送金
6 送金
「では、行ってまいります。」
夜通し中継車は走り続け早朝にはアンズ村に到着し、合体を解いてからツバサ本体はアンズ村の自宅道場へ入って行った。合体を解いて別行動をとらない限り、船を降りて北部大陸へ上陸するとそのまままた本体との合体状態が継続するようだ。
案の定、道中は雑魚魔物たちの襲来は1度もなく、やはり中央の奴らは俺たちの行動を応援してくれているとみて間違いはないだろう・・・。
中継車での移動中も源五郎からゲーム機の操作方法レクチャーをずっとツバサは受けていたようなので、ほとんど寝ていないだろう・・・少々不安が残るが、まあ頑張ってもらうしかない。
自信がなければ戻ってきて、再度合体して源五郎に確認するだろうしな。
「ずいぶんと長い時間をかけて説明していたようだが、ゲーム機を使って送金することは、そんなに厄介な手順なのかい?
あまり複雑だと、本家地球のユーザーたちだって不満を漏らしただろうに・・・(俺はそんな機能があることすら知らなかったけど・・・)。」
丸1日かけて説明しなければならない程複雑な操作では、機能があってもゲーム機を使って送金しようなんて言うユーザーは皆無だっただろう・・・まあ実際はすぐに没収されてしまったから、送金までは行きつかなかったかもしれないが、仮に継続して使用ができていたなら、2年目以降の通信費としての支払いに便利だったわけだからな・・・。
至れり尽くせりのインターフェイスだったと記憶していたのだが、その様なマイナー機能までは気を配っていなかったのだろうかね・・・。
「いえ・・・メニュー項目の中から一番下にあるダイレクト送金の項目を選択して、口座番号とパスワードと金額を入力するだけです。
かなり長い口座番号とパスワードを覚えなければなりませんが、操作自体は難しい事はありません・・・と言ってもツバサさんはゲーム機の操作画面が日本語だと読めないと考えて、どのように説明して行くか最初は苦慮していたのですが、ツバサさんのゲーム機表示は現地語に変換されている様で、パネル操作も全く問題ないと聞き安心しました。
「そうか・・・だったらまあ操作は安心だな・・・そうすると、口座番号とパスワードの記憶にちょっと時間がかかったという訳だな・・・なにせ数字を一つ間違うと送金できないからな。」
本体にメモを持たせるという事は出来ないのだ・・・だから完全な記憶頼みということになる。
「まあ、それもありましたが、どうせだったらと、ツバサさんにゲーム機の本来の操作手順を教え込みました。
ツバサさんはゲーム機の初期設定も何もかも全て綾瀬さんたち任せでしたので、スイッチを入れて自分がゲーム機に横たわって寝るだけという操作以外では、倒されてしまった場合のリセットか保存して継続かの選択スイッチの説明しか受けていません・・・口頭説明ではそんな程度でしょう。
ゲーム機のパネル表示はプログラムでしたから、現地語翻訳に切り替えることは出来た様ですが、取扱説明書までは手が回らなかったようで、日本語の物が添付されていたようです・・・全く読めない文字の羅列と言っていたから恐らくそうでしょう。
その為、寝る前に本日の冒険先の方向設定とか、引き受けるクエストの傾向に進むべき方向の指示など、本体側で出来る大まかな指示の設定方法を説明しました。
更に新規にゲームを始める際の分身の作り方・・・前回設定を参照する手順も教えておきました。
記憶が新しいうちに、日本語の取説に現地語で加筆するよう言ってあります。取扱説明書にはゲーム機の画面表示が記載されていましたから、日本語が読めなくても大まかな説明の状況は推定できるはずですからね。
記載されている画面表示をゲーム機本体のものと照らし合わせながら現地語で説明を書きこんでいけば、ツバサさん用の取扱説明書が完成するわけです。
これにより万一僕たちが全滅してしまったとしても、ツバサさんだけは以前の設定を参照して復活できます・・・と言っても冒険を最初からやり直しとなりますが・・・それでも千回リセットまでは継続可能ですから、この世界をおかしくした奴らに抵抗することは可能でしょう。
元の設定を参照して登録するわけですから、世界最強の格闘家として復活できるはずです・・・今後はさらに本体と合体も出来ますしね。
中央の奴らの好き放題には、させませんよ・・・。」
そう言って源五郎はほくそ笑む・・・ううむ・・・先の事まで見通して、ツバサに色々と仕込んでおいたという事か。
流石・・・といおうか、企業のリーダーともなると、今だけを見つめていてはいけないという事なのだろうな。
「そうか・・・それはそうと、いくら振り込むことにしたんだい?
4人其々課金が必要だと・・・しかも毎月となると・・・結構な額になってしまうと考えるのだが・・・。」
源五郎にだけ負担させてしまうのは大変申し訳ないのだが、地球と通信できない状態で・・・通信できたとしても電子マネー口座は持ってはいないのだが・・・まあそれでも振り込みは出来たわな・・・ツバサの分ばかりか、俺と娘のレイの分まで・・・完全なおんぶにだっこ状態だ。
「まあ、大した額ではないですよ・・・少々です・・・。」
そう言って源五郎は人さし指を立てて見せる・・・一本という事か?1万円・・・と言う事なら4人で2ヶ月分という事か・・・1人千円で2ヶ月で8千円だ。
クエストを失敗しなければ、課金は1ヶ月間有効と言っていたからな・・・と言っても、お持ち帰りのクエストを選択しなければだが・・・。
まあいけそうな気が・・・いやいや・・・源五郎の事だから十万円かもしれんな・・・いや、きっとそうだろう・・・。
「悪いね・・・この埋め合わせはきっと・・・地球と通信できることになったなら・・・させていただく。」
そう言って頭を下げる・・・源五郎様様だ。
「いえいえ・・・大丈夫ですよ・・・この冒険は僕の我儘でもあるのですから・・・なにせ夢の中の彼女たちに何とかして出会わなければなりません・・・その為だったら僕は何でもしますよ・・・。」
そう言って源五郎は笑顔で手の平を横に振った・・・ううむ・・・十年越しの想いを遂げようとしている訳だからな・・・気持ちはわからんでもない・・・。
「入力を終えました・・・両親にあたしの合体の継続方法も話しましたし、中央諸島にあたしたちが到着した後の冒険放送終了後に祈るという約束もとりつけました。
やはり向こうの次元でも、ゲームの世界が変わってしまった事に少々違和感を持っているようです・・・女の子たちの衣装が過激すぎて子供たちに番組を見せられないという抗議も増えているようですね・・・。」
ツバサは正午近くになって戻ってきた・・・送金入力はすぐに終わったのだろうが、ゲーム機の操作手順を加筆したり、両親に合体地域を広げるためのお祈り参加をお願いしたりと、結構時間がかかったのだろう。
なるべく女の子たちの映像は映さない様気を付けてはいたのだが、それでも話を進める上でギルドや武器防具屋などでの状況説明も必要だったからな・・・遠目から見てもかなりきわどい姿だったから・・・ありゃあ話題になるわな・・・。
今回は前回と異なり道場の練習生たちどころか、ツバサの両親たちも一緒に出てはこなかった。
まあ外に出てきたところで俺達の姿を見られるわけでもないし、何より今回の訪問はあくまでも課金するための送金操作だからな・・・余り大げさな送迎は怪しまれるからやらないようツバサがお願いしたのだろう。
「じゃあ、戻るとするか・・・恐らく帰りも順調に進むことだろう・・・。」
『ガチャッ』『ブロロロロロロッ』アンズ村を出て中継車に乗り込み出発してもらう。
魔物たちの襲撃も全くなく半日かけてペレンの町について、そのまま船に中継車ごと乗り込んだ。
『ボー・・・ボー・・・』やはり帰りも海流や海風の影響か、3日かかるところを1日でファブの港へ到着した。
そのまま中継車で始まりの村へ急ぎ、翌日の昼には到着していた。
「じゃあ送金されたことですし、ギルドに寄ってクエストを・・・と行きたいところですが、装備を整えましょう。」
そのままギルドに中継車を横付け・・・したのだが、源五郎が武器屋へ寄ると言い出した。
「装備っていったって・・・始まりの村じゃあ初期アイテムしかないから、一番高価なものでも銅剣が最高だぞ・・・。
弓だって初級者の弓しかないはずだ。」
どの道Xレベルの俺たちでは高価な武器や防具は装備できないのだが、だからと言って銅剣を2本買ってもあまり意味はない・・・弱くなって何度も攻撃するため直ぐに刃が切れなくなってしまうから、予備を持つということか?
「いえ・・・僕に考えがあります・・・恐らく課金システムが始まったからには・・・。」
そう言って源五郎はすたすたと武器屋の中へ入って行った・・・まあ武器屋のお姉ちゃんたちはタンクトップにショートパンツという出で立ちだったから、目の保養として寄ることに異論はないのだが・・・。
「いらっしゃい・・・。」
と、にやにやしながら店の中に入って見ると・・・中にはいかつい目つきをしたおじさんが一人・・・あれ?以前の武器屋の親父では・・・???
「どうやら向こう側の次元からの苦情が殺到して、表だって過激な衣装での対応は止めたのでしょう。
と言っても僕たちが存在していて、冒険放送している間だけでしょうがね・・・。」
源五郎はこのような事態も予想していたのか、驚いたふうでもなく武器屋の中へと入って行く。ううむ・・・ちょっと・・・と言うか、かなりがっかりだな・・・。
「シメンズメンバーだがVIP用の武器を調達したい・・・プレミアムルームはどこかな?」
そうして予想外の言葉を口にする・・・なんだって?VIP???プレミアムルーム・・・?そりゃあ青空観光のVIPパスはもらっていて、遊覧船の中ではVIP待遇と言われていたが・・・ここは始まりの村の・・・しかも武器屋の中だぞ・・・なんという場違いな言葉を・・・。
「はっ?シメンズ様・・・どっ・・・どうぞこちらへ・・・。」
ところが武器屋の親父はカウンターの向こう側で手元のモニター画面を確認すると、すぐにカウンターを飛び越してきて俺達を部屋の奥へと案内し始めた。
『ガチャッ』「こちらになります。」
『おおっ・・・』部屋の奥の重厚な鍵がかかった扉を開けた先は、キラキラときらめく眩い空間だった・・・。
20畳ほどの部屋中に、様々な武器が陳列されていた・・・しかも装飾が施された、如何にも高級そうな武器までも・・・。
「やっぱりか・・・課金システムが始まったということは、忙しくて毎日クエストをこなせないが、それでも冒険をスムーズに進めたいという人の為に特別な武器や装備を販売するのだろうと思ったのです。
そうしてその様な場所は、冒険の最初の場所にあってこそふさわしい・・・。」
そう言って源五郎が笑顔を浮かべながら部屋中を見回す・・・照明に照らされて眩く輝く剣や重厚そうな印象を受ける巨大な弓など、部屋中に処狭しと武器が陳列されていた。
そう言えば・・・この間の冒険者たちは、中級クラスの魔物になら十分対応できるといったプレミアの防具をオプションで付けているといっていたな・・・クエストをこなしてもいないのに経験値のレベルを上げると言うようなゲーム性を壊すような行為ではなく、装備に金をかけて戦いを有利に進めて行くという事か・・・なるほど・・・課金システムであればあり得る訳だ・・・。
「ここにある武器は、冒険者様のレベルに関わらず装備可能に調整されておりますが・・・Gでは購入できません。
課金された円でのみ購入可能です・・・しかも購入と同時にお楽しみもセットとなっております・・・。」
武器屋の親父が、いやらしく口角を上げる・・・やはり・・・予想通り・・・。
「いいえ、僕たちは純粋に冒険を楽しみたいので、お楽しみ・・・と言ったことは必要ありませんが、販売価格はどうなっていますか?」
いやらしく口元を緩ませる親父に対して源五郎は、まじめな顔で告げた・・・。
「そっ・・・そうですか・・・購入金額によって選択できる女の子の人数や日数は変わりますが、どの子も飛び切り可愛くてスタイルがいい・・・女性のお客様のための太マッチョや細マッチョも揃えておりますぞ・・・ただし・・・お客様ご使用中のカメラやインカムは厳禁ですが・・・。」
武器屋の親父は、したり顔で笑みを浮かべながら小声で、俺と源五郎にだけ聞こえるよう説明する。
やはり、お色気路線は取りやめたわけではなく陰では行うようだな・・・放送されないように気を付けてと言った感じだ・・・。
「いえ・・・ですからそう言ったものは不要です・・・僕たちのパーティには子供も一緒にいるので、そう言った発言は今後慎んでください。
それよりも、価格表を・・・。」
源五郎はきっぱりと拒絶した・・・まあそうだろうな・・・源五郎はまじめだからな・・・更に夢の中の女の子たちの事もあるからな・・・浮気は出来んわけだ・・・。
「はあ・・・そうですか・・・お楽しみを受けなくても・・・価格は変わりませんので、高いなんて言ってごねないで下さいよ・・・あくまでもお楽しみ付きの価格なんですからね・・・。」
そう言って親父は価格表を見せる・・・なになに・・・鋼鉄の剣が千円か・・・狙撃手の弓も同じだ・・・鋼鉄の爪も千円だな・・・上級魔導書も千円だ・・・この魔導書であれば低レベルでも唱えられるのかな?
まあこの辺だな・・・この後防具もプレミアムを揃えるつもりだろうが・・・結構な出費となってしまうな・・・冒険を続けて行ってレベルを上げてGで購入した方がいいような気もするが・・・。
「では、この覇王の弓をください。」
源五郎が価格表の一番上を指さす・・・なんだって・・・???覇王の弓って最高レベルの破壊力となっているが、価格は・・・なんと十万円だぞ・・・そりゃあそうだろう、なにせ普通なら長い時間かけて経験値を上げてGを貯めて、それでようやく、というか、もしかするとカジノのコインを稼ぎまくってようやく獲得できる大魔神シリーズくらいの、特別仕様の可能性もあるな・・・。
それは送金した金額全部ではないのか?いや・・・11万円とかだった可能性も有りか・・・それならまあ仕方がないか・・・ちょっとプレミアム価格を読み違えたわけだろうが・・・だとしても源五郎が送金した金だからな・・・源五郎が優先で使えばいいさ・・・。
俺とレイはクエストを継続してレベルを上げてからGで購入すればいい・・・ツバサだけでなく源五郎も強力になれば、今後クエストをこなすのも楽になる。
「はあ・・・覇王シリーズだと・・・よりどりの女の子・・・もちろん途中交換可能ですが、1年間ご一緒に同行いたします・・・勿論クエストには参加しませんがね・・・。
いま、この地の女の子のリストを持ってきますから・・・。」
そう言って武器屋の親父は急いで下がって行こうとする・・・ああ・・・そう言ったことも言っていたな・・・確か海王シリーズの武具だと1ヶ月間・・・女の子が付くって・・・その12倍だから、覇王シリーズはどれだけすごい武具という事なのか・・・いや・・・女の子のサービスの違いだけという可能性も・・・。




