6:制圧
寝起きで早々大量のゾンビと戦わなくてはならない状況になった僕は、とりあえず遼を捜すことにしたが、隊員たちは皆もう既にゾンビへと突撃していて、どこに遼がいるのかさっぱり分からない。
今は仕方ない。僕らも行くしかないようだ。
「にっちゃん……」
走りだそうとした僕の服の裾を、晋平が掴んだ。
「ん…………?」
「俺無理だよ、あんな数のゾンビ……」
晋平の足が震えているのが見えた。普段から戦い慣れていれば、どうってことないのだが…。
「まったく、世界の終わりじゃあるまいし………」
僕が再び走りだすと、武子も「ほら、行くぞ」と言って、晋平を抱えて走った。
「大丈夫だよ晋平君、ただ僕と武子君の傍を離れないでね」
僕はそう言うと、加速してゾンビの大群に突っ込んだ。
そのまま勢いを止めずに数体のゾンビを刀で突き刺した。武子も晋平を降ろし、戦い始める。
僕はゾンビを斬りながら、考える。
いったい何故こんな数のゾンビが急に出没したのだろうか?ゾンビを含むアンデッドは、基本群れをつくらない。ウイルスにより脳に異常をきたし、コミュニケーションをとるような知能が失われているからだ。ただの偶然にしては出来すぎている。
それに、この数。およそ80体くらいだろうか。こんな数のゾンビが1箇所に集まるのは不自然だ。
いったい、どうして……。
「ぎょえええええッッ!!」
突然、晋平の奇声が聞こえたので振り返ると、武子と晋平がゾンビに囲まれていた。晋平は殆ど戦力にならないので、武子が応戦しているが、かなり危ない状況だと言う事が見て取れる。
「まったく………!」
助けようと武子たちの方に向かうが、ゾンビが行く手を阻んだ。
「クソ……ッ!」
だがその時、修也が武子と晋平を囲んでいたゾンビを全て蹴散らした。
「修也……!」
「礼はいらんぜ」
その時、ものすごい勢いで何かが降ってきた。
「な………!?」
土煙から現れたそれは、飛行機で戦った鳥だった。
頭上を見れば、1羽だけでなく、数十羽もいる。
「マジかよ……」
思った以上に面倒な任務になりそうだ。
鳥は集まって巨大な塊となり、突っ込んでくる。
地上に大きな影ができる。
「おい!いくらなんでも、あれは無理だぞ!」
修也の叫びも空しく、鳥の大群はもう目前に迫っている。
しかしそこで、いきなり鳥の一匹が爆発し、周囲にいた鳥も吹き飛んだ。
大群はあっという間にバラバラになり、次々地上に落ちる。
「最上さん………」
最上は、得意げな表情で銃を構えていた。
「機内でもない、家の中でもない、こんな広い場所ならよー、俺の独壇場だな」
そういって最上は楽しそうにゾンビや鳥に銃を放つ。
本当に頼もしい人だ。
「鈴奈、そっち頼んだ!」
「はい!」
「神崎、お前は後ろを頼む!」
最上班の班員は巧みな連携でゾンビの数を減らしていった。
鈴奈は銃、副班長の神崎 智久は液体窒素を使った武器を使用している。どの武器も、扱い方に慣れれば相当な威力を発揮するものばかりだ。
「さすが最上班、あんなにいたゾンビがもうこんなに少なくなった」
修也がそう言った。確かに、100体以上は確実にいたゾンビが、もう40体くらいにまで減っていた。
「このまま押し切るよ!」
僕は刀を構え、一気に数体のゾンビを斬った。
「凄い……さすが如月さん」
「今河班は鳥どもを一掃するぞ!」
修也も班員に指示を出して鳥の数を一匹一匹減らしていった。
「よし、そろそろ終わりか………?」
「いやまだだ、あれを見ろ」
最上が指さした方向を見ると、ゾンビが攻めてきた方向から、さらに数十体のゾンビが見えた。
「嘘だろ………」
辺りを見たところ、こちら側にも被害はある。死人は少なくとも3人、怪我も数人。
この人数でのこれ以上の戦闘は難しい。
どうすれば………。
その時、誰かがゾンビの群れに走っていく姿が見えた。
「遼………!?」
武子がそう叫んだ通り、遼だった。遼は刀でゾンビを次々に斬り裂いていく。
「如月班の遼に続け!」
最上班もゾンビに向かって攻撃し始める。
「今河班!行くぞ!」
今河班も走っていく。他の2班も、士気を上げ突撃する。
そうだ。なんにせよ戦うしかない。
「如月班!怖気づくな!行くぞ!!」
遼は軽やかな動きでゾンビを斬り刻む。
僕は負けじと刀を振る。
――遼くん、君は確かに強い……。だがね、僕のことも!
僕は刀を構えて、姿勢を低くした。
そして、ゾンビを十分おびき寄せ、居合で数十体一気に斬った。
――甘くみないでもらいたい……!
僕だって班長である。まだまだ遼くんより実力は上だ。
武子も持ち味の腕力で左手に刀、右手は素手で戦うという独特な戦闘法を用いている。晋平は武子のサポート。そして遼は、俊敏性。最上班は強力な武器もあり、確かに強いかもしれない。だがJUCG隊員の素質は武器だけじゃない。
暫くしてやっと、ゾンビの殲滅を完了することができた。こちらの被害は大きい。事前の予測数を大幅に超えて、相当な数と戦ったはずだ。およそ200くらいか。
ひとまず僕らはいったんテントに戻ることにした。
東京の渡部からの指示で、今日は拠点で準備を進め明日からの二日間で福島を回って県内に残ったアンデッドの殲滅と民間人を捜索することになった。戦闘の後処理は仙台拠点の方で人員を捻出してくれるそうだ。三日後には東京に戻っているわけだが、なにせ、いきなりこんな数を相手にしたのだから全身筋肉痛は勿論、疲労もかなり溜まっている。
僕は母から貰ったバングルを見た。今回、大規模な任務だったが如月班の班員は誰一人死ななかった。このバングルのご加護のおかげかもしれない。
――これからも、どうか僕らをお守りください。
「…………なんてね」
僕は曇った空に薄笑いを放り込んで、テントの中に入っていった。
この先も、決して何かを失うことは無い。根拠の無い瞭然とした思いを抱いて、僕は深い眠りについた。
とにかく、この疲労で明日からの任務は辛い。
任務記録報告
福島での任務にて、多数のアンデッドに遭遇。これを殲滅することに成功。
後に民間人の捜索を本格的に開始するも発見に至らず。以降は仙台拠点の隊員で捜索・後処理を請け負って頂けるとの事で、任務完了とする。
任務二日目、極めて多数のアンデッドが我々の拠点を襲撃した際、不自然にも群れをつくるようにして同時刻の襲撃だった。その理由を解明することも、任務と並行して行うことを推奨する。




