ムカデの次はシャチ
6.ムカデの次はシャチ
『ボワッ・・・ゴォー・・・』駆け出した先には、ものすごい火柱が上がっていた・・・まずい・・・レイは無事か・・・?『ごぉー・・・』行く手には巨大な細長い影が、炎に包まれながらのたうち回っているのが見える。
「れいーっ!」
『チュージ・・・チュージ』我を忘れ駆け込んでいくと、左手から不意に巨大な影に襲われた。
『ドゴッ・・・シャッキィーンッ・・・シュパッ』左手の天空の盾が反応して受け止めることが出来、そのままはじき返し右手の鋼鉄の剣で切りかかっていくが、『キンッ』巨大な口の両側から突き出た、内側に弧を描くように曲がった鋭い牙に弾かれる。
『シャキィーンシャキンッ』『キンッキンッキンッ』さらに左側から袈裟懸けで切り込んでいくが、大きく体をそらした巨大ムカデの無数の足に阻まれて、切り付けることもできない。
なにせ長さ十メートルは優に超えているだろう。頭や胴回りの太さだって、成人男性の胴回りよりも太いくらいで、しかも皮が厚いのか鋼鉄の剣ではかすり傷程度にしかならず、さらにその長い胴体の側面にはいくつもの頑丈そうな太い足がついていて、剣をはじいてしまうのだ。
そのうえ頭と胴体の中央部分としっぽのあたりに、それぞれ一組ずつ大きな羽が生えているようだ・・・これを使って飛ぶのだろうか・・・狭い洞窟の中だから奴の動きも制限されているが、外だったら無敵だぞ・・・。
『ガスッガスッ・・・シュッ・・・シュッ・・・グザッ・・・・ザッ』それでもくじけずに、攻撃の手を休めずに何度も斬りつけ続け、巨大ムカデのいくつもある節の部分を正確に突けば、攻撃が通ることが分かってきた。
『グザッ・・・シュタッ・・・グザッ・・・シュタッ・・・』『チュ・・・チュー・・・ジ』何とか攻撃できることはわかったが、相手は何せ巨大・・・敵の攻撃をかわしながらその体中の節を何度も突き続け、ようやく1匹目を倒した。
『チュージ・・・チュージ』『シュシュシュシュ・・・ズババババッ』1匹目を倒したと思ったのもつかの間、別の巨大な影に左後方から襲われそうになるが、すぐにいくつもの矢が飛んできて、その影の動きが止まる・・・源五郎だ!
射者のズボンを履いているが、さすがに胸当てを装備するのは無理だったようで、上半身はTシャツ1枚の格好で戦闘している。それでも源五郎の矢は、的確に巨大ムカデの節の隙間を狙っているようだ。
『タッ・・・シュタッ・・・シュパッパッ』さらに前方にうごめく影に向かって、後方から俺の頭の上を跳躍して行った影が同じく節をついていく・・・ツバサだ・・・うん?彼女はちゃんと上下ともに道着を着こんでいるぞ・・・。
そうか・・・拳法着ぐらいだったら着たままでも防護服を着用できたのだな・・・ちょっと残念・・・いやいやいや・・・そうではないな・・・。
『チュージ・・・チュージ』『グザッ・・・タッ・・・グザッ』その後も、向かってくる巨大ムカデの急所ともいえる節を正確に突き続け、なんとか倒していった。
なにせ、その巨体の割に身軽に飛び回ることができるようで、思いもよらぬ方向から反撃を受け、何度も危ない思いをしたが、それでも何とか襲い掛かってきた一団は倒し終えた。
『ダダダダダッ』「レイッ・・・無事か?」
すぐに洞窟奥へと駆け込み、レイの姿を探す。
『ゴウゥォー』そこには、巨大な火炎を上げながら燃え続ける人型と、その周りにうごめく無数の小さなムカデたちの姿が・・・ううむ・・・子供の鬼百足か・・・?
もしかすると、あの人型は・・・レイなのか?子鬼百足は炎系の魔法が使えたのか?レイは魔法攻撃でやられてしまったというのか?
「レイー・・・!」
『ダダダダッ・・・グチャッグチャグチャ』『ジュパッシュパンッ・・・ジャバッ』ダッシュで駆け寄り、周りを取り囲んでいる子鬼百足を踏みつぶしながら斬りつけ、追い散らしていく。
子供のせいなのか、皮膚はそれほど固くもなく踏みつぶすことも斬り裂くことも容易にできたが、何せ裸足のままなので、あまりいい感触ではない。
『グチャッグチャッ』『シュパパンッシュパッ』『ズゴゴゴゴッ』なおも炎に群がる夜行性の昆虫のような子鬼百足たちを斬り散らしていると、巨大な黒い影が行く手を阻むように襲い掛かってきた。
ひときわ巨大なムカデ・・・恐らく女王鬼百足だろう・・・レイを子供のエサにするつもりでさらっていったのだろうが、こいつが魔法攻撃でレイを丸焼きにしてしまったのだろうか・・・ううむ・・・許せん・・・。
「だありゃあっ!」
『グザッ・・・グボッ・・・ドゴッ』超巨大ムカデの体の節めがけて、鋼鉄の剣を渾身の力を込めて何度も突き刺していく。
『シュシュシュシュシュシュシュッ』『グザザザザザッ』さらに鎌首をもたげるように、その高く持ち上げた巨体の節に源五郎の援護の矢が突き刺さっていく。
「奥義・・・3連鷲撃泰覇斬!」
『ドッゴォーン・・・ドッギューンッ・・・ドッガァーンッ』続いてツバサが洞窟上方から飛来してきて、超巨大ムカデの頭と胴体中央としっぽの羽が生えている部分めがけて奥義を炸裂させた・・・『チュ・・・チュー・・・』超巨大ムカデは、そのまま消滅した。
「れっ・・・レイー・・・!」
魔物は倒したが犠牲が大きかった・・・今もまだ燃え続ける火炎を何とか鎮火させたいのだが、なす術もなくただ見守るだけだ・・・。
『ダダダッ』はっ・・・そうだ・・・洞窟入り口わきに泉が沸いていたことを思い出し、急いで駆け出す。
「パパ・・・どうしたの?」
すると後方から聞きなれた声が・・・うん?
「れっ・・レイ・・・炎攻撃でやられてしまったんじゃなかったのか?」
振り返ると、そこには防護服を身に着けたままのレイの姿が・・・あれだけすさまじいまでの火炎を上げていたにもかかわらず、レイの防護服には煤や焼け焦げすらも付いてはいないようだ・・・。
「えー?・・・あれは、あたしの奥義だよー・・・。」
「奥義?」
「そう・・・おっきなムカデに連れてこられて、逃げようとしたけど小さなムカデたちに囲まれてしまって・・・魔法攻撃してもよかったんだけど、たくさんいたでしょ・・・防護服来ていたけどくっつかれるといやだなと思って・・・魔物を近寄らせないための魔法なんだよねー・・・。
奥義・・・ファイアーガードっていうの・・・ツバサお姉さんは真空の壁で敵の攻撃を防ぐから、あたしも考えてみた・・・名前は、ダーリンに覚えやすくて短いのを考えてもらった・・・えへへ・・・。」
レイが笑顔で説明してくれる・・・そうか・・・あの火炎はレイ自身のものだったのか・・・よかった・・・。
「それよりも・・・パパ・・・どうしちゃったの?そんなシャツとパンツだけで・・・お行儀が悪いわよ!
裸足で魔物を踏みつぶしたから・・・汚いし・・・。」
レイが俺の格好を見て顔をしかめる。
「いや・・・これはだな・・・レイがさらわれてしまっただろ?・・・防護服のままだと動きずらくて・・・。」
いろいろと言い訳をするが、レイにあきれられてしまった。
「あっ・・・宝箱・・・あれ?これは乗り物券じゃないね・・・カジノの金券だよー・・・。
100コイン券が2枚だけだね・・・。
こっちは・・・やったぁー・・・乗り物券だぁー・・・。」
レイが飛び上がりながら、嬉しそうに乗り物券を掲げる・・・乗り物券以外の褒賞の時との差が大きすぎるな・・・。
洞窟入り口わきの泉で、足をよく洗ってから鋼鉄の鎧を装備した。
「まあ、ある程度予想はできるが、クエスト票を念のために確認してみるとするか・・・。
鬼百足・・・チュージチュージという鳴き声が特徴の巨大ムカデ。
兵隊鬼百足は体長十mを越え、胴回りも3m以上・・・女王鬼百足はその約2倍程度の大きさ。
巨体の上にその体の装甲は厚く、剣や爪などの武器が通じない場合が多い。
接近戦の場合は猛毒を持つ牙の危険性があるため、遠距離から唯一の急所となる体の継ぎ目の節を攻撃するのが有効・・・物理攻撃力AA、毒攻撃力特AA、防御力AA。
女王鬼百足・・・物理攻撃力特AA、防御力特AA。
子鬼百足は体長5cmほどで、体は柔らかく簡単に駆除できる・・・物理攻撃力C、防御力Z。
集団としての合成戦闘力・・・物理攻撃力ZA、毒攻撃力AA、防御力AZ・・・だとさ・・・。
子どもの攻撃力や防御力を落として兵隊や女王へ配分したともいえる・・・なんだか反則じゃないのか?とでも言いたくなってしまいそうだな。
だが・・・力の配分にはこういった抜け穴もあるということのようだ・・・肝に銘じておこう。
じゃあ、次へ向かうとするか・・・。」
半ば呆れ気味に、中継車を出発させる。
「あれがそうではないですかね?」
赤城山から2日かけて南東の湖までやってきた・・・湖の対岸には所々分厚い雲がかかっているようで、日差しも感じられるが、雨も降っているのか霞んで見えない。
洞窟での鬼百足相手の戦いは壮絶だったので2日に分けて放送されたが、今日から放送する分は残っていない状態だ・・・テレビスタッフからの視線が痛い。なにせ移動距離が半端ないから、クエストをこなしているにもかかわらず、放送内容がすぐに尽きてしまうのだ。
「ではクエスト票を確認する・・・前回はいかにも小さな昆虫が集団で襲い掛かってくるような表記であったことで、だまされてしまった・・・というか、害虫駆除の防護服を着用して挑んだがために大失敗してしまった。
クエスト票の記載事項は後出しの場合が多く、最初に確認するだけでは十分な情報がないのだが・・・その情報自体も疑わしくなってきたわけだ・・・まああくまでも参考までに・・・ということだな。
ドルシャチ・・・ドルパカ南東のドルダラ湖に生息する・・・海に生息するシャチのような形をした水生生物。
鋭い歯でかみつき攻撃を仕掛けてくる・・・物理攻撃力AZ、防御力ZZ。
ドルダラ湖は水深が最深部でも1m程度のごく浅い湖・・・というより雨水がたまった水たまりだが、その巨大さゆえに湖と命名されている・・・直径5キロほどのほぼ円形湖で、日々成長中。
ううむ・・・雨水がたまった湖に住み着いたシャチの魔物ということか・・・確かに湖のはるか向こう側には雨雲のような黒い雲がかかっているから、常にこの辺りは雨が降っているのかもしれないね。
しかしシャチといえば知能が高く、集団で示し合わせて他の生物を襲う・・・いわば狩りのように・・・自分の体よりも大きなクジラさえも襲うと聞いたことがある・・・その魔物版ということだから・・・さぞかし巨体で鋭い歯を持っているのだろうな・・・。
あたりを見渡してもボート小屋もなく、船とかボートとかの類は期待できそうもないな・・・水深が1mということだからな・・・直接中に入っていったほうがいいということか・・・。
このくらいの深さということになると、ゴムの胴長着用ということになるが、巨大シャチ相手ではすぐにボロボロにされてしまいそうだな・・・。
鋼鉄の鎧はそれほど重さも感じさせないし、水中での動きも悪くはならないから、そのまま中に入ってみるかな・・・。
しかし最深部の水深1mということだから、巨大シャチだと水面から背びれくらいは常に露出させているように感じるのだが・・・ここから見える範囲内には何も見えない・・・かなり沖合までいかなければ出くわさないということだろうか・・・。
まず試しに俺が入ってみるから皆は待っていてくれ・・・俺が湖に入ったことに反応して寄ってくるかもしれないから、湖の奥のほうに尾びれが見えたら叫んで教えてほしい。」
とりあえず奇襲攻撃を受けてもいいように、鋼鉄の鎧を着こんでいる俺が率先して水の中に入っていく。
その巨大さ故、水深1m程度では潜んではいられないと考えるが、猛スピードで襲い掛かってくる可能性もあるからな・・・用心に越したことはない。
『ジャボンッ・・・ジャバジャバ・・・』湖岸というか、水たまりの淵から中へ足から飛び込んでみる・・・すぐに足が底について、大体腰くらいまでの深さのようだ・・・数歩歩きだしてみる。
『ジャボッ』『ジャボッ』うん?鎧の胴と脚の隙間から何か入り込んだような気が・・・『ガブッ』『ガブッ』
「いたたたたた・・・たっ・・・助けてくれ・・・。」
すぐに湖岸まで駆け戻り、源五郎とツバサに両手を預け引き上げてもらう。
「痛いっ・・・・痛いっ・・・。」
すぐさま鎧をはねのけシャツとパンツだけになる・・・体のあちこちを、鋭い刃物で突かれているかのように痛い・・。
「ありゃりゃ・・・これはひどいですね・・・あちこち血まみれですよ・・・傷の原因は・・・こいつのようですよ・・・。」
『ブチッ・・・ブチッ』「いたたたたた・・・。」
背中に、何か引き抜かれたような感触と当時に激痛が・・・源五郎が前に回ってきて見せてくれたのは、背が黒く腹が白いシャチのような形の虫・・・大きさは親指くらいだが、頭の両側にある切れ長の目の下の大きな口の周りは真っ赤に染まっている・・・あれは俺の血か?
「こいつがドルシャチという魔物なのでしょう・・・大きさは十センチもなさそうですが、それでも鋭い歯を持っていて体中にかみついて攻撃を仕掛ける訳ですね。
2匹だけでもあちこちかみつかれていますから、集団で襲われたら僕らでも敵わないかもしれませんね・・・何せ矢で狙うにしても小さすぎますからね。」
『ブチュッ・・・ブチュッ』両手に一匹ずつ背びれをつまんでいたドルシャチを握り替え、源五郎が手に力を込めると簡単につぶれて消滅した・・・個別に仕留めるのは苦労しないようだが・・・数で押されると厄介だな・・・。
「ううむ・・・この湖に一体何匹のドルシャチがいるのか・・・ということだな・・・投網を投げてみるか・・・川魚用のがあったはずだ・・・。」
すぐに冒険者の袋から円形の目の細かな網の周りに、おもりがぶら下がっている投網を取り出す。
そうして湖岸からなるべく遠くのほうへ投網を腰を回転させながら投げ入れ、うまく円形に広がったことを確認すると、素早く中央に結び付けたロープを引っ張り上げてみる。
『バシャバシャバシャバシャ』手ごたえありというか、網の中にはいくつもの水しぶきが上がり、引く手に重さも感じられ、大漁を意識させられる。
『スルッ・・・』ところがある程度のところから、突然引手が軽くなった・・・急いてロープを引き上げると・・・
「ありゃりゃ・・・やられたな・・・。」
投網の縦横に編み込まれた網目のうち、横糸が全て切られ縦糸のみとなっていた・・・これでは何も捕まえられない・・・。
これもドルシャチの仕業というのだろうか・・・ううむ・・・知能が高いというのは合っているようだな・・・それにしても一体何匹のドルシャチが生息しているのか・・・。
「参ったね・・・湖の中に入るどころか、手を入れることさえ危険なようだ・・・せめて相手が見えればいいのだが・・・小さいうえに水の中では、ちょっと厄介だね・・・。」
ううむ・・・攻撃力はそれほどでもないし、防御力はかなり低いのだが、強敵といおうか厄介な相手といおうか・・・対応に苦慮しそうだな・・・。
「雨水がたまったとなっていましたよね・・・まずは湖の水を干上がらせることを考えてみましょう・・・水がなくなれば一匹ずつ退治していくのはさほど大変ではありません・・・。」
「ああ・・・それはいいが・・・一体どうするんだ?
どうやら湖の向こうのほうでは今も雨が降っていそうだぞ・・・。」
「そうですよね・・・どこかでその雨水の流入をせき止めることができるといいのですが・・・ちょっと雨の降っているところを見に行ってみませんか?」
源五郎が、はるか向こうに霞んで見える対岸を指さした。




