合体・・・
8.合体・・・
「ようし、やってみるか・・・アメフラシの残りは8匹いるから、一人2匹づつだな・・・群れから引き離そうとすると抵抗するかもしれないから、一人2匹づつ捕まえてそのまま一緒に駆け足で遥かかなたまで連れて行ってしまうとしよう。
毒とか持っていると厄介だから防毒マスク着用で、俺は鎧の手甲があるからいいとして、みんなは素手ではなく陶芸用の分厚い手袋も着用だ。
いいか・・・全員息を合わせていくぞ・・・。」
『はいっ!』
すぐに防毒マスクをつけて分厚い手袋着用し身構える。
「よしっ・・・捕獲!そうしてダッシュだ・・・。」
アメフラシの背後からそっと近づき両脇に一匹ずつ抱えると、そのまま一目散に遥か彼方まで続く平原を駆け出していく。
『ダダダダダダダッ』『ザーザーザー』『グッチュグッチュグッチュ』予想通りというか、抱えているアメフラシの移動に伴って雨雲はついてくるので、鎧の中まで水浸しで足を踏み込むたびに音がしてくる。
『グッチュグッチュグッチュ・・・』「ようし・・・このくらいでいいだろう、ストップ。」
恐らく20キロは来ただろう・・・振り返って背を伸ばして見ても、先ほどの湖は影も感じられない。
『ザーザーザーザーッ』アメフラシたちを放すと、奴らは長距離を移動してきたことを全く意にも介さないで、そのまま平原をぐるぐると歩き始めた。
「よーし・・・ここまで来ておけば・・・いくら雨水がたまっても向こうの湖まで到達するには、何週間もかかることだろう。
じゃあ、戻って湖が干上がるのを待つとするか・・・。」
『ジャバッ』鎧の靴にたまった水を投げ捨てながら、皆に振り返る・・・みんなずぶぬれ状態で、レイもツバサも源五郎も、濡れた服を着たまま手で絞っているようだ。
まあ、日差しが強いからすぐに乾くさ・・・。
『ダダダダダダッ』またまたダッシュで、ドルシャチのいる湖まで戻ってきた。
心なしか・・・少し水が引いているような感じが・・・まあ気のせいだろうが・・・。
「じゃあ、後は待つだけだな・・・時間があるから、レイの勉強を始めるとするか・・・じゃあ、まずは理科の授業だ・・・場所から行って植物かな・・・?
といってもこの星の植物は地球のものとはずいぶん形状が異なるのだが、それでも基本的なことは変わらないだろう・・・種子植物と裸子植物・・・花から種を作って子孫を増やすタイプと、球根や地下茎で増えていくタイプについて学習していこう・・・。」
急遽屋外学習に切り替える・・・ツバサが準備してくれた教科書はあるのだが、実地的な授業のほうが身に付きやすいだろう。
平原で緑がそれほど豊富というわけでもないのだが、それでもそこかしこに植物は群れている。
それらを教材に勉強だ・・・。
その後、周りに気兼ねなく楽器の練習や歌の練習を行い、奥義の修業の後は交代で見張り番を行いながら就寝した。
『バシャバシャバシャバシャ』うんっ?朝起きると、遠くのほうがなんだか騒がしいようだ・・・。
「どうした?」
「はい・・・やはり湖の水が干上がってきているのでしょう・・・それに感づいたのか、ドルシャチたちの動きが活発化してきています。」
昨晩は湖畔から数メートルの地点に野営をしたつもりだったのだが、すでに百メートル以上は後退していっているようだ・・・湖岸では数センチから十数センチしか水深はなかったのだろうな・・・恐らく昨日着いた北側のほうが少し低くなっているのだろう・・・。
俺たちはアメフラシたちがいるところまで湖の周りを周回してきたから、こちら側から北側に向けて地面はなだらかに傾斜していっているということになるはずだ。
少なくなってきていることに慌てているのか、その先の湖面が激しく白い水しぶきを上げている・・・ドルシャチたちが騒いでいるのだろう。
「うーん・・・だがまだ水は十分にあるようだし、ドルシャチたちの姿も見えないな・・・今日も1日様子を見るとするか・・・。」
湖水に阻まれてドルシャチたちの姿は見えないし、湖の中に入って捕えようとすれば、小さなドルシャチたちによってたかって噛みつかれるのがおちだ・・・水がある程度引いてからにしたほうが良いだろう。
この日は1日レイの勉強と修行に当てた。
「ふあーあ・・・あれ?源五郎・・・?」
翌朝、目覚めてみると源五郎たちの姿が見えない・・・どうしたのか・・・?
「ツバサ・・・起きているか?源五郎たちがいない・・・。」
まさかレディのテントの中を覗き込むわけにもいかず、外から大声で声をかける。
「えっ・・・そうですか?」
ツバサが慌ててテントから飛び出してきた。
夜半の引継ぎ時点では、湖岸は当初より数百m程度後退した程度だったはずだ・・・この調子であれば、十日も待てば湖の水は干上がるだろうと予想していた・・・ところが今は源五郎たちの姿どころか、湖すらも消えてしまっている。
「地面にわずかですが足跡があります・・・追跡しましょう。」
ツバサが湖があったはずの地面にかすかに残る源五郎たちの足跡を見つけた。
水分が残っていたためにぬかるんで足跡が残ったのだろう・・・俺とツバサは急いでテントを片付けると、足跡を追った。
『ダダダダダッ・・・』『バシャバシャバシャバシャバシャ・・・』途中からツバサに追いつき駆け足で行くと、遠くからでも水の音が聞こえるようになってきた。
「すごいな・・・。」
最初の湖岸から2キロと少々は北上してきただろう・・・湖手前に停車しておいた中継車が遠くに確認できるくらいの距離まで戻ってきたようだ。
ドルシャチたちが少ない水を奪い合っているのだろうか・・・湖面は大きなうねりとともに水しぶきを上げていた。
「おはようございます・・・明け方近くになって、みるみると湖水が減ってきてしまい、急いで後を追ってきたところです。」
湖岸で湖の様子を見ていた源五郎が、俺たちに気づいて振り向いた。
「そうか・・・もう少しのようだな・・・湖の水が完全に干上がってしまえば・・・ドルシャチたちは干物と化してしまうだろう・・・。」
これなら、このまま放っておいても退治できそうな気もしてきたな・・・。
「いえ・・・どうやらそうはならない様子ですよ・・・奴らは合体していっています・・・。」
「合体だって・・・?」
源五郎がとんでもないことを言い始めた。
「そうです・・・親指ほどの小さな虫みたいなドルシャチでしたが、昨晩から湖岸で共食いのようにお互いを攻撃しあっている様子が見受けられました。
これなら互いに争い合って自滅してしまうのだろうと喜んでいたのですが・・・共食いするたびにその体が大きくなっていったのです。」
「大きくなっていくって・・・?湖の水深は1mもなかったはずだぞ・・・合体して大きくなるって言っても限界があるぞ・・・。」
「そうですね・・・合体して大きくなったドルシャチは、さらに共食いを続け巨大ドルシャチとなりました。
当然湖面からはみ出してしまうと考えていたのですが、その巨体を使って湖底を掘り進み、水深を稼いでは湖の中心に向かって移動していったようです・・・水がドルシャチのいる所に集中したため、たったの数時間で湖が小さくなったのですね・・・。」
源五郎が少し先に見える巨大な黒光りしている3角形を指さす・・・ヨットの帆のように見えるそれは・・・もしかするとシャチの背びれということなのか?
数メートルはありそうなその背びれから考えるに・・・シャチ本体は数十メートルはありそうだぞ・・・。
「くおぉー・・・。」
その時甲高い雄たけびのような音が響き渡る・・・巨大ドルシャチの咆哮なのか?
ううむ・・・シャチはかなり知能の高い動物と聞いたことがあるが、ドルシャチという魔物も知能が高いのだろうな・・・延々と薄く広がった湖水を1ヶ所に集中させて表面積を小さくして、表面から蒸発する水分を抑えにかかったということなのだろう。
その穴を掘るために巨大化したということだ・・・直径5キロだった湖が今では数百mほどしかない・・・それだけ深くなっているということなのだろう。
「そうか・・・だが、どうすることもできないな・・・やはり湖の水が干上がるのを待つくらいしか・・・なにせ今だって見えるのは巨大ドルシャチの背びれだけだからな・・・背びれを攻撃したところで・・・。」
巨大化したとは言え・・・依然としてドルシャチの本体は湖の中だ・・・攻撃しづらいことに変わりはない・・・だが・・・深く掘った湖水が蒸発するまでに、何週間必要になるのか・・・だな・・・。
「いえ・・・今がチャンスといえます・・・巨大化したドルシャチであれば、防具の隙間から入り込んでかみつかれる心配もありません・・・通常の魔物を退治するつもりで挑みましょう・・・とうっ!」
ツバサはそう言い残すと高く跳躍し、湖面から突き出た背びれのあたりに着地した。
手には長い銛が・・・あれはカジキマグロ漁用の銛だな・・・。
『グッザグッザグッザ・・・』「ぐわぉー・・・!」
ツバサが長いモリを水中に突き立て始めると、白黒の巨体が苦しいのか湖面から頭を出し、何度もその巨体を振り始めた。
『バッシャーンッ・・・バッシャーンッ』さらに巨体は体を振りながら、背に乗るツバサを振るい落とそうとするが、ツバサはバランスをとって吹き飛ばされないよう、巨大ドルシャチの背にたち銛を突き続けている。
「ようし、俺も・・・おりゃあっ・・・。」
『ビュンッ・・・・グザッ』俺もクジラ漁用の大きな銛を冒険者の袋から取り出し、湖面から見え隠れする巨大ドルシャチの魔物めがけて投げつけてみた。
『グググッ・・・バッシャーンッ・・・ズルズルズルズル』銛の後方に着けたロープを思い切り引っ張り、巨大ドルシャチに突き刺さった銛を抜いて手繰り寄せると、再び投げつける。
『ビュンッ・・・・グザッ』今度も巨大ドルシャチの頭部分に突き刺さった様子だ。
「ようし・・・僕も鋼鉄の矢じりで・・・。」
『シュッシュッシュッシュッシュッ・・・グザッグザッグザッグザッグザッ』源五郎も、湖面から飛び出したドルシャチの体めがけて矢を射かけ始めた。
「あたしだって・・・強振動!強振動!」
『グラグラグラグラグラッ』『ズザザザザザッ』レイが唱えると地面が揺れ始め、所々地面に亀裂が・・・同時に湖面の水が減っていく・・・。
そうか・・・地震系の魔法で地割れを発生させたというわけか・・・うまいぞ、レイっ!
「だありゃあっ・・・!」
『バシャバシャバシャバシャッ』ある程度水が減ったところで銛の攻撃をやめ、鋼鉄の剣を抜いて斬りこんでいく。
『シュッパッシュッパンッ・・・シュッパパァーンッシュパッ・・・』巨大ドルシャチの皮は厚く硬いが、鋼鉄の剣で斬り裂けないほどではない・・・ひたすら剣を振り回して攻撃していく。
『ぺかーぺかーぺかー・・・』『グザグザグザグザッ』レイの光攻撃と源五郎の矢攻撃も加わってきた。
「ぐぉぉぉぉー・・・」
『ドッゴォオーンッ・・・ズザザザザッ』低く響き渡るような雄たけびが聞こえ、ドルシャチがその巨大な胴体を大きく左右にゆらし後方へ跳ね飛ばされた・・・ううむ・・・まだまだ元気なようだな・・・。
「とうっ!奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
『ドッガァーンッ』上方で大きな衝撃音がしたと同時に、ドルシャチの巨体が大きく跳ね上がった・・・ツバサの奥義炸裂だ・・・ここは一気呵成に・・・。
『ズゴッズゴッズゴッズゴッ』厚く硬いドルシャチの皮膚を切り刻んでも効果が薄いようなので、ひたすら鋼鉄の剣で突いていく。
『ぺかーぺかーぺかー・・・』『グザグザグザグザッ』レイと源五郎の攻撃も加わって猛攻撃だ。
「こぉー・・・!」
『ガッガァーンッ・・・ズザザザザザッ』決まったと思ったがドルシャチの巨体が大きく振れ、またもや遠くへ跳ね飛ばされた・・・ううむ・・・しぶとい。
「とうっ!奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
『ドッガァーンッ』『ズゴッズゴッズゴッズゴッ』『ぺかーぺかーぺかー・・・』『グザグザグザグザッ』
「とうっ!奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
『ドッゴォーンッ』『ズゴッすかっ・・・』うんっ?攻撃がカラぶったのでふと見ると、目の前にあったはずの巨大なドルシャチの姿が消えてなくなっていた・・・倒せたのか?・・・。
「ふうっ・・・何とかなったようだな・・・。」
ほっと一息ついて、剣を鞘に納めようとする。
「パパー・・・お姉さんを受け止めて!」
「うんっ?」
『ダダダダダダッ・・・バスッ・・・』レイに言われて見上げると、ツバサが落下しているのが見えた。
慌てて鋼鉄の剣を投げ捨て落下地点に駆け寄り受け止める・・・ふうっ・・・セーフ・・・奥義を3回・・・いや毎回真空の壁も使っていただろうから6回か・・・発動したものだから、疲れ果てたのだろう・・・ツバサはぐったりとしていたが息はしていそうだ。
「全回復!」
ツバサを湖底にそっと置き、回復魔法を施してやる。
「はっ・・・ドルシャチは、どうなりましたか?」
魔法効果のおかげですぐに気づいたツバサは、きょろきょろとあたりを見回した。
「ああ・・・ツバサの奥義がさく裂して倒したよ・・・。」
先ほど投げ捨てた鋼鉄の剣の土を払い鞘に納める・・・緊急事態とはいえ命を守ってくれる武器をぞんざいにしたことは、反省しなければいけないな・・・。




