クエストは続く
4.クエストは続く
「いいわよ・・・このくらいなら・・・あたしがすべて燃やしてあげる・・・さっきの恨みもあるから・・・。
奥義!究極火炎・・・バースト!」
冒険者の袋の中から各々防毒マスクを取り出して装着しようとしていたら、レイが悔し涙をふき取りながら奥義を唱える。
もちろん巻き込まれるわけにはいかないので、俺たちはすぐに海岸から駆け足で道端へ戻った。
真っ白く光り輝く炎の球は、いくつにも分裂しながら海岸線を埋め尽くす流木類に降りかかっていく・・・と、すぐに天にも届かんばかりの豪炎を上げて流木や海藻類が燃え上がった。
真っ白い超高温の炎は、流木や海藻の湿り気をものともせずに燃え広がっていき、ものの10分ほどで海岸はきれいな砂浜に変わった。
うっすらと燃えカスの灰が残ったが、まあ・・・砂が白いだけに目立たないだろう。
『きっきぃー・・・きぃー・・・』するとそこへ先ほどのイルカの仲間なのか、4頭の魔物が砂浜へ体を打ち上げて、俺たちに向かって威嚇するように長いくちばしのような無数に鋭い歯が並んだ口を大きく開けて、大きな鳴き声を上げてきた。
「お前が何を目的にここへ流木や海藻を積み上げていたのか俺たちにはわからないが、この海岸線の清掃が俺たちのクエストなんだ。
悪いが、もうこの海岸を汚さないでくれ・・・。」
言葉が分かるとは思わないが、イルカの魔物に向かって呼びかけてみる。
『うっぎゃぁー・・・』『ビリビリビリビリビリッ』すると、イルカたちは俺の願いを拒否するかのように、大きく口を開けて叫ぶ・・・同時に空気が大きく重く振動した。
「ううむ・・・どうやら納得してはもらえないようだな・・・では仕方がない、なるべく平和的に解決したかったが、退治させていただく。」
鋼鉄の剣を抜いて身構える・・・今回のクエストは入り江の清掃であり魔物の退治ではないため、不要な殺傷は避けたいところではあるのだが仕方がない。
イルカの魔物たちを入り江から追い払った後に、入り江の入り口部分に網を仕掛けておけば、魚たちはもちろんイルカの魔物たちも中に入ってくることはなくなるだろうと考えていたのだが、実力行使となりそうだ。
ツバサは光の爪を、俺は鋼鉄の剣を抜き、源五郎は狙撃手の弓を構え、レイも光の杖を装備する。
『うっぎゃぁー・・・』『キィーン・・・キィー・・・』すると4頭のイルカたちは器用に尾ひれを使って立ち上がると、さらに声を張り上げた。
「うげっ・・・」
だんだんと声のトーンが高くなっていったかと思うと、途中から耳をつんざくような甲高い音になっていき、鼓膜が破れそうになると同時に、脳みそを中からかき混ぜられているような感覚に陥り、立っていられなくなる。
「超音波攻撃だ・・・耳栓も購入しておいただろう?・・・飛行機整備士用の大きなヘッドフォン型のがあったはずだ・・・急いで装着するんだ!」
大声を出しても皆に聞こえるはずもないので、冒険者の袋からヘッドフォン型の耳当てを取出し身振りで皆に伝える・・・音楽も聴けないのに、こんな大きなのは必要ないとレイには不評だったが、無理やり買わせておいて正解だった。
「ふうっ・・・ようやく人心地ついたな・・・ようし反撃開始だ・・・。」
ヘッドフォン型耳栓には音楽再生機能はないが、トランシーバー機能はついているので、インカムのマイク電波の周波数に合わせておいたから、ようやく会話が可能となる。
『ぎゃんぎゃんぎゃん・・・』『キィーンキィィー・・・』剣を構えて一歩前に出ようとしたところ、効果がないと悟ったのか、イルカの魔物たちは集合し、騎馬戦のように3頭の頭の上に1頭が乗り、見上げるほどの高さになってから最上部の1頭が大きく口を開け叫び始めた。
すると甲高い超音波攻撃は一段とすごさを増してきて、思わずその場に膝をついてしまう。
「このままではやられてしまいます・・・仕方がありません・・・とうっ!」
俺と同様に膝をついてうずくまっていたツバサは意を決したかのように立ち上がり、数歩の助走の後、砂浜ということを感じさせないほど高く宙に舞い上がった。
「真空の壁!・・・とうっ」
さらに真空の壁を発してもう一段高みへと舞い上がる。
「奥義・・・鰐襲旋風脚!」
つま先までぴんと伸ばし、体をものすごい速さで回転させながら魔物へ向かっていき、『ドッゴォーンンッ』騎馬の上に立っている魔物の大きく開けた口の中へとつま先から突っ込んだ。
『ぎゃぎゃぎゃっ・・・』『キィィーンキィーンッ』ところが、口をふさがれてもイルカの魔物の叫び声は収まらず、超音波攻撃もさらに威力を増して襲い掛かってきた。
「イルカが声を出しているのは口からではなくて、背中にある空気孔を変形させて空気を吐き出しながら音を出しているはずです。
ですから、この魔物の口をふさいでも効果はありません。
魔物が立った状態では空気孔は背中側にあるので僕たちから死角になりますが、恐らく入り江を形成している高い断崖に反射させて、超音波攻撃を仕掛けてきているのでしょう。
より効果を出すために騎馬戦のように高い位置に構えているのでしょうね。」
源五郎が、現状を冷静に分析する。
「だったらまずいぞ・・・、このままではツバサが食われてしまう。」
ツバサはイルカの魔物の大きな口に突っ込んだままだ・・・超音波攻撃できなくて相手が苦しんでいるのならともかく、全然平気ならこの状態はまずい事になる・・・。
「目には目を・・・超音波には超音波攻撃だ・・・レイッ・・・学校の勉強で使う、小さな黒板を作っただろ?
あれを爪でひっかいてやってくれ・・・あいつらだって自分が出している音ならともかく、敵が出す超音波は苦手なはずだ。」
「ええっ・・・本当にやっていいの?」
『キキィィー・・・・キィィー・・・』レイが顔をしかめながら、腰にぶら下げているA4サイズの黒板を爪でひっかくと、背筋が寒くなるような音がヘッドフォンをしていても聞こえてきた。
移動中もすぐに勉強できるよう、黒板はハンディ型にして常に携行させていることが幸いした。
「さらに・・・のこぎり攻撃だ・・・。」
ジャグラーの道具で、のこぎりバイオリン用の刃のないのこぎりを購入しておいたので、そのエッジを同じくジャグリング練習用の鉄の棒をつかい目一杯の力でひっかく。
『キキィー・・・キィィィー・・・』音を出している本人も、背中がむずむずするような感覚に陥る、不快な音を響き渡らせ始めた。
『ドザッ』するとその音に耐え切れなかったのか、騎馬の上の魔物が胃の内容物を吐き出すかのようにうつむき、同時にツバサが解放されて砂浜に落ちた。
『ザザザザッ』「イルカのくちばしのような長い口のおかげで、喉の奥まで突っ込むことが出来ず、仕方がないので足首を回転させて舌の根を刺激してやりました・・・はぁはぁ・・・。」
ツバサが、心底疲れ果てたといった表情で告げる。
なんとそうか・・・超音波攻撃のせいではなかった・・・考えてみれば当たり前か・・・。
『シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ・・・ズバババババババババババババババッ』ツバサが吐き出されると同時に源五郎が連続して矢を射かけ、騎馬上部のイルカの魔物が突き刺さった矢でハリネズミ状態となる。
「きゅーむ・・・」『ドザッ』ようやく仕留められたのか、イルカの魔物はそのまま砂の上に落ちて消失した。
「ようしっ・・・今だっ、残った魔物も一気に片付けてしまおう。」
『ダダダダッ・・・シャッキィーンッ』『シュッパァーンッシュパッ』すぐに駆け出すと、今度は騎馬の土台役のイルカ魔物たちに切りかかっていく。
「とうっ!」
『タタタッ・・・シュッパパァーンッ・・・シュッパパンッ』ツバサも華麗に宙に舞い上がり、皆で残ったイルカ魔物たちをせん滅した。
「ふう・・・危なかったな・・・念のためにクエスト票を確認してみよう。
なになに・・・入江イルカ・・・・人の名前のような命名だな・・・波が穏やかな入り江に流木や海藻などを積み上げて、そこを住みかとして家族で暮らす習性がある。
海中での移動および戦闘力はAA、陸の上ではBZ・・・ただし、尾びれを用いたドルフィンキックはAD・・・呼吸口を用いての超音波攻撃はAAなので要注意となっているな・・・。
さらに一家の長であるオスが放つ超音波攻撃・・・特AAA・・・これはトリプルAということか?
AAの上の特AAのさらに上・・・特AAA・・・そんな攻撃を行う魔物がいたとはね・・・道理で耳栓をしても耐えられなかったわけだ・・・とっさにこちらも超音波攻撃で反撃してみたが・・・。」
何ともまあ・・・危なかった・・・あのままでは全滅もありえた・・・子供のころ、学校の黒板などに爪を立ててきぃきぃ音をたてたりしたが、意外とやっている本人は耐えられたのを思い出して、仕返し気味にやってみたのだが、結局はツバサの奥義がさく裂・・・ちょっと効果が出るまでに時間がかかったが・・・した結果だった。
「でも・・・なんだかかわいそうなことをしましたね・・・先日北極海を船で航行したときには、あんなに強い魔物は襲い掛かってきませんでした。
恐らく彼らはこの入り江を住みかとしていたから、航行中の船を襲うというようなことはしていなかったのだろうと考えます。
いくらクエストとはいえ、ほかに迷惑をかけてもいないものをただ魔物だからという理由だけで退治してしまうのは、ちょっとかわいそうな気がしますね・・・。」
源五郎が、ごみを撤去してきれいに砂浜が露出した海岸線を眺めながらため息をつく。
「確かにそうだな・・・通常だと人々に迷惑を及ぼすとか、危険だからと魔物退治に向かうわけだが、奴らの場合はただ単にこの入り江を住みかとしていただけだからな・・・だがそう言ってしまえば、これまでのクエストだって同様といえば同様さ。
アリモグラたちだって、樹氷だって・・・流木キノコやタコ真珠貝はそれなりに被害を及ぼしていたようだったが・・・俺たちは迷わず退治してきた。
今回はどちらかというと人間の友達のように普段扱われているイルカ系の魔物だったから、ちょっと後味が悪いだけさ・・・もっと醜悪な外観であれば・・・。」
そんな源五郎を慰める・・・確かにクエストを完遂したからといって、嬉しさはこみあげてくることはない。
どちらかというと、何か嫌な感じが残っているのは事実だ・・・。
「あっ・・・宝箱が出てきたよ・・・。」
レイが砂浜に出現した宝箱へ駆け寄っていく。
『ガチャッ』「やったぁー・・・乗り物券だぁ・・・。」
レイは4枚の遊園地の乗り物券を嬉しそうに高々と持ち上げる。
「こっちはどうかな・・・あれ?」
宝箱は2つあるようで、もう一つは・・・カジノのコイン券を期待していたのだが・・・ただの紙切れだった。
「A5サイズの紙のようですが、1面に?で裏面に7と書かれていますね・・・。」
源五郎がその紙を受け取って、不思議そうに眺めながら日の光にすかしたりしてみるが、ほかに何も書かれてはいない様子だ。
「まあいいさ・・・何か今後のクエストへのヒントかもしれない・・・もう1件のクエストの地へ向かおう。」
『バタンッ・・・・ブロロロロロッ』海岸を上がり道路へ戻り、中継車で東へ向かう事にした。
中継車の中でも超音波攻撃は強烈だったようで、窓を閉めてもヘッドフォンをしていても耐えきれなくて、全員が床にうずくまっていたとテレビスタッフから聞かされた。
薬草を全員に与えて回復させることはできたが、今後はもう少し戦闘区域から距離を置く必要性があると反省させられた。
「あの洞窟ではないでしょうか・・・。」
中継車のドライバーが、海岸線の切り立った崖に開いた大きな穴を指さす。
入り江のクエストから2日の野宿を経て、ようやく次の地へたどり着いた。
「ようし・・・じゃあ、ここからは歩くから、君たちはここで待機しておいてくれ。」
まだ洞窟までは1キロはありそうだが、用心のために中継車を置いていく。
またなんらかの攻撃を食らって、今度はけが人でも出ては困るのだ。
毎日ランニングなど欠かすことなくトレーニングを続けているし、ほんの一呼吸とまではいかないが、それでも駆け出したと思ったら、すぐ目の前が洞窟だった。
「じゃあ行くとするか・・・その前にクエスト票の確認だな・・・ギルドでは何の情報も出ていなかったからな。
北極海岸洞窟に巣くうイソギンチャクもどき・・・その名の通りイソギンチャクのような形態の魔物。
干物にするとエキスが凝縮され、煮物などにすると出汁が出て最高に美味。
酒の肴に最適なので洞窟内に生息している分全てを捕獲すること、攻撃力・防御力ともにBT・・・となっているな・・・まあ大した攻撃力ではないから、油断さえしなければいいだろう。
イソギンチャクとは海岸端の磯などの岩場にくっついて生息する軟体生物だから、大きさにもよるが剣や爪だと体を突き抜けて岩場に当たって刃こぼれする危険性が出てくると思うし、捕獲だからなるべく傷をつけずに行きたいから・・・木刀や素手・・・ということになりそうだな。
当然、矢だって岩に当たって跳ね返ってくる危険性もあるし、肝心のイソギンチャクの身を痛めても困るので、矢じりのついた矢は使用しないほうがよいだろう・・・魔法攻撃は大丈夫かもしれんが粉々にしてしまうと台無しなので・・・威力を落とした初級魔法ということになるかな。」
とりあえずの注意点を説明しておく・・・どうせ後だし情報があるのだろうが、現時点ではここまでだ。
『ザッザッザッ』鋼鉄の剣をしまい込み木刀に持ち替えてから、道路端から岩場を経由して砂浜を進んで大きな洞窟の中に入っていく。
ツバサも光の爪を外し、源五郎は練習用の弓と矢じりのついていない、練習用の矢に切り替えた様子だ。
「えーと・・・チリ・・・かな・・・ゴロ・・・ピカだったような・・・。」
レイの奴は必死で初級の攻撃呪文をおさらいしている様子だ。
ごつごつした岩場が間にあったので中継車で乗り込むことは無理だろうが、それでも間口の大きさは十分で、高さは5mほどで幅は十mはあるだろう。
奥行きは・・・
『ヒュン・・・ヒュン・・・ヒュン』『キィーン・・キンキンッ』洞窟奥を覗き込むようにしながら中へ入っていくと、数メートルほど進んだ時点で、風切り音とともに甲高い音が聞こえてきた。
すわ超音波攻撃か・・・?『シュパッドガッ』冒険者の袋をまさぐって耳栓を取り出そうとした瞬間に、天空の盾が反応して開き、強い衝撃を感じると同時に反射的に身を引いた。
「うん?なんだ・・・こりゃ・・・。」
洞窟内までも続く砂地に落ちた物体をヘッドカメラのライトで照らしてよく見ると、乳白色のこぶし大の円柱形で、片側にもじゃもじゃの髪の毛というか海藻のような触手がついている・・・まさにイソギンチャク。
すかさず手を伸ばしてギルドでもらってきた捕獲用袋の中に入れる・・・ううむ・・・岩などに貼りついて生息しているのではないのか?




