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最初のクエスト

11 最初のクエスト

「ああ・・・確かにそうだけれど・・・、でも今は道を歩いている通行人なんか一人もいやしないし、電柱もない。

 まあ、ところどころに木は生えているけどね・・・。

 だから、都会の街中ほどは危険じゃないさ。


 それに、時間があまりないから立ち止まって確認しているわけには・・・。」

 ツバサも探しに行かなければいけないし、実際のところあまり時間をかけてはいられないのだ。


「えー・・・だって・・・、ママにおこられるもの・・・。」

 それでもレイは、聞こうとしない。


「今この世界にはママは来ていないし・・・、それにどうしても急ぐんだ・・・、だからお願い・・・。」

 両手を合わせて娘にお願いする。


「えー・・・仕方がないなあ・・・、じゃあ今回だけ特別だよ・・・、あと半年間はルールげんしゅね。」

 娘はしぶしぶ、先ほど冒険者の袋にしまい込んだ上級魔導書を取り出す。


 今回だけ特別だよ、あと半年間は・・・というのは、年末の歌合戦を見るために就寝時間を延長するときなど、どうしても日ごろの決め事を破らなければならないときの、我が家での1時救済措置の際の言葉だ。


 何度も破ってしまうとルールが成り立たなくなるので、どうしても仕方がない場合という条件と、一度破ったら以降の半年間はどんなことがあっても我慢するという取り決めをしているのだ。

 まさかこの言葉を、レイから言われてしまうとは・・・トホホ・・・。


「えーと・・・上級・・・うーん、何て読むのかなあ・・・?」

 ところが歩き出そうとする前に、レイの動きが止まってしまう・・・、しかもまだ魔導書のページを開いてもいないのだ。


「レイちゃんには難しい漢字が多いのかもしれませんね・・・、子供だし仕方がありません、ちょっとここで止まってレイちゃんに魔導書を確認してもらいましょう、僕が漢字の読みと意味を教えてあげますよ。

 この先のことを考えると、レイちゃんの魔法は絶対に必要になりますから、練習代わりに使っておいた方がいいですよね。


 なにせ昨日の魔物程度であれば、武器さえしっかりしていればなんとか勝てますから、トレーニングにはうってつけですからね。」

 源五郎が間に入ってくる・・・、このままではらちが明かないと判断したのだろう。


「仕方がない・・・、そこの切り株に腰かけて、魔導書を確認してくれ。」

 道の脇に大きな切り株があったので、そこにレイを腰かけさせ、俺は少し奥の朽ち果てた倒木に腰を下ろした。


「えーと・・・回復系の呪文・・・、こっちが攻撃系で・・・、まあ回復系の魔法を主体とする魔導士だから、攻撃系の呪文は少ないようだね・・・、それでもいくつかあるよ・・・。

 例えば・・・光の攻撃魔法・・・杖とかに魔法を付加させて発するようだけど、そのままでも使えるみたいだね。


 ぺカとかペカリとか・・・、ペカが敵単体・・・魔物を一匹ずつ倒していく呪文で、ペカリが敵グループ全体・・・目の前の魔物全部に対する攻撃のようだね・・・魔物がたくさんいるときにはペカリって叫ぶように・・・いいね?


 うーん・・・なんせ10年前だからあまり覚えていないけど・・・、光の魔法でも呪文が違ったような・・・。

 あれはまだ、初級の域を出ていなかったからかな・・・?」

 源五郎がレイの隣に腰かけて、一緒に魔導書を読みながら首をかしげる。


 源五郎の矢はすべて使い果たしてしまい、後は戦いのたびに出現する鋼鉄の矢を使うしかないのだが、1回に3本ばかりでは、1体か2体倒すだけで精いっぱいだ。

 後続の魔物は俺とレイで倒していくしかないわけだ。

 まあ、勝てそうな相手の時に練習しておくつもりで、少し時間をとるのは仕方がないか・・・。


「うーん・・・、覚えた!」

 レイが元気よく立ち上がる。


「まだ、攻撃魔法だけだけど・・・よし、じゃあ出発だ。」

 源五郎もうれしそうに笑顔を見せる。


 ようやく出発できる・・・、よかったあ・・・。

 気が急くせいか少し速足気味で東の森へと進んでいく。


『ぶももももももっ・・・・』『ぶもももっ・・・』『ぶぴーっ・・・』森の中に入り開けた空間に出ると、そこにはねばねばのゼリー状魔物が大群で待ち構えていた。


「なんだ、これは・・・。」

 せいぜい2,3体をまとめて相手にする程度と考えていたのだが、予想に反して敵の数は多い。

 恐らく十数匹はいるだろう。


火炎弾(チリ)!」

『バシュッ』『ぴきぃー・・・』源五郎が何事か唱えながら魔物に向けて矢を射かけると、矢は炎を帯びてゼリー状魔物に突き刺さり、一撃で焼失させた。


「以前の冒険の時の魔法攻撃をリーダーがさっき話していたので僕も思い出してみました、炎の攻撃呪文を矢に乗せて射かける呪文・・・。

 鋼鉄の矢に付加すると威力倍増ですね・・・、一撃で仕留めることができました。」


 源五郎が嬉しそうに振り返る。

 ああ、それはうれしいことではあるが・・・、これだけの魔物に囲まれたら流石にひとたまりもないぞ・・・。

 だが仕方がない・・・、じっとしているわけにもいかないわけだ・・・。


『ダダッ』「光剣(ペカ)光剣(ペカ)!」

『ズッパァーンッ・・・スパァーン』魔物の群れの中に駆け込んで、円錐状のゼリー状魔物に対し腰の高さで水平に斬りつけ上下に分断すると、返す刀で右斜め上方から袈裟懸けにたたき斬る。

『ぶももももっ・・・』『ぶもー・・・』しかしすぐに魔物たちに取り囲まれてしまった。


全体光攻撃(ペカリ)!」

 すると後方でレイが呪文を元気よく唱える・・・。


『ぺかー・・・』まばゆいばかりの光が後方から発せられ、目の前の景色が一面薄黄色の単色に切り替わる・・・、やがて光が薄らいでいくと、すでに魔物たちの姿はどこにも見えなかった。


「へえ・・・、凄い威力ですね・・・。」

 源五郎が満足そうにあたりを見回す。


 すごすぎる・・・、俺たちに与えられた経験値から想定するとそれほど強い魔物とは言えないが、それにしてもこのゲーム内ではかなり高いレベルの部類に属するはずだ。

 それを一気に消滅させてしまうとは・・・、剣で一体一体相手をしていくのが、面倒になってしまうような威力だ。


 俺だって経験値の2割を回復系の魔法技術につぎ込んでいるのだから、あそこまでの威力はなくても、ある程度戦えるのではないかと考えてみたが・・・、剣に乗せるには全体攻撃呪文というわけには・・・行かないか。


「えーと・・・、どこかなあ・・・。」

 ところがレイはどうしたことか、下ばかり見ながらうろうろと歩き始めた。


「どうしたの?レイちゃん・・・、何か落としたりした?」

 源五郎も一緒になって、何かを探し始める。


「別に落としたわけじゃないけど・・・、まものたちをたおした後に何かアイテムが出てくるのでしょ?

 いっぱいたおしたんだから、きっといいのが出てくるかと思って・・・。」


 ああそうか・・・、昨日ゼリー状魔物を倒して時に俺の鋼鉄の鎧が出てきたと説明したからな。

 うーむ・・・出てきてくれているといいのだが・・・、俺も一緒になって辺りを見回してみたが、どうやらアイテムは出現してこなかったようだ。


「アイテムは出たりでなかったりするのだけど・・・、同じ魔物から2度出ることはなかったような覚えがある。

 だから、もうすでにあのねばねばの魔物からはアイテムをいただいているから、もらえないんだと思うぞ。」


 俺の場合は2度も出たのだが、2度目はレイが一緒の時で、しかもレイが寝たままで戦わなかったから、その分が補てんされて出てきたような気がしている。

 だから、上級魔導書をレイに渡して正解だったのだろう。


「そうなの・・・?うーん、残念・・・、かわいいバッグとか期待していたのにね・・・こんな袋じゃセンスのかけらも感じられないよ。」

 レイが腰から下げた冒険者用の袋を手に取りながら、がっくりと肩を落とす。


「レイちゃん・・・、出てくるのは冒険のための武器や防具だからね・・・。

 かわいいバッグなんかは難しいんじゃないかな・・・?


 でも、いつも戦っているときにレイちゃんが、かわいいバッグをくださいって願いながら戦っていれば、ここは願いが叶う星だから、いつかもらえるかもしれないね。」

 源五郎が、レイを慰める。


 まあ、願いが叶う星というのは本当のことだから、あきらめずに願ってさえいれば叶わないとは言わない。

 だが・・・、冒険者用の袋は冒険用のアイテムが口に入りさえすればどんな大きさでも収納できるし、重さも感じないし便利なんだと、いつか袋の良さを説明してやらねばなるまい。


「これからどうします?」

 源五郎がこれからの予定を聞いてくる。


「一旦、戻ろう・・・。」

 来た道を引き返して、始まりの村に向かう。


 始まりの村にツバサがいないようなので、東の森を北上してファブの港を目指すのも手だが・・・、遠いし歩いていくには途中で野宿になってしまうから、それなりの支度が必要となる。

 まずはギルドへいってクエストを清算しておこう、なにせ3人とも無一文なのだ。


 また、別の大きな理由もある。

 さすがに大量のゼリー状魔物を倒したせいか、帰りには遭遇することもなかった。

 これでこの地域の魔物がいなくなってくれればありがたいのだが・・・。



「東の森に生息する特級魔物退治のクエスト・・・、完了を確認いたしました。」

 受付嬢が笑顔を見せる。


 クエストを清算する・・・、ゼリー状魔物の死骸など持ってきてはいない(消滅してしまい、それも叶わなかったのだが)のだが、ギルドでは結果を把握しているようだ。


 そうなると・・・、クエストの謝礼のGが入っているのではないかと、冒険者用袋の中に手を入れてみると・・・、おお、凄い・・・、かなりの枚数の金貨が入っているぞ。


「ちょ、ちょっと申し訳ないが、クエスト票をもう一度見せてくれ。」


「ええっ・・・はっはい・・・。」

 受付嬢は、何かクレームでもと思ったのか、不安そうな面持ちでクエスト票を手渡してくれる。


 おお、こりゃあすごい・・・、なんと6000Gもの報奨金だったから、一人当たり2000Gだ。

 先ほど確認を忘れていたのだが、確かに普通ではありえないほどの経験値の魔物だからなのだろうが、それにしても破格の報奨金だ。


「すごいですね・・・、これで結構強力な武器や防具を購入できますよ。」

 源五郎も、袋の中を確認しながら耳元でささやいてくる。


「ああ・・・まあプラチナとかは無理でも、鉄系なら十分全装備行けるのではないか?

 といっても・・、前回はレベルが上がる前に没収されてしまったから、高い防具や武器が売っているところまでたどり着いてはいなかったがね。


 まあでも、それなりの準備はできそうだな。

 すぐに武器屋に行ってみよう・・・、銅剣を研ぐ必要性があるしね。」


「はい・・・、僕も矢が必要ですから・・・。」

「レイ・・・買い物に行くぞ。」

「はーい・・・お買い物お買い物・・・っと・・・」

 レイもうれしそうについてきた。



「銅剣を研いでくれ・・・超特急でできるかな?」

「ヘイっ、任せてください・・・。」

 すぐに武器屋の男が受け取った銅剣を持って奥へと消えていった。


 武器を買おうとしたのだが、始まりの村の武器屋では銅剣が一番高価な武器でそれ以外はこん棒や木刀などだ。


「うーん・・・、初級者用の弓が最高ですから、矢を購入するだけですね・・・。」

 源五郎は、矢を200本ほど購入したようだ。


「レイ・・・、実際はあまり使わないかもしれないが、初級者用の魔法書を買っておいた方がいいかもしれないぞ。

 何事も初歩から覚えていかないと、見につかないからな。」

 レイには初級の攻撃魔法の教本を購入させた。


 ついでに俺も初級の回復系魔法の教本を購入しておく・・・、上級魔導書もいいが、初級レベルも覚えておいて損はないだろう。


 銅剣を受け取ってから防具屋に寄ってみたが、あまりいいのがないためここはあきらめ、道具屋で薬草と毒消し草をそれぞれ10ずつ買い込み弁当も10個づつ購入・・・、何かの時の備えだ・・・。

 それから再びギルドへ戻る。


「あの定男とかいう奴が、クエストを続けて行って勇者となり、魔王と魔神を目覚めさせるように言っていただろ?

 初期レベルのクエストなんかじゃ面白味が薄いだろうが、我慢してこなしていくしかないだろうな。

 確かそれなりのアイテムももらえたはずだし、まずは、この村でのクエストをこなしてみよう。」


 初期レベルのクエストなど手分けしてこなしていけばいいので、チームとして引き受けた後で、一人ずつ分配することにしよう。

 そう思いながら、中央の柱に向かうと・・・、あれあれ・・・?やはりクエスト票はほとんど見つからない。


 昨日もほとんど見当たらなかったが、あれは東の森に巣くう魔物たちのおかげで新たな冒険者が登録されることができなくなっていたからだ。

 魔物たちがいなくなり、一応新規登録可能な状態には戻ったのだから、クエストが増えてもいいのではないのか?



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