流木キノコ3
6 流木のキノコ3
「では・・どうするかな・・・どのクエストから・・・。」
「それはもう・・・これですよこれ・・・先週もさほど苦労せずにこなしたクエスト・・・アレヘス南のアンヘス海岸に漂着する流木の撤去3・・・これがおすすめですね・・・。」
源五郎がすぐに1枚のプラチナクエスト票を差し出す・・・まるで最初から決めていたかのように迷う事なく・・・。
「これか・・・苦労もなくって・・・防毒マスクをしていたら針で直接毒を送られて・・・結局幻覚に見舞われたクエストだな・・・結構油断できないクエストだぞ・・・。」
源五郎にはどう映っているのかわからないが、全滅の危険もあった危険なクエストだぞ・・・。
「そうは言っても・・・他のクエストだってかなり厳しかったですからね・・・四菱草だって強烈な炎を吐きましたし・・・ツバサさんの捨て身の攻撃がなければ・・・。」
源五郎が厳しい顔で先週のクエストを振り返る・・・確かにどのクエストも難敵だったのは間違いがない。
「まあそうだな・・・どれから言ったところで簡単なクエストは一つもないわけだ・・・源五郎の好みからで構わないよ・・・じゃあ行こう・・・。」
源五郎からクエスト票を受け取り受付へ向かう。
「アレヘス南のアンヘス海岸に漂着する流木の撤去3ですね・・・リーダーの変更はございませんか?
では、頑張ってきてください。」
『ブロロロロッ・・・キィッ』中継車がアンヘス海岸堤防の手前に停車する。
「では・・・防毒マスクと、陶芸用の耐熱手袋の着用・・・これは絶対忘れないように。
恐らくこうやって防備しても、何かほかの手段で毒を送り込んで来ようとするはずだ・・・それが何かはわからないが、十分に気を付けてくれ・・・そうして少しでもおかしいと感じたなら、すぐに作業を中止して堤防まで戻ってくれ・・・いいね?」
『はいっ!』堤防端での朝会で注意を促し全員が大きくうなずく・・・ううむ・・・不安は残るが、やってみなければどのような手で仕掛けてくるのかわからないのだ・・・。
「おーえすおーえす・・・」
防毒マスクと陶芸用の手袋で防備して、流木を延々と続く海岸の数ケ所にまとめていく。
防毒マスクが苦手と言っていた源五郎を気にかけて、なるべく近くで作業しながら時折見ているが、流石に懲りたのか、マスクもちゃんとしているし、手袋も外していない。
『ポンッ・・・ポンッ・・ポンッ』それにしても流木に近寄ろうとするたびに、赤やら黄色やら青やらの色鮮やかなキノコが出現してくる。
同時に3色出現したり、2色だったり1色だけだったりといろいろなパターンがあるようで、その出現の仕方も面白く興味をそそり、流木を運ぶ手を休めてちょっと見とれてしまう・・・。
胞子を出して幻覚を見せられたキノコはこんなに色鮮やかだったかなあ・・・などと思い出しながら、更に指先のチクチクする痛みには気を付けながら作業を続けていく。
「ラ・・・ライト・・・、れ・・・れふと・・・・君たちはどこにいるんだい?正体を明かしておくれ・・・。」
すると突然源五郎が叫び始めた・・・まずい幻覚症状か・・・?
またレイの英会話の授業風景を思い出して・・・それにしては君たちはどこにいるのか?・・・というのが気にかかるな・・・英会話教材のセンテンスなのか・・・?
一体どうやって幻覚症状に・・・?源五郎の様子を見ても防毒マスクと耐熱手袋で防御しているので、キノコの胞子やとげなどがあっても問題はないはずなのだ・・・。
ううむ・・・らいと・・・れふと・・・・・・・・急に俺の目の前が暗転し・・・暗い空間の中に立っている自分がいた・・・少し離れた先には真っ黒な人物の集団・・・何だあれは・・・そういえばあのような奴らを見たぞ・・・。
この地へ来たばかりの時にツバサの冒険放送で見た、暗黒騎士団だ・・・その隣にいるのは・・・黒いドレスを身にまとった若い女性たちのようだ・・・ほうそうか・・・暗黒騎士団の女性版もいるという事なのか・・・しかも全員かなりの美女ぞろいのように覚えている・・・中には顔なじみの子もいるような気がしてきた・・・。
いや待てよ・・・どうしてそんなことを俺は知っているのだ?暗黒騎士団のことだってろくに分かっていないというのに・・・女性版なんてどうして知っているのだ・・・?しかも、顔なじみって???
「・・・るさん・・・サグルさん・・・目を覚まして下さい・・・サグルさん・・・。」
暗黒騎士団の女性版の様子を伺っていると、どこからか俺を呼び掛ける声が聞こえてきた。
ちょっと待ってくれ・・・もう少しで彼女たちの顔が見えそうなんだ・・・背の高い娘と小柄な娘・・・どちらもスタイル抜群で、こりゃもう俺の知っている子に間違いない・・・。
「すまない・・・もうちょっとで顔が見えそうなんだ・・・邪魔をしないでくれ・・・。」
姿が見えない声の主に、ちょっと待っていてもらう・・・・。
「サグルさん・・・お願いします・・・目を覚ましてください・・・。サグルさん!」
ちょっと距離があるし、彼女たちもこちらを向いていないため顔が見えない・・・呼びかけようとするが反対に別な方から何度も呼びかけられて邪魔をされる。
ちょっと待ってくれ・・・まずは彼女たちのことが・・・直ぐ正面から息づかいまで聞こえてくる呼びかけを無視して、なおも彼女たちの様子を伺おうとする・・・あれ?待てよ・・・俺は正面から呼びかけられているんだよな・・・それなのにどうして少し離れた暗黒騎士団が見えているのだ?
しかも俺の周りには誰もいないはずなのに、一体だれに呼びかけられているというのだ・・・?
そういえば海岸で流木集めをしていて、色とりどりのキノコの出現に見とれて・・・ハッと気づいて目をあけると、すぐ目の前に見慣れた美少女の顔があった・・・ツバサだ・・・。
防毒マスクはツバサが外してくれたのか・・・息はずいぶんと楽だ・・・。
またしてもツバサに助けられたという事のようだ・・・。
「あっああ・・・すまない・・・夢を見ていたようだ・・・。
流木から次々と出現してくるキノコの様子を眺めていたら、いつの間にか夢心地になってしまったようだ。
なんだかよくはわからないが、あの色とりどりのキノコの出方に意味があるようだな・・・色を操る一種の催眠術のようなものだろう。
夢の中で、ツバサが南部大陸で戦っていた暗黒騎士団が出て来たよ。
甲冑に身を包んだ大柄な騎士たちに混じって、黒いドレスを身にまとった女性たちも何人かいたようだ・・・。
恐らく美女軍団なのだろうが・・・ツバサの冒険放送でそんなシーンがあったのかね?
いかつい男たちにツバサが、なす術なくやられていた姿しか記憶はしていなかったのだが・・・。」
辺りを見回しながらゆっくりと上体を起こす・・・やはり今回もツバサが海岸から堤防へと引き上げてくれたようだ・・・。
「ああああっ・・・暗黒騎士団の女性兵士ですか・・・そっ・・そそそんな人いましたかね?
へへへっ・・・へ変な夢の話は、ああああまり人には話さない方が・・・いいと・・・おお思いますよ・・・。
特に源五郎さんには・・・ははは話さない方が・・・得策ですよ・・・。」
ツバサが顔を引きつらせながら、歯を見せて笑顔を作る・・・ううむ・・・明らかに動揺しているようなしぐさだ・・・ツバサは正直で根が単純だから嘘はつけない性格のはずだ・・・。
「ああ・・・やっぱり変な夢だと思うかい・・・?そりゃそうだよな・・・実際には出会ったこともない暗黒騎士団の中に女性メンバーがいるだなんて・・・よっぽどいつもいつも女の子のことばかり考えているって思われちゃうよね・・・?」
「えっええええ・・・いっいえ・・・そそそそっそんなこと・・あああああり・・・ませんよ・・・。
りりりリーダー・・・は、ままままじめな性格で・・・じょじょじょ女性のことばかり・・・かか考えているなんて・・・、誰もおおお思いませんよ・・・。」
ううむ・・ツバサは俺のことをずいぶんと過大評価してくれているようだな・・・今後もその期待を裏切らないように気を付けたいものだ・・・。
「その・・・女性メンバーのことなんだけど・・・ツバサには心当たりがあるのかい?」
良くはわからないが、ツバサが動揺しているようなので、さりげなく事情を聞き出そうとしてみる。
「れれレフトハンドさんと・・ららライトハンドさんの・・・ことですか?・・・あのう・・・
はっ・・・いっいえ・・・知りません・・・あたしは・・・何も知りません・・・。」
ツバサは耳たぶまで真っ赤に染め上げうつむいて、その後は何も話さなくなった・・・。
ふうむ・・・レフトハンドとライトハンド・・・レフトとライトというのは人の名前だったのか・・・、しかも源五郎にゆかりのある・・・やはり源五郎の想定通り、俺たちにも実体化していた時の記憶がうっすらとではあるが残っているという事なのか?そうしてその人たちは俺にも関係がある人物という事なのだな・・・。
ううむ・・・なんだかちょっと信じられないことのようだが・・・ツバサの態度を見る限り、確かな記憶がよみがえってきているような感じがする・・・だが、それが分かったところで、どうすればいいのか・・・。
「別に源五郎に夢診断とかお願いすることはないから、こんな話をすることはないと思うよ。」
源五郎に話して逆効果となると困るので、とりあえずは黙っておくことにする。
「そっ・・・そそそうですよね・・・?そそそその方が・・いいいとおおおお思いますよ・・・。」
ツバサはようやく顔を上げ引きつった笑みを見せた。
「とりあえず・・・源五郎とレイを引き上げるか・・・今回は催眠だから毒消し草は効きそうもないし、とりあえず回復魔法をかけておくか・・・全体回復!」
回復魔法の効果か、もやもやしていた頭が少しすっきりする。
「防毒マスクと耐熱手袋はつけるとして・・・光を使った催眠をどうするかだな・・・ううむ・・・目をつぶったまま流木集めはずいぶんと厳しいよな・・・気配を探れないから、心眼も使えそうもないし・・・源五郎とレイの体をここへ運び上げるのも一苦労しそうだ・・・。」
いまだにあちこち散乱している流木の様子を、堤防の上から眺めながらため息をつく・・・。
目をつぶったまま心眼で源五郎とレイの居場所を探るくらいは訳ないが、その後2人の体を抱きかかえながら、海岸を埋め尽くしている流木を避けながら堤防まで上がってくるなんて・・・いかな心眼でも難しいだろう・・・。
あのキノコは魔物なのだろうが、なぜか魔物特有の気配を感じないし・・・更に流木は魔物でもなんでもないから、その存在を確実に認識するにはやはり視覚に頼らざるを得ない・・・。
無想斬撃でも使って見るか・・・?いや、あれはあくまでも短時間の攻撃手段だしな・・・源五郎たちを引き上げるくらいの作業であればともかく、この海岸全ての流木を集めきるまでなんて、とても精神集中が続くとは思えない・・・すぐに疲れてしまうだろう。
「あたしは・・2人分ですから・・・幻覚にはかかりにくいようなので、まずはレイちゃんと源五郎さんを堤防へ引き上げてきますよ・・・その後も休み休みでさえあれば・・なんとか流木も集めきることはできるかもしれません・・・たまに回復魔法をかけてください・・・。」
ツバサが立ち上がって一人海岸へと向かう・・・ううむ・・・彼女一人に押し付けてもよいのだろうか・・・?
あっ・・・そうか・・・光を見ないことばかりに気を取られていた・・・。
「待ってくれツバサ・・・コスチューム屋で黄色や赤や青色のレンズのサングラスを購入しただろ?
あれのどれでもいいから一つをかければ、催眠にはかからないかもしれない・・・恐らく色のパターンの繰り返しで、催眠効果を狙っているのだろうと思う。
黄色のサングラスをかければ黄色の光は感じなくても済むから、催眠効果は薄まるというか、効果を発揮しなくなるかもしれない。
特に青と赤は補色だから反対の色は黒く見えるはずだし、より効果があるだろう。
防毒マスクはメガネをかけても使えるタイプだから、まずは青か赤のサングラスをつけてからマスクを装着してくれ・・・それで耐熱手袋をつければ、完全防備だ・・・。」
ツバサを引き留め、サングラスを装備させる・・・上手く行ってくれればいいのだが・・・。
俺は青いサングラスをかけ、ツバサは赤いサングラスをかけ海岸へ降り立つ。
なんだか青一色の世界は不気味だが・・・まあ作業するには問題がない。
まずは源五郎とレイの体を堤防まで引き上げ、そのままにして置き、引き続き流木を何ケ所かに集めていく。
やはりサングラスの効果か、幻覚は見ないで済みそうだ・・・。
「岳斗はかわいいなあ・・・あれ?ちょっと・・・岳人を持っていかないでよ・・返して!
待ってよ・・・ねえ待って!」
「はっ・・・黒の軍団・・・君たちはいったい何者なんだ?
僕とどこで出会ったんだい・・・?」
流木を集め終わって堤防へ上がると、レイも源五郎もいまだに夢うつつの状態だ・・・解毒剤が効きそうもないので時間を置いてみたが・・・自然回復にはまだまだだな・・・。
「全体回復!」
レイたちを目覚めさせるために回復魔法を唱える。
「・・・岳斗・・・岳斗・・・どこへ連れて行っちゃうの・・・はっ・・・」
レイが意識を取り戻し、ガッと起き上がってきょろきょろと周囲を見回す・・・岳斗の姿を探しているのだろう。
「あーあ・・・やっぱりまた・・・夢だったんだ・・・でもよかった・・・岳斗を連れていかれる夢だったから・・・夢でよかったよー・・・。」
レイはなぜか安どの表情を浮かべる・・・よほど怖い夢を見ていたという事だな・・・。
「黒の軍団・・・へ・・ヘッド・・・???はっ・・・ここは・・・?」
どうやら源五郎も暗黒騎士団の幻覚を見ている様子だな・・・やはり少しずつ思い出してきているという事なのだろう・・・なにせ源五郎は常に彼女たちのことを気にかけているのだものな・・・。
「よう・・・またもや幻覚・・・というか今回は催眠術だな・・・やられてしまったよ・・・何とか堤防まで上げて回復魔法をかけたところだ・・・。
レイ・・・今回は地球を思い出して泣きださないのか?強くなったなあ・・・。」
源五郎とレイ2人にゆっくりと状況を説明し、冷静でいるレイを褒めてやる。
「もう慣れたよー・・・岳斗に会っているんだけど顔がよく見えないし・・・ちいっちゃくってかわいいのはわかるんだけど・・・抱いた感触があんまりないし・・・だんだんと夢っていうのを感じるようになってきた。
それにしても毎回毎回腹が立つよね・・・おうちの夢を見せるなんて・・・ママのことを思い出しちゃうじゃないのよ・・・もう許せない・・・。」
レイは下唇をかみしめながら、すっくと立ちあがった・・・。




