湖でのクエスト
8 湖でのクエスト
『ブロロロロッ・・・キキィッ』「アンヘス湖に到着しました。」
中継車のドライバーが、後ろを振り返って告げる。
アンズ村からアレヘスに行く途中に通った道中にあった湖だ。
恐らく周囲が何キロもないだろう・・・小高い丘に囲まれた、小さな湖のようだ。
丘に生えた木々の緑が映りこむ穏やかな湖面には、魔物が生息するとは想像もできない。
「ここにタコ真珠貝が眠っているという訳だな・・・どうやら素潜りという事になりそうだな・・・。」
まあ、アンケートでも泳ぎは達者という事にしてあるから不安はないのだが・・・。
『バタンッ』中継車から降りて、湖までの下り坂を降りていく。
「あそこにボート乗り場のようなところがありますね・・・、行ってみませんか?」
湖のほとりに桟橋があり、その脇に小さな小屋が立っている。
桟橋には手漕ぎボートがつながっているので、源五郎の推測通りボート乗り場で間違いはないだろう。
「あれ?あおぞらかんこうグループって書いてあるよ・・・。」
小屋の屋根に掲げられた看板を見上げたレイがつぶやく・・・そうだな・・・どこかで聞いたような・・・・。
そうか・・・あの姉弟の会社・・・、だったな・・・。
『ガチャガチャ・・・』ううむ・・・小屋の扉が開かない・・営業していないのだろうか・・・?
「こんにちはー・・・、この湖に生息するタコ真珠貝というのを採取しに来たのですが・・・ボートをお借り出来ませんか?」
小屋のガラス戸越しに声をかけてみる。
(・・・ってないよー・・・)
『ガチャガチャ・・・ゴンゴン』「こんにちはー・・・!ボートを貸してもらえませんか?」
返事がないので、扉を開けようと動かしたり、軽くたたいたりしながら呼びかけてみる。
『カチッ・・・ガラガラガラッ』「うるさいなあ・・・、営業していないって言っているだろ?
この湖にはタコ真珠貝っていう魔物が住み着いて、そいつが神経性のガスをまき散らすものだから、湖をボートで遊覧なんてことが出来なくなっちまったんだ・・・、ボートに乗りたいんなら別のところへ行ってくれ。」
ようやく扉が開いて、出てきたのは髪の長い巨乳美女だった・・・。
「いやあ・・・俺たちはそのタコ真珠貝というのを採取するためにやってきたんだ。
だからボートを貸してくれ・・・いくら小さな湖とはいっても、泳いで行って潜るには限界があるからね。」
寝ていたところを起こされたのか不機嫌そうな巨乳美女に、ここへ来た目的を告げる。
「ふうん・・・あんたたちが・・・あのタコ真珠貝を・・・?
無理だね・・・命は一つだ・・・悪いことは言わない・・・あきらめて帰りな。」
『ピシャンッ』そう言い残すと巨乳美女は、小屋の中へと引っ込んで扉を閉めてしまった。
どうにも青空観光グループの人たちは、冒険者を軽んじているていがあるな・・・。
『ゴンゴンゴンッ』「だから・・・、俺たちはタコ真珠貝とやらを採取しに来たんだって・・・。
ペレヘス湖南の蓮鳥も退治したし、湖北のライガー蝙蝠とか・・・さらにパラボラアンテナ施設に巣くう魔物たちを一掃して、中断していたパラボラアンテナ施設建設を再開させたくらいさ。
それでお礼にって、青空観光グループの乗り物券や宿泊券を頂いたぞ。」
メガネっ子の巨乳美女に頂いた、乗り物ただ券と金色の宿泊券を袋から取り出して掲げて見せる。
『ガラッ』「ちょっと見せな・・・。
ふうん・・・どうやらあんたたちが、社長が言っていた冒険者たちのようだね。
分かったよ・・・ボートを貸すよ・・・だがねえ・・・さっきも言った通り、湖中タコ真珠貝が吐き出す毒ガスのおかげで、湖面に近づくだけでも死んじまうんだ・・・。
幸い空気よりもずいぶんと軽いガスのようで、すぐに高くへ上昇しちまうし、そのうえ空気中に長時間滞在すると毒性が無効化されちまうようだから、周囲への汚染にはならないようだが、湖面は危険だ。
さらに湖の中はもっと危険だ・・・素潜りなんかしたら、恐らく肌はただれて溶けちまうよ。
それでも刺激を与えなければおとなしいもんさ・・・ただ湖の底でガスを振りまいているだけで、他の地域への影響はないもんだから、役場も駆除をしようともしてくれないので困っていたところさ。」
長い髪の巨乳美女が、恐ろしい現実を告げる。
「あっああ・・・そうなのか・・・湖面に漂うガスであれば・・・俺たちは防毒マスクを持参しているから平気だ・・・だが問題は湖の中だな・・・ドライスーツは持っているが・・・水の侵入は防げても、毒ガスは入ってきてしまうな・・・防毒マスクは水の中では使えないし・・・。」
ううむ・・・困ったことになったぞ・・・。
「ああ・・・それなら大丈夫だ・・・もともとこの湖はシジミが豊富で、湖の底を掻いて漁をする駕籠かき漁の習慣があったんだ。
駕籠かき用の道具を貸してやるから、それを使いな・・・。
ちょっと待ってろ・・・」
巨乳美女はそう言い残すと、すぐに引っ込んでいった・・・だが、今回は扉を閉めずに行ったから、すぐに戻ってくるつもりだろう。
「ほらっ・・・これを使いな・・・。
ボートは桟橋に係留しているボートのどれを使っても結構だ・・・、あたしは防毒マスクなんてぇもんは持っていないから、あんたたちが勝手にやってくれ。」
巨乳美女は恐らく10メートル近くはあるだろう長い長い竹の先に、これまた竹で編んだかごが付いたものを4本持ってきてくれた。
細かく竹で編み上げているが、かごの一方は開いていて、そこには鋭いステンレス製の櫛刃がついているようだ。
この部分で湖の底をさらって、かごの中へ貝を入れていくのだろう。
「分かった・・・ありがとう・・・それはそうと・・・貸しボート代はいくらなんだい?」
そういえばボート代を聞いていなかった・・・流石に踏み倒すわけにはいかないから、きちんと聞いておかねばな。
「ああ・・・あんたたちは青空観光グループの乗り物ただ券をもっているんだから、タダさ・・・。
どうせ・・・この湖に巣くう魔物を退治してい頂くわけだしな・・・お代どころかお礼に何か進呈したいくらいさ・・・まあ、上手く退治してくれた場合だがね・・・。」
巨乳美女はボート代はとらないと言ってくれる・・・ううむ、ここもただか・・・ありがたいありがたい・・・。
「じゃあ・・・頑張ってくれ・・・悪いが・・・あんたたちが湖の上でどうなろうと、あたしは助けには行けないからね・・・それだけはきちんと頭の中に入れたうえでボートに乗るかどうか検討してくれ。」
『ガラガラピシャン』巨乳美女はそういうと小屋の中へと引っ込んでいった。
「じゃあ・・・昨日に引き続いて、防毒マスクを使用する・・・念のためにフィルターを交換しておこう。」
源五郎と一緒に、レイとツバサの分もマスクのフィルターを交換してやり、各自装着する。
そうしてそのまま桟橋へと向かい、手漕ぎボートを物色する。
長いこと使用していないのか、ボートの中には落ち葉など散らかっているが、穴が開いている様子はなく、オールもあるし十分使えそうだ。
「ようし・・・じゃあ、早く終わらせるためにも2組に分かれよう。
組み合わせは・・・。」
「じゃあ、あたしはダーリンと一緒・・・。」
組み合わせを決めようとしたら、レイの奴はすぐさま源五郎の腕をつかんで、目の前のボートに乗り込んでしまった・・・まあいつものことか・・・。
「じゃあ、あたしたちはこっちのボートで・・・。」
ツバサが、隣の手漕ぎボートへと乗り込む。
「ようし、じゃあ、念のためにクエスト票を確認しておく・・・この情報だけをうのみにしてはいけないのだがな。
タコ真珠貝・・・その名の通り大きな真珠が取れる希少種。
湖底に潜んでいるときに猛毒のガスを振りまき、外敵を駆逐する。
毒の成分は空気中では無効化されるため、湖から出してしまえばほぼ無毒。
毒ガスの効果はAZ、防御力もAZとなっている・・・まあ、つい先ほど聞いた通りのようだな。
じゃあ、急ごう・・・。」
今日もクエストを早く終わらせれば、またカジノへ行くことが出来る・・・何せまだ100コイン残っているからな・・・レイたちだって乗り物券が残っているって言っていたし、遊園地へ行くことに反対はしないだろう。
早めに終わらせるに限る・・・。
「おーえすおーえす・・・。」
ツバサと2人でボートに乗り込み、湖中央部へオールで漕ぎだす。
その間ツバサは、かごを湖底にまで降ろして、湖底を掻きながら進んでいく。
「はい・・・ちょっと止まってください・・・随分とかごが重くなりましたから、一旦持ち上げます。」
『シュタタタタッ』ツバサはそういいながら、長い竹を繰り上げながらかごを引き上げていく。
『ザッパァーンッ』やがて大量の砂と水があふれだすかごが持ち上げられた。
『ガラガラガラガラ・・・』ツバサが水を切った後でかごの中身をボートの中へとあける。
「ううむ・・・砂ばかりだな・・・貝らしきものは入っていない・・・。」
砂をかき分けてみるが、少し大きめの石ころと砂しか入っていそうもない。
「もう少し湖の中央へ行ってみよう。」
『ザザザッ・・・ザザザッ』先ほど開けた小石を湖へ戻して、再度出発する。
「おーえす・・・おーえす・・」
駕籠で底を掻いているせいか抵抗となりボートを漕ぐのが少ししんどく、なかなか思ったように進んでいかない。
「はい・・・また止まってください。」
『シュタタタタッ』『ガラガラガラガラ・・・』ツバサが急いでかごを引き揚げ水を切ると、中身をボートの中に開ける。
「おおっ・・・貝らしきものが入っているぞ・・・。」
砂と小石に紛れて、大き目のホタテ貝ほどの大きさの2枚貝がひとつ入っていた。
「ようし・・・少しここいらで底を掻いてみよう。」
俺もかごを湖に降ろして、長い竹を揺らしながらそこを掻いていく。
『シュタタタタッ』『ガラガラガラガラ』そうしてかごを持ち上げると水を切り、中身をあける。
「ほうら・・・1個ゲット・・・。
どうやら吐き出すガスの泡を見て、そこを狙えばいいようだな・・・先ほどから湖面を見ていると、ごくたまに湖面にあぶくが出ているところがある・・・そこにタコ真珠貝がいるようだ。
レイと源五郎も聞いてくれ・・・湖面に泡が出ているところを狙うんだ・・・!」
「はーい・・・こっちも今そこに気が付いたところです・・・。」
源五郎たちのボートへ呼びかけると、向こうでも気づいた様子だ・・・。
「じゃあ、ここいらにはもう泡は出ていないから、移動しよう・・・。」
次の泡を探してボートを移動させる。
「僕たちは、向こう側を探してみます。」
湖面から、獲物の居場所がわかるというのであれば、効率が格段に上がる・・・源五郎たちは早速はるか沖へと漕ぎ出していった。
「じゃあ、ツバサはこっちの泡を狙ってくれ・・・俺はこちら側の泡を狙ってみる。」
ボートの左右に泡が出ている地点で、ツバサとともにかごを湖底に垂らし掻き始める。
『ガラガラガラガラ』「1個ゲット・・・。」
「こっちも1個入っていました・・・。」
貝もつがいで生息するのか、2個ペアでまたもや採取できた。
しかし、こんなに簡単なクエストでいいのだろうか・・・まあ、防毒マスクを携帯していなければできないクエストではあるのだが・・・。
『ガラガラガラガラ・・・ガチャ』「はい・・・、これで50個目です・・・。」
ツバサがボートに開けた砂の中から貝を選別して取り出し、ボートに積んであったバケツの中に放り投げる・・・。
タコ真珠貝は大きいので、10個も入れると小さなバケツはいっぱいになってしまい、ボートの4隅と中央にバケツを置いてそれぞれ10個ずつ入れている。
そういえば・・・捕獲用の袋をもらっていなかったな・・・貝をそのまま冒険者の袋の中に入れると中身に臭いが付きそうで嫌だな・・・このバケツを借りられるか聞いてみよう。
恐らくもう湖の半分は回っただろう・・・源五郎たちの分を含めれば、これで終了と考えてもいいはずだ。
それほど大きな湖ではなく、また点在して分布していたようだから、まあ、こんなものだろう。
「じゃあ、引き揚げるとするか・・・。
まだ湖自体に溶け込んでいるガスが立ち込めているだろうからマスクは外せないが、恐らく湖の中のタコ真珠貝は採取し終えたと思うよ。」
ツバサとともにかごを引き上げて、桟橋へ向かってボートを漕ぎだす。
「おーい・・・そっちはどうだった?こっちは大漁だぞ・・・。」
ちょうど源五郎たちのボートも戻ってきたので、バケツを持ち上げて呼びかけてみる。
「こっちもそうですよ・・・50個ほど取れました・・・。」
源五郎も同じくバケツを持ち上げて答える。
向こうも50個か・・・合わせて百個だな・・・。
源五郎たちのボートと合わせて並走する・・・。
『ガタガタガタッ』すると突然、貝を入れたバケツが揺れ始めた。
「なんだなんだどうした?」
『ビュッ』どうしたのかと思いバケツの中を覗くと、何か吹きかけられた・・・突然視界を奪われる。
「うわ・・・、前が見えない・・・!」
背後から、源五郎の悲鳴が聞こえてくる・・・どうやら向こうも同じ状況のようだ。




