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樹氷

12 樹氷

「ええっ・・・こんなので当たることって・・・?」

「きゃあっ・・・やったぁー・・・。」

「凄い凄い・・・!」


 時間のない時に限って・・・という事は結構あるものだが、何事も起こらぬまま100コイン使い切りそうになったところで大当たり。

 確変を引いてそれが大連荘・・・、すでに10杯積み上げている。


「あーん・・・惜しい・・・ついにノーマル当たりよ・・・。」

 確変終了に後方のバニーガールたちが、がっかりしたように肩を落とす。


「おわっちゃったぁー・・・。」

 100回転の時短も何事もなく終わり、台が沈黙する。


「おお・・・すごいですね・・・。」

 するとそこへ源五郎がやってきた。


「おお・・・100コイン目で大当たりを引いて連荘してちょうど終わったところだ。

 そっちはどうだい?」


「はい・・・昨日の貯玉はすぐに飲まれてしまいましたが、それでも100コイン使いきる前にボーナスを引いて、そこからARTに入って結構連荘しました。

 もう時間なので引き揚げることにしましたが、2000枚ほど貯玉しましたよ。」

 源五郎が興奮気味に答える・・・そうか・・・源五郎も好調だったようだな。


「じゃあ、悪いが俺も今日は引き揚げるよ・・・これは貯玉してくれ。」


「えー・・・まだいいじゃないー・・・すぐに引き戻すわよ。」

「そうよそうよ・・・今日はついているんだからもったいないわよ・・・。」

「もう少し頑張れば、アイテムゲットだってできるんだから・・・。」

 それでもバニーガールたちは、何とか引き留めにかかる。


「いや・・・申し訳ないが・・・大事な用事があるんだ・・・だから帰るよ・・・また来るからね!」


 3人のバニーガールたちが背後から俺の顔やら胸やらを、やさしく触りながら甘い声で引き留めるのだが、レイの顔を思い浮かべてきっぱりとお断りする。


 時間になったのなら仕方がない・・・娘に遊園地で遊ぶのを我慢するよう言っておきながら、親が遅れてしまったのでは示しがつかないからな。


「はーい・・・分かりましたぁ・・・用事があるんじゃあ仕方がないわね・・・ちょっと待っていてね。」

『ジャラジャラジャラ』あきらめたのかバニーバールたちは、ドル箱をカウンターへもっていって計量してくれた。


「はいっ・・20845発貯玉しました・・・またのご来店をお待ちしております。」

 そう言って3人が深々と頭を下げた。


 ふうむ・・・ようやく200コイン分という事だな・・・4日目にしてようやく・・・600コイン使っている計算で、収支を考えると完全にマイナスだ・・・コインを使わずにため込んでいた方がよかったという事になる・・・。


 だが・・・ため込んでいただけでは碌なアイテムにはならないし・・・やはりチャレンジするしかないという事か・・・。


 よく考えてみたら、お客は俺と源五郎以外にいるはずがないのだが・・・俺たちが来ていないときに彼女たちは何をしているのだろうかな・・・???



「では・・・本日から本格的な授業を始める・・・と言っても素人教師だから、至らぬ点は勘弁してくれ。

 まずは・・・算数からだな・・・。」

 ツバサが使っていたという、小学校の教科書を使って授業が開始された。


 この星で冒険者となった俺たちは、この星の文字も読めるし言語も通じる・・・というかツバサと話しているのはいったい何語なのだろうかといつも疑問に思っているくらいだ。


 それでも、文章の書きまわしとか地域性のある固有名詞もあるから、文系ではなく理系の学習から始めることにしたわけだ・・・、数式と図形ならば文字や記号の違いはあっても地域性は少ないだろう。

 しっかり勉強した後、食事をしながら冒険放送を見て、それから奥義の修行だ・・・。



『パンパカパーンッ』「おめでとうございます、ツバサ様はXFにアップされました。」

 ギルドについた途端にファンファーレが鳴り響く・・・今日もツバサはレベルアップだ。


「では、アレヘス北西のペレヘス峠の樹氷の採取・・・3日のクエストですが・・・クエストレベルはAZです。」 

 源五郎がギルド中央の柱から、クエスト票をはがして持ってくる。


「これで、この辺りのクエストはすべて終了という事だな・・・まあ明日1日休んで、明後日の朝早くに次の地へ向かうことにしよう。


 そのためにも・・・今回のクエストを完ぺきにこなさなければならない・・・樹氷というからには・・・氷なわけだ・・・クーラーボックスが必要になりそうだな・・・。」

 源五郎からクエスト票を受け取り、受付へと向かう。


「ペレヘス峠の樹氷の採取ですね・・・リーダーの変更はございませんか・・・?

 これをお持ちください・・・、では頑張ってきてください。」

 予想通り受付嬢から、ドライアイス入りのクーラーボックスを渡され、ギルドを後にする。



『ブロロロロロロロッ』3日のクエストだから、移動時間もかなり長くなりそうだ。


「そうだ・・・レイちゃん・・・今日の勉強は中継車の中でやってしまおうか・・・?

 と言っても、薄暗くて揺れる車内で小さな文字を見ていると気持ちが悪くなってしまうから、英会話の勉強をしよう・・・。


 ハウアーユゥ?」

 突然源五郎が、英会話の授業を始めた・・・おお・・・時間を有効に使えていいな・・・英会話に疲れたら、暗算の勉強もありだ・・・。


 中継車に楽器を持ち込んで、移動の最中は音楽の時間というのもありだな・・・(慣れないと変な音ばかり出るだろうから、ドライバーには申し訳ないが・・・)。


「オー・・・グーッ・・・トゥディズレッスンイズフィニッシュ・・・サンキュー・・・」

 3時間ほど走り、中継車の前方に高い山々が見え始めてきたところで、源五郎の授業は終了となった。

 あの山の峠に樹氷があるという事なのだろう。


『ブロロロロッ・・・キキィッ』「ノーマルタイヤの中継車で行けるのはここまでです。」

 車を停め、ドライバーが説明する・・・結構標高の高い山のようで、山頂付近は雪で白くなっているようだ。


 どのみち山を登っていくような車道は見た限りなさそうなので、ノーマルタイヤじゃなくても中継車ではここまでだろう。


「じゃあ、ここからは徒歩となりそうだ・・・時間がもったいないので、訓練も兼ねて駆け足で行こう。

 クエスト票を確認する・・・ペレヘス峠の樹氷・・・極寒の地にできるきれいな樹氷。

 単結晶の氷なので透明で澄んでいる・・・オンザロックに最適・・・と書かれているな。


 どうやら酒飲み用の氷の調達といったところのようだ・・・と言っても、もちろんクエストなのだから、魔物が絡んでいるだろうし、簡単ではないだろう。

 十分用心して取り掛かるように・・・。」


 魔物に関する情報は何も記載されていない・・・今回も後だしとなるのだろう・・・簡単に朝会を終える。



『ダダダダダダダダッ』急な山道もものともせず、息もさほど上がらず猛スピードで駆け登る。

 1時間もしないうちに、辺りは白一色の雪景色となった。


「あれがそうなのかなぁー・・・。」

 レイが木々の枝に降り積もった雪を指してつぶやく。


「いや・・・あれはただの雪だから違うだろう・・・樹氷というからには氷じゃなきゃいかん。

 木々の枝の先に延びた細長い氷をイメージしているのだがな・・・つららとも違うと思う・・・。」

 ううむ・・・なにが樹氷なのか・・・写真でも出してくれるといいのだが・・・。


「うんっ?」

 ところがさらに10分ほど駆け登ると、まさにぴったりのものが出現した。


「はあ・・・氷の木ですね・・・まさに樹氷・・・。」

 源五郎のさす先には、透明できらきらと太陽光を反射する大木が・・・あれか?

 雪深い急な斜面の中腹に、ポツリと一本だけ立っている。


「じゃあ、結構時間も使っているし、早いところ採取しちゃいましょう。

 クーラーボックス開けておいてください。」


『ザッザッ』くるぶしまで埋まる雪の中を、源五郎がクリスタルのように透明な氷でできた大木へ近づいていく。

『ビュゴゥァー』するとその瞬間、樹氷から猛烈な雪を含んだ強風・・・いわゆる吹雪が発せられる。

『カッキィーンッ』哀れ源五郎は、真っ白く凍り付いてしまった。


「まずいっ!ツバサっ・・・奴の気を引いてくれ!」

「はいっ・・・とうっ!」

『ザザザッ・・・シュザッザッ・・・シュガッ・・キンッキンッ』すぐにツバサが宙に舞い、上空から樹氷に向けて攻撃を仕掛け始める。


『ザザザザザッ・・・シュッ・・・ズガッ』そのすきに源五郎の体を抱きかかえ逃げ帰ってきた。


「レイッ・・・、弱めの炎の魔法と回復魔法で源五郎の氷を溶かしてくれ。」

「うんっ・・わかったぁー・・・」

『ザザザザザッ・・・シャキィーンッ』源五郎はレイに任せて、俺も剣を抜き樹氷に斬りかかっていく。


「おりゃあっ!」

『キンッ・・・キンッキンッキンッ』ところが樹氷の幹表面は固く、鋼鉄の剣で斬りつけても傷ひとつつかない。


『グワォーッ』『ザッ・・・』一瞬動きが止まったところに、猛烈な吹雪が発せられる・・・危うく避けたが、凍り付くところだった。

『ゴォーッ』「きゃっ!」『シュタッ』ツバサも吹雪を浴びせられそうになり、危うく宙で体を返して着地する。


「奥義を使うにも・・・急所となる体幹の位置が分かりませんし、表面が固いし滑るので、打撃を受け付けません・・・どうにも攻撃の糸口が・・・。」


 珍しくツバサが弱音を吐く・・・確かに、光の爪でも鋼鉄の剣でも、傷ひとつつかないのだからな・・・本当に氷なのか?と疑いたくなってくる。

 しかも樹氷が作り出す強烈な吹雪に巻き込まれると、源五郎の様に凍り付いて動けなくなってしまうわけだからな・・・注意して攻撃しないと逆にやられてしまう。


「奥義・・・究極火炎・・・バースト」

 レイの唱える魔法が後方で聞こえたかと思うと、いくつもの真っ白い高温の光の玉が渦を巻いて樹氷に襲いかかっていき、『ボワァーッ』高温の炎の玉は、巨大な塊となり樹氷を包み込む・・・。


『ポタポタポタ・・・』極低温の樹氷も、レイの奥義の効果により溶け始めたようだ。

『ピッキィーンッ』ところが次の瞬間、表面が融けかけてしずくとなっていた樹氷が、元の透明な大木に戻ってしまった・・・。


「ありゃりゃ・・・再生能力でもあるのかね・・・こりゃ参ったな・・・。」

 剣や爪による物理攻撃では傷ひとつつかなかったし、レイの奥義の魔法で融けかけたのにすぐに再生してしまうとは・・・、これじゃあ攻略の糸口すらつかめないな・・・。


『シュッ・・・ピキンッ』『シュッ・・ピキンッ』ところがさらに後方から、数本の矢が飛んできて樹氷に突き刺さった・・・高速の矢であれば効果があるというのか?


「非常に硬い単結晶の氷でも、一度融けかけて再氷結するときに、どうしてもひずみが生じます。

 そのひずみ部分を的確に狙えば、破壊することは可能なはずです。

 神経を研ぎ澄ませて、敵の内部の様子を把握して攻撃するのです・・・。」


『ザッザッザッ』源五郎が矢をつがえながら近づいてくる・・・レイの魔法の治療で、回復したようだな。

 それにしても・・・見えるはずもない敵の内部の様子を把握するって・・・???おおそうか・・・無想攻撃の応用だな・・・ようし・・・。


『すぅー・・・はぁー・・・』気を取り直して剣を構え息を大きく吸って吐き目をつぶり、精神を集中させる。

『ゴワォー』『ブワォー』『ブォー』すると前方から右から左から、強い風と共に頬に当たる冷たいものが・・・。


 息もできない強風の中薄目をあけると、目の前は白一色だった・・・ううむ・・・これがホワイトアウトか・・・。

 恐らく、状況が悪くなったと感じた樹氷が、起死回生の技を繰り出したというところだろう。


「みんなー無事かー?」

「・・・」「・・・」


 呼びかけても返事がない・・・参ったな・・・だがまあ、こんな吹雪ぐらいでやられるメンバーではないはずだ。

 この場は、やれることをやろう・・・状況は変わらない・・・精神を集中させて敵の弱点・・・再氷結したときのひずみを見つけようとする・・・。


「奥義・・・無想斬撃!」

『すぅー・・・はぁー・・・』息を吸い込みゆっくりと吐き出し・・・そうして精神を集中させる・・・。


 5感のうちで視覚と聴覚はほぼ使えない・・・が、全くダメなわけでもない・・・そう考えながら前方の樹氷に意識を移す・・・すると・・・何かわからないが・・・もやもやとした部分が感じられてきた・・・。

 ようし・・・イチかバチか・・・『ザザザザザッ』右も左もわからない中、それでも信じて前方に向かって突進していく。


「おりゃあっ!」

 ここだあっ・・・『シャキィーンッ・・・シュパッシュパンッシュパシュパシュパッ』感じるがままに思いきり何度も鋼鉄の剣を振り下ろしていく。


『シュッ・・ピキンッ』『シュッ・・ピキンッ』『シュッ・・ピキンッ』同時に後方から矢が飛んできて、次々に突き刺さっていくのを感じる。


『ピキピキピキピキッ・・・ピッキーンッガラガラガラガラガラッ』暫く攻撃を続けると、何かが割れるような甲高い音が響いた後、周囲が晴れてきた・・・猛吹雪がやんだのだ・・・。


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