アリモグラ
11 アリモグラ
「じゃあ・・・地道な作業となるが・・・スコップで巣を掘り出していこう。
そのうちに女王に出くわすはずだ・・・アリたちは集団で襲い掛かってくるようだから、まとめて退治しては穴を掘り進み・・・また退治しては・・・といった繰り返しになると予想される。
どのくらいの数いるかわからないが、1万や2万は覚悟しておいた方がいいだろう。
では・・・頑張って行こう・・・。」
冒険者用袋から剣先スコップを取り出し、地面に穴を貼り始める。
アリ塚の隣にはいくつか小さな穴が開いているので、恐らくそれが巣穴への出入り口と読んで、掘り進めようと考えている。
遥か見上げるほどのアリ塚に使われた土の量から推察するに、何十メートルかは掘り進んでいかなければならないことは十分に予想される。
パワーショベルなどの重機もなしに、たった4人の手作業でどこまでできるものだろうか・・・。
「この穴が巣穴と言えますよね・・・だったらいちいちスコップなどで掘り進むより、一気呵成に攻め込みましょう・・・。
あたしが奥義を使って土砂を弾き飛ばしますから、飛び出してくる魔物たちを退治していってください。
とうっ!」
『タタタ・・・シュタタッ』ツバサはそう言い残すと、少し助走して遥か高みへとジャンプした。
「奥義・・・真空の壁!とうっ」
『シュタッ』そうして奥義を使ってさらに高く・・・アリ塚よりも高く舞い上がる。
「奥義・・・鰐襲旋風脚!」
ツバサはそう叫ぶと、つま先まで全身をピンと伸ばし、両手を真横に広げゆっくりと回転し始め、更に両手を上方へと伸ばし回転スピードを上げた。
『ドッガァーンッ』そうしてその回転スピードを維持したまま、地面に激突した。
『パラパラパラパラ・・・』すさまじいまでの爆音が響き渡った後、跳ね上げられた土砂が降り注いでくる。
『ダダダダッ』「よいしょっ・・・」『ズザザザザッ』すぐに駆け寄り、地面深く突き刺さったツバサの体を引き抜くと・・・「アリアリアリアリ」「もぐもぐもぐもぐ」巣を破壊されて怒ったのか、黒いこぶし大の塊がいくつも列をなして襲い掛かって来た・・・アリモグラの兵士たちだろう
『シュシュシュシュシュシュ』『シュタタタタタタタッ』アリモグラたちに瞬時に源五郎が放つ矢が突き刺さり、順に消滅していく。
「神の裁き!神の裁き!」
『バリバリバリバリ・・・ガッゴォーン、ドッガァーンッ』更にレイの魔法がさく裂し、いくつもの塊を吹き飛ばし消滅させた。
「ようし・・・おりゃあっ!」
『シュパパパパパパパパパパパッシュッパッパッパッパンッ』俺も負けじと剣を振り回し、アリモグラたちをせん滅していく。
「いいですね・・・ではもう一度・・・とうっ!」
そうしてまたもやツバサが高く舞い上がる・・・。
「奥義・・・真空の壁!とうっ・・・奥義・・・鰐襲旋風脚!」
『ズッゴォーンッ』そうして先ほど開けた穴から少し離れた地面に飛び込み、深く突き刺さった。
どうやら見上げるほど伸びている5本のアリ塚脇にある、巣穴を狙っているのだろう。
『ダダダッ』「よいしょっ」『ズボッ』すぐに駆け寄り、急いでツバサの体を引き抜く。
『シュシュシュシュシュシュ』『シュタタタタタタタッ』源五郎が、アリモグラたちがツバサが開けた大穴から出てこようとする瞬間をとらえて射抜いていく。
「神の裁き!」
『バリバリバリバリ・・・ガッゴォーン』更にレイの魔法も、大きく空いた穴に直撃する。
ううむ・・・攻撃のコツをつかんだようだな・・・。
「ではまた行きます・・・とうっ!」
『タタタッシュタッ』そうしてツバサがまたもや宙高く舞い上がる・・・といったことを繰り返し、5ケ所目の巣穴にも大穴を開けた。
突き刺さったツバサの体を抜くために駆け寄ろうとしたとたん・・・。
「ふしゅー・・・」
人の体ほどもある巨大な黒い影が、最初にツバサが開けた大穴から這い出してきた・・・大きさと風貌から言って、恐らくあれが女王だろう。
黒アリをそのまま巨大化させたような姿の女王は、ゆっくりと周囲を見回し、己の城を攻撃するデストロイヤーたちの様子を探っているようだ。
ううむ・・・ここは先制攻撃あるのみ・・・。
「だありゃあっ・・・。」
『シャキィーンッ』すぐに天空の盾を腕に装着し、鋼鉄の剣を抜いて両手で持つと上段に振りかぶり、女王に向かって斬りかかっていく。
『プシュッ』間合いに入って袈裟懸けに斬りつけようとした瞬間、女王はその口から何かを吐き出した。
「おおっと・・・。」
『ズザザザザッ』踏み込んだ右足を踏ん張り急ブレーキをかけ、さらに左へ飛びのく。
『ブチブチブチッ』避け切れなかったのか・・・鉄の鎧の右わき腹にあぶくが発生している・・・どうやら、何か液体を吹きかけられたようだ。
「神の裁き!」
『バリバリバリバリ・・・ガッゴォーン』すぐさまレイの雷撃が降り注がれる・・・。
『プシュッ』が、閃光の後、何もなかったかのようにそのままの姿勢で、またもや液体を吐き出した。
「きゃっ!」
『シャッ』レイの盾が反応して広がり、更に少し距離があったので、レイは何とか液体攻撃を避けられた。
『シュシュシュシュシュシュシュ』『キンキンキンキンキンキンキン』続いて源五郎がすさまじいまでのラッシュで矢を射かけ続ける・・・が、全てその硬い装甲で弾かれてしまう。
『プシュッ』そうしてまたもや液体を吐き出した。
「わわっ!」
矢を継いでいた瞬間で避け切れなかったのか、源五郎の鎖帷子の右肩部分にその液体が降りかかってしまった。
源五郎の盾は、左手に弓を持っていたため反応できなかったようだ。
「うわあっ・・・熱い熱い・・・」
源五郎は叫びながら、冒険者の袋から水のペットボトルを取り出して、その部分にかけている。
「どうやら蟻酸のようです・・・最強の酸ですね・・・皮膚にかかれば火傷をするし、鉄など溶けてしまいますよ・・・これでは近づけませんね。」
源五郎が言う通り、蟻酸のかかった部分の鎖が溶けてなくなっているようだ・・・。
しまった・・・すぐに俺も袋からペットボトルを取り出して、先ほど液体がかかった部分にかけて洗い流す・・・ううむ・・・小さいが穴が開いてしまったようだ・・・おそるべし蟻酸・・・。
『プシュッ』さらに今度はツバサに向けて蟻酸を吹きかける。
まずい!ツバサは地面に突き刺さったままで動けないぞ!助けに行くにも距離があって間に合わない・・・。
「奥義・・・真空の壁!」
ツバサが手刀で目の前を十字に切ると・・・『パシャッ』ツバサの前に見えない壁があるかのように、蟻酸をはじき返した。
『ダダダダッ』すかさずツバサのもとに駆け寄り、『ズボッ』深く突き刺さった体を地面から引き抜く。
「真空の壁は、もともと敵の攻撃を跳ね返す防御壁のために開発しました・・・いわゆる飛び道具対策です。
その応用として、2段ジャンプの台としても使っているのです。」
引き抜かれながらツバサが真空の壁の説明をしてくれる・・・素晴らしい技だ・・・よかったぁ・・・。
「とうっ!」
『タタタ・・・シュタッ』そのままツバサは、またもや宙へと舞い上がる。
「奥義・・・真空の壁!とうっ」
『シュタッ』そうしてさらなる高みへとジャンプ。
「奥義・・・鷲撃泰覇斬!」
遥か上空から滑空してきたツバサは、すさまじいまでの猛スピードで一直線に突撃していく。
『ピュー・・・・ガンガッガァーンッ』魔物の背中に強烈な一撃が・・・魔物の背中はV字に折れ曲がり、動かなくなった。
『ダダダダッ・・・シュポッ』女王の正面からは蟻酸攻撃があるため、背後に回って捕獲用袋を広げ、女王にかぶせる・・・。
『シュルシュル・・・ギュッ』袋入り口のひもを引っ張り、硬く縛れば捕獲成功だ・・・。
「ふぅー・・・、かなりやばかったが、何とかクエスト完了だな・・・。」
ううむ・・・ツバサの活躍のおかげだ・・・やはり頼りになるな・・・。
『ガラガラガラガラ』女王が捕獲された途端に、林立していた巨大なアリ塚が崩壊し始め、中央部分から宝箱が出現した。
『カチャッ』「やったぁー・・・、また乗り物券だぁー・・・」
『カチャッ』「こっちはまたもやカジノの金券ですね・・・僕たちがアレヘスに居残らなければならないことを、分かっているのでしょうね・・・。」
源五郎が苦笑いしながら、金券を取り出す。
そりゃそうだな・・・中央の奴らは武器防具屋も支配下に置いているわけだからな・・・防具の性能を落とすなんて言うような妨害はできないだろうが、補修スケジュールくらいは把握可能だろう。
「じゃあ戻るとするか・・・鉄の鎧に穴が開いたから、修復を頼まなければならんしな。」
「僕も鎖帷子を・・・」
「あたしも・・・セーラー服・・・少し穴が開いたみたい・・・。」
ううむ・・・よけたように見えたが・・・、レイの服も少しは蟻酸がかかっていたという事か・・・。
「あたしの胴着も・・・何度も地面に突入したので、ダメージがありますね・・・。」
ツバサも胴着を修復する必要性が出てきたようだ。
念のため、全員盾にペットボトルの水をかけて、蟻酸を洗い流しておくことにした・・・バブリーなことだが、宿に帰ってから洗うよりはいいだろう。
「じゃあよろしく・・・。」
「あいよー・・・」
俺の鎧も、源五郎の鎖帷子もレイのセーラー服も、レイの上級格闘家の胴着も全て明日の朝までには修復可能だった。
ついでに、久しぶりに鋼鉄の剣を研ぎに出して、ツバサも光の爪を研ぎに出し、源五郎も矢を買い足したようだ。
このところ1日1件のクエストで、連続して活動をしないから、道具の消耗も少なめだ・・・毎日活躍するメンバーが変わったりしているからな。
「では・・・なんだかんだ言って、今日も午前中にクエストをこなしてしまったわけだ。
そのため・・・また今日も午後から自由時間として、遊園地とカジノへ行きたいと思います。」
「わあっ・・・やったぁー・・・。」
昼食後に、午後のスケジュールを言い出すと、すぐにレイが飛び上がって喜ぶ。
「えー・・・またもや乗り物券10枚が4組と、100コイン金券を4枚手中にしたわけだが・・・今日の門限は16時とします。
いつもより3時間早いのですが、厳守してください。」
すかさず本日の門限時間を告げる。
「えー・・・そんなんじゃあ、乗り物10くらいしか乗れないじゃないー・・・。」
レイが不満そうに頬を膨らませる。
「ああ・・・だが仕方がない・・・レイも知っている通り、昨晩ツバサの両親が送ってくれた教科書や楽器が届いただろ?
今日から本格的な授業を開始しようと思っている・・・これはレイが立派な大人になるための最低限の知識を身に着けるための、大事な時間なわけだ。
毎日毎日続けなければならないことだから、遅らせるわけにはいかない。」
そう・・・今日からレイのための学校が始まるわけだ・・・今まで忘れていて大変申し訳ないし、突然の思い付きのように感じられるかもしれないが、親として、このままレイと一緒に冒険だけを続けていくわけにはいかないのだ・・・。
「えー・・・だってぇ・・・地球にいるあたしの本体は、毎日学校へ通っているはずだし、問題ないはずでしょ?
そりゃ・・・色々なことを学べるから、勉強自体は嫌いじゃないけど、時間が余った時に少しずつやっていけばいいんじゃない?」
もともとまじめで勉強好きなレイだから、学校の勉強を始めるという事に、さほど抵抗はないはずだ。
それでも今は遊園地の魅力の方が勝っていると言えるのだろう。
「だから・・・今がその・・・時間が余っている時なわけだな・・・クエストを半日でクリアしてきたわけだからね?
それでも残りの半日全部勉強じゃあ辛いだろうから、そのまた半分は遊園地で遊びましょうという事にするわけだな・・・。
何にしてもあと一つクエストをこなせば、アレヘス近辺のクエストはすべて完了するわけだ。
ところが防具の修理が終わっていないから、まだこの町を離れるわけにはいかない。
そのため、明後日は1日休みにするつもりでいる・・・と言っても夕方から授業はするけどね。
だからこそ・・・今日は乗り物券を使い切らずにとっておいて・・・明後日の休みに目いっぱい遊んでくれ。」
レイを納得させるために、当面の予定を説明する。
これまでの経緯から、明日のクエストを達成すれば、また金券と乗り物券をゲットできるだろう。
今日乗り物券を10枚だけ使って残りを取っておけば、明後日は乗り物券40枚レイとツバサが使える計算だ。
もちろん俺たちも400コイン分の金券が使える・・・これだけあれば午前中から十分遊戯できるだろう。
まあ、カジノの場合は出た場合を計算に入れずにでも・・・という事になり、儲かればアイテムゲットも可能という事になるわけだ。
「うーん・・・わかったぁー・・・今日は我慢する・・・。」
しばし悩んだ後、レイが笑顔を見せた。




