気乗りしないクエスト
3.気乗りしないクエスト
「これなんかどう?北極海岸の清掃。ドルパカ北の自然にできた入り江に漂着するごみの撤去で、魔物の記載はないけどクエストレベルはAZだよ。」
珍しくレイの奴がやる気を見せて、1枚のプラチナチケットをもってやってきた。
アレヘスの街を出発し、3日かけてようやく北部大陸東部の町ドルパカまでやってきたのだ。
いつもの通り、途中、魔物たちに出くわすこともなく、楽に移動できたのはよかった。
アレヘスでの無限ループに陥りそうな、繰り返しクエストでの撮り溜めがあるので、放送には当分困らないようではあるが・・・。
「うーん・・・海岸線の清掃というと、あの幻覚を見せられたクエストを思い出してしまうな・・・。
それに褒賞の欄を見てみろよ・・・アレヘス遊園地の乗り物券・・・ううむ・・・これが目的か?」
レイの顔をまじまじと眺める。
「えへへへ・・・ばれちゃった?でも、すぐに戻らなくてもいいんだよ・・・乗り物券をキープしておくだけでもいいの・・・そうすれば、いつでも好きな時に戻って遊べるでしょ?」
レイは悪びれずに笑顔を振りまく。
「どうやらこの町でのクエストは、すべて褒賞がアレヘスの遊園地の乗り物券ばかりで、先へ進むためのクエストはなさそうですね。
中にはカジノのコイン券と書いてあるのものもありましたが、まあ何コイン分入っているのか記載がないですし、今やらなくてもよさそうなものばかりという印象を受けます。」
源五郎ががっかりした表情で中央柱から戻ってきた。
折角、先へ進もうと決心してここまでやってきたというのに、行うべきクエストがないのだから、困ったものだ。
「そうか・・・この先にも町はあるのかい?」
「はい・・・北部大陸には、ドルパカ南東にカンダラという港町があります。
以前の冒険の時にもありましたが・・・地形が変わっていますし、今回はどうなのかは不明です。」
ツバサはそう言って力なく首を振る。
「だがなあ・・・遊園地の乗り物券やカジノのコイン券を褒賞として記載しているということは、俺たちをもう一度どうしてもアレヘスの町へ戻したいのか、あるいはここには何もないから先へ進めと言っているのか、どちらかということだろうと考える。
だったら先へ進もうじゃないか・・・先へ行けば、この地を離れるための賢者のトンネルのカギが手に入るクエストがあるはずだ。」
アレヘスの町では(俺のせいでもあるのだが・・・)ずいぶんと足踏みさせられた・・・それでなくても、この大陸についたばかりの頃には、ダンジョンに閉じ込められることが恐ろしくてクエストに出向くことをためらっていて(こっちも俺のせい・・・)ずいぶんと無駄な時間を過ごしたものだ。
これ以上のロスは避けねばならない・・・早いところ、この地をわけのわからん連中たちから解放しなければいけないのだ・・・。
「だめえー・・・クエストするの・・・冒険者たるもの・・・クエストしないで先へ進んじゃダメなの!」
ギルドから出ていこうとすると、レイが両手を広げて通せんぼをする。
「いや・・・だからだな・・・レイ・・・ここでのクエストは全て遊園地の乗り物券とカジノのコイン券が褒賞で、先へ進むためのアイテム・・・賢者のトンネルの鍵とか宝剣とかだな・・・とか、あるいは強力な武器や防具などがいただけるようなクエストじゃなさそうだ。
だったら、ここでのクエストは無視して先へと進んだほうが、得なわけだ。
決して冒険者としての務めを放棄するものではないのだぞ・・・つまり・・・さぼったりするわけではないということだな。」
頬を膨らませてドアの前で通せんぼするレイを、何とか説得しようとする。
「だってぇ・・・おかしいでしょ?新しい町へ行って、何もしないでただ通り過ぎるの・・・。」
それでもレイは両手を広げたまま、悔しそうに下唇をかむ・・・そんなに乗り物券が欲しいのか・・・。
「あたしも・・・ここでクエストを全く行わずに、次の地へ進むことには疑問があります。
前回の冒険では実体化していたために先を急いではいましたが、それでもその地に危害を及ぼす魔物たちのダンジョンだけは攻略してから次の地へ向かっていました。
そうすることによって新事実が浮かび上がることもありましたので、やはり目に付くクエストはこなしてから次の地へ向かったほうがよろしいかと・・・。」
さらにツバサまでもがレイの味方となる。
「いや・・・だがなあ・・・今までさんざん無駄に時間をとってきたわけだし・・・だよな?」
唯一の味方と思われる源五郎に同意を求める。
「うーん・・・そうなんですがね・・・確かに、新しい土地へ来たらそれなりのイベントがあって、そこでなければ手に入らないアイテムとか入手するためのダンジョン攻略をするのが常ですよね。
ここでのクエストは今のところ遊園地の乗り物券ばかりですが・・・確かに気になる点はあります・・・褒賞欄にはアレヘス遊園地の乗り物券他と書いてあるのですよ・・・この・・・他が何を指すかということですよね。
もしかすると思わぬ掘り出し物があるかもしれませんよ・・・というか、今までの中央のやり方を見ると、重要アイテムをわざとないがしろにするというか、遊園地の乗り物券を前面に押し出しておいて、宝剣やカギを他に含めている可能性も無きにしも非ずです。
ここまであからさまなやり方は、ちょっと怪しげな感じもしますので、とりあえず一通りのクエストはこなしていきませんか?どうせ、そんなにたくさんのクエストはありませんから・・・ただちょっと問題が・・・。」
源五郎が数枚のプラチナクエスト票を握り締めたまま、渋い表情に変わる。
「ううむ・・・そのまま放っておくと、後で後悔することになりそうというわけだな・・・だったら一通りやってみることも考えるとして・・・問題とは何だい?」
「はい・・・ここへ来る途中も見てきた通り、周囲は高い山もほとんどない平原ばかりでした・・・つまりダンジョンの洞窟や川などがすごく遠いようですね・・・どれも1週間から2週間のクエストで、中継車を使っても下手をすると泊りになるかもしれません。」
源五郎がクエスト票の、日数欄を指し示す。
「わかった・・・なるべく同じ方向のクエストを一緒にこなして移動時間の短縮を図ろう。
そうなると、どのクエストがいいのか・・・。」
源五郎が持ってきた数枚のプラチナクエスト票を覗き込む。
「だったら、このクエストが一番だよ・・・。」
レイが先ほどのクエスト票を俺の目の前に突き出す。
「そうです・・・レイちゃんが手にしているのは北方面のクエストで、北東方面がもう一件あります。
どちらも2週間のクエストですので、この2件をまずは引き受けて、ここへ戻ってくることになりそうですね。
ほかにはもう2件ありますが、1週間と2週間のクエストで、南と南東方向のクエストです。
ツバサさんが言っていたように、ここから先へ進むのが南であれば、まずは北方面のクエストをこなすのがいいでしょうね。」
源五郎が手の中のクエスト票から、1枚を抜き取って俺に見せる。
「わかった・・・じゃあその2件のクエストを引き受けるとしようか・・・。」
確かに冒険途中の町で何もしないで次へと進むのは、1度訪ねた町であればよくあることではあるが、初めて訪れた町では異例といえる。
何か行動しないと次へと進めないというのがRPGの基本のようにも感じるので、ここは無駄とは知りつつも、クエストをこなすことにしよう・・・ここへ来るまでに散々無駄なクエストを繰り返し行っていたわけだしな・・・。
「北極海岸の清掃と、北極海岸洞窟に巣くうイソギンチャクもどきの採取のクエストですね。
リーダーの変更はございませんか?・・・では、頑張ってください。」
長い髪の美しい受付嬢に励まされ、ギルドを後にする。
「じゃあまずは北極海岸入り江だね・・・以前帆船で航海したわけだが、北部大陸北部の海岸は、船で3週間もかかるほど広いようだが、場所はわかるかな?」
ギルド前で中継車に乗り込み、いつものテレビスタッフに確認する。
「うーんそうですね、ドルパカ北ということですから、まずは北へ進んでそれらしい地形を探すしかなさそうですね・・・。」
テレビスタッフが北部大陸の大地図を広げて、それらしい地形を探してくれるが、何せ大陸の大地図であり、小さな入り江などは記載されていないので、地図上で見つけることは困難な様子だ。
取り敢えず、方角だけを頼りに北へ進むということになった。
そうして途中野宿を2晩続け、3日目の午後にようやく潮の香りが感じられるようになってきた。
「あれがそうじゃないでしょうかね?」
ドライバーが、中継車の進行方向を指さす。
木立の切れ間から覗く長い砂浜は、左右を海へ突き出た断崖で囲まれていた。
海岸線は恐らく5百メートルほどだが、海へ突き出た断崖は50メートルほど先で大きくカーブを描きながら先をすぼませていて、開口部が10メートルほどの港というか、自然の入り江を作り出していた。
ごつごつとした岩山が作り出す断崖の入り江は、海中から突き出た部分が数十メートルはあるようで、中継車を降りてみると風も穏やかで波もほとんどない、きれいなビーチを作り出していた。
「はあ・・・入り江というか、湖といってもいいくらいの地形だね・・・ちょうど中央部分が10メートルほど抜けて外海とつながっているから入り江ということなのだろうが・・・。」
「真っ白い砂で・・・キレイ・・・だけど・・・本当にゴミがすごいね・・・。」
サンゴ礁に由来するのか白砂の海岸なのだが、苔のついた木の枝や木の根といった流木や、わかめや昆布などと思われる海藻などが、海岸線にぎっしりと山積みされていた。
「ふうん・・・潮だまりでしょうかね・・・満潮時になるとここへ潮が満ちてきて、結構な深さにまでなってしまう・・・流れ着いた漂着物は、入り江状になっているために、潮が引いた後も残されてしまう・・・。
これでは、今ここにある流木や海藻を撤去したとしても、またすぐに溜まってしまいますよ。
下手をすると、僕たちがギルドへ戻る前にまたごみで埋め尽くされてしまうかもしれません。」
源五郎があまりの状況を嘆きながらため息をつく。
「ううむ・・・そうだな・・・クエスト票を見てみるとするか・・・入り江の清掃・・・入り江に打ち上げられた流木及び海藻類の撤去。
海岸では防御力・攻撃力ともにBZとなっているぞ・・・どうして流木に攻撃力があるんだ?撤去しても撤去しても繰り返し溜まってくるからなのか・・・?
なんだかわからんが海岸清掃した後に、あの入り江をふさいでしまえばいいんじゃないか?
地引網用の網も購入してあっただろ?あれをこの入り江の入り口に仕込んでおくわけだ。
そうすれば、満潮になっても漂着物がこの入り江に流れ込むことはなくなるだろう。」
とりあえず景観は悪くなりそうだが、ごみの漂着は防ぐことが可能だろう。
「ききぃー・・・」
「あっ・・・イルカさんだあ・・・。」
とか言っていると、突然灰色の胴体の巨大な物体が、ごみの山ともいえる積み上げられた海藻類の山の隙間から顔を出した。
その姿を見止めてきゃあきゃあ喜びながら、レイが駆け寄っていく。
「レイっ・・・油断するな・・・危険だぞ!」
すぐにレイを引き留めようとするが間に合わない・・・
『ドゴッ』『ビュー・・・・ズザザザザザッ』無防備な状態で近寄って行ったレイは、イルカの放つ強烈な尾ひれのキックにより数メートルは吹き飛ばされ、海岸線を転がっていった。
その後イルカは何事もなかったかのように、山積みの海藻の上にさらにまた口にくわえてきた海藻を積み上げた。
「レイッ・・・大丈夫か?全回復!」
すぐにレイに駆け寄り、回復魔法を施す。
「うぇーん・・・ひどいよ・・・イルカさんは、あたしたちの友達なんじゃないの?」
回復魔法のおかげですぐに意識を取り戻したレイが、涙目で訴える。
「どうやらイルカ型の魔物のようですね・・・こいつがこの海岸線にごみを積み上げているようです。
こいつを退治してしまえば、ごみがたまることも解決できるのではないでしょうかね?
こいつの攻撃力や防御力が、BZと考えたほうが分かりやすいです。」
レイが攻撃されたことですぐに構えたのか、源五郎が弓を収めながらつぶやく。
魔物はすぐに海中へ没してしまったようで、その姿はどこにも見えなくなっていた。
それほど長い時間ではなかったが、見た感じでは水族館などで見たイルカと外観的にはほぼ変わりはない魔物だ。
どうして砂浜にごみを積み上げているのかわからないが、もしかすると海底にたまった流木などを清掃するために、この潮だまりを廃棄場所として利用しているのかもしれない。
今度はその溜まったごみを俺たちがクエストとして撤去するわけだから、まわりまわってということになりそうなので、その輪廻を断ち切る必要性も出てきたようだ。
「そのようだな・・・すでに逃げちまったようだが、何の目的か知らんがここに流木や海藻類を積み上げていきたいのだろう。
まずはこれらのごみを撤去してしまおう・・・そうしないと、完全に近づいてこないとイルカの魔物の気配すら感じられそうもないからね・・・。」
とりあえず、まずは予定通り海岸線のゴミの撤去から始める。
海岸線へと降りてみると砂浜が見えるのは陸地側の数メートルほどの幅だけで、海側は流木と海藻で真っ黒いがれきの山と化していて、所々ゴミの山の隙間から海が感じられるだけなのだ。
「念のため最初のうちは防毒マスクを着用する・・・そう何度もやられるわけにはいかないからね・・・もちろん、作業用の手袋と色のついたサングラスも着用だ・・・いいね?」
面倒ではあるが完全フル防備で立ち向かう・・・なあに・・・危険がないとわかれば外せばいいのだ・・・。




