのかもしれない・・・。
「だが、いいのか?相手は基幹プログラムを書き換えて、俺達の経験値をなくしてしまったやつらなんだぞ・・・。
俺たちが超強力な武具を身につけて有利だと知ったなら、その武具の効力を無効にしてしまうことだって考えられる・・・なにせ何でもありなわけだからな。」
恐らくあいつらだって、こんな多額の送金はいくらなんでも想定していなかっただろうし、大枚はたいて武具を購入することも想定外だっただろう・・・その為こんな穴があった・・・と言うか、実際は他のユーザーたちを募って金儲けをたくらんでいたのだろうが、そのシステムを今度は俺たちが利用しようという訳だ・・・。
だがしかし、折角現金をつぎ込んだとしても、向こうの操作次第で全て無効にされてしまうのじゃないのか?
だとしたら、ただのぬか喜び・・・なんて事に・・・。
「その事は僕も自分なりに考えました・・・そうして僕なりに出した結論はこうです・・・。
恐らくテレビ電波を利用して送信されてきている基幹プログラムではその・・・SEX機能と言いますかお色気機能が付加されてはいますが、根底のシステムには大きな相違はないと考えています。
つまり、一度取得した経験値は操作できないように設定されていると考えています。
そうでなければ多数の顧客たちがアクセスしている時に、その経験値管理でミスが生じたなら大問題となってしまいます・・・なにせロープレゲームの根幹ですからね。
僕だったら、その様な機能自体をプログラム上に存在させません・・・禁止としてしまうとその部分を書き換えられてしまえば操作可能となってしまいますからね。
取得経験値に関するあらゆる操作で、増加操作のみでマイナス操作は存在させないような工夫をすると考えています。
その為にはゲーム保存する前までの取得経験値は暫定値として別管理の必要性もありますが、このゲームの場合はギルドで清算を行う都度に書き換え可能としているのでしょう。
ですから本来であればギルドで清算しなければ、経験値操作は出来ないはずですが、なぜか基幹プログラムが送信されてくる時間帯になると、我々の経験値はほぼゼロにされてしまいます。
それはこう考えています・・・基幹プログラムの移行に伴い、我々冒険者たちの設定情報も引き継がれたはずですが、その移行の際に外観や特技などの通常入力設定だけを移行して、経験値などの戦闘能力部分は移行をしないように操作されていた。
その為、我々の経験値は1からやり直しとなってしまった・・・ツバサさんの分身も同様ですが、彼女の場合は恐らく世界最強の設定も引き継がれていないでしょう。
そう考えればつじつまが合いますし、やはり通常時は根幹となる経験値を触ろうとはしないと考えています・・・それは取得した武器や防具などに関しても同様です・・・商用プログラムとして成り立たなくなってしまいますからね。
ですので・・・今後、我々が初期クエストを引き受けて経験値を積んで行きさえすれば、その経験値までは操作できないだろうとも考えております。」
源五郎が自分なりの推論を披露する・・・なるほど・・・一度だけ・・・移行の際にうまく操作した訳だな・・・あり得ないことではない・・・だがまあ・・・。
「だが、あくまでもその理論は源五郎が推定した内容でしかない・・・その真意は今ここでは確認のしようもないし、かといって推定だけで大枚をはたいてしまうというのはどうかと・・・。」
なにせ一本十万円の武器なのだ・・・これが刀剣の趣味があって高価な日本刀を購入とかであれば、それなりの大金をつぎ込む人も居るだろうし、そのものには芸術的な価値なども含まれるから分らんでもない。
しかし、これはただの電子ゲームなのだ・・・現物がある訳でも何でもない・・・言ってしまえばただ単に、それを取得しましたという、アイテムの取得フラグに1が書きこまれるだけなのだ・・・それが十万円とはやり過ぎではないのか?
Gというクエストをこなすことで増えて行くゲーム上のマネーであれば、それは同じ世界の物であるからいくらつぎ込んでも構わないのだが、円という現実世界の金をつぎ込むことではないはずだ・・・それこそお色気のお楽しみが付加されるのであれば別なのだが・・・なにせ折角購入してもそのフラグを消されてしまえば無くなってしまうのだ。
「まあ、そうなのでしょうが・・・取得したアイテム含め、経験値などまでが今後も操作されるとなってしまうと、僕たちがこのゲームを継続して行こうとする事は、ただの無駄な努力な訳です・・・なにせ占い師さんが言っていたように魔王や魔神に出会えるとなった瞬間に、それまでの経験値や取得アイテムなどすべて没収されてしまえば、また初期状態に戻ってしまう訳ですからね。
魔王に会うどころか、その場に留まっていることすらできなくなってしまうでしょう。
そこまで考えてしまうと・・・初期クエストから地道にこなして経験値を取得してアイテムを揃えて・・・なんて必死に頑張って行なったすべての時間が無駄になってしまいます。
その時間の無駄を省くことができると考えれば、この程度の出費は安いものですよ・・・相手の出方が分れば、また別の策を講じればいいのです・・・。」
源五郎は、きっぱりと答えた・・・なるほど・・・向こうの出方が分らないのだから、地道にクエスト行なうよりも展開を早めて、どのような介入をしてくるか早期に確認しようという訳だな・・・ゲームの世界が大きく変わろうとしているのに、ゆっくりはしていられないことは確かだ・・・。




