新たな合体の方法
4.新たな合体の方法
「勿論、倒されて動けなくなってリセットする場合は千回という回数制限がありますがね・・・ゲームとしての演出上、戦いに敗れたりダンジョンの罠にかかり大きなダメージを負ったりすると、その状態によってはアクセス制限がかかるようになるだけで、実際に分身の体に何かが起こるといったことではないと判断しています。
そのためツバサがもし倒されてしまい分身が消滅したとしても、本体はその場で分離するだけで身体的ダメージは負っていないはずです・・・精神的なダメージはあるでしょうがね・・・これはツバサの合体の話を聞いてから全員で話し合って導き出した結論です・・・自分たちに都合よく脚色されているようにも見えますが、決して無茶な理論ではないと考えています。」
以前、夜遅くまでとことん話し合った結果を説明しておく。
「ふうむ、そうか・・・だがどうなのだ?
もし仮にその推測が真実だとすれば、ツバサがこの星の北部大陸以外の大陸で戦いに敗れてしまった場合、ツバサの体は海に没することになってしまうのだぞ?
なにせ本来この星には、中央諸島と北部大陸以外に大陸も島も存在しないのだからな。
いくらツバサ本体が傷ついていないとしても、海洋の真ん中に取り残されてしまっては助からないかもしれんぞ。」
五郎じいさんが、さらなる問題点を提起する・・・だが、その点は問題ないわけだ・・・
「公にはしていませんが、ツバサの合体はおっしゃる通り向こうの次元に存在する中央諸島や北部大陸以外では解除されてしまうということで、その問題に関しましては解消されている・・・と言うか発生しません。
他の大陸へ賢者のトンネルを通じて移動した場合は、他の大陸へ到達した時点でツバサの合体は解除されて、本体は北部大陸に残るようです。
もちろん帆船を使う場合は乗船した時点で合体は解除されます・・・再度合体するには、恐らくもう一度北部大陸なり中央諸島なりに戻ってきて、本体と合体する必要性があるのでしょうね。
そこでご相談なのですが、ツバサが他の大陸へ行っても合体していられる方法はないでしょうか?
我々の経験値が少なくとも昼間時間失われることが今後他の大陸へ行っても継続する場合、このまま冒険を続けていくことは困難です。
まあ・・・現状では課金しなければクエストを受けることもできないようですので、その対応策も必要となりますし、これらの点で困っております。
もちろん現状は身代わりの指輪もある程度保有しておりますし、ツバサの場合は必須で装備させています。
これがなくなってしまった場合は・・・その時点でツバサの合体を継続するかどうか、検討するつもりではおります。
俺たちの推測の正否を安全に確かめる手段は、今のところありませんからね。」
そういって頭を下げる・・・製作者側であれば、ツバサの新たな合体方法に関して何らかの方策が浮かぶのではないかという淡い期待からだ。
「そうか・・・課金に関しては中央コントロール室でアクセスする必要性はあるが、こちら側からの操作でも地球側から課金が行われたような情報操作は可能だ・・・課金情報更新は地球側の運営機関とこちら側のミラクルコンピューターとの通信で行われるからね。
だがそうするには、こちら側の管理者と出会う必要性があるな・・・魔王や魔神などは最終局面でしか出会えないし、竜王の場合はシナリオによって出会えるタイミングが異なるし・・・。
おおそうか・・・魔王軍の親衛隊であれば確か・・・冒険者たちが北部大陸以外の最初の大陸到達時点で目覚める様になっていたはずだから・・・タイミング的にはもう目覚めているのではないのかな?
シナリオが変わっているようだから少々不安ではあるのだがな・・・魔王城目指して行ってみてもいいかもしれんな。
ツバサの合体が他の地域に行っても継続する方策に関しては・・・難しいじゃろうな・・・それこそ向こう側世界の関係者・・・少なくともツバサ本体と家族かな・・・それとこちら側世界の関係者・・・これはお前さんたちだけでよいじゃろう・・・ツバサの合体の有無に関してはゲームの管理者は無関係じゃからな・・・。
全員が同時に願わなければならない・・・しかも・・・どこか安全に向こう側の次元とこちら側の次元両方からアクセスできるポイントを定めて、その地点にツバサ本体がとどまる必要性があるじゃろう・・・本体がその地点を離れれば、合体の継続は困難となる。
どこか・・・こちら側世界と向こう側の次元の世界が結びついている場所・・・おおそうか・・・この地下牢のような場所じゃな・・・まあ、ここでもよいのだろうが・・・ツバサ本体が向こう側の世界の中央諸島の地下牢にやってきて、そうしてこちら側のツバサもやってきて関係者全員が同時に願う・・・。」
五郎じいさんは以外なことを口にした。
「ええっ・・・?もしそうならツバサさんが今この場で一旦合体を解いて、それから願えば叶うのではないでしょうか?
今この場に、向こうの次元のツバサさんもやってきているはずですからね。」
源五郎が、すぐに反応する・・・そうなのだ、この場で願えば済むのであれば、何の問題もない。
「そうなのだが・・・ツバサの場合は家族がいるから・・・両親とともに願わなければならん・・・何せ下手すれば命にかかわる問題が生じるかもしれんし、合体中は家族との生活が出来なくなってしまうわけだからな・・・十分に関係者と言える。
両親にはどうやって連絡を取るつもりだ?ツバサ本体が今中央諸島にいるのであれば、北部大陸のアンズ村にいる両親とは連絡を取れないだろう?
同時に願うには日時も決めて示し合わせておく必要性があるが、その内容をまさか冒険放送を通じて伝えることもできないだろ?」
五郎じいさんは残念そうに首を振る。
確かにそうだ・・・ツバサの合体が限られた地域でしかできないことも、この場所に関してもいわば極秘事項なのだ。
冒険放送を通じて呼びかけでもしたなら、中央の奴らがこの地下牢を確認に来るだろう・・・そうなっては五郎じいさんの身が危ういし、何よりここでツバサが合体しなおすことを、なんとしてでも阻止しに来ることだろう・・・奴らは瞬間移動できるからな・・・。
もしそうなったとしたなら経験値をはく奪された俺たちでは、ツバサを守り切ることはできそうもない・・・簡単にゲームオーバーだ。
「ううむ・・・そうなるとアンズ村に直接行って、ツバサが向こうの次元の両親に会って直接伝えるしかないですね。
それからもう一度ここに戻ってきてツバサの合体を願う・・・しかもそれらの行動を自然に冒険の成り行きとして行う必要性があるわけですか・・・。
下手に行動して中央の奴らに怪しまれてしまうと、何らかの方法で介入してくる可能性がありますからね。
はあー・・・課金できないからクエストも引き受けられないし、ましてやすでに通過したアンズ村へ戻るいいわけなんか・・・簡単には思いつきそうもない・・・。」
出るのはため息ばかりなり・・・と言った心境だ。
「そっその・・・課金ですが・・・確か通信費など電子マネーでの引き落としも可能でしたよね?
忙しい人は直接ゲーム機から払い込みができたと思いましたが・・・。」
突然源五郎が五郎じいさんの正面に回り込み、前のめりになって牢獄の鉄柱をつかんで話を切り出した。
「ああ・・・10年たった現代ではどうかわからんが、あのゲーム機の発売当初は電子マネーがある程度普及していたからな・・・最初は大手のパソコンソフトメーカーがその信用を売りにプリペイドカード式の電子マネーを発行していたのじゃが、やがて口座を持てるようにもなり、そうして完全な電子通貨も流通するようになった。
当然その口座から直接引き落とす機能がゲーム機には組み込まれておる・・・メニュー画面から支払いのタブを選択すれば、電子マネーの引き落とし口座が入力できるようになっておる。
ツバサの自宅のゲーム機を使うつもりなのだろうが・・・確かに千回リセットしたツバサは、本体と通信できない状態ではあるが、この回までは未だにツバサの分身であることは間違いがない。
だから、あのゲーム機から振り込めば、それはツバサへの課金ということにはなるだろう。
だがしかし・・・青空商会の当時の電子マネー口座の番号はなんとか覚えてはおるが、倒産してしまったのだから、すでに資産は差し押さえられているはずだ・・・現金化できるものは現金化されてしまっているだろう・・・口座はすでに閉鎖されているはずだ・・・残念だったな。」
五郎じいさんは残念そうに、またもや首を振る・・・そうか・・・電子マネーによる振り込みも可能だったというわけか・・・だが、その方法も今となっては使えないということのようだ。
「いえ、大丈夫ですよ・・・僕の電子マネー口座から引き落とせばいいわけです・・・何せアクセスするのは10年前の口座ではなく、今現在の口座ですからね・・・僕も自分の電子マネー口座番号を覚えています・・・結構ネットで買い物などするのでね・・・。」
源五郎が自信満々に答える・・・そうか・・・さすがIT企業の社長・・・電子マネー口座も持っているというわけだ。
だったらそれを理由にアンズ村へ戻ることは十分に自然だな・・・。
「問題は、中央の連中が僕たちが課金して冒険に参加することを妨害しないかどうかですね・・・せっかくはく奪した経験値を、また増やされてしまうわけですから・・・。」
「いや・・・それは大丈夫だろう・・・普通に冒険していては、最大経験値に到達するには何十年何百年とかかるわけだろ?かえってお色気路線にはまって冒険を取りやめるかもしれないと、応援してくれるかもしれないくらいだ・・・何せカジノでの躓きを向こうも覚えているだろうからな。
それに・・・俺達以外の冒険者もやって来ていて、しかも口ぶりから言ってお偉いさんっぽいから・・・奴らもその接待で忙しいのではないのかな・・・まあ俺たちの監視が緩むということはないだろうが、冒険を最初からこなそうとすることに対して反対しようとはしないだろう。
そうして初期クエストをこなすために、はじまりの村へ戻ってくるのも自然な動きだから怪しまれないで済む。」
なんとか完璧な言い訳が出来上がった・・・お色気路線にはまる可能性があるのは、うちのメンバーではリーダーの俺くらいではあるのだが・・・。
「ようし・・・そうと決まれば、すぐにアンズ村へ向かおう・・・近くにあるという賢者のトンネルはカギがなくて使えないから、帆船を使って行くことになるな・・・時間はかかるが、そのほうが道中安心だし、いいだろう。
とはいっても修復に出した防具類を回収しなければならないし、もう遅い時間だから今日はこのまま宿に泊まる必要があるな・・・明日の朝一でファブへ行って北部大陸を目指そう。
じゃあ・・・ありがとうございました、またすぐに戻ってきます。」
前回はすぐに戻るなどと言っておいて結構な日数が開き、五郎じいさんに寂しい思いをさせてしまったが、今回はツバサがらみの要件があるため、すぐに戻ってくると確約ができる。
この後、久しぶりにレイの授業を終えると予想通り、宿での夕食にもかかわらず、午後8時を過ぎたあたりで俺たちの強さは復活した・・・しかも宿の夕食は味わうことができた・・・豪華な食事ではなかったが、米粒を噛んだ感触をしっかりと感じることができた。
そういえば・・・富士城へ突入するときの弁当の味もしたような感じがしたのだが・・・あれは気のせいではなかったのだろう。あまりの緊張のための錯覚と、気にも留めずにいたのだが違ったようだ・・・。
やはりテレビ放送を受信できている時間帯は、基幹プログラムが書き書き換えられているとみて間違いがないだろう。
その後、冒険放送を見てから、通常通り奥義の修業をこなして就寝した。
「おはようございます・・・これからの冒険のご予定ですが・・・お金を振り込まないとクエストが・・・その・・・出来なくなって・・・」
翌朝、武器防具屋で修復を終えたアイテムを回収しギルドへ向かうと、待ちかねていたいつものテレビスタッフが、言いにくそうに口ごもる・・・昨日ギルド前でテレビスタッフたちとは別れたのだが、ギルドでのやり取りはモニターされていたはずだ。
ツバサやレイのパンチラなどお色気シーンが危惧されるダンジョンでの戦闘シーン以外では、俺たちの映像を校閲前に見ることは許可している。
特に経験値を失って弱くなってしまった俺たちなので、別れた後も魔物たちに襲撃されていないか、スタッフたちは見守ってくれていることだろう。
課金しなければギルドでクエストを引き受けられないのが昨日分かったからな・・・クエストをしない冒険者なんて・・・というか、冒険放送が滞ってしまうわけだ。
以前のツバサのように、クエストを引き受けなくても無理やりダンジョンに入っていくのではないかと、危惧しているのかもしれない。
「ああ・・・俺たちは地球と通信ができない状態だから、地球から課金してもらうことは難しい。
だがツバサのゲーム機が、この星の次元の向こう側にあることを思い出したわけだ・・・そこから課金することが出来そうだ。だから、クエストには参加できるようになるだろう・・・また一から出直しだがね・・・。」
笑顔で答えておく。
「そっ・・・そうですか・・・それではこれからアンズ村へ向けて出発ですね?
この件に関してですが・・・えーと・・・昨日のギルドでの会話内容とともに・・・ですが・・・冒険放送で流してもよろしいでしょうか?
その・・・これまで何度も足踏み・・・といいますか、回り道的なことが多かったものですから・・・。」
そういってテレビスタッフが、ひきつった笑みを見せながら上目遣いで尋ねてくる・・・無理もない・・・ここでまたまた回り道することを視聴者たちに説明する必要性があるということだ。
「ああ・・・もちろんだよ・・・最近はクエストも引き受けられないから冒険放送内容も尽きてきているしね・・・理由はわからないが冒険世界が変わってしまい、地球からの送金なしではクエスト出来なくなってしまったことと、そのためにアンズ村によってそこから課金しようとしていることを今日にでも説明しよう。
ついでに他の冒険者たちも来ていることも知らせてもいいのだが・・・会話の内容がちょっと過激だったからね・・・その部分は削除して、更に受付の女の子たちの過激な服装に関しても・・・恐らく俺のカメラだともろ見えの場面が多いだろうから、源五郎やレイたちのカメラ映像を使ってなるべく全身は映らないようにしよう。
他の冒険者が来ていることは、いずれ分る事だし今でなくてもいいだろう。」
俺たちとしてもアンズ村へ戻る理由を触れ回りたいくらいなので、渡りに船というわけだ。
後で中継車の中ででも、メッセージ映像を作ればいいだろう。




