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Anomie  作者: 椎葉
第2章 処刑人
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9:対抗法

 僕は今、今河班と合同で見回りをしていた。

もし『例のゾンビ』が現れたら、如月班だけでは対処しきれないかもしれない。なんといっても、奴には刀が通らない。

 銀座の見回りは橋根班に任せて僕らは今浅草の街を歩いていた。

あのゾンビが現れたのはここらしい。


 「どうするんだよ、透……」

修也が頭を搔きながら言った。

「奴には刀が通じないんだろ!?じゃあ俺らの武器じゃ駄目だぜ」

「分かってるよ」

僕はある言葉を思い出した。

「かつて羽角さんは言ったそうだ。“弱点の無いアンデッドはいない”と。どこか必ず弱点はあるはずだ」

「そんなこと言ってもよ……」


 昨日の雨は降ったり止んだりを繰り返し、道にはまだ水溜まりがいくつかある。かつての歓楽街も今じゃ廃墟になっている。前にもここに来たことはあったが、なんだか寂しく感じた。

 「とりあえずここで待っていよう」

僕らは置き去りにされた店の看板の前に腰を下ろした。

アンデッドには嗅覚が優れたものがおり、生物の匂いを辿って襲いにくることがある。

つまり、ここでじっとしていれば遭遇する確率は高い。


 「早く来ませんかねぇ」

軌琉が呟いた。僕らの不安を他所に、軌琉はなんだかわくわくしている。

遼も軌琉と同じようにそわそわしている。落ち着いてはいるが。


 「おい、本当に来ねえぞ」

待ちながら30分が経過し、修也が不安げに言った。

「そうだね…、時間的にもベストだと思ったんだけどな……」

「場所を変えますか」

武子の提案に僕は頷いた。


 僕等はさっきの場所からさほど離れていない、歓楽街の端に来た。

少し歩き疲れたので、傍にあったベンチに腰掛けた。雨で少し濡れていた。

 ここも駄目だったらまた場所を変えるつもりだ。


 風が少し強まった。風が街のあらゆるところを通り抜けて鳴る音は何かの断末魔みたいに不気味に思えた。


 「来ないね」

僕は立ち上がって周囲を見渡した。

「そろそろ行くか?」

修也も立って訊いた。

「そうだね。奴が嗅覚に優れているとも限らないし」

僕のその言葉に晋平がホッと息をついた。


 しかし僕はその瞬間、風の音に紛れた唸り声を聞いた。


 「上だ!」

僕が叫んだのと同時に、コンクリートの地面が割れ、土煙が巻き起こる。

間一髪で躱した僕等は、瞬時に距離をとる。

 「お出ましだ………」

土煙の中から現れたのはやはりアンデッド。

それも、僕等が探していた奴だ。


 「こんなに早く出会えるとはな………」

修也はそう言い、そのアンデッドの姿をまじまじと見る。

全身はアルマジロのように硬い外殻に覆われており、体長は普通のゾンビより少し大きい。そして、黒い身体に眼だけが紅く光っていた。先ほどの攻撃を見る限り、動きは俊敏で一定の知能を有している。間違いなく他とは一線を画す存在だ。

「うわぁ………」

思わず腰を抜かしてしまった晋平を横目に捉えながら、僕は目の前の敵を睨みつける。

 緊迫した空気が流れる。


 そんな状況を意に返さず、軌琉がアンデッドに向かって突っ込んでいった。

「ま、待て軌琉!」

修也の指示を聞かず、軌琉は相手に近づきながらズボンの革製のポケットを開いた。

そこから取り出したのは小さなナイフ。

どうやら軌琉はナイフを武器とするらしい。


 軌琉はすばやくアンデッドの喉元に斬りかかったが、やはり弾かれてしまう。

そこに隙が生まれた。アンデッドは軌琉の身体を掴もうとしたが、軌琉はバク転をしてそれを躱した。


 驚くほど俊敏な動き。その動きに圧倒されて、僕らはアンデッドに立ち向かうのも忘れて立ち尽くしていた。

 ハッ、と我に返った修也は、

「今河班、行くぞ!」

と言ってアンデッドと対峙した。


 1体のアンデッドに大人数で対峙するのはあまり得策ではない。

僕は「如月班は今河班のバックアップだ」と指示をだした。


 「フッ!」

軌琉は全くひるまずに攻撃を重ねていく。だが、相手にもダメージは無いように見える。

跳び退いてアンデッドの攻撃を躱した軌琉は、流石に攻撃をやめた。

「僕のナイフは通用しませんね」

「ああ。俺の刀でも弾かれるからな」

修也は刃先が少し欠けた刀を軌琉に見せた。


 それでも何度か攻撃を重ねていくと、だんだんと外殻が脆くなり、崩れていっているように見える。

「分かるか、修也」

僕は攻撃を緩めずに修也に問う。

修也は「ああ」と頷いた。

 「胸部を狙え!外殻を削ぎ落すぞ!」

修也はそう指示を出すと、刀でアンデッドの胸部を突いた。だが、一発ではびくともしない。


 しかし必ず勝てるはずだ。コイツの弱点はこれだ。

奴の外殻は、どんな攻撃からでも身を守る“最強の盾”ではなかったのだ。

とはいっても、こちら側の武器も限界を迎えている。


 僕は立ち尽くす晋平に駆け寄り、その刀を取った。

「えっ」

晋平は驚きの声をあげるが、僕は自分が使っていたボロボロになった刀を晋平に握らせた。

「そっちを使って」

僕は晋平の刀で力強く胸部を突き刺そうとした。だが、腕の外殻で防御されてしまう。

「一筋縄じゃいかないか……」


 戦っていて分かったが、どうやらこのアンデッドの外殻は胸部、頭部に近づくにつれて硬くなっているということだ。つまり、腕や足の外殻は、胸部や頭部ほど硬くない。

 それは、胸部には心臓、頭部には脳という大事なパーツがあるからだ。

ウイルスが、無理矢理心臓を動かす信号を脳から送っているのだ。だから、動く心臓を止めればアンデッドも数秒で死に至る。そして、頭部より胸部のほうが狙いやすい。


 「オラッ!」

修也の力強い一撃が、左腕の外殻を破壊した。すかさず軌琉がナイフで左腕を切断する。

「よし!」

これで攻撃が当てやすい。

 右腕の外殻を破壊していた遼は、それを見て、刀を構えなおした。

そして真っ直ぐに、胸部、ちょうど心臓のあたりに刀を突き刺し斬り裂く。

 外殻は崩れ落ち、胸からは血が噴き出した。

遼の新しい刀は、この硬い外殻を貫くほどの切れ味を持っていた。


 刀を引き抜くと、アンデッドはぐったりと倒れ、やがて動かなくなった。

「へえ、やるじゃん、遼くん」

軌琉が馴れ馴れしく肩を叩いてきた。遼は鬱陶しいと言わんばかりに睨みつけるが、軌琉は意に返さない。

僕等はその光景をヒヤヒヤしながら見ていた。

晋平が「またラストは遼かよ」と呟いた。

おまけ


透「そういえば修也、誕生日おめでとう」

修也「お、サンキュー。ちょっと遅いけどな」

透「うん。一昨日だったよね確か。4月27日」

修也「ああ」

透「ごめんね。作者が多忙で祝えなかったんだ」

修也「…?」

透「こうやってキャラの誕生日決めてる人珍しいし」


修也「……?なんの話だ?」

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