四菱草2
1 四菱草2
「えっ・・・先へ進まないのですか?」
翌朝、ギルドで再発生したクエストをもう少しこなしてみようと提案すると、ツバサが不思議そうに俺の顔をまじまじと見つめる。
「ああ・・・昨日一晩考えたんだが・・・もう1日クエストをして、午後から遊園地とカジノへ行くというのはどうだろう・・・なにせ昨日は調子が悪くて持ちコインを減らしてしまったからな。
だが今日取り戻せばいいわけだ・・・うまくすると全員分のアイテムゲットできる・・・なにせもう少しのところまで来ているわけだからね。
幸いにも金券はもらえなくても遊園地の乗り物券は宝箱として出てくるから、レイとツバサも遊園地で遊んでいられるからいいだろ?
それに・・・ツバサのレベルアップも狙えるし、1石2鳥・・・いや3鳥ともいえるよな・・・。」
結婚してからゲーム好きの妻とともにゲームに明け暮れることはあったが、パチンコはどちらかというと封印していた・・・金の無駄遣いと妻に事あるごとに言われていたからだ。
最近はパチンコ屋の景品も各地お取り寄せのような、その辺のスーパーでは買えないようなご当地物が地域テーマとともに取り揃えられ、たまに儲かって景品を取って帰った時は大喜びするくせに、負けて帰った時には小遣いの補償もしてはくれなかった。
そのため久しく打っていなかったのだが・・・このところ毎日のように遊戯をして、往年の感覚が戻ってきたというか・・・パチンコの虫が騒ぎ出してきた。
特に最初は負けていたのを、かなり取り戻し始めたところなだけに悔しい・・・このまま終わっては後悔が残りそうだ・・・アイテムもかかっているしな。
ツバサは今回もレベルアップしてWYとなったことだし・・・ここで経験値を稼いでおくことは決して無駄ではないはずだ。
「僕は賛成しますよ・・・別にカジノのコインを当てにしているわけではありませんが・・・それでもクエストを残したまま次の地へ向かうのは癪な気もしますからね・・・。」
源五郎はすぐさま賛成してくれた・・・ううむ・・・賛成してくれるのはうれしいが、先へ進みたがっていたはずなのに・・・どういった心境の変化なのだ?
賛成派のレイと俺・・・先へと進みたがる源五郎とツバサとの対立を予想し、どうやって説得していくか悩んでいたのだが・・・ちょっと拍子抜けした。
「あたしはー・・・もう少し遊園地で遊んでいきたいからー・・・また同じクエストするのに賛成ー・・・。」
レイの奴は予想通りに賛成してくれた。
「そうですか・・・皆さんがそうおっしゃるのでしたら・・・あたしは構いませんが・・・。」
ツバサはしぶしぶといった感じで承諾してくれた。
「アレヘス東の富士山脈西南洞窟に生息する四菱草の採取2ですね・・・リーダーの変更はございませんか?
では、頑張ってきてください。」
受付嬢に励まされて東へと向かい、先週と同じ洞窟へ入っていく。
「じゃあ手裏剣が飛んでくるから十分注意するように・・・他にも新たな攻撃が加わる可能性が高いから、注意深く常に観察しよう。
俺が先頭を行くから、レイが1番後から盾を広げてついてきてくれ。」
「はーい・・・まっかせてぇ・・・。」
前回と同じフォーメンションで洞窟内を進んでいく。
『シュルシュルシュル』『キンッキンッキンッ』手裏剣攻撃を受けるが、もう慣れているのでさほどの脅威ではない。
「きゃっ・・・いたいっ・・・」
「うわっ・・・いたたたたっ」
そう思っていたら、後方でレイと源五郎が叫び始めた。
「どうした?手裏剣の曲がりが激しすぎて、盾では防ぎきれないか?」
後ろへ振り返ってみると、源五郎もレイも足を痛そうにさすっているようだ・・・。
「ひざ下を狙って、何か鋭い刃物が飛んできているようですね・・・ああこれだ・・・小さくて細く先の尖ったクナイのようなものが無数に飛んできていますね・・・。」
源五郎が、手のひらの上に置いた真っ黒い飛翔片を乗せて見せてくれる。
底辺が2センチくらいで長さが10センチくらいの、二等辺三角形の刃物のようだ。
俺には鉄の膝あてがあるから、この程度の刃物ははじき返せるが、源五郎やレイはつらいだろうな・・・ツバサは恐らく足でけり落とせるのだろうが・・・。
「そうだ・・・コスチューム屋で購入した道化師アイテムで竹馬があっただろ?
あれを使えばいいさ・・・。」
船のコスチューム屋では様々な職業アイテムが購入できるが、何に使うのか利用価値が見いだせないものもたくさん販売している。
それでも竹馬はレイが珍しがっていたのと、北部大陸北の海を航海していた長い洋上生活の上で、狭い船の上で楽しく遊ぶのに役立ったのだった・・・さらにここでも役に立ってもらえるとは・・・。
ツバサは竹馬の事を知らなかったようだが、それでもすぐに乗りこなすことが出来た。
源五郎に至っては、小学校の時の体育の授業で、プラスチック製の竹馬の練習をやったことがあると言っていた。
竹馬を冒険者の袋から取り出し足を乗せてみる・・・竹馬と言っても道化師やジャグラーの商売用だから、ステンレスポールにグリップと足場を取り付けたもので、刃物攻撃にだって十分に対抗できるはずだ。
揺れ動く船の上で練習したのだから、安定した地面上なら洞窟内で少々岩が飛び出ていたとしても、普通に歩くのと変わらずに進んでいけるわけだ・・・。
俺は鉄の膝あてがあるのだが・・・それでも念のために竹馬を使う事にする。
「じゃあ隊列としては俺が先頭で、源五郎とツバサが続きレイが最後尾だ・・・盾は目いっぱいの大きさに広げておいてくれ・・・いいね!」
『はい・・・分かりました』竹馬に乗りながら足元を気にせずに進んでいく・・・まあ、どうしてもスローペースになってしまうが仕方がない・・・。
『タタタッ・・・シュタッ』ドーム状の広い空間に出ようとする少し手前で待ちきれなかったのか、ツバサは竹馬を放り出し、数歩の助走の後、華麗に宙に舞い上がる。
『タタタッ』「全体光攻撃!」『タタタッ』「全体光攻撃!」
『ぺかーぺかーぺかー』『ぺかーぺかーぺかー』レイは竹馬に乗ったまま、光魔法のグループ攻撃を移動しながら仕掛けて行く。
両手がふさがったままでも、魔法を唱えるだけなので有利だ・・・。
『シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ』『グザグザグザグザグザグザグザグザグザグザ』源五郎も竹馬に乗ったままで脅威のスピードで矢を射かけ始めた。
こちらは、さすがに移動しながらという訳にはいかない・・・。
「だありゃあっ!」
『シャッパァーンシュパッシュッパンッシュパパンッ』俺も負けじと竹馬を置いて飛び出すと、壁際にひな壇のように並ぶ四菱草を切り刻んでいく。
『シュシュシュシュシュシュシュシュ』どうやら、四菱草の長い葉が三角形の刃物と化して飛んできていたようだ。
数は多いが発射しているところを確認できれば、避けながら近づいていくことは可能だ。
『ゴゴゴゴゴゴッ』すべての四菱草を倒しきった後、ドーム奥の壁が開き巨大四菱草が出現した。
『ゴォー・・・』四菱草2は冷気ではなく炎を吐いた・・・。
「うわっちっ・・・炎も白っぽくてかなりの高温だな・・・こりゃあ近づくのも容易じゃあないぞ。」
下手に近づいて、あの炎に包まれたら、一瞬で炭化するか蒸発してしまいそうだ。
『シュシュシュシュシュシュシュシュ』『ゴワァッ』源五郎が遠間から果敢に矢を射かけるが、四菱草の花弁に達する前に焼失してしまった。
「ウーン・・・ダメですねえ・・・。」
源五郎が、悔しそうに肩を落とす・・・。
「光攻撃!光攻撃!」
『ぺっかーぺっかー』『ゴゥォー』続いてレイが光の魔法攻撃を発するが、高温の炎を発して消してしまう。
「ううむ・・・あの炎は厄介だな・・・攻撃だけではなく防御も兼ねているようだ・・・。
飛び道具は効かない様子だが・・・近づかなければ剣も届かないし・・・かといって近づこうとすれば炎の的にされてしまう・・・どうすればいいのか・・・?
「行きますっ!」
『タタタタッ・・・シュタッ』「奥義・・・真空の壁!とうっ」『シュパッ・・・タッ』思案に暮れていると、ツバサは躊躇なく宙へと舞い上がり、更に高みへと跳躍した。
「奥義・・・鰐襲旋風脚!」『ゴゥワァー』
そうして足を一直線につま先まで伸ばし回転を始めると、やがてすさまじいまでの回転スピードに加速して、魔物が吐き出す炎をはじきながら、つま先から魔物の口へと突っ込んでいく。
何と・・・大丈夫なのか?火傷してしまわないのか・・・?
『ズッゴォーンッ』爆音と言えるような衝撃音とともに、ツバサの下半身が巨大四菱草の花弁中央部分に突き刺さった。
うーん、凄い・・・。
「ようしっ・・・一斉攻撃だ!」
『シュパパンシュッパンシュパッシュッパ』『シュシュシュシュシュシュシュシュ』『グザグザグザグザグザグザグザグザ』『ぺっかーぺっかー』高温の炎攻撃をツバサのおかげでふさぐことが出来たので、俺と源五郎とレイの一斉攻撃が始まった。
『シュパパンシュパッシュッパン』『ふしゅー・・・』『シュタッ』巨大四菱草は消滅し、ツバサは地上へ降り立つ。
「ふう・・・やったな・・。」
巨大四菱草2も、ツバサの奥義の前に散ったな・・・。
「でも・・・また宝箱が一個しかないよ・・・。」
レイが巨大四菱草が居たあたりにかけていき、きょろきょろと辺りを見回すが・・・今回も宝箱は一つだけのようだ。
「やったぁー・・・また乗り物券だー・・・。」
レイが乗り物回数券を取って飛び上がって喜ぶ・・・ううむ・・・今度は乗り物券ではなくて金券が入っているのではないかと淡い期待をいだいていたのだが・・・やはり100コイン券はもらえないようだ。
「まあ仕方がない・・・だがいいさ・・・まだ貯玉は大量にあるから、早々なくなることはないさ・・・。」
そうだ・・・別に金券に頼らなくたって行けるはずだ・・・と気を取り直して、竹馬を回収して帰路に就いた。
「あらん・・いやっ・・・。」
「何でよ・・・どうして外れるの・・・?」
「激熱を外すなんて・・・あってはいけないことよ!。」
バニーガールたちの声援もむなしく、空振りばかり・・・。
一度ツキが落ちると、こんなものなのか・・・この日も調子が上がらず負け越し・・・1時期貯玉残高20000玉を割り込んだ時もあったが、何とか盛り返し25000玉まで戻すのが精いっぱいだった。
「僕も5600枚ほどですから、同じくらいですね・・・。」
源五郎も力なく肩を落とす・・・ううむ・・・まあ勝負は時の運だから仕方がないよな・・・ロープレゲームのカジノだったら、つぎ込めるだけつぎ込んで、だめならリセット・・・なんて方法で、勝った時だけ記録をすればいいわけだから、随分と値の張るアイテムだって何とかゲットできるわけだ。
ところが今は人生と同じくリセットの効かない冒険世界・・・何とか景品をゲットできるよう上手く立ち回るわけだが、運任せの要素が強い。
こんなことならカジノでコインを使わずに、金券をため込んでおくのだった・・・5つのクエストごとに100コインずつ金券くれたのだから4人分合計2000コインで、今狙っているアイテムであればゲットできたはずなのだ・・・今更なのだが非常に悔やまれる・・・。
今日もしょんぼりしながら宿に帰り、それでも遊園地で満足したレイの笑顔に励まされ、授業と修行を終えて就寝した。
「悪いが・・・もう1日だけ同じクエストをこなして・・・いや・・・どうせ金券が来ないのであれば、クエストなしでもいいのだが・・・そうしてカジノへ行かせてくれないか?
あと少しなんだ・・・ほんのちょっとだけでもさせてくれれば、みんながハッピィーになれるんだ・・・だから・・やらせてくれ。」
言葉尻だけ聞くと、随分といやらしい言葉のようにも感じられるのだが、翌朝ギルドの中で両手を合わせツバサを拝むようにしてお願いする。
「ええー・・・今日も・・・ですか?」
ツバサは、不機嫌そうに顔をしかめる。
そりゃあそうだろう・・・ここ2日間のクエストに関しては、苦労はしているのだが、ほとんど実りのない・・・なにせ一度攻略したクエストの2番煎じだからな・・・つまらないものだ。
ツバサがWUにアップしたのがせめてもの救いと言える程度だ・・・だがなあ・・・なんか悔しいのだ・・・もう少し粘れば大量出玉をゲットできそうな感じはするわけだ・・・何せカジノのバニーガールたちは、ほぼ味方のように毎回声援を送ってくれているしな・・・今はついていないだけなのだ・・・。
「僕は・・・やはりクエストはこなした方がいいと思いますよ・・・何か・・・残しておくと気持ちが悪いというか・・・後で後悔しそうな気が・・・。」
源五郎はまたもや乗り気だ・・・。
「あたしもー・・・今日も午後から遊園地で遊びたいから、同じクエストがいいー・・・。」
源五郎もレイもセカンドクエスト攻略派のようだ・・・遊園地の回数券は毎日使い切っているのだろうから、クエストをこなさないとレイが今日遊ぶ分がないという事だ・・・。
「仕方がありませんね・・・皆さんがそれでいいのであれば・・・あたしから申し上げることはありません。」
ツバサはしぶしぶ付き合ってくれる様子だ。




