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遊園地と勉強

2.遊園地と勉強

「うわあ・・・こりゃあすごいな・・・。」

 俺たちが向かった先には大きな市場があったのだが、客はほとんどおらず店の人に話しかけても、これといった情報は得られなかった。


 仕方がないので道具屋では売っていない、ご当地物のアレヘス牛のしゃぶしゃぶ弁当やステーキ弁当など販売していたのでレイたちの分も購入して、冒険者の袋に入れずに手提げ袋をもらった。


 そのほか開いている施設などもほとんどなく、街はずれまで来たところ、きらびやかなネオンで飾られた巨大な施設が目に飛び込んできた。


「いらっしゃいませ・・・お二人様でございますか?」

 解放された大きな鉄製門扉の柱の奥の受付の女の子が、声をかけてきた。


「えっ・・・入れるのかい?」

「ええ・・・今は開園時間ですから、どなたでも入場できますよ・・・乗り物に乗るには遊戯券が必要ですが、入場料は無料です。」

 若い受付嬢は、笑顔を振りまいてくる。


「開園時間は何時から何時までだい?」

「遊園地は午前10時から午後9時までですが、併設されているカジノは24時間営業です。」


 受付嬢が笑顔で答えてくる。

 かっ・・・カジノまであるというのか・・・?こりゃあすごい・・・。


「あっありがとう・・・ちょっと連れを呼んでまた来るよ・・・。」

 ツバサと一緒に急いで引き返す・・・今からならまだ少しは遊べるだろう。



 ダッシュでギルド前まで戻ると・・・すでにレイたちが待っていた。


「こちら側は、これといった施設はありませんでした・・・何せ人通りがほとんどありませんでしたからね。

 それでも市場を見つけて、ご当地名物の地鶏弁当といったものがあったので、皆さんの分も買ってきましたよ。

 そっちはどうでした?」

 源五郎が手提げ袋の口を広げ、中の弁当箱を見せてくれる・・・まあ考えることは同じだな・・・。


「ああ・・・こっちも一緒だな・・・。」

 弁当の交換を行い、お互いの冒険者の袋の中に収納する。


「まあ冒険とは関係ないのだが、こっち側の町はずれには大きな遊園地があった。

 営業時間は9時までだから、まだ少しなら遊べるぞ・・・。」

 レイに遊園地のことを教えてやる。


「えー・・・ほんと?行く行く・・・。」

 レイはすぐに飛び上がって喜ぶ・・・。


 この世界へ来てから、これといった娯楽もなかったからな・・・まあクエストを行うことが娯楽であるはずなのだが・・・それはあくまでも地球の本体がいて、実生活を送りながら冒険の世界を楽しむという環境だからこそだ。


 本体と離れて分身だけで生活していると、クエスト自体は娯楽ではなくどちらかというと仕事になってしまう。

 たまには息抜きも必要だろう・・・。



「パパー・・・見てみてー・・・。」

 メリーゴーランドの白馬の遊具にまたがり、レイが元気に手を振ってくる。


 遊園地の遊具は、予想通りというか・・・地球のものとほとんど変わりないものだった。

 観覧車にメリーゴーランドやジェットコースター、フリーフォール系の乗り物やお化け屋敷まであった。

 ジェットコースターだけでも数種類あるようで、とても1日だけでは回り切れないくらいに遊具が充実している。


 お客はほとんどいないので、待ち時間なしで乗り回せるのはうれしい。

 乗り物券は5枚つづりで何と1000Gというのはあまりに高すぎると感じたが、レイは迷わず購入した。


「源五郎・・・ちょっと相談がある・・・ツバサも一緒に聞いてくれ・・・。

 遊園地で我が子を遊ばせてやらねばならんと思った時にふと気づいたのだが・・・レイはまだ小学生だ。


 しかも低学年・・・あの外観に騙されてしまい、さほど違和感を感じていなかったのだが、レイは紛れもなく俺の娘で小学生なのだ・・・。」

 メリーゴーランドにレイを乗せている隙に、源五郎たちを呼び寄せて相談する。


「はあ・・・確かにレイちゃんは小学生ですよ・・・。」

 源五郎が頷く・・・。



「ふあー・・・ここのジェットコースターは、下が丸見えだからスリルがあって楽しいねー・・・次はっと・・・。」

 上から体を吊るタイプのジェットコースターを終え、笑顔でレイが戻ってくる。


 俺にはどうしてわざわざ金を使ってまで、あのような怖い乗り物に乗るのか理解しがたいところなのだが・・・まあ人それぞれの好みだから仕方がない。


「次はねえ・・・占いの館だね・・・。」

 レイに連れられて、ちょっといかめしい洋館の中へと入っていく。


「遥か東の地に、他の世界へと通じる道が開けておる・・・お前たちはそこから新たな旅へと進むだろう・・・。」

 頭からすっぽりと真っ黒なフード付きのローブをまとった女性が、水晶玉を眺めながら厳かに告げる。


 ふうむ・・・賢者のトンネルのことかな?遥か東の地にあるといいことのようだな・・・そこを通って他の大陸へ向かうという事のようだ・・・。


「もうそろそろ冒険放送の時間だから戻るぞ・・・宿をとって晩飯も食わなきゃならん。」

 先の見通しも付いたことだし、ギルド前の食堂で夕食の予定だったが、急きょ遊園地となったので、早めに宿へ行く必要がある。


「えー・・・まだ遊びたいよう・・・。」

 予想通りレイはむくれて頬を膨らませる。


「だめだ・・・もう遅い時間だからな・・・奥義を覚えるための特訓もするわけだし、まだこの町には当分いるのだから、いくらでも遊びに来られるから、今日はここまでにしておこう・・・いいね?」


 かわいそうだが、明日が来ないわけではないので、今日のところはここまでにしておく。

 それにどうせ5枚つづりの乗り物券は使い切ったはずだ・・・もう1000Gなんて無駄遣いはやめさせたい。


「はーい・・・奥義の特訓があるんじゃあ仕方がないね。

 でも、明日もきっと来るんだよ・・!」


 奥義を何としてもマスターしたいのだろう、レイは意外とあきらめはよかった。

 それでも目をキラキラと輝かせながら、明日も来ることを訴えてくる。


「ああ・・・レイがいい子でいたら、明日もまたここへ来ような・・・。」

 当分の間滞在するわけだから、こういった楽しみがあるのはいいことだな・・・。


『シュパッシュパッ』

「ああ・・・、もう帰りますか?分かりました・・・じゃあ、レイちゃん・・・これあげる・・・。」

 射的ゲームに興じていた源五郎が、景品の小さなぬいぐるみをレイに手渡した。


「わあー・・・ありがとう。」

 犬だかトラだか所属不明の動物のぬいぐるみだが、愛嬌がある顔をしているのでレイは嬉しそうに抱きしめた。


「おーい・・・もう出るぞ・・・。」

「ああ・・・はい、分かりました。」


『ブンッ・・・ドッゴォーンッ』『パンパカパーンッ』力士姿の人形と腕相撲するマシーンに興じていたツバサが、最後に力を込め打ち負かすと、横綱のランプが点灯した。



 ギルド近くの冒険者用の宿を取り、食堂でミーティングをする。


「さて・・・冒険放送も見終わったことだし・・・今日から授業を始めることにする。」

「授業???」

 レイが小首をかしげる。


「ああ・・・言ってみれば学校の勉強だな・・・レイはまだ小学生だから、学ぶことがたくさんある。

 だから、これから毎日暇を見つけては勉強するわけだ・・・この世界に来てから数ケ月経過しているわけだが、その間気づかなくて申し訳ない。


 だが今からでも遅くはない・・・まあ俺たちは学校の先生ではないし、本当の授業のようにはいかないだろうが、それでもレイが一人の人間として成長できるだけの学業は身に着けてもらいたちと考えている。」


 レイに深々と頭を下げて謝っておく・・・本当に父親失格だ・・・わが子の教育を忘れるとは・・・妻にばれたら大目玉を食らうところだ。


「ふうん・・・いいけど・・・どうやるの?教科書も何もないでしょ?」

 レイが不思議そうな顔をする。


「ああ・・・俺はどちらかというと理系だから、数学と物理と化学・・・算数と理科だな・・・を受け持つ。


 源五郎はオールマイティのようだから、俺には到底無理な・・・地理や歴史・・・社会だな・・・それと国語と道徳・・・生活になるのかな?・・・をお願いすることにした。

 ツバサには裁縫や調理などの家庭科と保健体育をお願いした・・・この辺は土地柄が変わっても基本部分は変わりないだろうからな。


 それで・・だ・・・まずはレイの学習がどこまで進んでいるのか、今習っていることを聞いておきたい。

 それをもとに資料・・・というか記憶を頼りに、教材らしきものを作ってみようと考えている。」

 とりあえず前段階として、レイが学校で受けていた授業の内容を把握しておく必要がある。


 すでに小学校の授業の記憶なんかないわけで、レイがどんな勉強を教わっているのか全く見当もついていない。

 仕事が忙しいのもあったのだが、娘の教育に関して完全に妻任せにしていたのが、今になって恨めしい。

 少し若い源五郎でさえも、自信がないようなので、確認するしかないわけだ。


「えーとねえ・・・、まだ3年生の学習が始まったばっかりだから、あまり詳しくはわからないけど、算数はねえ・・・」

「ええっ・・・掛け算に割り算・・・図形やグラフ???最早そんな難しい問題を・・・?」

 レイから聞いた内容は、驚きの連続だった。


 小学校の3年生なんてせいぜい四則演算のうちの足し算引き算くらいだと思っていたのに・・・ううむ・・・参った・・・。

 理科も生物があるので、こちらは教材がないと何とも難しいことになりそうだ・・・。


「え・・・えいごも・・・か?」

「うん・・・あたしが行っている小学校は・・・低学年から英語の授業があるんだよー・・・。」

 レイが平然と答える・・・、英語なんて中学校に入ってからやるもんじゃないのか?


 そりゃあまあ・・・こんなものアメリカへ行けば子供だって話すんだから、誰だって小さなうちからなれていれば立派に話せるようになるんだと、ある程度年齢が行ってから授業に突然入ってきた語学に対して、できない理由を必死に考えていたものだが・・・日本社会に英語学習がすでにそこまで浸透してきているとは・・・。


 ほかにもお絵描き・・・美術と・・・書道に音楽の授業もあるようだ・・・かなりハードルが高いな・・・。


「英語なら・・・僕が何とか教えられますよ・・・、仕事柄、外国の会社との付き合いも多いものですから・・・。」

 源五郎が頼もしいコメントをくれる・・・、たすかったぁー・・・。


「あのー・・・こちらでの滞在が長くなるようですから・・・一度アンズ村まで戻ってあたしが子供のころに使った教科書を持ってきましょうか?


 呼びかければ道場に来ている子供たちの使った教科書も集められるでしょうから、最近の学習用も用意できると思いますよ。

 お聞きしていた限りでは、算数や理科に関して大きな違いはないと思います。


 学校の授業に関しては、この星の以前からある知識に加え、大空翔さんが監修した学習要綱に従って作成されているものと聞いていますから、地球のものと近いはずです。


 ほかにもお絵描き工作に関しては、それほど大きな違いはないのでそのままの教材を使えるでしょうし、音楽に関しても、楽器類は大空翔さん考案のものがいくつもありますから、それで行けると思います。


 次元を超えることになりますが、送る方と受け取る方、双方が同時に願えば叶うはずです。

 早速今日の放送で呼びかけましょう。」


 困惑しているとツバサから思いもかけなかった提案が・・・そうか・・・この星の学校教育に関しても、大空翔が影響を及ぼしているわけか・・・それは大変ありがたい・・・。


「そうだな・・・いろいろな学年の教科書が手に入れば、今レイが受けている学習内容に合わせて教科書を選択すればいいわけだからね・・・それは助かる・・・。

 早速テレビスタッフにお願いして呼びかけのビデオを作って、そうして明日にでも一旦戻るとするか・・・。」


 せっかくここまで来てまた戻るというのももったいない話だが・・・しかもアンズ村までは1日以上かかってしまうというのに・・・往復で2日半から3日かかる換算だが仕方がない。


 あの時に気づいてさえいれば・・・と後悔しきりなのだが、まあ防具の修復に1週間かかってしまうという事由が、罪悪感を薄めてくれる。

 その後、それぞれの担当部分の学習内容をレイから聞いて、それをメモしておくことにした。


 そうしてテレビスタッフを呼び出し、ツバサ出演のビデオを作製してもらい、本日分放送の最後に流すよう依頼する。

 食事をしながら冒険放送を見ると、最後にツバサのメッセージが放送されたので一緒に祈る。


 いまだにパラボラアンテナ施設のダンジョン攻略を放送しているのだが、まあ、ほぼ3日間休みなく活動していたのだから、当面は放送内容に困ることはないだろう。

 まとめて検閲しておいたから、俺の負担も軽減されてありがたい・・・食事後は、奥義取得のための特訓だ。


「では・・・どの奥義を取得するにしても、体術をある一定の領域にまで高めておかなければなりません。

 そうしなければ奥義を発動できませんし、無理をすれば体を壊してしまう事になります。

 幸いにも皆さんは最高レベルの経験値でこの世界にやってきているので、体力及び技術面でも非常に高いレベルにあります。


 それは今まで皆さんと一緒に冒険を続けていた時にある程度分かっていましたし、昨日野営したときに体力測定を実施し確認できました。

 恐らくそのまま奥義を発動しても、十分こなせるレベルであると考えます。


 それでも奥義を発動するには強い精神集中が必要となり、それが伴わなければ真の威力は望めません。

 それと精神と体のバランス・・・皆さんの戦い方を見ていると、強力すぎる体力技術にそれをコントロールする意識が伴っていないように感じます。


 恐らくそれは長い訓練や戦闘で身に着けた体力技術ではないからだと推測されますが、まずは皆さんが保有している体力技術のレベルにまで精神を成長させる必要性があります。

 その第一段階として、精神集中力を高めるための禅をしましょう。」


 ハードなトレーニングが課されるのかと思ったら、宿の板の間を借りて全員が胡坐をかいて黙とうするよう命じられる・・・いわゆる座禅だな・・・。

 おのが能力を認識して、それを最大限発動させるよう技量を認識するというのは、常に心掛けてトレーニングしていたのだが、それをさらに加速させるという事のようだ。


 そうはいっても、明日からまたもやアンズ村へ戻って、すぐに取って帰ってくるという強行スケジュールだから、トレーニングは少なめにして、少し早めに就寝することにした。


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