弱くても行く・・・
12 弱くても行く・・・
『キキィッ』「山脈のふもとにまで到着しましたが、いかがいたしましょうか?」
ドライバーが山のふもとで中継車を止め、俺達の方へと振り返り声をかけてきた。
「うーん・・・どうするかだな・・・。」
ツバサの指示通りに山のふもとまでついたのはいいが、先行きを全く考えていない。
テレビスタッフが全員味方というのは安心材料ではあるのだが・・・現状の窮地を打開する手段にはなりえないからだ。
なにせ、これだけレベルが低くなってしまうと、どこにも逃げ場はないのだ・・・船までたどり着ければ、あの船は完全武装しているし、占い巨乳美女は戦えると五郎じいさんは言っていたからな・・・だが、船ははるか遠くだ・・・北部大陸に来てからは、ずっと中継車で旅を続けていたわけだから・・・。
しかもカンダラまで戻れば町の中は安全とも思えるが・・・町の北には巨大な関所が設けられていて、そこから先へ戻ることさえままならないわけだ・・・。
「ここからだと、富士城まで走れば1時間もかからないでしょう。
あたしは一人で富士城のクエスト攻略に向かいますから、皆さんは山の中で潜んでいてください。
恐らく富士城で賢者のトンネルのカギを手に入れられるはずです・・・ここへ来る途中で北へルートを変えてしまいましたが、カンダラから富士城へ向かうルートの途中に賢者のトンネルがあるはずです、そこから一旦逃げましょう・・・。
中継車は武装しているようなので少しは安心ですが、それでも周りに何も遮るところがない平原では中継車は目立つので、魔物たちの集中攻撃を受けやすくなってしまいます。
やはり山中の森の茂みの中で潜んでいるほうが安全でしょう・・・では・・・。」
『ガチャッ』ツバサが中継車のドアを開けて降りていこうとする・・・ううむ・・・ツバサ一人だけにお願いするというのは申し訳ないのだが・・・今の状況では仕方がないのか・・・?
「ま・・・待ってください・・・だったらこれをお願いします・・・。」
すぐにテレビスタッフが小さめのリュックを手渡す・・・中継ボックスだな・・・富士城内で使うための・・・。
「そっ・・・そうだ・・・待ってくれツバサ・・・これを・・・。」
すぐにツバサに駆け寄り、冒険者の袋から疾風の宝剣を取り出してツバサに手渡そうとする。
なにせ今となっては、戦えるのはツバサ一人だけなのだ・・・。
「そうですね・・・僕の剣は何の役に立つのかまだわかっていませんが、これも持って行ってください。」
すぐに源五郎も宝剣を手にやってきた。
「あたしの宝剣も持って行ってねー・・・。」
レイもやってきた・・・戦力集中だ・・・。
「いえ・・・やっぱり宝剣は皆さんで持っていたほうがいいでしょう・・・分散して持っていたほうが万一の場合を考えて、より安全という面もありますし、レベルは低くなったとしても宝剣の効力は変わらないはずです。
だったら、もし皆さんがどうしても戦わなければならなくなった時、宝剣の効能が付加されたほうが有利なはずです・・・それは恐らくあたしよりも皆さんのほうが必要としていると感じます。」
ツバサはそう言って軽く会釈すると、リュックを背負って中継車を降りて行った。
「わ・・・わかった・・・申し訳ないが・・・頑張ってくれ。」
その背中に、何とか絞り出すようにして声をかける。
『タタタタタタッ』ツバサは振り向かずに一目散に平原を駆け出して、その背中はみるみる小さくなっていった。
「じゃあ、悪いが上り口を探して山中へ入っていってくれるかい?
ツバサの様子は、モニターで確認できるわけだろ?」
いつまでも平原の目立つ場所にとどまっているわけにはいかない・・・中継車は武装していることはわかったが、だから安全とはいえないのだ。
「はい・・・山の上のほうが受信状況はいいでしょうからね・・・道を探して登ってみましょう。」
テレビスタッフがドライバーと一緒に、登坂ルートを探し始めた。
また今度もツバサ頼みということになってしまった・・・いつもいつも・・・俺たちがツバサの危機を感じて助けに来たつもりなのだが・・・どうしていつもいつもこう・・・彼女の厄介になってしまうのか・・・最高経験値でやってきた時からだから、今では当たり前の様にも感じてしまってちょっと怖い・・・。
「ようし・・・みんなでツバサを応援だ・・・。」
中継車中央部のモニター前に集合してツバサカメラの映像を視聴する・・・遠くから見ているだけというのは何とも情けないのだが、ほかに何もできないのだ・・・。
全速力でかけているのか、カメラに映る景色が流れていくスピードは、中継車に乗っているときと変わらないように感じる・・・少しでも早く、この地獄のような場所から逃げ出すため、トンネルのカギを手に入れようとしているのだろう。
だがしかし・・・どこへ逃げようというのか・・・どこへ行ったとしても・・・この世界では危険性は変わらないような気がする・・・。
『タタタタッ・・シュタ』やがてモニターには5重の塔のような、高くそびえた巨大な建物が映し出された・・・あれが富士城か・・・?
『キキィッ』「この辺りでいいでしょう・・・木立で遮られて、下からも上からもあまり目立たないと思います。」
前方からテレビスタッフの声が聞こえてくる・・・中継車の待機場所が見つかったのだろう・・・先ほどから山道を揺られていたのだが、ようやくモニターに集中できそうだ。
車内の時計を見てみると既に夕刻のようだが、山の中腹なので木木の隙間から未だに太陽は、3つとも確認できる・・・。
『ギィー・・・・』巨大な木質の扉を開けて、ツバサが城の中へ入っていく様子が映し出された。
中は土間があり、小上がりの向こうは襖で仕切られた20畳ほどの大きな畳部屋になっているようだ・・・ツバサは土足のままだが、まあダンジョンという性格上、やむを得ないだろうな・・・。
『バサバサバサバサッ』『ドゴッドガッドゴッ・・・』すぐにカメラの前を黒い影が襲い掛かるが、瞬時に衝撃音とともに床に数体の影が転がり消失した。
どうやら蝙蝠系の魔物のようだ・・・雑魚魔物らしくツバサが瞬殺した・・・。
『バサバサバサバサッ』『ドゴッドゴッドッガァーンッ』次々と襲い掛かってくる黒い影を、ツバサはいとも簡単に打倒していく・・・皮の手袋しか装備できなくても十分に戦えているようだ。
『ザッ』最初の部屋の魔物たちを全て片付け、勢いよく部屋の奥の襖を開けると、次の部屋も同様に20畳ほどの畳部屋だった。
『バサバサバサバサッ』『ドゴッドガッドッガァーンッ』この部屋でも蝙蝠系の魔物たちを粉砕していく。
「すいませんが・・・このところクエストをこなしていなかったため、取りだめした分は尽きていまして・・・本日分の冒険放送は先ほどの中継車が襲撃を受けた場面と、今ツバサさんが行っている富士城での戦いがメインになってしまいます。
ですが・・・皆さんのレベルが落ちて戦えなくなったシーンは割愛いただいたほうがいいのではないかと・・・。」
ツバサの様子に見入っていると、いつものテレビスタッフがやってきた・・・ううむ・・・今日の放送分の校閲だな・・・今ツバサが戦っているところだというのに・・・だがまあ仕方がない・・・放送分がないわけだからな。
仕方なくビデオのモニター前へと席を移し、先ほどの雑魚魔物たちの襲撃シーンの校閲を始める。
もちろんツバサの戦闘シーン以外は全てカットだ・・・ついでに俺たちの装備などが映った部分も割愛することにした。
さらにテレビスタッフがどうしても入れてほしいというので、武装中継車が追いかけてくる魔物たちをマシンガンで攻撃するシーンも取り入れた。
なんとガンカメラが付いていて、マシンガンの弾が魔物に当たる瞬間をうまく捉えていたので、迫力満点の映像だった・・・加えて明日以降の予告とするため、富士城での最初の部屋での戦闘シーンを付け加えることにした。
「どうだ・・・?」
「はい・・・ついに5階到達です・・・4階までは全て雑魚魔物ばかりで、しかも清掃が必要なほど汚れてはいませんでしたね・・・。」
源五郎が解説してくれる・・・何ともう5階到達か・・・まあ、雑魚魔物しかいなかったのなら早いわな・・・。
『スッッターンッ』5階の部屋へと続く襖を勢い良く開けると、そこはだだっ広い畳部屋だった。
「百畳敷きか・・・?」
思わずつぶやくほど大きな部屋の奥には2つの巨大な影が・・・恐らくあれがこのダンジョンの中ボスだろう。
はっ、そうか・・・ツバサに手渡しておくんだった・・・急いで冒険者の袋をまさぐりクエスト票を取り出す。
「なになに・・・富士さん・・・富士城を統括する魔物・・・赤富士と白富士の2体の総称。
どちらも物理攻撃力AA,物理防御力AA,魔法攻撃力なし、魔法防御力ZZ。
合体して赤白富士になると、物理攻撃力特AA、物理防御力特AA、魔法攻撃力なし、魔法防御力CC。
ううむ・・・魔法攻撃力と魔法防御力なんて言うものを引き合いに出してきて、それとの相殺で高い物理攻撃力と物理防御力を設定しているようだな・・・。
しかもツバサ相手では恐らく合体はしないだろう・・・合体して1体になったらツバサの世界最強が発動してしまうからな・・・恐らく向こうの次元のツバサのレベルよりも、赤富士さんも白富士さんもレベルは上だろう・・・2体相手ではツバサは勝てないということになる・・・。
まずいぞ・・・申し訳ないが、中継車で富士城へ向かってくれないだろうか・・・?」
すぐに前方のスタッフたちに声をかける。
「はいっ・・・お声がかかるのを、お待ちしておりました・・・すぐに出発します・・・。」
いつものテレビスタッフが笑顔で答えてくれる・・・自分たちの身の危険も顧みず・・・有難いことだ・・・。
「でも・・・どうするんですか?僕たちが行ったとしても、ツバサさんの足手まといになるだけなんじゃ・・・。」
源五郎が心配そうに顔をしかめる。
「ああ、そうかもしれない・・・だが、このままツバサがやられるのを、ただ見ているわけにはいかないだろ?例え俺たちの身がどうなろうとな・・・。」
俺たちはツバサを助けるために、この地へやって来たのだからな。
「うんっ・・・お姉さんを助けに行くことは賛成ー・・・でも、どうやるの?」
レイは能天気に同意してくれる。
「ああ・・・どうするか・・・まだ決まっていない・・・道中おいおい考えるさ・・・まずは腹ごしらえで弁当を食おう・・・もう晩飯時だし、昼間の戦いでただでさえ少ない体力を使ってしまったからな・・・。」
そういいながら冒険者の袋の中から、道具屋で購入した弁当を取り出して食べ始める。
『ドッガンドッゴンガタガタガタッ・・・』道路とは言えそうもない山道を、猛スピードで下っているので食べにくいのだが、それでも勢いよく弁当をむさぼり続ける。
何もしていないと不安で不安で気持ちが萎えてしまいそうなので、ひたすら飯を?きこんで何も考えないようにした・・・と言っても箸を動かすたびに、ご飯が消えていくだけなのだが・・・気分的なものだ・・・いや・・・気が滅入っているせいなのか・・・米の甘みや肉の味は感じるのに、おいしく感じられない・・・。
『ブロロロロロロッ』ガタガタの山道から平原へ降り、車の揺れがなくなり食べやすくなった時には、食事は終わっていた・・・『ガガガガガガッ』襲撃してくる雑魚魔物たちを、マシンガンの連射で何とか追い払いながら中継車は走行を続けていく。
『ガタガタガタガタ』ううむ・・・膝がガクガクいっている・・・武者震いというやつか・・・?
いや・・・緊張とか期待感からなどではない・・・恐いのだ・・・圧倒的な経験値の高さで難敵に対しても結構楽々対処してきた・・・少なくとも命の危険性は、ほとんど感じていなかった・・・万一の際の身代わりの指輪もあったしな・・・。
ところが今は恐らく冒険開始の初期も初期・・・恐らく経験値1の状態のはずだ・・・雑魚魔物相手でも致命傷を負う可能性は十分にあるし、身代わりの指輪などいくつあっても足りないだろう。
体の震えが止まらない・・・だが、それでもいかなければならないのだ・・・ツバサ一人を危険にさらすわけにはいかない・・・俺たちが行ってフォローしなければ・・・。
『ガタガタガタガタガタッ』座席から立ち上がってふと前を見ると、前席の源五郎の両ひざも小刻みに揺れている様子だ・・・。
「ふぁあ食べたー・・・ちゃんとよく噛んで食べなくちゃいけませんっていつも言われているけど、お口の中に食べ物が入った感じが全くしないから、すごく難しいのよねー・・・だから食事中はずっと口をもぐもぐさせているだけなんだけど、慣れてきたらなんだか普通の食事のように、ご飯の味を感じるようになってきたんだよー・・・。」
源五郎の隣の席に座るレイは・・・緊張感は感じさせない・・・彼女の態度がせめてもの慰めだ・・・。
『キィッキキィー』「富士城へ到着しました・・・。」
ドライバーに告げられて前を見ると、見上げるほどの塔が目の前に・・・。
「じゃあ、悪いがここで待機していてくれ。危険を感じたら先ほどの山の中へ避難していてくれて構わない。」
テレビスタッフにすぐに避難するよう勧告する。
「大丈夫ですよ・・・このまま突っ込みます・・・。」「えっ?」
『ブロロロロロッ・・・ダガンガタンドッカンガッガンッ・・・・ガッガガーンッ』ドライバーの言葉の意味を確認する間もなく中継車は急発進し、塔の入り口の階段を駆け上がったかと思うと、そのまま入り口ドアを突き破って塔の中へ入っていった。
『バスッ・・・・バスッ・・・バスッ・・・キッキィー』1階の各部屋の襖をなぎ倒しながら奥の部屋まで突入して、ようやく中継車は停止すると・・・『バサバサバサバサバサッ』『ガガガガガガガガガガガッ』『ドサドサドサドサッ』すぐさま、真っ黒い影が襲い掛かってきて中継車屋根のマシンガンがさく裂した。
「少々お待ちください・・・この階の魔物たちを退治してしまいますから・・・。」
いつものテレビスタッフがタブレットを操作しながら、なんとも頼もしいコメントをしてくれる。
『ガガガガガガッ・・・ガガガガガッ』『ドサッドサッ・・ドサッドサ』銃撃音のたびに、魔物たちが床に落下して行く。
「ふうっ・・・どうやらこれで全滅のようですね・・・じゃあ行きましょうか・・・。」
『カチャッ』いつものテレビスタッフはタブレットを置くと、シートの下から大きなマシンガンを取り出しながら立ち上がった・・・同時に3人のスタッフたちもマシンガンを手に立ち上がる。
「まっ・・・待ってくれ・・・君たちも一緒に行くというのかい?」
「心配ご無用・・・我々も空き時間は射撃訓練を積んでいるのですよ・・・雑魚魔物相手なら十分戦えます。」
テレビスタッフたちはやる気満々の様子だ・・・。
「いや待ってくれ・・・ダンジョンの中まで中継車で乗り入れて、しかも1階部分の魔物たちを片付けてくれたのは本当にありがたいし感謝する。
だが君たちは冒険者ではなくサポート側のスタッフたちだ・・・君たちを危険な目に合わせるわけにはいかない・・・だからここから先は俺たちだけで行く・・・気持ちはありがたいが君たちは待機していてくれ。」
有難い申し出ではあるのだが丁重にお断りする・・・冒険者が一般市民に助けられていてはいけないのだ。
「じゃあ、せめて銃だけでもお持ちください・・・レベルが落ちても強力な火器があれば、なんとかなりますよ。」
スタッフたちは手に持つマシンガンを差し出してくれる。
「いや・・・俺たちは銃など扱ったことがないから、自分の足を撃ってしまうのがおちだ。
それに・・・冒険者はあくまでもその職業に見合った武器で戦わなければ冒険とは言えないだろう・・・あまり変なことをすると、この世界がどうなってしまうかわからないから、悪いが遠慮しておくよ。
だが本当にありがとう・・・君たちのサポートには感謝してもしきれない・・・ありがとう・・・。」
『ガチャッ』そう言い残して中継車を降りていく・・・なんだか目頭が熱くなってきた・・・。
「やだなあ・・・長い付き合いではないですか・・・助け合いはお互い様ですよ・・・前にも言いましたが、前の冒険の時には本当に何度も助けていただきましたからね・・・。
じゃあ我々は一旦表に出て、本日分の放送を流して待っていますよ・・・。」
『ジャジャジャッ・・・ブロロロッドンドンドンッ』そういい残して中継車はバックで塔の外へと出て行った。
「いい人たちですね・・・。」
源五郎も涙を腕で拭っているようだ。
「さあ・・・ツバサお姉さんを助けなくっちゃね・・・。」
そうだ・・・急がなければ・・・。




