樹氷の採取2
4 樹氷の採取2
「まあそうですね・・・今回のクエストがうまくいかなくても・・・また再チャレンジすればいいですよ。
何だったらもう一周回って、サードクエストをこなすというのもありかと思いますよ・・・。」
少しでも早く冒険を進行させたがっていた源五郎は、ここにきてツバサとは真逆の考え方のようだ。
確かにセカンドクエストが用意されていたのだから、サードクエストというのも十分想定できる・・・。
しっかりとアイテムを整え、それから攻略した方が進行が速いだろうと想定しているのか、あるいは単にギャンブル狂というか、無類のパチスロ好きなのだろうか・・・?
源五郎が何を考えているかわからないが、俺としてはこれが最後だ・・・。
「アレヘス北西のペレヘス峠の樹氷の採取ですね・・・リーダーの変更はございませんか?
では、頑張ってきてください。」
受付嬢からしっかりとクーラーボックスを受け取り、ギルドを後にする。
『ブロロロロロッ・・キキィッ』中継車では先週同様、レイのための英会話授業が行われ、ペレヘス峠ふもとで中継車を降り、後は駆け足で山道を駆け上っていく。
1時間ほどで、透明な氷で作られた大樹が見えてきた。
「ようし・・・気をつけろよ・・・先週源五郎は一瞬で凍らせられたからな・・・。」
不用意に近づかないようにして、足を雪にうずめながら周りを取り囲むように回り込む。
それからなるべく音をたてないようにして、4方向から同時に近づき始める。
『ゴワッ』「みんな伏せてっ!奥義・・・真空の壁!」
突然の轟音に反応して、ツバサが体の前を手刀で十字に切った。
『奥義・・・真空の壁!』何かわからないが、俺たちもつられて手刀で十字を切る。
『ピッキィーンッ・・・バラバラバラバラ・・・』すると目の前が真っ白く凍り付いたかと思うと、ガラスが割れたかのように、透明な板のかけらが雪面に落ちる・・・ううむ・・氷の板のようだな・・・すさまじい冷気が襲ってきたという訳だ・・・下手をすると完全に凍り付いていたな・・・。
『ゴゴゴゴゴッ』さらに樹氷の周りを雪混じりの強風が、竜巻のように舞い始める。
「奥義・・・無想射撃!」
『シュシュシュシュシュシュ』『パシュパシュパシュパシュパシュ』すかさず源五郎が奥義を駆使して矢攻撃を開始するが、全て強烈な風のために弾かれてしまう。
「うーん・・・近づかなければ攻撃も仕掛けられませんね・・・あの風の強さでは、弱点も見出せません。」
源五郎が力なく首を振る。
しかし・・・近づくって言ったって・・・あの竜巻の中に突っ込んでいくなんて・・・それこそ自殺行為だぞ・・・。
「仕方がありません・・・あたしの上に乗ってください・・・。」
ツバサが、俺の方を見ながら叫んでくる。
「へっ・・・?」
こんな時に何を言い出すのだ・・・?ちょっと大胆すぎるぞ・・・レイも見ているというのに・・・。
「あたしは心眼は使えますが、無想斬撃ほど相手の弱点を確実に見出すことはできません。
あたしが鷲撃泰覇斬で竜巻の中に突っ込みますから、その上に乗って中に入り、樹氷の弱点を攻撃してください。
いいですね・・・・」
ツバサはそういうと、俺の返事を待たずに宙へと舞い上がろうと身構える。
いいですねって言われても・・・妻でもない女性の体の上に乗るなんて・・・そんなことしてレイに怒られないか?
『タタタタッ・・シュタッ』悩んでいる間にツバサは宙高くへと舞い上がる・・・まずいまずい・・・ぐずぐずしていると、ツバサだけがあの竜巻の中に入っていくことになり、攻撃が空振りしてしまう。
「だありゃあっ!」
『ダダダダダッ・・・ダダッ』仕方なく、ツバサが飛んだ方向へとジャンプする。
「奥義・・・真空の壁!・・・とうっ」
『タッ』ツバサが奥義を使い、さらに高みへと舞い上がる。
「奥義・・・真空の壁!・・・たあっ」
俺もツバサの所作をまね、目の前に真空の壁の踏み台を作り出し、ジャンプしてツバサに近づこうとする。
「奥義・・・真空の壁!」
『タッ』ツバサはもう一度真空の壁を作り出し、上空で腹ばいの姿勢となり一瞬静止した・・・恐らく俺を待っていてくれるのだろう。
『ダッ』大変申し訳ないが・・・、ツバサの背中に着地する・・・。
「すぐに伏せて身を低くして背中にしがみついていてください・・・顔をあたしの背中にうずめていた方が、呼吸は楽ですよ。
奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
『ザザッ』『ビュッ・・・ギュゥィンッ』指示された通り、ツバサの背中の上に腹ばいになったとたん、すさまじいまでの加速度を感じ、目を開けていられなくなる。
息も苦しいのでツバサには申し訳ないが、言われた通り背中に顔をうずめさせていただく。
『ゴゥワァーガァービュッ・・・・・』「今です!」
壁を突き抜けたような軽い衝撃の後、辺りが静寂に包まれる・・・竜巻の内部に入り込んだのだろう。
「奥義・・・無想斬撃!」
『シャキィンッ・・・ダッ』すぐに体を起こして鋼鉄の剣を抜くと、申し訳ないがツバサを踏み台にジャンプした。
「わっ!」
目を閉じ精神を集中させ、腹から声を出してその反響を伺う・・・動かない樹氷の内部のひずみを探ろうと、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
「ここだ!だりゃあっ・・・」
『シュパシュパシュッパンシュパンシュパ・・・』上空から落下しながら、樹氷に向けて感じるがままに剣を振り下ろす。
『ズザザザザザザッ・・・ダッ』『ピキピキピッキィーンッ・・・バラバラバラバラバラバラバラッ』着地して目をあけると、目の前の氷の大樹が粉々に砕け散っていく姿が見えた。
「やりましたね・・・・流石です。はぁはぁはぁ・・・」
ツバサは笑顔を見せるが、その場に座り込んでしまった。
そういえば、奥義は1日に何度も使えるものではないと言っていたものな・・・真空の壁の連発で疲れてしまったのだろうか・・・ここまで来るのにも相当な体力を使っていたからな。
確かに俺の方も膝ががくがくだ・・・最高経験値の体でなかったら、へたり込んでいるかもしれない・・・肉体的にもきついが、精神を集中しすぎて頭がくらくらして、立っているのもつらいほどだ・・・体のコントロールがままならない。
以前将棋チャンネルで、将棋指しがタイトル戦をするたびに2,3キロやせると言っていたのが分かる気がする。
「はあはあはぁ・・・いやあ・・・ツバサのおかげだよ・・・あのすさまじい竜巻の防御壁を突き破ってくれた。
あれがなければ、俺たちは樹氷へ近づくこともできなかっただろう。
やっぱりツバサがいないとだめだね・・・。」
本当にそう思う・・・機転が利くというか、戦い慣れているというか・・・今ある兵力をどう有効活用すればいいのかを瞬時に見抜く、軍師のような存在だと思う・・・。
しかも指示だけするのではなく、実際に自分が先陣を切って作戦に参加するのだから、軍師プラス突撃隊・・・こんなすごい人、歴史上に存在しただろうか・・・???
「じゃあ・・・樹氷を詰めて持ち帰るとしよう。」
『カチャッ・・・ズザザザザザッ・・・ズザザザザッ』何とか気を奮い立たせ、ツバサとともに粉々に砕け散った樹氷のかけらを、クーラーボックスに詰め込んでいく。
「あっ・・宝箱見っけ・・・。」
うず高く積もった氷のかけらの中から宝箱が出現し、レイが嬉しそうに駆けてきた。
『ガチャッ』「やったぁー・・・、乗り物券だぁー・・・明日は1日、乗り放題だぁー・・・。」
レイが4冊の乗り物回数券を手に取り、嬉しそうに高々と突き上げる。
ウーン・・・まあ予定通りだな・・・。
「じゃあ、今日は九九のおさらいをしよう。」
「はーい、じゃあ行くね・・・。」
疲れてはいるが、帰りの中継車の中ではレイの授業を行い、ついでに冒険放送の中継を見ながら弁当で食事を済ませ、ギルドで清算(ツバサはWKにアップした)して宿についてからは奥義の修行をしてから就寝した。
奥義の合体というか、メンバーの奥義と組み合わせて使用可能という事が分かったので、修行にもずいぶんと熱が入ってきたように感じる。
組み合わせたメンバーに迷惑をかけないためにも個々が持つ奥義を、いつでも最大限に発揮できる必要性があり、その熟練にさらなる磨きをかけなければならなくなってきたという事だ・・・。
「では・・・今日1日は自由時間だ・・・と言っても、遊園地とカジノへ別れるだけだがね・・・。
アレヘスでの滞在も、今日が最後となる・・・カジノでうまくアイテムが取れなかったとしても・・・もうこれ以上粘ることはしない・・・というか、あとちょっと出せばいいだけだから、早々にアイテムに交換してしまい、明日の朝、ギルドへ行って北東方面のクエストを探して旅立つ予定だ。
だから、遊園地班も心残りがないよう、しっかりと遊んでくれ・・・いいね!」
翌日の早朝、遊園地入り口で朝会を実施する。
まあ、あと少しで目標達成するわけだから、アイテムゲットできないということはないだろうが、レイやツバサが遊園地に未練を残したまま旅立つのはつらいだろう。
次の賢者のトンネルまで結構距離があるようなことを言っていたから、そう簡単に遊びに戻って来られる場という訳ではなさそうだからな・・・。
「ようやく次の地へ向かえますね・・・早いところ魔王や魔神を目覚めさせて、この地の平穏を取り戻しましょう。」
このところ仏頂面が多かったツバサが笑顔を見せる。
「えー・・・だってだって・・・まだ全然遊び足りていないもの・・・もっとここに居たいよう・・・。」
ところがレイが悲しそうに、目に涙を浮かべながら訴える。
「だから・・・今日1日目いっぱい遊んで・・・満足して明日から旅立つという訳だ・・・、いいね?」
レイには念を押して言い含めておく・・・後から聞いていないよー・・・とか駄々をこねられても困るからだ。
「いやあ・・・今日必ず勝てるとは言えませんし・・・だめだった場合は、もう1週間滞在を延長するという事もあると思いますよ・・・。」
更に源五郎までもが、とんでもないことを言い出す・・・そりゃあギャンブルという性格上必ず勝てるという保証はないわけだが・・・行く前からそんなに弱気でどうする。
「ウーン・・・あまり自信がないなあ・・・だってぇー・・・この世界はテレビだってあまりアニメをやっていないし・・・しかも奥義の修行や勉強でテレビを見ていられる時間があまりないんだもの・・・。
ここだったら半日だけクエストをして、残りの半日を遊園地で遊んでいられるんだもの・・・まさに天国だよー・・・それなのに、どうしてよその地へ向かうの?」
レイが頬を膨らませて不満そうな表情を見せる・・・地球・・・特に日本からのテレビ電波を受信して、なじみの番組を見られるのはいいのだが、限られた時間帯の放送電波しか受信できないので、子供向けの番組は現状少ないのだ。
これからパラボラアンテナ施設が完成していけば、もっと長い時間電波を受信することが出来て、子供向け番組も充実するのだろうが、そのためには・・・はっ・・・そうか・・・。
「そうだね・・・テレビ放送の受信に関しては、今のところ受信できる時間帯が限られているわけだ・・・、その時間を延ばすためにパラボラアンテナ施設建設を進めていて、ところがそこを魔物たちに占拠されてしまって、クエストが発生しているわけだ。
俺たちがクエストをこなしていくという事は、パラボラアンテナ施設を魔物たちから解放して、工事を進めるという意味もあるわけだ。
このところ、パラボラアンテナ施設関連のクエストが非常に多いからレイもわかるよね?
だから俺たちがクエストを頑張れば、すぐにレイのお気に入りのアニメなどがみられるようになるはずさ。
ぐずぐずしていると、いいところを見逃してしまうかもしれないぞ。」
こうなりゃあアニメ番組で釣ることにしよう・・・株レンジャーにはずいぶんとはまっていたようだしな・・・。
「あっそうかぁ・・・分かったぁ・・・じゃあ頑張って早く次のパラボラアンテナ施設の魔物たちをやっつけちゃおう!」
すぐにレイがやる気を見せる・・・ふうっ・・単純な性格でよかったぁ・・・。
「源五郎は・・・どうやらパチスロが大好きのようだが・・・あまり入れ込むのはどうかと思うぞ・・・。
あくまでも娯楽というよりも、アイテムを手に入れる手段とわきまえて、冒険の進行を妨げてまで行う事ではないのだと認識してくれ。
悪いが・・・勝っても負けても・・・明日にはここを発つという予定を変えるつもりは今のところはない。」
源五郎は・・・もう十分に大人だからわかってくれることだろう。
「もちろん僕も同じ考えなのですが・・・でもですよ・・・リーダーも以前言っていたように・・・今回の冒険に際して僕たちは最高経験値で来ています。
その僕たちの経験値に合わせるかのように、魔物たちのレベルも驚異的に上がってきています。
ところが僕たちが持てる武器や防具に関しては、今のところこのゲームの序盤のためか、ろくなものがないわけです。
最初のうちはそれなりに強力な武器や防具が宝箱から出現しましたが、今ではそれもなくなりました。
天空のアイテムという強力な防具を手に入れることが出来ましたが、これを揃えきるにはまだまだ相当時間がかかりそうです。
ところが今ここのカジノには、強力な武器や防具が目白押しなわけですよ・・・今現在だって、僕とリーダーの持ちコインを合わせれば、3人分のアイテムが手に入るわけです。
今日1日頑張れば、4人分のアイテムも得られることでしょう。
ですがそれは・・・強力な武器か防具・・・どれか1点だけなのですよ!」
源五郎が、声を大にして力説する・・・確かにそうなのだが・・・。




