弱くても戦う・・・
13 弱くても戦う・・・
『タンタンタンタンタンッ・・・』部屋の奥の階段を上がっていき、2階へ到達する。
「雑魚魔物はツバサが片付けて行ったはずだが、恐らく1階同様、俺たちに反応して再発生するだろう。
かまっていたら全滅の恐れがある・・・一気に駆け抜けるぞ・・・俺がやられても構わず駆けていけ!」
急いでいるというより、魔物を避けるためにも一気に駆け抜けることを指示する。
天空の盾を最大に広げ、ひたすら駆け抜けるだけだ・・・。
『タタタッ』『バサバサバサバサバサバサバサ』一つ目の部屋に入った途端、天井が真っ黒になるくらいの魔物たちが発生して襲い掛かってきた・・・大コウモリの様だが俺たちにとっては強敵だ・・・避けるにしても数が多すぎる。
「ええいっ・・・・・!バースト!」
『ボワッボワッ・・・ゴゥワーッ』あまりの数にひるんで足が止まった俺の頭の上を、真っ白く高温の炎の玉が追い抜いていき、いくつもの玉に分裂したかと思うと竜巻のように渦を巻きながら魔物たちを焼き尽くしていく。
「ありゃりゃ・・・ずいぶんと見通しがよくなったものだな・・・。」
2階の各部屋を仕切っていた襖ごと高温の炎で焼き尽くし、魔物たちは全滅したようだ。
「レイッ・・・魔法が使えるようになったのか?」
驚いて振り返る。
「ううん・・・初期魔法で弱い炎を一回使っただけでも魔力がなくなってしまうもの・・・悔しいから奥義を唱えてみた・・・そしたら使えた・・・えへへへへ・・・。」
レイが満面の笑みを浮かべる・・・俺だったらとても無理だと思って試そうともしないだろうな・・・レイは子供で純粋だから何でもやってみようと、最高経験値で取得したはずの奥義ですらこの状態で試してみる気になったというわけだ・・・。
経験値最低レベルでも奥義は使えるというのか・・・そうか・・・奥義は魔力を必要としないのだろう・・・何せ奥義だし・・・しかも取り敢えず苦労して身に着けた・・・ということになっているから、一度取得してしまえば経験値によらずに発動可能ということのようだな・・・しかも破壊力を見る限り、威力は特AAのままだろう。
「よっ・・・よしっ・・・ツバサも1日に奥義は何度も使えないと言っていたから、交代で使うことにしよう。
次の階では俺がやってみるから、レイはちょっと我慢していなさい・・・いいね!」
奥義だったら俺にだって使えないことはないのだ・・・。
「待って下さい・・・リーダーの奥義は接近戦向きですから、次の階では僕が奥義を発動してみますよ・・・リーダーの奥義は、最終ボスとの戦いまで取っておいてください。」
すると源五郎が口をはさむ・・・ああそうか・・・俺の奥義では大量に発生した魔物の対応は、確かに難しいわな。
「わかった・・・じゃあ、ここは源五郎とレイに任せるとしよう・・・。」
何とかなりそうな気がしてきたぞ・・・。
『タンタンタンタンタンッ・・・』ちょっときな臭い2階を通り抜け、階段を上って3階へ到達。
「じゃあ、僕が行きます・・・奥義・・・夢想射撃!」
源五郎が一歩前へ進み、初級者の弓を構えて目をつぶる。
『バサバサバサバサバサバサバサバサバサ』ツバサが開けていった襖の奥から、次々とオオコウモリたちが襲い掛かってきた。
『シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュズババババババズババッズババババッズバババッ』すさまじいまでのスピードで繰り出される源五郎の矢は、数体の魔物たちを一気に串刺しにして、さらに襖をもなぎ倒しながらその陰に潜む魔物たちをも粉砕していく。
『ズバズバズバズババッ』「とりあえず、魔物たちの気配は完全に消えましたね・・・。」
源五郎が、弓を下ろして目を開けた。
確かに3階も源五郎の矢攻撃で襖は全て粉砕されてしまい、眺めはよくなった・・・魔物の影も形もない。
「じゃあ、次へ向かうか・・・。」
『タンタンタンタンタンッ・・・』4階へ向かい、ここでも源五郎の奥義がさく裂した。
『タンタンタンタンタンッ・・・タタタッ』「ツバサっ・・・無事かっ!」
5階へ駆けあがり、大声で呼びかける。
『ブンッ・・・ブンッ・・・ブンッ』『ブンッ・・・ブンッ・・・ブンッ』百畳敷きの畳部屋では、ちょんまげ姿に歌舞伎の隈取のような化粧を施した浴衣姿の魔物が、一体は大きなナタと、もう一体はこれまた大きなマサカリを振り回しながらツバサに襲い掛かっていた。
一見して関取のような体形の魔物は・・・恐らく日本人のイメージを模しているのだろうな・・・。
『タタタッタッ・・・シュタッ・・・・タッ・・シュタッ・・・タッ』対するツバサはというと、2mを超す巨体が振り回す凶器を何とか避けながら逃げ回っている状態だ・・・。
何せ2体の攻撃のタイミングは阿吽の呼吸というか、一体目の攻撃を避けるとその先には2体目の攻撃が襲い掛かってくるといった感じで、絶妙のコンビネーションで繰り出され、ちょっとでも油断すると真っ二つにされてしまいそうな凄まじさだ。
しかも大ナタや大マサカリを床や壁に叩きつけたりしないで、ツバサの体のみを狙って攻撃してくるから、避けても避けても次々と連続的に攻撃が続いている・・・あんな凄まじい攻撃をさっきからずっと避け続けていたというのか・・・さすがツバサだが・・・もう持たないだろう・・・。
「レイッ・・・・・・あっちの白いほうの魔物を攻撃してくれ。」
「うん・・・わかった・・・奥義・・・バースト!」
『ボワッボワッ・・・・ゴゥワァー』ツバサから引きはがすため、大マサカリを持ったほうの魔物をレイに攻撃させる・・・真っ白く高熱の炎が魔物に向かって一直線に進んでいき、数個に分裂すると白富士さんの体にまとわりつくかのようにらせん状に回りながら襲いかかる。
「うっぎゃあぁー・・・!」
上半身を紅蓮の炎に包まれた白富士さんは、苦しそうにのたうち回る。
「はっ・・・皆さん・・・」
「ツバサっ・・・こっちの白い魔物は俺たちに任せろ!
君は残った赤いほうを倒せ!・・・1対1なら勝てる!」
その様子を見て振り返るツバサに大声で叫ぶ!
「わかりました・・・とうっ!」
『タタタッ・・・シュタッ・・・シュパッ』俺たちの加勢により、ようやくツバサは攻撃に転じることができる。
『タッ・・・ドゴッ・・・タッ』『ブンッ・・・ブンッ』『ドガッ・・・ドゴッ』大きく跳躍して左パンチを顔面に入れ、大ナタの攻撃を避けながらカウンター気味に腹に右パンチを2連発で見舞った。
『ブンッブンッブンッ・・・ブンッブンッ』ところが赤富士さんは、大ナタの回転スピードをさらに上げながら、ツバサに迫っていく。
ツバサの攻撃は当たるのだが、大ナタをかいくぐりながらの攻撃であることと、武器といえば皮の手袋でのパンチなので敵魔物はあまりダメージを感じさせない・・・『バシュッ・・・シュタッ・・・バキンッ』仕方なく、キック攻撃に変えたようだ。
「おうぎぃー・・・はづがんせづー・・・ごるわぁー・・・」
『ダッダッダッダッダッダッダッ』何事か唱えるとようやく体中を包んでいた炎が鎮火して、俺たちの存在に気づいた白富士さんが一目散に駆け寄ってきた。
「来るぞっ・・・レイと源五郎は、後ろに下がっていてくれ!
奥義・・・夢想斬撃!」
レイたちを下げて自分は数歩前へ進み、目を閉じ身構える。
『ダッダッダッダッ』白富士さんが大きな足音を立てながら近づいてくるのを肌で感じる。
『ブンッ・・・』『ゆらっ』『ブンッ』『ゆらっ』振り回してくる大マサカリの攻撃を紙一重でかわしながら間を詰めていく・・・夢想斬撃は防御も兼ねた奥義なのだ・・・。
『ブンッ』『ゆらっ』『ズゴッバゴッ・・・』『ブンッ』『ゆらっ』『バギッボガッ・・・』懐に入り込んだので、大マサカリは窮屈で鋭い攻撃は仕掛けられないと読み、一歩踏み込み左わき腹を2度水平斬りし、返す刀で袈裟懸けに2度連続して斬りこむ・・・が、何せ銅剣でしかもレベルが低いためか、致命傷には程遠い。
『ダダッ・・・ブンッ・・・ブンッブンッ』それでも白富士さんは分が悪いと感じたのか、後方へ飛び跳ね体勢を整えると、すぐに大マサカリを振り回してきた・・・その回転スピードは脅威的で、避けようとしたが間に合わない!
『シュシュシュシュシュ・・ズゴゴゴゴゴッ』すぐに後方から無数の矢が飛んできて、白富士さんをハリネズミ状態に・・・源五郎の奥義のおかげで切っ先がずれたため屈んで躱せた・・・ふうー・・・危なかった・・・源五郎・・・ありがとう。
『ブチブチブチブチブチッ』ところが突き刺さったはずの源五郎の矢は、皮膚の弾力で全て弾かれて白富士さんの体にはその部分が赤い点となって残っただけとなる・・・ううむ・・・やはり矢じりのついていないない初級の矢では無理か・・・。
なにせ物理防御力もAAだったものな・・・代わりに魔法防御力が極端に弱かった・・・こうなるとレイの奥義頼みとなるか・・・だが魔導士のローブもなく、炎の杖も襲われたときに投げつけてしまったものな・・・レイの奥義だけで倒せるとは思えない・・・。
『ダッダッダッダッダッ』再び、白富士さんが大マサカリを振りかぶりながら駆け寄ってきた。
「奥義・・・夢想斬撃!」
あまり効果がないと分かっていても相手の突進を止める手立ては他にないのだ・・・何とか時間稼ぎのつもりで、奥義を発動する。
『ブンッ・・・』『ゆらっ』『ブンッ・・・』『ゆらっ・・・』大きく振り回される大マサカリの間隙をぬって、相手の懐へ入り込む。
『ブンッ』『ゆらっ』『ズゴッバゴッ』『ブンッ』『ゆらっ』『ボゴッバゴッ』そうして攻撃を避けながら、小刻みに斬りつけていく・・・が、どれも浅い・・・。
『ダダッ・・・ブンッ・・・ブンッ』『ダッ・・・ズゴバゴッ』間を開けるために白富士さんが後方へ飛びのくのと同時にジャンプ・・・間を詰めたまま斬りつけていく。
「うがぁー・・・」
『ブーンッ・・・ブーンッ』俺の細かい攻撃に嫌気がさしたのか、白富士さんは体ごと大マサカリを水平に、大きく振り回し始めた・・・『ダダダッ』これには堪らず後方へ飛びのく。
致命傷には程遠いが効いていることは効いているようだ・・・ちょっと安心・・・ツバサの方はどうかな・・・。
『ブンッ・・・ブンッ・・ブンッ』『タタタッ・・・バシュッ・・・タッ・・・ガギッ』赤富士さんの大ナタ攻撃を避けながら左ハイキックを右顔面にヒットさせ、その反動を使って今度は赤富士さんの左わき腹に、右ひざを食らわせた・・・ううむ・・・すごい・・・。
「パパッ・・・危ないっ・・・奥義・・・バースト!」
『ボワッボワッ・・・ゴゥッ』俺の頭越しに高温の白い玉が後方から飛んできて、すぐ目の前で拡散して白富士さんに襲い掛かる・・・ううむ・・・ツバサに気を取られている間に、やられるところだった・・・レイっ・・・ありがとう・・・。
「おうぎぃー・・・はづがんぜつぅー・・・」
『プシュー・・・』ところが白富士さんが唱えると、高温の炎が冷やされ瞬く間に鎮火してしまう・・・そういえば先ほどもそうだったが・・・あれ?魔法は使えなかったんじゃあ・・・。
「奥義ですね・・・初冠雪ですかね・・・?」
源五郎が首をかしげながら目を細める・・・なんだって???奥義・・・?そうか・・・魔法が使えなくても奥義は使えるわけね・・・ついに奥義が使える魔物も登場したということなのか・・・参ったな・・・。
「おうぎぃー・・・あかふじぃー・・・。」
『ピカーッ』後方では赤富士さんも奥義を発動・・・頭の後ろ側が後光を指したようにまぶしく光って、目を開けていられない・・・まずいっ!『ダダダダダダッ』
『ブンッ』『ドッガァーンッ』ふうっ・・・間に合ったぁー・・・夢想斬撃を使い目をつぶったままでツバサの頭上めがけて振り下ろされる大ナタを、天空の盾で受け止めた。
あれっ・・・でもどうしてだ・・・?天空の盾は最高の防御力を誇る盾だから、赤富士さんが繰り出す大ナタ攻撃を受け止めることができるのは当たり前だが、それを装備しているのは経験値恐らく1の俺だ・・・そのまま腕ごと吹き飛ばされていても不思議ではないはずだ・・・だが、俺はしっかりと2本の足で立っている。
『ズッゴォォーンッ』試しに銅剣を思いっきり突いてみる・・・と、赤富士さんの腹深くまで突き刺さった。
「うぎゃぁーっ・・・」
たまらず赤富士さんが、畳の上をのたうち回る・・・。
『ガサガサッ』すぐに冒険者の袋をまさぐり、鋼鉄の剣を取り出して装備してみる・・・と、装備できた。
「力が戻ったようだぞ・・・戦える!」
すぐに源五郎たちに声をかける。
「だありゃあっ・・・!」
『シュッパパンッ・・・シュパッ』そのまま床を転がっている赤富士さんに何度も斬りつけていく。
『シュシュシュシュシュシュ・・・・ズバババババババッ』弓を装備しなおして、矢じり付きの矢に切り替えたのだろう・・・白富士さんも源五郎の矢攻撃でハリネズミのようになっていく。
「神の裁き!」
『バリバリバリバリッ・・・ガッガァーンッ』さらにレイの強烈な雷撃がお見舞いされた・・・。
「うっ・・・ぎゃぁー・・・がっだぃー・・・。」
『ゴロゴロゴロゴロゴロッ』『ゴロゴロゴロゴロッ』ダメージを負った赤富士さんと白富士さんは、畳の上を転がりながら逃げまどい、やがて1ヶ所に集まると体を重ね合い合体していく・・・見る見るうちに紅白の縞模様の紅白富士さんとなった・・・。
「まずいぞ・・・合体すると確か物理攻撃力も物理防御力も特AAだったはずだ・・・。」
しまった・・・強さが戻ったことに安心して、すぐに止めを刺そうとしていなかった・・・。
「とうっ・・・!」
『シュタッ・・・タッ・・・タッ・・・』するとツバサがすぐに宙に舞い上がり、壁を蹴って加速していく・・・。
「奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
『ギューンッ』天井の梁を思い切り蹴ると、そのまま両手を広げて滑空の態勢に入り、紅白富士さんの背後から、背中めがけて頭から一直線に突っ込んで行く・・・『ドッガァーンッ』そうか・・・彼女は合体する時を待っていたんだ・・・この時に一気に片付けようとして・・・。
『ズッダァーンッ』紅白富士さんはV字型に背骨をまげて、そのまま畳の上に伏した・・・。
「よしっ、今だ・・・一斉攻撃!」
『シュッパンッパンパンパンッ』『シュシュシュシュシュシュズバッズバッズバッズバッ』『ゴロゴロゴロゴロッドッゴォーンッ』源五郎とレイも加わり、全員で猛攻撃を仕掛けていく・・・『フシュー』『クルクルクル・・・シュタッ』上方で攻撃を仕掛けていたツバサが、回転しながら華麗に着地すると同時に紅白富士さんは消滅した・・・倒したのだ・・・。




