7:新入隊員
「新しい隊員ですか……?」
僕は今、東京都JUCGに戻り、任務報告会に出席していた。
「そうだ」
今のJUCGの現状だが、海外にほとんどの戦力を持っていかれ、人手不足らしい。そこで人員を募集したところ、入隊する者が現れたらしい。
「入ってくれ」
義宗が指示すると、木製のドアが軋む音とともに、明るい茶髪の青年が入ってきた。
「挨拶してくれ」
茶髪の青年は、満面の笑みで自己紹介した。
「阿島 軌琉です。よろしくお願いします」
若いな、と思った。歳は武子くん達と同じくらいか。
それより。
「え、義宗さん、もしかして新入隊員って1人だけですか!?」
「ああ」
僕は拍子抜けした。
「阿島には今河班に就いてもらう」
突然だったため修也は「えっ」と驚いている。
「それでは今日は解散だ」
報告会に参加していた面々は席を立っていく。
義宗は修也に歩み寄り、肩に手を置いて言った。
「心配するな。若いがただの青年じゃない」
僕はそれを聞いて、軌琉を見た。
いったいどういう意味だろうか。
「修也さん、よろしくお願いします」
軌琉は明るい顔でそういった。
僕は自分の部屋に戻り、次の任務の資料に目を通した。
福島の任務が終わって間もないので、当分大きな任務はないだろう。
僕はあの日のことを思い出していた。
大量のゾンビ、鳥、アンデッド。
あれはおかしすぎる。異様だ。JUCGも原因解明に努めているが、群れをなして行動するアンデッドはあれ以来出没しない。調べるにも調べられない。
僕は、いやあの任務に参加した面々は誰もが思っているだろう不安がある。
――もし、組織化されたアンデッドが、僕らを襲いにきたら……?
そうなったら、規模にもよるが苦戦は必至。鳥、魚、小動物、この世界に存在する生物がアンデッドになり、襲いかかる。
アンデッドに組織を結成するような知能が無いとは言い切れない。実際、小規模だが群れも現れた。最上班のような武器でも対処しきれないかもしれない。
そうなればもしかしたら、あの羽角さんも東京に帰ってくるかもしれない。
尽きない謎が頭の中で交差し、僕はたまらず頭を抱えた。
「ダメだ、今はこっちに集中しないと」
僕は再び資料に目を向けた。
「うまし」
「また太るぞ、晋平」
その頃、如月班の班員は部屋で各々の時間を過ごしていた。
「いいじゃん武子くゥん、福島では何も食べれなかったんだから」
晋平は相変わらず菓子を食っている。今は国内ではもうそんなものの生産はされていない筈だが、晋平は賞味期限が大分過ぎた菓子を冷凍保存でいくつもストックしている。
「駄目だ、そういう惰性が透さんの足を引っ張るんだ!」
一袋完食したところで、次の菓子へと手を伸ばした晋平から、武子は菓子を取り上げた。
「あーッ、何すんだ!」
「お前はこれ以上食うな!さあ、ランニングにいくぞ!」
それを聞いた晋平は、「はあ?」と嫌そうな顔でいった。
「まだ福島の疲れとれてねえよ!なんでわざわざ自主トレなんかしなくちゃいけないんだよ」
「お前が痩せるためだろう!それにお前は福島でも少ししか戦ってなかっただろう!」
晋平は武子に力づくで連れ出される形で、外に出た。
「そういえば、遼は?」
晋平は走りながら武子に聞いた。
「なんだ?話す余裕があるのか?ペースあげるぞ」
「ちょ、なんでそうなんの!?」
武子は一瞬で晋平との距離を離していった。晋平が20分かけて追いつき、ようやく武子は話してくれた。
「遼は渡部さんのところへ行くと言っていたぞ」
「ハァ、ハァ、へ?渡部さん?ハァ、なんで?」
晋平は息を荒げながら訊いた。
「いや、それは分からない。遼のことだ、何か戦闘の秘策でも聞きにいったんじゃないか」
「ハァハァ、分かった、ハァ」
「よし、じゃあまたペースあげるぞ」
「は?おいおいおいおい!?」
当の遼は、洋館の廊下を歩いていた。
つい先程、渡部に新しい武器を持たせていただけないかと頼みにいった。透はどうせ使わせてはくれない、だからJUCG東京本部のトップである渡部に直接頼みにいったのだ。
渡部も“遼の事情”については知っている。新しい武器を使う許可が下りた。
とはいえ透の許可もなければ最上班のような武器は使えない。だから、今の刀より軽く、手入れさえ忘れなければ最強クラスの切れ味を誇る刀を選んだ。
早くあの刀を使う時が来ないか、遼は待ち遠しかった。
「遼くんだよね」
ふいに、後ろから声をかけられ、遼は振り返った。
「お前は、新入りの……」
「軌琉です」
軌琉は、屈託ない笑みを見せた。遼はそれを不気味に思った。
いったい、なんのために自分に接触してきたのか。
「なんの用だ?」
「やだなぁ、そんなに警戒しないでくださいよ」
この男、いったい何を企んでいる?JUCGに入隊した理由はなんだ?
「僕はただ、同年代の友達が欲しいだけですよ」
「それだけか?」
「それだけだよ」
妙に馴れ馴れしい奴だが、嘘をついているようには見えない。本当にそれだけだというのか。
「ふん」
遼は背中を向けて歩いて行った。
「遼くん、かぁ………」
軌琉は遼の背中を見て呟いた。
一方、透は3階の廊下を歩いていた。たった今、家族と話してきたのだ。頭が煮詰まった時はいつもこうして疲れをとっている。
ふいに、優しいギターの音が聞こえて、僕は立ち止まった。
角を曲がると、廊下の椅子に座ってギターを弾いている青年がいた。
青年は僕の姿を見ると、慌てて立ち上がった。
「すみません、うるさいですか」
「いや、僕は今通っただけだから」
青年は座り直すと足を組んで、再びギターを持った。
僕はしばらく青年が弾いているを見ていた。
「ギターが好きなの?」
「あ、はい。前までは、ミュージシャン目指してたんです」
「へー、すごいね」
「ギター弾くんだったら外でやれって思われるかもしれないけど、今はこんな世の中ですし、安心できなくて」
こんな若い青年の夢を、この世界は奪った。
「良かったら、一曲聴かせてくれない?」
青年は「えっ」と一瞬驚いた顔を見せ、すぐにギターのネックに手を置いた。
「曲の名前はまだ無いんですけどね」
そう言って、青年は歌った。歌はそんなに上手いわけではなかった。でも、曲調に合う優しい声だと思った。
――どうかまだ、希望捨てないで。
青年はそう歌う。この青年も、いろいろ悩むことはあるのかもしれない。
もしかしたらこの歌は、青年自身への歌なのかもしれない。こんな世界じゃもう夢は叶えられないけれど、歌っていたい。そんな願いが込められているのかもしれない。
「ありがとう。なんか元気出たよ」
「本当ですか、ありがとうございます」
僕は歩き出した。こんな青年も必死に頑張っているのだ。僕もまだまだ頑張らなくちゃ、と思った。




