10:兄弟
「いやぁ、まったく暇ですねぇ」
ここは今河班の班員の部屋。今河班はここで今、資料を見ている。
「暇だと思うならちゃんと資料を見たらどうだ?」
修也は1人ソファーに腰掛ける軌琉を叱りつけるように言った。
「まあまあ、軌琉だってまだ慣れてないんですよ」
そうやって軌琉をかばったのは副班長の新垣 隼人だ。
「隼人……。いくら軌琉が実戦に強いといえ、基本がしっかりしてないと駄目なんだ」
「つーかそれ、なんの資料なんですか?」
軌琉の質問に修也は呆れ顔で答えた。
「最近新種のアンデッドばかり出るだろ。だから今解明されている奴らの特徴や弱点をまとめたものだ」
「へー、そうなんですね」
軌琉は全く関心が無いようだ。
戦闘を楽しむ性格の軌琉なら、敵の事が記されたこの資料に食いつくと思ったが、そうでもなかったようだ。
――掴みどころの無い奴だ。
それが軌琉への正直なイメージだった。
真面目なようで不真面目、かと思えば妙に真面目になるところもある。社交的なようで内に隠された秘密めいた何かを感じる。
何かを企んでいる訳ではないだろうが、警戒しておく必要がある気がする。
修也は、軌琉を横目に見ながらそんなことを考えた。
「そういえばゾンビとアンデッドって何が違うんですか?」
軌琉のその質問に、修也はおろか、隼人でさえも唖然とした。
「軌琉……、それは基礎中の基礎だぞ」
修也は溜息交じりに言った。
「そうなんですか?」
「それを知らないでよく任務に望めるよな……。まあ、UCGの定義じゃ漫画とか映画とはちょっと違うからな」
修也は頭にはてなマークを浮かべる軌琉に教えることにした。
「いいか。まずアンデッドと言うのは、生物がウイルスに感染した際になる化け物だ」
「ウイルスってインフルエンザとかのやつですよね?」
「まあ、そうだ。一般的な病のウイルスとは全く異なる性質だがな」
軌琉は身近なものに例えて一応理解しようとしているようだ。
「そのウイルスは傷口から侵入し、身体の自由を奪いながら脳へと進んでいく」
「粘膜や呼吸からも感染するのかどうかはまだ判明していない」と、隼人が付け足した。
「ああ。そしてそのウイルスが脳に到達した時、感染した生物は思考能力を失うそうだ」
「それがアンデッドですか」
修也は頷いた。
「そしてアンデッドは食料を求めて無意識に動き回るというわけだ。ここで注意するべきはアンデッドは“蘇った死体”という意味だけではなく、“死なない存在”ということだな。」
「死なない?」
「お前に言っても理解してもらえるかわからねえが、undeadってのはdeadに否定のunがついた単語だ。勿論アンデッドも死ぬが、首を斬るか脳か心臓を完全に破壊するまで生きてるだろ?」
軌琉は辛うじて理解できているようで、それなりに理解の反応を見せる。
「それで、ゾンビというのは?」
「ゾンビは、既に死んだ人間がアンデッドになった状態のことを言う」
「あ、なんとなく分かってきました!」
「最近はアンデッドになり共食いを起こしすぎた犬が、突然変異でもう2つの頭部のようなものが生まれる“ケルベロス”も出てな」
「なるほど。じゃあゾンビもそのケルベロスも、アンデッドなんですね?」
「そういうことになるな。物分かりが良くて助かるぜ」
軌琉が理解してくれたようで、修也も安心した。
「それを踏まえたうえで、資料を見ろ」
「え、嫌ですよ」
「何言ってんだ。少しでも敵の弱点を覚えた方が実戦で役にたつだろうが」
「僕には関係ないですよぉ、どうせ倒しちゃうんだし」
「いいから」
……まったく、本当に掴みどころの無い奴だ。
一方、透は1人洋館の廊下を歩いていた。
「あー、暑い」
つい最近まで寒さに震えていたというのに今月のこの暑さは一体何だ。
この洋館は1つ1つの部屋の風通しはいいが、廊下は窓があまりついていないので相当暑くなる。
僕は額から汗を流しながら、腰を曲げて歩いた。
角を曲がったところで、同じように腰を曲げて歩いていた青年にぶつかった。
「あ、すみません」
軽くぶつかった程度なので両者とも転びはしなかった。
「あ」
だがそこで僕は気づいた。この青年、前にギターを弾いていた青年だ。
青年も僕のことを思い出したらしい。
「あ、あの時の………」
「この間は、どうも」
僕は軽く会釈をした。
「あ、いえ、あの、僕みたいな人の歌を聴いてくださりありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、なんか元気でたので。聴いてよかったです」
そう言うと、青年は嬉しそうに頬を赤らめた。
「あれ、兄さん」
ふと、聞いたことのある声がこの空間に割って入った。
振り向くと、なんとそこには軌琉が立っていた。
「え?兄さんって?」
軌琉は青年の傍まで駆け寄った。
「どうだ、ちゃんと仕事してるか」
「まあね」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「はい?」
僕はまだ状況が呑み込めてなかった。
「まさかあなたは軌琉君の……」
「兄ですが」
青年はさらっと返した。
僕は衝撃を受けた。軌琉に兄がいて、さらにそれがこの青年だったとは。
「最近は資料ばかりでうんざりだよ」
僕の驚きをよそに、青年と軌琉はまさに兄弟のような会話をしている。
僕はただ立ち尽くして2人の会話を見ているだけだった。
「それじゃ、兄さん」
「ああ。仕事の事は分からないが、頑張れよ」
軌琉は去っていった。
「あの、お名前はなんていうんですか?」
「阿島 進ですが」
軌琉の苗字も阿島。間違いなく軌琉とは兄弟のようだ。
しかし、外見から性格から、何もかもが似ていない。
世の中には不思議なことがあるものだな、と僕は思った。
青年と別れて、僕は任務報告会に出席した。
今日は、今河班代表は軌琉ではないようだ。
「では、報告会を始める。まずは如月班」
「はい。如月班では先日、今河班と協力して“例のアンデッド”の討伐に成功しました。尚、その特性や弱点等は本日配布された資料に記載されています」
「今河班も同じです」
「ご苦労。次は橋根班」
「はい。橋根班は今日、銀座で見回りをしました。その結果、なんらかの実験・研究施設を発見」
「ちょっと待て。研究施設だと?」
「はい。入口にはカメラとロックがかけられていました」
渡部は考え込むような仕草を見せた。
「分かった。今度そこを訪れることにしよう」
「班の数は?」
最上が訊いた。
「今河班、橋根班、如月班、それと内海班の4つだ」
「内海班……」
橋根が反応した。
「中央チームと新宿の内海ですか」
「ああ。それだけあれば、何かあった時にも対応できるだろう」
確かに、また福島の時のようなことがなければ十分足りるはずだ。
その後、他の班の報告も聞いて、その任務報告会は終了となった。
「それでは、解散とする」
僕は席を立ちながら考えた。
橋根の言うなんらかの研究施設、勘だが何かあるような気がする。
登場人物プロフィール
阿島 進
25歳 O型
身長:177cm 体重:75kg
誕生日:8月16日
好きなもの:音楽、ギターを弾くこと、弟




