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Anomie  作者: 椎葉
第2章 処刑人
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8:新たな脅威

 じめじめとした雨が降る中、僕らは東京都内の見回りをしていた。

「もう春だっつーのにこの寒さはなんだよ……」

「いやー、本当に寒いね……濡れたし」

JUCGの努力によりゾンビの数は着実に減っている。しかし、建物の中に潜むゾンビや、例の鳥もいる。油断は禁物だ。


 「おっ」

僕は銀座の街を歩いていたが、見たことのある後ろ姿を見つけて駆け寄った。

「橋根じゃないか」

橋根(はしね) (はる)。数年前に関西から引っ越してきた僕と同い年の女性だ。JUCGに所属している。

「あっ、透」

「橋根も見回り?」

「せや」

僕と橋根は顔見知りだが、その班員達は面識がないのでお互い無言で後ろについてくる。

「班長、さっさと行きますよ」

橋根班の若い班員が言った。橋根は「わかったわかった」と言い、班員の頭に手を置く。

「ほな、また」

「うん、またね」

橋根は自分の巡回ルートに戻っていった。


 「にっちゃん」

「うん?」

「さっきの女の人、誰?」

「うーん、まあ、同僚というか友達というか……」

「にっちゃんって意外と友達いるんだね」


 晋平の言葉が少し胸に刺さったが、「う、うん、まあね」と応えた。僕って友達いないと思われてたのか…?

 そうしているうちに、雨が強くなってきた。

「うわっ、雨宿りしよう」

僕らは近くのシャッターを下ろした飲食店の前に座って雨宿りすることにした。

もう意味を失った信号機が寂しげに佇んでいる。


 雨を見ながら僕は思った。

それにしても、さっきから街のいたるところが損壊していた。

前に見回りに来た時は気づかなかったが、この街は傷だらけだ。

いったい、こうなった原因はなんなのだろう。アンデッドが出現した原因。


 ――この世界を狂わせた原因。


 「銀座ってこんなにボロボロだっけ」

晋平もやはり思うようだった。

 もしかしたら、僕らが福島に行っている間に、東京(こっち)でも何かあったのかもしれない。

渡部からは何も知らされていないが…。


 「それにしても、中央区は随分とアンデッドもでなくなったね」

「我々のおかげですね」

中央区は基本的に、如月班、今河班、橋根班の3つの班が受け持っている。さらにその前までは、羽角が受け持っていたこともあり、確かに出現するゾンビやアンデッドは少ない。

 しかし他の区には多くのアンデッドがいる。中央区だけが極端に出現率が低いのも不気味といえる。

もしかしたらこの区には何かがあるのだろうか。


 そうこう考えているうちに雨が止んだ。

「雨も止んだことだし、行こうか」

僕らは立ち上がってまた歩き始めた。

 空には虹は架かっていなかった。今日もアンデッドは出現しなかった。


 洋館に戻ると、僕は母の部屋に入った。

「母さん」

「おかえり、透」

僕は編み物をしている母の正面に座った。

「最近はアンデッドも出ないから、楽だよ」

「いいことじゃないか」

確かにアンデッドがいなくなることは良いことだ。それは間違いない。ただ、多くの歴史がそうであったように、その背景は語られることが少ない。僕らを恐怖に陥れたアンデッド。彼らはどこから発生したのか。何の為に。それはまだ闇の中だ。


 「どうしたんだい、暗い顔して」

「えっ、あっ、なんでもない」

僕はごまかして、話題を変えようとした。母に心配をかけさせたくはない。

「そういえば、ヒナは?」

「最近、お友達ができたそうだよ。といっても、お隣さんだけどね」

外は危険だから、遊ばせることもできないのが申し訳ない。

「ヒナも遊びたい盛りかな」

僕は腕時計を見た。もうそろそろ任務報告会の時間だ。

「ごめん、来たばかりだけどそろそろ行かなきゃ」

「忙しいんだね、頑張りなよ」

「ありがとう」

僕は部屋を出て、今度は会議室へ向かった。


 「失礼します」

僕が会議室の扉を開けると、他の班長はもう揃っていた。

「遅かったですか?」

「いや、開始2分前だ」

僕は息をついて椅子に座った。折りたたみ式の長机には、資料が置いてあった。

「少し早いが始めようと思う」

渡部 義宗はコホンと席をして声の調子を整えてから言った。


 「その前に質問をしてもいいですか?」

橋根が右手を挙げて、張りのある声で言った。

「なんだ?」

「なぜ、今河班代表に軌琉くんが?」

任務報告会には、原則1班から2名代表で参加する決まりになっている。

通常、班長と副班長が出席する。しかし今河班は、班長である修也と軌琉が出席しているのだ。


 質問には修也が答えた。

「副班長は体調を崩してる」

「しかしなぜ、新入りの軌琉くんが」

橋根は、一度疑問に思ったことはどこまでも追究する性格だ。

「私が指示したのだ。軌琉は今河班での最高戦力になるだろうからな」

今度は渡部が答えた。

 どうやら『最高戦力』の軌琉くんには、少しでも早く任務での流れ等を掴ませておきたいようだった。

「へえ」

橋根もひとまずは理解したようだ。

 『最高戦力』と渡部が評した軌琉、いったいどれほどの強さなのだろう。


 その後の任務報告会では、やはり今河班も橋根班もアンデッドと遭遇していないということが分かった。対照的に、他の区では少数ではあるが遭遇したようだ。

「中央区は出現無し、か……。しかし油断はするな。引き続き見回りを頼む」

僕らは渡部の方を向いて「はい」と返事をした。

 「それともう1つ、資料を見てくれ」

僕らは言われた通りに資料を見た。


 そこには、新しいタイプのアンデッドが出現したと書かれてあった。

人がウイルスに感染した時になるゾンビのような姿なのだが、皮膚が異常に硬化しており、刀はまず通らないといったことらしい。


 僕はその時、確信した。

生物を化け物に変える狂気のウイルス。この謎を早く解明しなければ、JUCGはおろか、世界各国のUCGが、壊滅する危険性がある。

登場人物プロフィール


橋根 遙

アンデッド殲滅部隊所属 橋根班班長

22歳 B型

身長:161cm 体重:44kg

誕生日:8月24日

好きなもの:面白い人、カレー

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