北部大陸へ出発
5.北部大陸へ出発
「では、すぐに出発しましょう・・・賢者のトンネルへ向かいますか?」
「いや・・・ファブへ向かってくれ・・・そこから船旅だ・・・。」
「はいっ・・・わかりました。」
『バタンッ』『ブロロロロロロロッ』すぐに、はじまりの村東からファブに向け、深い渓谷を中継車がフルスピードで走っていく・・・『ガガガガガガッ』途中鳥人たちに襲撃されたが、中継車のマシンガンで苦も無く追い払えた。
「ちょっと寄り道をお願いする。」
「はいっ・・・了解いたしました。」
ファブの港町に着くや否や、すぐに中継車は東の森へ方向転換した。
「すいませんが、木の葉を分けてください。」
「僕にも復活の木の葉をください。」
「えっとねえー・・・葉っぱをください・・・。」
はるか見上げるほどの大樹の前で、手の平を上向きに両手を前に突出し目を閉じ祈る・・・。
<ほお・・・ずいぶんと久しぶりに顔を見せるな・・・旅は順調に進んで・・・と思ったが・・・なんだかみすぼらしくなったような気が・・・旅を続け経験を積むことにより冒険者というものは成長するはずなのだが・・・お前たちの場合は逆に・・・>
天からと言おうか・・・地の底から響いてくるような野太い声が響き渡る・・・
「ああ・・・復活の木さん、お久しぶりです。
明確な原因は分らないのですが、恐らく中央の奴らの操作により、俺達の経験値が剥奪されてしまいました。
今の所昼間時間だけの変化のようですが、今後どうなって行くのか分かりません。
ですが俺たちは冒険を続けるのみです。
その為に必要な、復活の木の葉をどうかお与えください。」
そう言って再度、目を閉じる。
<ふうむ・・・経験値をな・・・何とも無茶な事をするのう・・・そんなことをしたら、冒険ゲームとして成り立たな・・・おおっと・・・この先を続けると、この世界が消滅してしまうかも知れぬから止めておこう。
かような逆境にも挫けず、経験値を獲得しようと冒険を継続するというのだな・・・まさに冒険者達の鑑と言えよう。
よかろう・・・その優秀さと崇高さをたたえて一人に5枚ずつ・・・と言いたいところだが、冒険者が所持できる枚数は1枚と限られておる・・・許せ・・・。>
目を開けると、俺と源五郎とレイの手のひらの上には、1枚ずつ復活の木の葉が舞い降りていた。
『ありがとうございます。』
3人同時に大声で礼を言って頭を下げる。
<新たなる道を切り開くべく冒険に励め・・・>
野太い声が響いた後、辺りは静寂に包まれた。
「じゃあ、行くとするか・・・。」
『タタタタタッ・・・・バタンッ』『ブロロロロロロッ』雑魚魔物に襲われると厄介なので、ダッシュで東の森を出ると中継車に乗り込み出発させる。
この辺りの雑魚魔物であれば、今のレベルでも十分に戦えるのだろうが、面倒なので戦わないで済むならその方がいい・・・言わば寄り道なので、経験値を付与されない可能性もあるため、クエストを引き受けてから戦いたい。
『ブロロロロロッ・・・キッキィッ』ファブの港に到着すると、予想通り船は港に停泊していたが、その周りにはもう一回り大きな戦艦が数隻停泊している・・・もしかすると新たな冒険者用か・・・?
『ギィィィィィィ・・・ガッシャン』『ブロロロロロッ』中継車を認めて後部ハッチが開いたので、そのまま中継車ごと乗り込む・・・俺たちの船も大砲を積んでいるのだが、周りの船は本格的な戦艦だ・・・攻撃力がけた違いだろう。
「我々は新たなる課金システムに対応する為、ツバサ本体の故郷であるアンズ村へ向かいます。
それにはどのような理由があるのでしょうか?」
「次元の向こうのアンズ村には、ツバサさん用のゲーム機があるので、ツバサさん本体に操作してもらいます。」
「ほう・・・どのような操作をしますか?」
「僕は地球で電子マネー口座を持っていますので、そこから送金してもらう予定です。」
「ははあ・・・送金してもらうとどのようないい事がありますか?」
「はい・・・新システムでもクエストに参加することができるようになります。」
「そうですか・・・そうなると、ツバサさんの操作次第ということになりますが、大丈夫でしょうか?」
「はいっ!・・・頑張って教わった通りに操作をしたいと思っています。」
「クエスト参加できるようになれば、我々は1から冒険を始めるつもりでいます!」
船に乗り込んだ後すぐにビデオメッセージの撮影会を開始する。
俺と源五郎とツバサの掛け合いでアンズ村行きの理由を説明し、最後に俺が締めた・・・こんなとこで良いだろう。
あとは俺達がギルドの受付で受けた課金システムの説明映像と共に、本日の冒険放送で流す予定だ。
「ほう・・・経験値を操作された・・・という事か・・・?
そんなことをすればゲームがゲームとして成り立たぬではないか・・・ポーカーでロイヤルストレートフラッシュが揃い興奮しながら勝負して開いたら、ブタにすり替わっていたようなもんじゃな・・・電子ゲームじゃから不可能ではないが、そんなゲームはやらぬほうが良い。」
晩飯前に占い部屋へ向かったら、占い巨乳美女にゲームを継続することをあっさり否定されてしまった。
「いえ・・・だからこそ、その様ないかがわしい相手から、ゲームの世界を取り戻さなければいけないのです。
その為にはゲームを進めて、魔王や魔神を目覚めさせるしか方法はありません。」
俺たちがこの世界へやって来た目的を、再度繰り返す。
「じゃがのう・・・冒険をやり直して、これからさあ魔王城へ・・・と言った時に、また経験値を操作されて初期値に戻されてしまったならどうする?何とか逃げ延びて、もう一度最初からやり直すか?
もう一度魔王城へ向かう時に、今度は経験値操作されないと言えるのか?」
ところが占い巨乳美女は最悪のシナリオを告げる・・・ううむ・・・そこまでは・・・考えていなかった。
「ですが・・・僕たちには冒険のシナリオを進めて行くという方法しかありません・・・それ以外でこのゲームの世界を制御している人たちに出会う方法はないのです。
ですから、どれだけ反対されたとしても、僕たちは冒険を続けます。」
何とかシナリオを進めて、魔王親衛隊に出会わなければならない源五郎は、それでも継続を主張する。
「それに・・・どうやら僕たちの外に新たに冒険者たちがやって来ているようですよ・・・今は下見というか、関係者相手のレセプション的な状態のようですが、いずれ一般の冒険者たちがやってくるとみて間違いありません。
恐らくそのためにシステムを書き換えたのだろうと考えています。
今回はかなりなセクシー路線で・・・まさに大人の世界の様です。
課金システムも加わるようですし、新たな参加者たちの手前からも、今後は経験値の操作などは行われないだろうと想定しております。」
更に源五郎が持論を繰り広げる・・・まあ確かに俺たちのためのお色気システムではないわけだからな・・・俺たちは邪魔もので早いところ消去したいのだろうが・・・他の冒険者たちが来てしまえば、余り過激な事は出来ないわな。
だったら他の冒険者たちがやってくることは、案外悪い事ではないような気がしてきた・・・。
「ふうむ、そうか・・・じゃがしかし、その様に経験値操作が可能となると・・・最強であるべき魔王や魔神ですら中央の連中には敵わないよう操作されてしまう恐れはあるな・・・そうなると、この世界を取り戻すことが一段と難しくなったということじゃぞ・・・。」
しかし占い巨乳美女はその上のレベルを心配する・・・確かに不死身である魔王や魔神を不死身で無くしたり、更に竜王まで含めて、その強さレベルを操作されてしまったなら、俺たちがすがるものが無くなってしまう。
50年前や百年前まで、時間を遡る必要性もなくなってしまう訳だからな・・・。
更に中央とも戦えると五郎じいさんが言っていた、占い巨乳美女の強さまで操作されるとしたなら・・・それは脅威だ・・・このままの状態で冒険を続けることは困難ということになる。
「いえ・・・でも・・・僕たちは冒険を続けますよ・・・たとえ僕一人になったとしても・・・。」
源五郎は確固たる決意を口にする・・・大丈夫だ・・・俺だって気持ちは同じだ・・・。
「ふぅむ・・・地球からのテレビ放送と一緒に送られてくる電波で操作しているわけじゃな・・・?
各地のパラボラアンテナ施設か・・・魔物たちの手からお主たちが解放したものだから・・・分った・・・何とか策を検討致そう・・・追って指示するので、これからは密に連絡を取るようにしてくれ。」
占い巨乳美女が、厳しい表情で腕を組み考え込む。
確かにそうなのだ・・・冒険のシナリオとはいえ・・・俺達がパラボラアンテナ施設に巣食っていた超強力な魔物たちを排除したがために施設が完成し、地球からのテレビ電波を受信できるようになったわけだ。
今では昼時間の12時間受信可能で、今後もクエスト進行して行けば、どんどんその時間は長くなっていく訳だ・・・つまり、俺たちは自分で自分の首を絞めていたようなものなのだ・・・。
占い部屋を出て食堂でレイの授業を行い、その後冒険放送を見ながら夕食となった。
レイの授業の傍ら、源五郎がツバサに対し、ゲーム機の操作方法を記憶を頼りに書いた操作パネルの図を使って説明していた・・・なにせ通常は銀行やインターネットから振り込むのだ。
ゲーム機から電子マネーで送金するなどと言ったやり方は、俺はそんな機能があった事すら知らなかった。
恐らく操作画面のかなり奥深い所まで行かなければ辿りつけない様な、特殊機能と言えるだろう。
しかもツバサ本体は今この場に一緒にいる訳ではない・・・当然のことながら船の上にいる間は合体できていないから、分身のツバサに説明していることになる。
北部大陸に到着してから中継車の中でも説明は行うつもりだが、平原の魔物たちの襲来はあるだろうし、落ち着いて説明できるのは船の中だろうと想定し、今からやっておくようだ・・・分身が覚えたことは本体にも合体後に伝わるので、その後再度教えることにより、より深く理解するだろう。
なにせ手順書など作ったところで、次元の向こうまで持って行けないのだ。源五郎の口座番号含めて全て記憶する必要がある・・・ギルドの無いアンズ村では振込確認も出来ないので一発勝負だ・・・その為かなり慎重に準備をしなければならない。
その後船のトレーニングルームで奥義の修業を行い就寝となった・・・当然夜時間には経験値が戻っているようで、奥義の修業に問題はなかった。
『ボー・・・ボー・・・』翌日の夕食中、汽笛が何度も鳴らされたので何事かと操舵室に行ってみると、船長からペレン到着を告げられる。
あれあれ・・・?海流を直角に横切って進まなければならないため、3日はかかると言っていたはずだが?
「今朝から台風並みの強い追い風で、通常の5倍のスピードで進んだよ・・・何故か海流も北部大陸に向けて蛇行していたようだな・・・今は既に治まっているが、おかげで1日で着いた・・・最短記録だな・・・。」
船長が自慢げに胸を張る・・・そうか・・・やはり中央は俺たちの行動を好ましいと感じているようだな・・・海上でも魔物たちの襲撃はなかったようだしな・・・。
「おおい・・・皆・・・と言っても4人しかいないが・・・集合してくれ・・・どうやら予定よりもずっと早くペレンに到着したようだ・・・明日の朝には出発すると思うから、今晩中に荷物はまとめておいてくれ。」
急いで食堂へ戻ると予定が早まったことを告げ、車庫へと向かう・・・明日の何時に出発可能か確認するためだ。
既に夜時間だが、テレビスタッフたちは中継車に乗車していた。
「どうしたんだい?今日の冒険放送の準備が滞っているのかい・・・?」
既に放送時間間近だが、編集作業の真っ最中なのだろうか?なにせこのところ魔物との戦闘はほとんどなく、今日なんかレイの授業内容をビデオ撮影していたくらいだからな・・・ネタが尽きているのだろう。
「いえ・・・ペレンに到着したようですから、いつでも出発できるよう準備を整えてお待ちしておりました。」
いつものテレビスタッフが笑顔で答える。
「えっ・・・これから出発でも大丈夫なのかい?」
「はい、勿論ですよ・・・。」
ううむ・・・ここまで俺たちの協力をしてもらえるとは・・・経験値を失って魔物に襲われ危なかった時にも救ってくれたし・・・本当にありがたい事だ・・・。
「分った・・・ちょっと待っていてくれ・・・皆を連れてくる・・・。」
そう言い残して焦って食堂へ向かう。
既に午後8時を過ぎて経験値が戻っているので、夜時間の移動の方が俺たちにとってもありがたい・・・そのまま下船してアンズ村へ向かうこととなった。




