誤解が解けて・・・
11 誤解が解けて・・・
「うわっ!」
『バサバサバサバサッ』ドライバーが逃げ出そうとしながら、シートベルトに押し戻され悲鳴を上げる・・・大きなカラスの魔物が中継車のフロントガラス越しに襲い掛かってきたのだ。
『シュパンッシュパ・・・シュッパシュッパ』外ではツバサが魔物たちを退治しまくっているが、何せ一人だけに対して数が多い・・・漏れた分が中継車に向かってきているようだ。
仕方がない・・・『ガチャッ』意を決して中継車のドアを開けて降りる。
「大丈夫ですか?」
「ああ・・・このままでは中継車が危ない・・・仕方がない・・・やってみるさ・・・。」
鋼鉄の剣はとても重くて扱えないので、銅剣を装備する。
『バサバサバサッ』『ジュバジュバンッ』おお・・・当たる!大きなカラスの魔物・・・いわゆる大ガラスが翼を広げて襲い掛かってきたのを銅剣で斬りつける・・・『ズゴンズガッズバッ』当たっても一撃で倒せないので、何度も斬りつけてようやく一体目を仕留めた・・・。
『ギャーッス』『ドゴッ・・・ピッキィーンッ』やったーと思っていたら、背後から襲われ身代わりの指輪が割れた。
『シュ・・シュ・・シュ・・・スコッ・・スコ・・スコッ』振り向くと、大ガラスに源五郎が矢を射かけてくれていたので、2撃目はくらわなくて済んだ。
「はっ・・・早く逃げてください・・・。」
やはりレベルが低いのか、矢を射るスピードもなければ、射かけた矢に威力はほとんどないようだ・・・だがどうする・・・逃げろと言ったって・・・中継車は目の前の大ガラスの向こう側だ・・・思い切り翼を広げて襲い掛かってきているので、回り込むなんてことできそうもない・・・。
「えーと・・・えーと・・・火炎弾!」
『ボワッ』『ギャースッ』レイの火炎魔法が大ガラスの背中にヒットし、魔物はレイたちの方へと振り返った。
「火炎弾!」
『すかっ』レイが再度魔法を唱えるが、魔力切れなのか炎は出なかった・・・。
「えいっ!」
『ボワッ』『バシュッバシュッジュバッ』レイが炎の杖を投げつけ発した火炎に大ガラスがひるんだところを、すかさず背後から斬りこみ何とか打倒した・・・。
「ふうっ!」
『バサバサバサバサッ』ほっと一息つく間もなく、すぐさま2匹の大ガラスに囲まれてしまった・・・まずいぞ・・・。
『ドゴッドッガァーンッ』「大丈夫ですか?逃げてくださいっ!」
俺の様子にツバサが気づいてくれて、助けに来てくれた・・・。
『ダダダダッ』『ガチャッ・・・ダダッ』『タタタッ』急いで中継車に避難すると、ツバサも一緒に乗り込んできた。
「すぐに車を出してください!」
「わかりました!」
『ズザザザザザッズッギューンッ』思いっきりアクセルを踏み込んだのか、中継車の後輪は少し空回りした後、ようやくグリップを取り戻し、思いっきり加速し始めた。立っているツバサはバランスを崩しよろけ、何とか座った俺もシートに体を押し付けられる。
「あまり強くはないのですが、数が多すぎてあたし一人では全てに対応することはできません。
中継車も危険ですので、このまま山の方へ逃げてください。」
ツバサの指示で、山のほうへと中継車を走らせる事にした。
「一体どうしたというのですか?つい昨日まで、平原の魔物たちは簡単に倒しまくっていたではないですか・・・そりゃあ・・・ダンジョンの魔物たちには少々苦労するときもありましたが・・・中ボス級の魔物たちが群れを成して襲い掛かってきたとでもいうのでしょうか?」
俺たちの戦い方を不審に感じたのか、テレビスタッフが心配そうな顔つきで後方へやってきた。
「いや・・・何ともない・・・何ともないんだ・・・。」
素知らぬ顔で首を振る・・・テレビスタッフの中の裏切り者の正体が分かっていない今、絶対に弱みを見せるわけにはいかないのだ・・・。
「いや・・・何でもないと言われたって・・・今の戦い方は異常ですよ・・・わざわざ装備も低級なものに変更して・・・何かの特訓でしょうか・・・?
新たな奥義の特訓ということでしたら・・・老婆心ながら申し上げますが、あまり無茶はしないほうがいいと思いますよ・・・このままでは奥義取得する前にやられてしまいかねませんよ・・・。」
テレビスタッフは俺たちの体たらくを、奥義取得のための修業と勘違いしている様子だ・・・奥義取得の特訓は通常トレーニングとは別に行っていて、放送内容に困ったら、その様子を使っているからな・・・そのような勘違いをしてくれた方がありがたい・・・。
「まあ、そのようなものだ・・・これからは気を付けるよ・・・。」
割れた身代わりの指輪の跡を気にしながら答える・・・冷や冷やものだ・・・。
「ほんとですか・・・?だったらいいのですが・・・ちゃんと説明しておいていただかないと・・・我々を信用してくださいよ・・・もう何ヶ月間も一緒に旅を続けてきた仲ではないですか・・・我々にお手伝いできることがあったら、何なりとお申し付けください。」
いつものテレビスタッフはそう言って頭を下げる・・・ううむ・・・なんだかだましているようで、申し訳なくなってきた・・・。
「あのねえ・・・どうしてかわからないけど、急に弱くなっちゃったんだよ・・・だから・・・戦えないの・・・。」
すると突然レイが口を開く・・・ばっ・・・馬鹿っ・・・レイ・・・なんてことを・・・。
「あわわわっ・・・そっそんなことないさ・・・わざと装備を下げて弱いふりをしているだけさ・・・なあっ源五郎?」
慌ててレイの口をふさぎ、源五郎の方へと振り返る。
「そっ・・・そうですよ・・・そんな・・・僕たちが急に弱くなるなんてこと・・・・あるわけないじゃないですか・・・。」
源五郎も、こわばった笑みを見せながら、明るく否定する。
「そっ・・・そうでしょうか・・・?」
テレビスタッフが、眉をひそめながら首をひねる。
「レイちゃんの言っていることは本当です・・・あたしたちはどうしてかわかりませんが、今朝の朝食後に突然レベルが下がってしまったように感じています・・・高い防御力の防具も、高い攻撃力の武器も装備できなくなって気が付きました。
あたしは・・・別次元のあたしと合体しているので何とか魔物たちとも戦えますが・・・サグルさんたちは恐らく無理でしょう・・・この地にいる魔物は初期の魔物とはいえ、経験値の全くない冒険者では歯が立ちません。」
ところが根が正直なツバサは、レイ同様に真実を打ち明けてしまう・・・ううむ・・・まずいぞ・・・。
「そっ・・・そうだったのですか・・・突然弱くなって・・・平原の魔物にも対応できなくなってしまったというわけですね・・・?」
テレビスタッフが、俺たち一人一人の顔を順に眺めていく。
『ドガッ・・・ドゴッ』中継車の後方が何やら騒がしくなってきた・・・大カラスの魔物たちが追い付いてきたのだろうか・・・確かに舗装されていない只の平原に記された、それらしいルートをたどっているだけだからな・・・高速のようなスピードを出せるはずもない・・・だが・・・どうすればいいのだ?
いくら初期の魔物でも、数が多いとツバサ一人だけでは対応できないぞ・・・。
「任せてください・・・このようなこともあろうかと・・・中継車を改造してあるのですよ・・・このリモコンでね・・・よっと・・・。」
テレビスタッフは笑みを浮かべると、すぐに運転席のすぐ後ろの席へと戻り、窓の上に取り付けた棚からタブレットサイズのモニターを引き下ろした・・・。
「大カラスの群れですね・・・こいつらなら簡単にやっつけられますよ・・・。」
『ガッシャン』『ガガガガガガガッ』『ガガガガガガッ』『ガガガガガガッ』すると走っている中継車の天井部分が少し揺れ、その後大爆音が鳴り響く。
同時に走り続ける中継車の後方に、次々と真っ黒い塊が落ちて地面に転がっていくのが見えた。
「うまいもんでしょう・・・以前の冒険の時に、我々はずいぶんと皆さんに守られました・・・本来なら冒険者をサポートするはずの我々スタッフが、皆さんに負担をかけているのは申し訳ないと常々考えていて、中継車を改造するようお願いしていたのですよ・・・。
ツバサさんの冒険に付き合っているときには活躍の場面はありませんでしたが、ようやく使うことができます。
中継車の屋根には中継用のアンテナも付いているのですが、同時に収納式のマシンガンも前後に一丁ずつ装備してあります。
これなら我々が直接マシンガンを手にして戦うわけではないので安全です・・・もちろん中継車の装甲も厚い鉄板で強化しています。
中級クラスまでの魔物であれば、十分に戦えますよ・・・。」
テレビスタッフはコードが付いたタブレットをこちら側にも見せながら、自慢するように立ち上がった。
なんとまあ・・・中継車は武装しているのか・・・しかも中級の魔物までなら対応可能だって・・・だが、途中から魔物たちのレベルがあまりにも上がりすぎて、使えずにいたのだろうな・・・ようやく雑魚魔物たちが現れて・・・彼らは折角用意した武器が使える時を、待ちわびていたのかもしれない。
俺たちがあまりにもハイレベルでやってきてしまったものだから・・・いわゆる宝の持ち腐れ的な感じだったわけだな・・・。
「あっ・・・ありがとう・・・。」
これなら何とか次のダンジョンまで無事に行けそうだ・・・だが・・・行ってどうするか・・・。
「いいんですよ・・・せっかく改造したのだから、使いたくて仕方がなかったわけですからね・・・それよりも、我々は仲間なんですから、困ったことがあればちゃんといってくださいよ・・・水臭いなあ・・・。」
やっぱりか・・・だがなあ・・・。
「いやあ・・・ちょっと言いづらい事情が・・・。」
「えっ・・・事情って・・・?」
仕方がないので、いつものテレビスタッフにだけは打ち明けるつもりで、手招きして呼び寄せる。
「ちょっと言いづらいことだ・・・以前東部大陸で三四郎さんに捕まった時に、俺たちのたちは2人ずつクエストをこなしたわけなんだが、あの時に中継車のタイヤがパンクしたりガス欠したりと・・・色々と妨害工作があったよね・・・。
疑いたくはないのだが・・・君たちスタッフのうちの誰かが、怪しいんじゃないかと考えているわけだ・・・。」
なるべく小声で打ち明ける・・・彼が中央からの回し者であれば、もう終わりのようなものだ・・・。
「なんだ・・・そんなことでしたか・・・あれを仕掛けたのは私ですよ・・・。」
へっ・・・あっさり認めたぞ・・・しかもあろうことか俺たちに一番近しいはずのいつものスタッフが犯人だったとは・・・ううん・・・残念で仕方がない・・・今なら捕まえられる・・・いや、経験値1の俺では無理かもしれないがツバサなら何とか・・・すぐにツバサに目配せする・・・。
「いやだなあ・・・あれは・・・いわゆる脚色ですよ・・・。」
「へっ・・・脚色・・・?」
「そうですよ・・・ツバサさんの危機に際して、皆さんが現れてくださったことは大変有難かったのですが・・・皆さんは強すぎでしたよ・・・どうして冒険当初からこんなに強いのかわかりませんでしたが、あまりにも簡単に魔物たちを退治してしまうものですから・・・。
かつてないほどに強力な魔物ばかりといった触れ込みでしたよね・?・・ところがそんな魔物たちを簡単に倒してしまって・・・冒険放送としては面白みに欠けましてね・・・。
まだツバサさん一人のほうがよかったなんて・・・向こう側の次元の皆さんから苦情が来ていたんですよ。
向こう側の次元の人たちありきのこの世界ですからね・・・視聴者からの意見は重要ということで、定期的にアンケートを募っているわけですね。
冒険というのは、その者のレベルで出来るか出来ないかぎりぎり・・・というような難関に挑むからこそ冒険なのであり、圧倒的な強さをもって楽々とこなすのは冒険ではないって・・・言うのですよ・・・。
それで我々も弱っていまして・・・船を手に入れた後で、占い師さんにどうしたらいいのか占っていただこうとお願いに行ったわけです・・・。
そうしたら・・・確かにあまりにも強すぎる力をもってクエストに挑んでも、人間的な成長は望めないだろうということで、少し困難を感じさせるために妨害をしたほうがいいと言われたわけです。
かといって車に細工をしてしまってはクエスト達成できなくなってしまう恐れがあるため、十分に備えておくよう命じておくといわれました・・・そうした事例を見せておけば、やはり予想もできないことが起こりえるのだと気を引き締め、常に慎重に行動するだろうというのです。
以降はクエストの難易度も格段に上がったこともありますし・・・また皆さんも気を抜かずに常に全力でクエストをこなされていますので、冒険番組の人気はうなぎのぼりなのです・・・。」
テレビスタッフが笑顔でとんでもないことを打ち明けてくれた・・・なんとまあ・・・あれは占い巨乳美女=五郎じいさんの、俺たちに気を抜かせないための作戦だったというわけか・・・。
「そっ・・・そうだったのか・・・いわれてみれば・・・いかな占い師さんだって・・・スタッフが仕掛ける妨害工作までお見通しだなんて・・・ちょっとおかしいわけだよな・・・深く考えればわかることだった・・・。
そうだったのか・・・ずっと疑いの目を向けていて・・・申し訳なかった・・・。」
深く深ーく・・・頭を下げる。
「いえ、いいのですよ・・・まさに占い師さんの思惑通りといったわけでしたから・・・ただ・・・薬が効きすぎたと言いましょうか・・・皆さんが我々スタッフ全員を信じられなくなっているのは逆効果でしょうから、誤解がとけて良かったです。
ちなみに・・・すでにご理解いただいているとは思いますが・・・この世界各地に点在するパラボラアンテナ施設・・・地球という星からのテレビ電波受信のための施設ですが・・・それも向こう側の次元の皆様のある意味ご機嫌取りのために作られているものです。」
いつものスタッフが笑みを見せる。
やはりパラボラアンテナ施設建設は、そのような意味合いがあったわけだな・・・ところが魔物の一部はその妨害に走っているわけだ・・・魔物というのはその世界の崩壊を目指すべき生き物だろうからな・・・なんだか少し見えてきたような・・・。




